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【コラム】JUICE #2「“スマブラ”とゲーム翻訳について考えてみた!」●タイラー・ジェイムズ

【コラム】JUICE #2「“スマブラ”とゲーム翻訳について考えてみた!」●タイラー・ジェイムズ
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皆さん、2018年本当にお疲れ様でした。
 

JVTAのタイラーです。
水泳、ゲーム、ピアノ、歌を歌うことが大好きであり、そして子供の頃からずっと日本に対しての憧れがありました。日本に来て10年目になり、ファミマから不動産業界まで幅広く色々な仕事の経験を積んできました。運命の流れで、ある日友達からの紹介により約3年ぐらいフロム・ソフトウェアという日本のゲーム企業で翻訳・通訳者として働くこともできました。ちなみに、フロム・ソフトウェアのゲームをは10歳の頃からやっていて、とても好きなゲームの会社です。一生その会社で働くと思わなかったので、採用されたときに幸せの涙がたくさん流れました(〃∇〃)。

 

JVTAのグローバル・コミュニケーション・サポートという部門で外国人向けの日本語教育のワークショップや勉強方法などを開発しています。2018年にJapanese Language and Media Institute(略称はJLMI)が生まれ、主なコンセプトは「教科書ではなく、日本の人気のあるコンテンツを通して楽しく日本語の発音や言葉などを学ぶ」です。
 

私は日本語を独学で勉強してきました。ゲームが大好きなので、何年も経て“ゲームに出る実用的(&非実用的)”な言葉や文法などを、たくさんピックアップして、色々な日本語の表現やフレーズを身につけられました(おかげで日本語の小説も読めるようになりました)。その経験から、ゲームを使って日本語を学ぶようなワークショップも開発することにしました。とにかく、ゲームが大好きです(・∀・)。
 

ということで、一番好きな日本のコンテンツである〈ゲーム〉のことについて語っていこうと思います。全体的なゲームの話よりも、今回は特に、任天堂の新作のゲームソフトの「大乱闘スーパースマッシュブラザーズ・スペシャル」を紹介したいです。
 

まず、大乱闘スーパースマッシュブラザーズというのはなんであるのかを軽く説明します! スーパースマッシュブラザーズというシリーズはニンテンドー64の時代から大変人気になったアクション格闘系のゲームシリーズです(日本語の略称はスマブラといいます)。普通の格闘系のゲームと違い、『スーパーマリオ』シリーズのマリオ、『ゼルダの伝説』シリーズのリンク、『ポケモン』シリーズのピカチュウなど、任天堂が過去に発売したゲームシリーズの代表的な人気キャラクター(悪党も含めて)が一つのゲームにまとめられ、それぞれのキャラクターの登場するゲームの世界観(見た目や音楽など)をモチーフにしたステージ上で対戦するファイティング系のゲームです。
 
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(とにかく選べるキャラクターが多いですね)
*ちなみに、たいらんこ=本人であるタイラーのカスタムなプレイヤー名です(〃∇〃)
 
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(マリオやピカチュウなどの人気キャラクターを選んでプレイすることもできます)
 
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(1985年9月13日に発売されたスーパーマリオの世界観をモチーフにしたステージで“たいらんこ”マリオと悪党のクッパが対戦していますね)
 

ただ乱闘しまくって終わり、というわけでもなく、遊びはさまざまです。例えば、冒険的なストーリーモードや、腕を上げていくトレーニング・モード、ネット上で世の中の色々な人とも腕試しで対戦することもできます。
 

今回の新作では、全シリーズの中で今までになかったシステム、要素、設定などもあり、特に驚いたのがゲームの言語設定でした。なんと、合計11ヵ国語も切り替えられます! スマブラの作品として初めてで、とても面白いと思いました。昔は国・地域によって発売されるゲームソフトに制限がかかっており、他言語で遊べることができませんでした。別の言語で遊ぶにはそれぞれの地域に発売されたゲーム機とゲームソフトも買う必要がありましたが、最近のゲームソフトには言語の設定もあったり、ゲームソフトの制限もなかったするのでやりたい言語で自由に選べるようになっています!
 
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(多言語の設定、過去最多の選択肢)
 

実は、最近イタリアーノ(イタリア語)を勉強しています! もちろん、私の心の中で一番重要なのは、日本と日本語、そして日本のコンテンツであり、この日本に対しての愛情を超えるものは他にありませんがぁ、二番目に好きな他国のコンテンツは、やはりイタリアのことになるのではないかと思います。
 

ということで、イタリアーノで少しやってみました!
 
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結果として、è molto interessante(←エ・モルト・インテレッサンテ、とても面白い!)。
 

メニューの文字からキャラクターの名前や、バトルが始まる前と終わった後の呼び出しまで、ほとんど全部がイタリアーノになっています。ここ10年、ずっと日本語でゲームをやってきたのでとてもフレッシュな感じでした。特に“見えないスマブラのアナウンサー”が面白いと思うので、このアナウンサーさんについて少し話していきます。
 

スマブラにはプレーヤーには見えないアナウンサーさんがいます。ゲームのモードを決めたりキャラクターを選んだりし、バトルが開始する前の3,2,1のカウントダウンも、バトルの後も、コメントなどのアナウンスをするアナウンサーさんです。イタリアーノに設定してもアナウンスがまだ聞こえて、しかもイタリアーノで呼び出します! 文字レベルだけではなく、音声まで翻訳しています! さすが任天堂さん。
 
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(イタリアーノのメニューのサンプル。Mischia→大乱闘という意味、Incontro normale→通常戦という意味)
 

通常戦を始めようと、キャラクターを選んでバトルが始まったら、、、
 
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聞こえませんがtre!(トレー)も
 
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due!(ドゥーエ)も
 
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uno!(ウーノ)も
 
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via!(ヴィーヤ、行け! という意味)も呼び出しますね! E molto interessanteですね!(←とても面白い!)
 

少しやってみて、通常戦が終わったら、、、
 
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Fine!(フィーネ、終わりという意味)ともイタリアーノでアナウンス。
 

また途中で通常戦を中止したら、、、
 
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Incontro Annullato(インコントロ・アヌラート, 試合を無効とするという意味)とも、イタリアーノでアナウンスします。
 

とにかく、è molto interessanteですね! また、試しにそれぞれの言語に設定してみて、気になったことがありました。それは、日本語に設定していても、見えないアナウンサーさんはまだ英語で話すことですね。
 
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それは、なぜでしょうかね?(´ε` )
 

もう一つ、気になった点がありました。それは、キャラクターの名前のことです。ゼルダの伝説という任天堂のゲームシリーズの主人公・リンクとゼルダはそのままイタリアーノで「Link」と「Zelda」といい、人気のポケモンシリーズのピカチュウも「Pikachu」もいいます! しかし、少し違うものと完全に変わるものがありました。例えば同じポケモンシリーズのポケモントレーナーというキャラクターが「Allenatori di Pokémon」(発音はアレナトーリ・ディ・ポケモン)になっており、また任天堂の人気シリーズのスプラトゥーンの「インクリング」というキャラクターも今回の作品で選べるキャラクターとして登場しており、イタリアーノで「Ragazzo Inkling」(発音はラガッゾ・インクリング)または「Ragazza Inkling」(ラガッザ・インクリング)です。二つの言い方は性別を示し、前者は男の子を意味し、後者は女の子を意味しています。
 

 キャラクターの名前などが固有名詞でも、事情や、言語的な理由と文化的な理由により翻訳する場合もしない場合もあるようですね。特にカプコンという日本のゲーム企業が1987年開発したロックマンシリーズの主人公である「ロックマン」がの例が面白いと思います。実はロックマンは日本国外版のシリーズではMega Man(メガマン)として知られています。ロックマンの名前の由来は音楽のロック・アンド・ロールだそうです。しかし、当時のカプコンのアメリカ法人で業務担当執行役員(シニア・バイス・プレジデント)を務めていたジョゼフ・モリシはこの名称が気に入らず、「最悪の名称だ」と評したことから「メガマン」への変更が行われたそうです。つまり、ロックマンという名前が嫌いだったということですねw。
 

また、ポケモンシリーズの「プリン」というポケモンのことも軽く触れていきます。日本語版では「プリン」と言うのに対して、イタリアーノ(英語版も)「Jigglypuff、ジグリー・パッフ」と言います。。。
 
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。。。(・・;)
 

「プリン」の場合は、イギリスの多様な蒸し料理・プディングから影響を受け、少しずつプディングが「プリン」になってきたそうです。つまり、ポケモンの「プリン」の名前を英語に直訳するとしたら「pudding」になるということですね。
 
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(pudding & プリン、、、です(゜-゜) )
 

確かに、Puddingに直されたら英語圏の方々が戸惑うのではないかと思います(・・? が、なぜJigglypuff(ジグリーパッフ)にされたのでしょうかね? 少し調べてみたら、「丸くてふわっとしている体なのでJigglypuffしましょう」みたいな話がありました。
 

なるほど、プリンの場合は外見に合わせて英訳されましたね。もちろん、見た目で全てのポケモンの名前を翻訳しているとは限りません。いくつかの面白い例を見てみてください:
 

・ピカチュウ→ 由来:光が弾ける時の「ピカ」と、ネズミの鳴き声の「チュウ」の組み合わせ
英語:Pikachu(そのまま)
つまりピカピカするネズミ
 

・ヒトカゲ→ 由来:火の「ひ」+爬虫類の「トカゲ」
英語:Charmander → Char(黒焦げにする/なる)+ mander(サラマンダーのmander)
つまり黒焦げにするサラマンダー
 

・ハガネール → 由来:鋼の「はがね」+釘の「ネール」
英語:Steelix → スチールの「steel」 + helix(螺旋)からの「~lix」
つまりスチールの螺旋
 

ポケモンの翻訳には、意外と相当な想像力が必要だと思います。適当に当て字で済ませるとポケモンの世界観がだいぶ失われて、とてももったいないと思うので、任天堂さんがよく考えた上でそれぞれの名前を決めたと思います。ぜひとも、翻訳・通訳が好きな方々は時間がある時に少しでもポケモンの翻訳を調べてみてください!(ところでポケモン図鑑では合計809種類もあり、それぞれのポケモンの名前が異なり、由来もあります)
 

固有名詞はともかく、e molto interessanteですね! でも、なぜ日本語の設定にしてもアナウンサーさんはまだ英語で話すのか。少し気になったので、数人ぐらいの日本の方に聞いてみたらこう言われました:
 

「まぁ、最初からずっとそうだからしょうがないよ」
 

「ダッテ、ニホンゴがダサクテェ、イングリッシュノホウガカッコイイヂャーン」
 

「世界観が薄くなるかもねー」
 

などなどです。
 

世界観が失われるかもよ? と言われたら「じゃなんでイタリアーノに設定したらフィニッシュ! ではなく、フィーネ! とか呼び出しているのかな?」とすぐ思ったのであまり納得しませんでしたが、確かに最初からずっと英語でアナウンスしているので、いきなり変わったらショックを受ける人が多い気がします。例として、スマホメーカーがいきなりイヤホンジャックを廃止したころ「もっ。。。もう最愛のイヤホンを差すことができないのかぁ?(泣)」と思った人が非常に多かったですね。それと一緒なのかな、と思いなんとなく納得しましたが、二つ目の答えが少し面白かったです。
 

「日本語がダサい、英語がかっこいい」
 

と、言われるたびに、少し戸惑いますね! それは「日本語=ダサくて、英語=かっこいい」という気持ちは、残念ながら私の体の中に少しも入っていないからですね。なので、戸惑います!
 

でも、そう思っている人がやはりたくさんいる気がします。ゲーム内の言葉だけではなく、日本で洋楽が流行り始めて以来、日本の音楽のタイトルや歌詞にところどころ英語が入っており(「英語ってかっこいいな」という某有名なJ-Popグループに作られた曲も、確かにあった気が。。。(・・? )、昔の日本よりカタカナ英語(いわゆる外来語)なども比較的に多く使われてきており、とにもかくにも“英語がかっこいい”と思っている人は桁違いに多くいると思います。
 

怠けて英語に直すのが面倒だと思っていたのか、どうせ聞いてないから別にいいじゃんと思っていたのか、日本語がダサいと思われているから英語にしようと思っていたのか、世界観を大事にしないといけないから英語をかえちゃいけないのか、もしかすると、ゲームの企業などが英語がかっこいいと思うっている人が多いことを分かった上意図的に英語を入れているのか――とにかく理由はなんであっても、何らかの理由がきっとあるであろうと思います(もちろん、任天堂さんは怠けているわけではないのでそれは理由じゃないと思うのですがね(´・ω・`))。
 

個人的に言わせたら、日本語の設定でアナウンサーの声は日本語でもいいのではないかと思いますがね。もちろん日本語が好きですが、特に「わあああああぁ~~!! ニホンゴ、すっげぇーーー!!!! かっけぇかっっっっけぇーーーぇえええ!!!! 全部の言語に日本語を入れ替えろぅーーー!!」という極めて強い気持ちもないし、むしろ日本に住んでいるからこそ、できる限り毎日日本語を使って暮らしていこうという気持ちの方が強いのかもしれません。また、言うまでもなく、英語で情報を検索したりすることももちろんあり、英語や多言語の動画もYouTubeなどで見たりすることもあります。ただ、多言語を混ぜて話したり、読んだりするときに鈍い本人(であるタイラー)が混乱するので、統一させた方が読みやすくて聞き取りやすくなると思います。
 

せっかくこの素敵な国の人たちが活躍して、全世界の色々な国で非常に人気になっているゲームを作っているので、多少は日本語を残してもいい気がしますがね(少なくとも日本語の設定ではね!)。
 

もちろん英語がかっこよく聞こえるね、と言う人たちを責めているわけでもなく、むしろそう思っても全く問題ないし、好きなモノやコトは好きで何よりいいことだと思いますがね。本人(であるタイラー)ほど気にならない日本に滞在している海外の人ももちろんいて、その中にはゲームが大好きだけど分かりやすい言語でやることができたら、もっと楽しめるけどなと思っている人もいると思うので、こうやって多言語の設定を加えることだけでたくさんの人が幸せになれるならむしろした方がいいですね。
 

まぁ、起点言語である日本語が持っているゲームの真のニュアンス、歴史、特徴、感情、世界観などができる限り失われないように多言語化して意外と楽しいところもややこしいところもありますね。もし、皆さんはゲームに少し興味があればアニメ、映画、マンガではないゲーム業界に入り、ゲームの翻訳に挑戦してみても楽しくなるかもしれません!
 

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Written by タイラー・ジェイムズ

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グローバル・コミュニケーション・サポート(GCS)クリエイター。アメリカ出身。Willamette University(言語学)、University of Puget Sound(音楽)を卒業後、2010年に来日しゲーム開発会社などに勤務する。日本語の他に、中国語、スペイン語も堪能。ワークショップ講師のほか、講座プランニング、デジタルコンテンツ制作に従事している。

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「JUICE」は日々、世界中のコンテンツと対面する日本映像翻訳アカデミーの講師・スタッフがとっておきのトピックをお届けするフリースタイル・コラム。映画・音楽・本・ビデオゲーム・旬の人、etc…。JVTAならではのフレーバーをお楽しみください!
 

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