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【コラム】JUICE #26「“革命”の楽しみ方」●小林由布子

【コラム】JUICE #26「“革命”の楽しみ方」●小林由布子
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1815年、フランスのツーロンで、パンを盗んだ罪で牢獄に入れられた男と彼を取り巻く時代の変革や人々の人生を描いた作品――それが『レ・ミゼラブル』。
 

このタイトルを聞いて、映画で主演を務めたヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイを思い浮かべる方もいると思いますが、私がここで語るのは劇場でミュージカルとして上演される『レ・ミゼラブル』です。1980年にフランスで初演された後、少しのアレンジが加えられ、ロンドン版が制作されました。やがて、その人気は世界に広がり、日本では1987年から上演され続けている有名な作品です。私が劇場で最初に観たのは2007年頃のこと。友人に誘われて、正直ストーリーもよくわからないまま、帝国劇場の客席に着きました。いざ幕が開くと、歌だけで物語が進んでいくことに驚きましたが、それ以上に舞台に立つ俳優たちの魂がこもった歌声に引き付けられたのを今でもはっきりと覚えています。その以来、日本で上演されるたびにチケットを取り、ファンが集まるイベントにまで参加するほど、好きになるとは、思っていませんでした。
 

レミゼ

私がミュージカル『レ・ミゼラブル』をこれほどまでに好きになったのには明らかな理由があります。これから初めて観る方にとって、作品を楽しむヒントにもなるので、いくつかご紹介しましょう。
 

まず、日本版は公演回数が多いため、1つの役に対し、ダブルキャスト、トリプルキャスト、クアトロキャストで上演されます。メインキャスト以外の「アンサンブル」と呼ばれる役でさえ、2つのグループに分かれて、昼公演、夜公演を担当します。そうなると、公演によって組み合わせが様々で、同じ物語、同じ演出なのに、キャストが違うだけで新鮮さを感じるのです。「違う組み合わせも観てみたい」「この組み合わせではどうだろう?」と思い、何度も劇場に足を運んでしまいます(まさに制作側の思う壺)。
 

また、主役のジャン・バルジャン役と刑事役のジャベール役以外のキャストたちが何役も演じているのは、ミュージカル界でも珍しいこと。よく目を凝らすと、コゼット役やマリウス役の人たちがアンサンブルに交じって村人や工場員、娼婦などに扮しているのです。その分、衣装替えが多いので、舞台裏は人が入り乱れるため、想像以上の忙しさだそうです。オペラグラスを片手に、キャスト探しをするのも通の見方の1つと言えるでしょう。
 

そして、忘れてはならないのが歌の魅力。訳詞を手掛けたのは、『恋のバカンス』『君といつまでも』『サインはV』などを作詞したあの岩谷時子さん。日本での初上演を前に翻訳にはかなり苦労したそうです。ロンドン版の制作チームが演出のために来日し、訳詞のチェックもします。彼らにはかなりの拘りがあるそうで、1つの音に2語も3語も入れてしまうと、ダメ出しされるとか。
 

1つ例に挙げるなら、ファンの間でも有名なジャン・バルジャンの囚人番号です。英語版では「24601」ですが、日本語でそのまま訳すと最後の「1」が歌いにくい。そこで、歌いやすくと語呂がいい「25653」に変更したそうです。そのほかの部分でも岩谷さんは大変苦労し、満足のいく言葉が見つからなかった時は、当時ジャン・バルジャンとジャベールを演じていた鹿賀丈史さんからもアイデアをもらうことがありました。演出家、翻訳者、演者が音に拘りながらも、選び抜いた日本語の歌詞が、役者たちの声に乗り、観客たちの心に響くのです。
 

映画にはない臨場感を味わったり、色々な楽しみ方ができるのが劇場で上演されるミュージカルの醍醐味。プロの翻訳者になると、ミュージカル台本を訳す仕事も舞い込んできます。その時、実際にミュージカルを見た経験があると、舞台で役者たちがセリフを話している姿がイメージしやすくなり、ミュージカル独特のセリフ回しなども浮かびやくなります。ミュージカルに抵抗がある方もいると思いますが、食わず嫌いはせず、チャンスがあれば、ぜひご覧になってみてください。
 


 

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Written by 小林由布子
 

こばやし・ゆうこ●英日映像翻訳科を修了後、フリーランスの映像翻訳者を経て、JVTAに入社。コーポレート・コミュニケーション部で東京校だけではなく、ロサンゼルス校のPRも担当している。
 

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「JUICE」は日々、世界中のコンテンツと対面する日本映像翻訳アカデミーの講師・スタッフがとっておきのトピックをお届けするフリースタイル・コラム。映画・音楽・本・ビデオゲーム・旬の人、etc…。JVTAならではのフレーバーをお楽しみください!
 
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