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【コラム】JUICE #36「むかしむかし、映画館のスクリーンで…」●石井清猛

【コラム】JUICE #36「むかしむかし、映画館のスクリーンで…」●石井清猛
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映像翻訳にかかわる仕事をする者としてというより、単に自称映画ファンの心理の話として、あったりしませんか? 例えばCGで作られた若い頃の姿で演じる俳優に感動して「人間の俳優が演じなくても不自由なく普通に実写映画ができそうだなw」とつぶやいてしまったときの後ろめたさとか。
 
あるいは映画を見る時に、だんだんPCやタブレットなどで、空いた時間に細切れに見るすき間時間視聴が増えているのに気づき、忸怩たる思いにとらわれる瞬間とか。そういう、自分が思わず感じてしまったことや、やってしまっていることで、何となく映画の価値を損ねるような気がして素直に認め難い事実って、あったりしますよね、皆さんにも。かくいう私も、ついこないだ新しいのに出くわしました。
 

現在絶賛大ヒット上映中の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の公開を数ヶ月後に控えた初夏の頃。タランティーノファンを自称しながらも『ジャンゴ 繋がれざる者』と『ヘイトフル・エイト』を見ていないこと(これも公には認めたくない事実)を静かに思い出した私は、最近映画やドラマを見る時に誰もが必ず通るであろう“まずNetflixとAmazonプライムで配信されていないか確かめる”というステップを経て(果たして2本ともどちらのプラットフォームにもあった)、『ヘイトフル・エイト』から視聴を始めたわけです。スマホで。しかも移動時間を利用したすき間時間視聴で。
 


 

好きな人にはたまらないが、体質が合わない人を激しくイラ立たせる、あの粘着的に停滞しつつも驚異的な蛇行により前進を続けるタランティーノ式ストーリーテリングに激しく高揚させられつつ、あっという間(と言ってもすき間時間視聴なので1本見るのに数日かかる)に『ヘイトフル・エイト』を、続けて『ジャンゴ 繋がれざる者』を鑑賞し、私はある感慨を持つに至ったのです。つまり、小さい画面で見ても面白いモノは面白い、という。自称映画ファンとしては、公言するのがちょっとはばかられる事実…。
 

巨大な画面で極限までの臨場感を実現した音響に包まれながら映画を鑑賞する体験を至上のものとする価値観を否定するという話では、もちろんありません。ただフィルムがビデオになって、銀幕がブラウン管になっても、そしてブラウン管が液晶画面になって、やがてタブレットやスマホの画面になっても、映画の本質的な魅力は少しも失われることなく今も私たちを掴んで離さない有様というのは、ある意味映画そのものより面白いと言えなくはないでしょうか。
 

そんな話をしながらも、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で自分の出演作を映画館で見て悦に入るマーゴット・ロビーの、あの美しくも幸せな場面を思い出した途端に、やっぱりうっとりする以外になくなってしまうのは私だけではないと思います。
 


 

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Written by 石井清猛
 

いしい・きよたけ●映像翻訳チーフ・ディレクター、および本科講師を務める。英日・日英翻訳のディレクションや海外映画祭での特別上映、ワークショップの企画を手がける。青山学院大学総合文化政策学部「映像翻訳ラボ」ではショートショートフィルムフェスティバル、UNHCR難民映画祭での上映作品の字幕指導をサポート。

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「JUICE」は日々、世界中のコンテンツと対面する日本映像翻訳アカデミーの講師・スタッフがとっておきのトピックをお届けするフリースタイル・コラム。映画・音楽・本・ビデオゲーム・旬の人、etc…。JVTAならではのフレーバーをお楽しみください!
 

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