News
NEWS
Tipping PointinBLG

Tipping Point Returns Vol.4 イチローの生き様は胸を打つ (でもちょっとややこしい)

Tipping Point Returns Vol.4 イチローの生き様は胸を打つ (でもちょっとややこしい)
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

「僕はアメリカで3,089本のヒットを打ったわけですけど、ゲーム前に妻が握ってくれたおにぎりを球場に持っていって食べるんですね。その数が2,800個くらいだったんですよ。(妻は)3,000個いきたかったみたいですね。そこは3,000個握らせてあげたかったなと思います」。
2019年3月にイチローが引退会見で発した数々の言葉が多くの人に感動を与え、訓話として語り継がれている。このエピソードも美談として引用されることが多い。しかし、私は思わず耳をふさいでしまった。(イチロー! おにぎりの話はいらないよ!)

 
発端は2003年までさかのぼる。ヤンキースに移籍したばかりの松井秀喜と全盛期のイチロー、二人のスーパースターがあるテレビ番組で、司会者無し、差しで語り合うという夢の企画が実現した。私は二人が発する一言一句に聞き入り、どんな小さな教えでも学び取ろうと意気込んだ。しかし・・・。

 
今でも脳裏にこびりついているのは、「おにぎりの海苔はしっとりに限る!」と力説するイチローのしたり顔である。どちらかと言えば食べる直前に巻いたパリパリの海苔が好きだという松井に向かって「君はおかしい」、とイチロー。苦笑いする松井。そんな摩訶不思議なやり取りにけっこうな時間が割かれたのである。(おにぎりの海苔なんてどっちでもいいじゃん。 いや待て。あのイチローがこんなにこだわってるんだ。もしかして、とんでもなく深いところに教訓が隠れているんじゃないか?) 数日間、この問いが私の頭の中をグルグル駆け巡った。そして一つの結論に至る。「イチローはおにぎりが好き。海苔はしっとり派。それだけだ」。つまり、この話に限っていえば、単なる雑談で学ぶことなど何もなかったってこと。

 
イチローの言動から訓話を抽出するには、’イチロー・リテラシー’とでも呼ぶべき読解力が必要なのだ。それに従えば、おにぎり2,800個のエピソードも余談にすぎない。(2,000個過ぎたあたりから、1つのおにぎりを小さくして個数を増やしていれば3,000個はいったのになぁ)と思う。冗談は抜きにしても、訓話や美談ではないことは確かだ。

 
では、学び取ったこととは何か。
イチローの引退をチームメイトの誰よりも惜しんだディー・ゴードン選手は、シアトルの地元紙に感謝広告として長文のメッセージを寄せた。ゴードンの熱い思いが伝わって泣けると日本でも話題になった。私も泣いたくちだ。その中にこんな記述がある。

 
I met you in 2004 in Houston at the All-Star Game. I remember walking across the field with my dad around 3 p.m., and you were already there stretching and getting ready — at the All-Star Game! No one does that!

 
オールスター戦に限らず、イチローはまだ誰も来ていないグラウンドで黙々とウォーミングアップを行うが、それについて自分からは多くを語らない。なぜなら彼にとっては当たり前のことだからだ。私は一度だけこのことについてインタビューされるイチローを見たことがある。(なんで他の選手はやらないのかな?理解できないよ)というような言い方だったと思うが、私はハンマーで頭を殴られたような気がした。私の中のイチロー・リテラシーが(これは大事だぞ!)と反応したのだ。

 
「練習のための練習」。実は、試合前の練習時間に怪我をする選手は少なくない。原因の多くはウォームアップの不足だ。だからイチローは練習で怪我をしないように、納得のいくまで「練習の練習」をする。真のプロフェッショナルなら当然だと教えてくれたのである。

 
「練習の練習」というイチローが無言で発するメッセージにゴードン少年は気づき、励まされ、恵まれた体格ではないにも関わらずメジャーリーガーを目指したことを知り、胸が熱くなった。

 
これからもイチローは様々なかたちで私たちにメッセージを送り続けるだろう。ただし、真の金言はややこしいところに潜んでいることがあるので注意が必要だ。

 
————————————————–
Tipping Point~My Favorite Movies~ by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
————————————————–

 
Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/

 
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
http://www.jvtacademy.com/blog/tippingpoint/

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page