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Tipping Point Returns Vol.7「その依頼、伸るか反るか?」

Tipping Point Returns Vol.7「その依頼、伸るか反るか?」
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ビジネス書のブックレビューを書き続けた時期があった。1996年から2018年の8月まで、出版社に原稿を入稿しなかった月はない。ひと月に12冊分書くこともあったから、正確には数えていないが3,000冊を超えていることは確かだ。

 
この仕事で得られたものは何か。まずは原稿料だ。当初は私個人に支払われていたが、そのうちに会社名義で請求書を書くようになった。ページ数に見合った(毎号1ページが基本)価格ではあったが、ある時期から請求書の項目に「選書代(どの本を取り上げるのかを決めることへの支払い)」が加わったことが小さな自慢だ。

 
2つ目は企業運営の知見を得られたこと。『日経ビジネス』誌から依頼が最初に舞い込んだのは、ちょうど日本映像翻訳アカデミー(JVTA)を立ち上げたタイミングだった。会社経営とは何か、見倣うべき事例や失敗例、業務改善の具体的手法からマクロ経済の動向まで、多くのことを学んだ。そうした知識やノウハウはJVTAの礎の一部を成している。

 
3つ目は極めて個人的な話。日々の生活の中で時間を有意義に使えたこと。二十余年、常にビジネス書と向き合い原稿を練り上げ、時には編集者からダメ出しをくらって書き直す。著者や版元のチェックを通さないので、尖った論評を綴った時は、雑誌の発売期間中ずっと浅い緊張感に苛まれる。土日の多くは本を抱えた生活だったから、暇つぶしのために街に出て無駄遣いをしたり、気晴らしで無意味な時間を過ごしたりすることを最小限に止めることができた。

 
多くのものを得ながら、薦めたい本を選んで読者に伝える仕事を、時間や場所を選ばずに続けられたことは幸運であった。

 
本題はここからである。それを聞いて(はいはい、良かったね)と感じただろうか。(そんな機会を得られたあなたは運がいい)、と。あるいは(自慢話? それにしてはスケールが小さいね)と呆れただろうか――。
先に挙げた3つの効用は、はっきり言って後付けである。1996年に最初の依頼があった時、そんなことは露程も考えていなかったのだ。

 
そこには‛もう一人の自分’がいる。 (雑誌の仕事をようやく整理して、映像翻訳スクールを立ち上げる準備に全力を注ぎ始めたところなのに、そんな時間は確保できるわけない。しかもビジネス書なんて読んだことないしワクワクもしない。やってきたのは情報誌や女性誌の企画記事ばっかりだよ。しかも、毎回たった1ページ分の原稿料(企画記事の場合は1回の依頼で5~20ページ分を作っていた)はまったく割に合わない。悪いが依頼を断ろう。そう考えるのがふつうだし、とがめる人もいないから後悔もしないだろう)。ある機会を得た時、やらない理由、やれない理由は頭の中にぱっと現れ、もっともらしく存在し続ける。しかし、選択肢はそれだけなのか。

 
理屈はどうあれ、胸の奥にある‛種火’を見つめる時間を作ってほしい。それは今すぐ発火することを求めていないか。舞台なんてどこでもいいから、訪れた機会に感謝して力の限り燃え上がれ! と囁いてこないか。胸の内で燃え盛る炎はホログラムのように周囲に浮かび上がる。炎には人を惹きつける何某かの美しさがある。あの時の自分がそうだったと言うのはおこがましいが、困難な道を選ぶことで必死に燃え上がろうとしたからこそ、手を差し伸べてやろう、協力してやろうという仲間が現れ、支えてくれたのではないか。

 
人間万事塞翁が馬と言ってしまえばそれまでだが、もし皆さんの前に何かの機会が訪れて「やらない理由・やれない理由」が頭を支配し始めた時、この話を思い出してほしい。

 
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Tipping Point~My Favorite Movies~ by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
http://www.jvtacademy.com/blog/tippingpoint/cat10/

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