これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第134回 “THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第134回“THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『ターミナル・リスト ~闇の狼~』 本予告
“The Terminal List”からのスピンオフ!
本年最後のイチ押しは、クリス・プラット主演の傑作アクションスリラー“The Terminal List”(本ブログ第93回参照)の前日譚。同作の重要なキャラクター、ベン・エドワーズの物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”はAmazon Primeオリジナル。CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
“May our courage exceed our level of violence”(「勇気が暴力に勝らんことを」)
—2015年、イラク北部の都市モスル
ベン・エドワーズ(テイラー・キッチュ)は、SEALs(米国海軍特殊部隊)チャーリー小隊のチーフだ。ベンは上官のレイフ・ヘイスティングス中尉(トム・ホッパー)らとともに、モスル郊外の同盟軍訓練施設でイラク治安部隊の兵士を訓練している。
彼らの目的は、過激派組織IS(イスラム国)を壊滅することだ。
治安部隊とISの間で捕虜交換が行われることになった。ISの幹部アル・ジャブーリを釈放する代わりに、民間人の捕虜18人が返還される。ベンとチャーリー小隊も同行した。
橋の上で行われた交換は銃撃戦となり捕虜数人が死亡、ベンの腹心の部下で治安部隊所属のダラン・アミリ軍曹も重傷を負った。そして人質に仕掛けられていたIED(簡易爆弾)が爆発、アル・ジャブーリは行方をくらました。
—3か月後
ジェームズ・リース中尉(クリス・プラット)率いるアルファ小隊が到着した。チャーリー小隊による訓練を引き継ぐためだ。ジェームズ、ベン、レイフは戦友だ。
負傷したダランも家族とともに姿を見せた。左足を切断したにもかかわらず、母国のために軍務に復帰するという。
ある日、ベンたちがモスル市内へ偵察に向かう途中に訓練施設で自爆テロが発生、兵士7人が犠牲となった。
犯人はダランで、義足にIEDを仕込んでいた。ISに家族を人質に取られ、自爆テロを強要されたのだった。彼の妻も殺され、2人の子供は誘拐されていた。
復讐を誓うベンは、レイフ、ジェームズらとともに、独断で自爆テロの首謀者アル・ジャブーリのアジトを急襲する。
その結果、ベンとレイフは除隊を余儀なくされた。
後日、2人はCIAからのオファーを受けることになる…。
“Long live the brotherhood”(「絆よ、永遠なれ」)
ベン・エドワーズ役のテイラー・キッチュは、青春スポーツドラマの名作“Friday Night Lights”が代表作。陰のあるランニングバックのティムを演じてブレークした。最近では、西部開拓時代の硬派ドラマ“American Primeval”(『アメリカ、夜明けの刻』)に主演している。
本作ではイケメンぶりも控えめに、SEALsの信念を貫き通す新米CIA工作員を熱演する。
トム・ホッパーと言えば、痛快なスーパーヒーロー・ドラマ“The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照)で演じた童貞の怪力男ルーサーを思い出す。今回は、頼れる元SEALsの指揮官レイフ・ヘイスティングス役へ見事にイメチェンした。
ベンとレイフをヘッドハンティングするジェド・ハバフォード役のロバート・ウィズダムは、見覚えがあると思ったら懐かしい“The Wire”と“Prison Break”のレギュラーだった。強面で食えないCIAイラン工作部長にぴったりだ。
CIAのリエゾンでモサド工作員のイライザとタルを、イスラエル生まれのロナ=リー・シモンとシラーズ・ツァルファティが好演する。
脇へ回ったクリス・プラットは2つのエピソードに出演し、ジェームズ・リースを渋く演じてみせた。
元SEALsの矜持の物語!
ショーランナー(兼共同脚本)は“The Terminal List”と同じくデヴィッド・ディジリオ。骨太なストーリーはジャック・カーの原作ではなく、2人によるオリジナルだ(カーは製作総指揮と共同脚本も担当)。
ドラマの根幹にブレがないのは、実際にSEALsで20年のキャリアを持つカーの経験が細部にまで生かされているからだ(因みに、カーの小説は出版に政府の承認が必要で、削除された部分が黒塗りになっている)。上層部に翻弄される兵士たちの怒り、各オペレーションの立案過程、銃器の扱い・銃撃戦などの描写は圧倒的にリアルだ。
デヴィッド・ディジリオは、このリアリティとエンタメ性を絶妙なバランスで両立させて、見事に差別化している。
キャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)も鮮やかだ。直感型のベンは、官僚主義的な制約の多い軍隊から離れることで、スパイとしての才能を開花させる。だが立場が変わっても、「前線で戦う仲間たちを守る」という強固な信念は揺るがない。
一方レイフはCIAの冷酷で人命軽視のやり方になじめないが、ベンの背中を守る覚悟はできている。この高潔な兵士2人のコントラストがドラマに厚みを与えている。
舞台はジュネーブ、ウィーン、ミュンヘン、ブダペストなどヨーロッパ各地の都市。ストーリーの中心は、新技術で一気に核兵器開発を進めるイランと、それを阻止しようとするCIA工作員たちの非情なスパイ戦だ。ベンとレイフは諜報世界の欺瞞に翻弄されながらも、突破口を探る。終盤にはスパイドラマらしく連続ツイストが炸裂し、エンディングまで目が離せない。
“The Terminal List”(2022)以降、これほどのアクションドラマにはお目にかかれなかった(リー・チャイルド原作の“Reacher”が最も近いか)。結局、プロット、キャラクター、アクションと3拍子揃った本作がスピンオフとして登場するまで、われわれは待たされたわけだ。
ベンとレイフのハートはあくまでCIAではなくSEALsにある。つまり本作は、元SEALsの矜持の物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”は、CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
本作はオリジナルを観ていなくても問題なく楽しめる。
“The Terminal List”のシーズン2は、クリス・プラットが忙し過ぎて撮影が遅れていたが、来年配信されるようだ。本作のシーズン2とセットで早く観たい!
原題:The Terminal List: Dark Wolf
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2025年8月27日~9月24日
話数:7(1話 50-67分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~12月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
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Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。







