これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第135回 “THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第135回“THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『BEAST -私のなかの獣-』 本予告
スパイスリラーのエース対決が楽しめる極上のサイコスリラー!
年頭を飾る本作は、傑作スパイスリラーの主役2人“Homeland”のクレア・デインズと、“The Americans”のマシュー・リスが激突するNetflixのリミテッドシリーズ。本年度のゴールデングローブ賞作品賞、主演女優賞(デインズ)、主演男優賞(リス)にノミネートされた。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
“What did you do?”
—ニューヨーク州郊外の町オイスターベイコーブ
アギー・ウィッグス(クレア・デインズ)は、7年前に自叙伝『病める子犬 父への手紙』でピューリッツァー賞を取ったベストセラー作家だ。彼女の父親はサイコパスの詐欺師だった。
4年前、アギーの人生は一変した。8歳の息子クーパーを交通事故で失ったのだ。彼女は精神的に追い詰められ、やがて妻のシェリー(ナタリー・モラレス)とも離婚した(アギーはゲイだ)。
今は修理の必要な屋敷に引きこもって、トイプードルと暮らす毎日だ。執筆は進まず、常に怒りを抱え、経済的にも困窮している。
ナイル&ニーナのジャーヴィス夫婦(マシュー・リス&ブリタニー・スノウ)が隣に引っ越してきた。ナイルは世間を騒がせている不動産王で、失踪した前妻の殺人容疑が不起訴になったばかりだ。
アギーとナイルは初対面で衝突した。ジャーヴィス家の2匹の大型番犬とセキュリティシステムの騒音がアギーをいらつかせ、さらにナイルが提案している地域のジョギングコース建設に彼女が反対したからだ。
ナイルは仲直りのためにアギーを強引にランチに誘った。席上でナイルは次作が行き詰ったアギーに、「僕の本を書けばいい」と持ちかけた。
多少打ち解けたアギーは、「息子を殺した若者テディ・フェニグを苦しめてやりたい」と本音を吐露した。テディは飲酒運転を疑われたが無実となっていた。激高してテディをストーキングしたアギーは、接近禁止令を言い渡されていた。
その夜、アギーの自宅に雨に濡れて酔っ払ったFBI捜査官ブライアン・アボット(デヴィッド・ライオンズ)が突然現れる。アボットは「ナイルには用心しろ」と伝えると去っていった。彼は、ナイルの元妻マディソン失踪事件の主任捜査官だった。
翌朝、テディ・フェニグの自殺が報じられた。
そして、アギーはナイルについての本を書く決心をする…。
“BrBa”のジョナサン・バンクスが参戦!
クレア・デインズは、17歳の時にレオナルド・ディカプリオと共演した『ロミオ+ジュリエット』(1996)で一躍アイドルとなった。8シーズン続いた傑作スパイスリラー“Homeland”では、双極性障害の辣腕CIAエージェント、キャリー・マトソンを演じてエミー賞&ゴールデングローブ賞に輝いた。主演・助演賞ノミネートはエミー賞8回(受賞3回)、ゴールデングローブ賞7回(受賞4回)を数え、今や大女優の風格だ。デインズはキャリーを髣髴させる今回のアギー役でも、鬼気迫る演技力で観る者を圧倒する。(得意の「顔芸」も健在。)
英国出身のマシュー・リスは、ケリー・ラッセル(!)と共演した冷戦下のスパイスリラー“The Americans”(本ブログ第6回参照)で、ソ連のスリーパーエージェントを演じて大ブレークした。タイトルロールを演じた“Perry Mason”も見応え十分で、両作品を中心にエミー賞5回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞には4回ノミネートされている演技派だ。今回は、カリスマのあるナルシストでサイコパスの実業家ナイルを気持ちよさそうに演じている。(メーク強め。)
ワイルドカードとなるナイルの妻ニーナ役のブリタニー・スノウ、唯一正常に見えるアギーの元妻シェリー役のナタリー・モラレス、自己破滅型FBI捜査官アボット役のデヴィッド・ライオンズ、そして汚い仕事を一手に引き受けるナイルの叔父リックを演じるティム・ギニー。いずれも適材適所で、各役柄はエピソードが進むにつれて重要度が増す。
観逃せないのが78歳のジョナサン・バンクス。“Breaking Bad”およびスピンオフの“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)のフィクサー、マイク・エルマントラウトが一世一代のハマり役で、エミー賞に5回(トータル6回)ノミネートされている。本作では、ナイルの強面の父親マーティン・ジャーヴィスを圧倒的な存在感をもって演じてみせた。
「内なる獣」の対決!
クリエーター(兼共同脚本)のゲイブ・ロッターは、懐かしの“The X Files”最終シーズンに係わり、また作家でもある。ショーランナー(兼共同脚本)のハワード・ゴードンは“24”をメガヒットさせた後、前述の“Homeland”で絶賛された。
また製作総指揮には、(なぜか)ジョディ・フォスターと人気TVホストのコナン・オブライエンが名を連ねる。
力強さと脆弱さをオン/オフで切り替えるデインズと、温厚性と衝動性を行き来するリス。本作最大の見どころは、この2人が生み出すケミストリーだ。
そして、インタビューと駆け引きを通じて芽生える、アギーとナイルの歪んだ共感、友情、絆、愛情、—その危うさと気持ち悪さが、また何とも言えない作品の魅力となっている。
ストーリーは大胆で繊細な脚本に乗って、嘘と疑念を積み重ねながら深く静かに潜航する。散見されるご都合主義は、高まる緊迫感で巧みに覆い隠される。
次第に露呈するアギーとナイルの過去。
マディソンとテディに何が起きたのか?
そして衝撃のエンディングと不穏なエピローグまで、加速度的に面白くなる。
本作は、主人公2人が共に抱える「内なる獣」が対決する物語。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
原題:The Beast in Me
配信:Netflix
配信開始日:2025年11月13日
話数:8(1話 41-54分)
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」⑤
●『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(中林美恵子、辰巳出版、2025)
日本人唯一の元米国連邦議会正規公務員の著者が、国家構造、政策、国民意識等からトランプ再選後のアメリカを分かりやすく多角的に分析する好著!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。








