これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第142回 “Ride or Die”(『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』)
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第142回“Ride or Die”(『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』)
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』 本予告
極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディ!
本作を観たら、『テルマ&ルイーズ』(1991)が懐かしくなった。スーザン・サランドン&ジーナ・デイヴィス主演、リドリー・スコットの代表作のひとつで、親友同士の女性の破滅を描くクライムドラメディだ(ブラピの出世作でもある)。
“Ride or Die”はAmazon Prime Videoのリミテッドシリーズ。ヨーロッパを舞台に女暗殺者と下院議員の妻が繰り広げる、底抜けに楽しくスリリングで深い感動を呼ぶ、極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディなのだ!
“No more lying. No more killing”
—ロンドン
デビー(オクタヴィア・スペンサー)は、下院議員デヴィッド・クレイボーン(ジェイミー・パーカー)の妻だ。アメリカ人のデビーは名門イェール大出身の弁護士だったが、キャリアを捨ててロンドンに移住してきた。結婚し、2度の出産を経て、25年間無能の夫を支え続けている。
子供たちは既に親離れした。首相を目指すデヴィッドのブレインとして、デビーは多忙な日々を送っている。
ジュディス・バートン(ハンナ・ワディンガム)は法廷会計士(“forensic accountant”)で、デビーとは20年来の親友だ。だがジュディスには秘密があった。彼女のコードネームは“Whiptail”、謎の組織“The Agency”の元で30年近く暗躍してきたエリート暗殺者なのだ。
最近加齢のせいか暴走気味のジュディスは、組織からやんわりと引退勧告を受けていた。
最新のターゲットは犯罪シンジケートの幹部ビリー・ドノヴァン(エド・スクライン)。失敗すれば引退させられるだろう。
デビーはデヴィッド主催の慈善パーティに向かう車の中で、突然夫から離婚を言い渡されてショックを受ける。所詮政治的に利用されただけだったのだ。
その頃ジュディスは、偶然にもこのパーティにゲストとして紛れ込んでいた。標的のビリー・ドノヴァンが支援者として出席するためだ。
ジュディスはビリーを追ってパーティ会場の空き部屋へ忍び込む。だがビリーは姿を消していて、そこにはデヴィッドを含む3つの惨殺死体が横たわっていた。
さらに、ヤケ酒を飲んで酔っ払っていたデビーまでもが暗殺グループに狙われる。ジュディスはデビーを救い出し、奪った車で逃走する。ロンドン市街で追手との激しいカーチェイスと銃撃戦が始まった!
デビーはジュディスの正体を知ってしまった。2人の友情に亀裂が入りかけていた。
だがその前にやることがあった。
生き延びることだ。
‘陰’のデビーと‘陽’のジュディスを体現する2大アクター!
ジュディスを演じたハンナ・ワディンガムはスポーツコメディの傑作“Ted Lasso”(本ブログ第76回参照)で大ブレークし、エミー賞助演女優賞に輝いた。ミュージカル&舞台アクターとして長いキャリアを持つ彼女だが、今回はコメディドラマの暗殺者役で視聴者を感動させるという離れ業を演じた。
デビー役のオクタヴィア・スペンサーは、’60年代の黒人家政婦への差別を描いた『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)で、アカデミー&ゴールデングローブ賞の助演女優賞をダブル受賞している。
スペンサーとワディンガムとの間には磁力のようなケミストリーが働き、2人は‘陰’のデビーと‘陽’のジュディスを鮮やかに体現した。
ビリー・ドノヴァン役のエド・スクラインは、大ヒットしたアクション・コメディ『デッドプール』(2016)のサイコ・ミュータント、エイジャックスが当たり役だ。
舞台経験が豊富なジェイミー・パーカーは、2016年に舞台で成人となったハリー・ポッターを演じた。本作では、デビーのダメダメ夫デヴィッドを生き生きと演じている。
多彩なキャラを演じるわき役陣は力強い。
“The Agency”の局長を演じた名優ビル・ナイ、ジュディスのハンドラーであるサム役のカラム・リンチ、“The Agency”の暗殺者“Redback”役のシルヴィア・フークス、ジュディスの武器サプライヤーのクイニ―を演じたサヴァンナ・スタイン、インターポール捜査官ブーシェ役のジャッキー・イドらが、激しく存在感を競い合う。
『テルマ&ルイーズ』の完全エンタメバージョン!
クリエーターのテッサ・コーテスにとって本作は初の製作総指揮作品。ショーランナーは“Chuck”、“Lethal Weapon”(本ブログ第37回参照)、“Peacemaker”を手掛けたマット・ミラーで、2人は共同脚本も担当している。
パイロットはオーストリアのスキーリゾートを舞台に007風のギャンビットで始まる。その後はロンドンを中心に、バルセロナ、モナコ、ジュネーブと舞台を移して国際色豊かなドラマが繰り広げられる。
ストーリーは、消えた政治資金を巡って命を狙われるジュディスとデビーの逃避行を中心に展開する。アルバニアン・マフィア、謎の暗殺者、“The Agency”、インターポールが入り乱れて予測不能、加速度的に面白くなる。ギャグは抑え目だが、ピンポイントでビシバシ決まる。
「完全無欠な殺人マシーン」だったはずのジュディスにとって、デビーという「守るべきもの」の出現が致命的な弱みとなる。孤児で家族を持たずに生きてきたジュディにとって、デビーとの友情は心の糧だった。一方受け身で自分を偽って生きてきたデビーは、窮地に陥って初めて生来の強靭さを発揮し、自ら活路を見出していく。
互いを支え、高め合いながら絆を深めていく2人のキャラクターアークはコントラストが鮮やかで、強い説得力を持つ。
そしてエンディングは、実力派アクター2人のおかげでエンタメ作品に収まらない感動を呼ぶ。
“Ride or Die”は、『テルマ&ルイーズ』の完全エンタメバージョン。底抜けに楽しくてスリリングで深い感動を呼ぶ、極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディなのだ!
(一応リミッテッドシリーズだが、シーズン2の制作に期待したい。)
原題:Ride or Die
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2026年7月15日
話数:8(1話 48-55分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。







