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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第69回 “CHERNOBYL”(『チェルノブイリ』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第69回 “CHERNOBYL”(『チェルノブイリ』)
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    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第69回“CHERNOBYL”(『チェルノブイリ』)
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    HBOが描き切った「チェルノブイリ原発事故」の全貌!
    ちょうど1年前、本ブログ(第57回)で「“When They See Us” (https://www.jvta.net/blog/viewer-discretion-advised-57/)が今年のエミー賞を席巻するだろう」と予想したが、見事に外れた。同じく実話ベースのミニシリーズ”CHERNOBYL”が、主要部門のうち作品賞、監督賞、脚本賞を受賞し、主演男優賞のみにとどまった“When They See Us”を退けたのだ。(“CHERNOBYL”はゴールデングローブ賞の作品賞も受賞。)

     
    何度でも言うが、HBOはドラマ界のレクサスだ(時々高尚過ぎて退屈な作品もあるが)。“CHERNOBYL”は、史上最悪の原発事故の全貌を描き切った、HBOの凄さを見せつける渾身の一作だ!

     
    “What is the cost of lies?”
    ―1986年4月26日午前1時23分45秒
    ソビエト連邦ウクライナ共和国キエフ州にある、チェルノブイリ原子力発電所の4号炉が爆発した。

     
    原子炉の近くにいた所員たちは、超高濃度の放射線を浴びて既に死にかけている。消火作業に駆け付けた消防隊員の一人は、飛び散った炉心の破片(黒鉛)を掴んだとたんに手が爛れ出し、やがて地面に崩れ落ちた。
    だが現場責任者の副技師長ディアトロフは炉心の爆発が信じられず、注水にこだわる。冷却水を注ごうにも、炉心はもうないのだ。誤った判断と無意味な命令のために、さらに部下が命を落とす。
    ディアトロフは上司へ、「タンクの爆発と建屋の火災が発生、施設への損害および近隣への影響は軽微」と報告した。

     
    関係者にはかん口令が敷かれ、住民への避難命令は出ない。現場から数キロ離れた橋の上では、野次馬たちが集まって能天気に火事を見物している。死の灰が、彼らの頭上から無慈悲に降り注ぐ…。

     
    核物理学者で原子炉の専門家ヴァレリー・レガソフ(ジャレッド・ハリス)は、事故対応の政府委員会からオブザーバーとして緊急招集を受けた。

     
    議長を務めたゴルバチョフ書記長は、虚偽の事故報告書の内容を信じて委員会を形式的に終わらせようとする。そこにレガソフが爆弾を落とした。
    「報告書にある、黒鉛を掴んで重体になった消防隊員のくだりを読めば、炉心が爆発しているのは明らかです。原料ウランの原子は1グラムにつき何兆個もの銃弾となって光速に近い速度で飛翔し、人体を含めてあらゆるものに浸透します。チェルノブイリにはそれが3百万グラムあるのです。また風に乗って広がり、雨に乗って地表に舞い降りる。空気、飲み水、食物が汚染され、100年、ものによっては5万年も残るでしょう」
    レガソフの発言は、委員会のメンバー全員を凍り付かせた。

     
    ゴルバチョフは、レガソフと副議長のボリス・シチェルビナ(ステラン・スカルスガルド)を調査責任者に任命する。

     
    事故現場では1時間ごとに、広島に落ちた原爆2個分の放射線が放出されていた。さらにメルトダウンが始まり溶融物が地下水に達したら、5千万人分の飲み水が失われる。今後何十万、何百万もの人々がガンで死ぬことになる。
    炉心爆発の速やかな原因究明も不可欠だった。チェルノブイリと同型の原子炉が、今も国内で16基も稼働しているからだ。

     
    途方もなく重い責任を背負わされたレガソフとシチェルビナは、協力を申し出た核物理学者ウラナ・ホミュック(エミリー・ワトソン)と共に事態打開に邁進する。

     
    ヒロイックな炭鉱夫が登場!
    レガソフ役のジャレッド・ハリスは、“Fringe”、“Mad Men”、“The Expanse”、“The Terror”とアメリカン・ドラマで主演助演に目覚ましい活躍ぶりだ。もはや名優リチャード・ハリスの息子と補足する必要のない、英国を代表する実力派アクターとなった。

     
    シチェルビナ役のステラン・スカルスガルドはスウェーデンの名優で、『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『アベンジャーズ』と2つの人気シリーズにも出演している。今回のシチェルビナ役でゴールデングローブ賞の助演男優賞を獲得した。

     
    ウラナ・ホミュックを演じたのは、オスカー・ノミネーションを2度受けている英国出身のエミリー・ワトソン(昔、『パンチドランク・ラブ』でアダム・サンドラーの恋人役だった。古いか)。ホミュックは、旧ソ連の善意ある核物理学者たちの象徴として生まれた架空の人物だ。

     
    最もヒロイックで愛すべきキャラクターが、アレックス・ファーンズが演じた豪放な炭鉱夫の元締めグルホフだ。破裂した炉心の下に冷却用熱交換機を設置するため、グルホフと400人の部下は全裸で、摂氏50度ある地下トンネルを掘り進むのだ。

     
    この重いテーマで魅力ある作品を作ってしまうHBO!
    ショーランナー兼脚本は、意外にも『ハングオーバー!』、『最終絶叫計画』シリーズなどコメディの脚本家として知られるクレイグ・メイジン。原発の是非についての議論はメイジンの意図ではないのだろう、ニュートラルな立場で描かれている。

     
    ロケはリトアニアの廃棄原発で敢行され、CGの助けを借りて驚異のリアリティが実現した。大量の放射線を浴びて、体組織が崩壊しながら死んでいく犠牲者の描写はショッキングだ。

     
    事故の詳細は、劇中レガソフによって噛んで含めるように説明される。よく考えられた脚本のおかげで原発の仕組みが理解できて、放射能汚染の恐怖がよりリアルに伝わってくる。

     
    図らずも運命共同体となった愚直な科学者レガソフと、生まれながらの政治家シチェルビナ。本来相容れない2人だが、極限状況下で互いの弱みを補い合い、山積みの問題を解決するにつれて、相互理解と尊敬の念が生まれる。これにホミュックが潤滑油として加わることで、ストーリーに厚みが増した。

     
    事態の隠ぺいを図り災禍を広げてしまう旧ソビエト政府と、KGB(旧ソ連国家保安委員会)の監視に怯えながら事実を白日の下に晒そうと奔走する科学者たち。保身に走る官僚や無知な共産党員と、被害拡大の防止と人命救助に命を懸ける人々。これらのコントラストが鮮やかに描かれる。
    そして最終回、法廷で炉心爆発の真相が暴かれ、レガソフが淡々と、だが力強く政府を糾弾するシーンは観る者の胸を打つ。

     
    社会的意義のあるドラマを作っても、観てもらえなければ意味がない。“CHERNOBYL”は、史上最悪の原発事故をものの見事に再現した。しかも実話による臨場感だけに頼らず、登場人物の魅力、事故原因の謎解きなどドラマ性も十分で、約5時間(全5話)を瞬時も飽きさせない。
    この重いテーマでこれだけ魅力ある作品を作り上げてしまうところに、HBOの凄さがあるのだ!

     
    ―チェルノブイリ原発事故の公式犠牲者は、いまだに旧ソビエト連邦政府が発表したわずか31人だ。

     
    本作はHBOとSky UKの共同製作で、スターチャンネル/スターチャンネルEX(Amazon経由)で視聴可能。
    尚、HBOの親会社Warner Brosは、5月からストリーミング・サービスHBO Maxを開始した。“Game of Thrones”のスピンオフ、“House of the Dragon”はいつ日本で観られるのか?

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊼
    Title: “Say You, Say Me”
    Artist: Lionel Richie
    Movie: “White Nights” (1985)

    ‘80年代の旧ソ連モノだが、ミハイル・バリシニコフのダンスとグレゴリー・ハインズのタップがミスマッチの、残念な作品。ヘレン・ミレンが若い!

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
    ◆バックナンバーはこちら
    https://www.jvta.net/blog/5724/


     

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