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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第137回  “PLURIBUS”  

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第137回“PLURIBUS”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『プルリブス』 本予告

 
“BrBa”のクリエーターによるSci-Fiスリラー!
「史上最高のテレビドラマ」との誉れ高い“Breaking Bad”(“BrBa”)。この至高のクライムドラマを生んだヴィンス・ギリガンの最新作が本作だ(舞台も再びアルバカーキ!)。
 
“Pluribus”はApple TV(旧Apple TV+)オリジナル。癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
 
(※)pluribus:多数、多数から。語源はアメリカ合衆国を表すラテン語「E pluribus unum(多数からひとつへ)」。
 
“We Is Us”
—14か月前
天文学者たちが、600光年先の深宇宙から発信されたシグナルを発見した。おそらく人類誕生時から送られ続けていたものだ。ようやく解読すると、それはコード化されたRNAの配列データで、生物というよりウイルスに近いものだった。
 
—29日前、米国陸軍感染症医学研究所
政府の極秘プロジェクトに携わる研究者が、実験用マウスに噛まれて溶原性ウイルスに感染。所内で集団感染が発生した。
 
—現在、ニューメキシコ州アルバカーキ
キャロル・スターカ(レイ・シーホーン)は新作発表ツアーを終えて、マネージャーで妻のヘレンと共にアルバカーキ空港に到着した。キャロルは、官能歴史ロマンス『ワイカロの風シリーズ』を大ヒットさせたベストセラー作家だ。だが皮肉屋で気難しく、自分の低俗な作品にうんざりしている。
 
深夜になって、2人は空港近くのバーを出た。
突然、キャロルを除く街中の人々が、全身を硬直させながら痙攣し始めた。特にヘレンは症状がひどく、呼吸をしていない。
人々の痙攣は数分で収まり、次々と立ち上がった。みんなフレンドリーで、心配そうにヘレンの周りに集まってくる。だが様子がおかしい。
 
ヘレンは死んだ。体が痙攣のショックに耐えられなかったようだ。茫然自失のキャロルは何とか彼女の死体をトラックで自宅まで運び、家に立てこもった。
 
唯一放送しているテレビ局の緊急連絡先に電話をすると、画面に映っているホワイトハウスの閣僚につながった。その閣僚は‘彼ら’の代表で、大統領は死亡し、パンデミックは地球を席巻しているという。今や世界中で人々がウイルスに感染して意識を同化させ、「幸福」を感じている。免疫があるのはキャロルを含めて世界でわずか12人。
代表は、彼女にも‘彼ら’の仲間になって欲しいという。
 
翌朝、キャロルの‘付き添い’となるゾーシャ(カロリーナ・ヴィドラ)が現れた。
 
レイ・シーホーンの一人舞台!
レイ・シーホーンは、“BrBa”の前日譚“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)の弁護士キム役でブレーク、エミー賞助演女優賞に2度ノミネートされた。今回は、最後まで「幸福」を拒絶するキャロルを壮絶に演じて、本年度のゴールデングローブ賞の最難関だった主演女優賞を勝ち取った。
本作はシーホーンの一人舞台だ。
 
ゾーシャ役のカロリーナ・ヴィドラはポーランド出身で、これが初の準主役級。シーホーンとの間には磁力のようなケミストリーが働き、キャロルとゾーシャの微妙な関係を刺激的なものにしている。
 
‘パラグアイの謎の男’マヌッソスを演じたカルロス・マヌエル・ベスガは、コロンビア生まれのベテランアクター。アメリカン・ドラマは初出演ながら重要な脇役を熱演した。
 
「‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。」
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のヴィンス・ギリガンは、社会現象となった懐かしいSci-Fiドラマ“The X-Files”の制作・脚本に関わり頭角を現した。2008年以降、“BrBa”、“Better Call Saul”、さらに後日譚となるTVムービー“El Camino”を送り出し、“BrBa”フランチャイズを不動のものとした。
 
ギリガンは実にエミー賞に23回(受賞4回)、ゴールデングローブ賞に4回(受賞1回)ノミネートされている。
 
人々がすべての知識・経験・スキルを共有し、戦争・犯罪もあらゆる差別もない世界。個人という概念は存在せず、そこにあるのは平和・愛・理解、そして完全な公平と平等。つまり、理屈の上では100%幸福な世界だ。
これは果たしてユートピアか、ディストピアか?
 
本作はSci-Fiドラマと言っても、スペースシップやエイリアンが登場するわけではない。B級感が漂う、ブラックユーモアに満ちた心理スリラーだ。
 
劇中キャロルが一連の出来事に例えて言及するのは、SF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)。人々の意識が同化する“hive mind”の概念は、“Star Trek: The Next Generation”のボーグを連想させる。もっとも、本作における‘彼ら’の実態は「ヒューマノイド型生成AI」に近い。
エンドクレジットに“This show was made by humans”とメッセージが出るが、いかにもAI嫌いのギリガンらしい。
 
‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。そして主人公の使命は、世界中の「幸福な人々」を元の生活に戻すこと。確固たる世界観に裏付けられた、この笑えないほど皮肉な設定は強烈に効いている。
 
欠点は幾つかある。中盤にダレるストーリー、クセの強いキャロルのキャラ、消化不良気味のエンディングなど。
だがスリリングなパイロット(第1話)、オリジナリティのあるプロット、シーホーンの圧巻の演技、ギリガン流の奥行きのある映像美、そして次シーズンへの期待感(シーズン2まで契約済み)が欠点を補って余りある。
 
“Pluribus”は、癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
 
原題:Pluribus
配信:Apple TV
配信開始日:2025年11月7日~12月24日
話数:9(1話 42-62分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(1月~3月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Hacks: S1-S3”(日本未公開)
エミー賞主演女優賞4連覇!74歳のジーン・スマートが伝説的な女性スタンダップ・コメディアンに扮する、辛辣な笑いと苦い感動に包まれたHBOの看板ドラマ!
(U-NEXTが配信してくれないのでUSA版DVDで観た。)
 
●“SEAL Team”(『SEAL Team シール・チーム』、U-NEXT)
“Angel”、“Bones”のデヴィッド・ボレアナズ主演、SEALs(米国海軍特殊部隊)の過酷な任務と葛藤をリアルに描き切った傑作アクションシリーズの最終シーズン(S7)!
 
●“The Lowdown”(『ローダウン 独自調査ファイル』、Disney+)
ハードボイルド・ファンにお勧め、イーサン・ホークが不屈の二流ジャーナリストを渋く演じるコメディタッチのクライムドラマ!(この副題は何とかならないか?)
 
●“The Hunting Wives”(『ハンティング・ワイブス』、Netflix)
テキサスのセレブ妻たちの醜聞・欺瞞・秘密が乱れ飛ぶ、低俗でお下劣で強烈な中毒性のあるエロティック・クライムスリラー!(これぞ“guilty pleasure”!)
 
●“Star Trek: Starfleet Academy”(『スター・トレック:スターフリート・アカデミー』、Paramount+)
シリーズ生誕60周年記念の最新作は、若き士官候補生たちの夢、友情、成長を活写する青春Sci-Fiドラマ!(67歳〈撮影時〉のホリー・ハンターの魅力爆発!)
 
●“Wonder Man”(『ワンダーマン』、Disney+)
スーパーパワーを隠して役者として生きる若者と落ちぶれたベテランアクターとの友情を描く、マーベル・ユニバースの愛すべき小品!(トレヴァー役で再出演のベン・キングズレーが唸るほど上手い!)
 
●“A Knight of the Seven Kingdoms”(『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』、U-NEXT)
“Game of Throns”の100年前を舞台に、根無し草の気のいい騎士と聡明な少年従士との絆を描く小粒なスピンオフドラマ!
 
●“F.B.I.”(『FBI:特別捜査班』、hulu)
FBIニューヨーク支局の現場捜査員とハイテク分析チームが、テロリスト、暗殺者、シリアルキラー、誘拐犯等を追い詰める現在最高の警察ドラマ、充実のS7!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第136回“IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『IT / イット ウェルカム・トゥ・デリー“それ”が見えたら、終わり。』 本予告

 
“Pennywise, the Dancing Clown returns!”
本作はスティーヴン・キング原作の『IT/イット』シリーズ(2017&2019)の前日譚で、‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズの誕生秘話が描かれる。
“IT: Welcome to Derry”は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによるオリジナル(配信はU-NEXT)。完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
“This is not America, this is Derry”
—メイン州デリー、1962年
雪の降る夜。なぜかおしゃぶりを咥えている男の子が、町の映画館に忍び込んだ。上映されているのは『ザ・ミュージックマン』。彼はほどなくマネージャーに追い出され、仕方なく国道でヒッチハイクを始めた。
 
その子の名前はマティ、デリー学園の生徒だ。彼を拾ってくれたのは、子連れの優しそうな中年夫婦だった。暖かい車内では、ラジオがソ連の核実験を伝えている。夫婦が卑猥なジョークを飛ばし始めた。弟はひたすら単語のスペルを唱え、姉はタッパーウェアに入った生レバーの臭いをかいでいる。何かがおかしい。
その夜、マティは行方不明になった。
 
—4か月後
デリー空軍基地に、リロイ・ハンロン少佐(ジョヴァン・アデポ)が赴任してきた。国防総省の極秘プロジェクト「プリセプト作戦」に参加するためだ。妻のシャーロット(テイラー・ペイジ)と12歳の息子ウィルもほどなく合流する。
黒人のハンロン少佐は、初日から基地内で差別を受けた。
 
リリーは1年前に父親を事故で失った。ピクルスの瓶詰工場で機械に挟まれたのだ。彼女はデリー学園のクラスメートにいじめられ、‘変人リリー’と呼ばれている。
実は、マティはリリーの秘密の友人だった。
 
デリーでは、マティだけでなく子供たちが次々と行方不明になっていた。
ある日、リリーは自宅の排水口からマティの声を聞いた。『ザ・ミュージックマン』の劇中歌だ。彼女はマティの友人2人を誘って捜索を始める。マティが最後に目撃された映画館に行く。そこで働くロニーも協力してくれた。
 
無人の館内で、ロニーは『ザ・ミュージックマン』を上映し始めた。すると、スクリーンにマティが映っているではないか。だがマティの顔はピエロに変わり、そいつは布でくるんでいた小さな怪物を解き放った。
怪物はスクリーンを突き破り、リリーたちを襲い始めた!
 
‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズが27年ぶりに覚醒したことを、デリーの人々は知る由もない…。
 
“We’re losers and always will be”
本作の主役は、いじめられっ子5人組。
精神を病みながらも友人の救出を諦めないリリー(クララ・スタック)、軍人の父親からのプレッシャーに悩む理系の秀才ウィル(ブレイク・キャメロン・ジェームス)、父親の冤罪を晴らそうと奮闘するロニー(アマンダ・クリスティーン)、ちょっとズレてるリリーの親友マージ(マチルダ・ローラー)がドラマをけん引する。
そして、マージへの愛を貫き通す粋な気取り屋リッチ(アリアン・S・カルタヤ)には、不覚にも泣かされる。
彼らの合言葉は「勇気」だ。
 
映画版に続いてペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドはスウェーデン出身。やはりS・キング原作の“Castle Rock”にも主演している。父親は“Star Wars: Andor”のステラン・スカルスガルド、兄は“Murderbot”(本ブログ第131回参照)で主演したアレクサンダー・スカルスガルドだ。
 
リロイ・ハンロン少佐役のジョヴァン・アデポは、“Jack Ryan”(本ブログ第55回参照)、“When They See Us”(本ブログ第57回参照)で準主役を演じた。
 
“Thank you for visiting Derry”
立案および製作総指揮は、アンディ&バーバラ・ムスキエティの弟姉コンビ。映画版2作ではバーバラが製作、アンディが監督を務め、ドラマ版ではアンディは共同監督に名を連ねる。
 
エンタメ作家を「質x量」で評価すると、スティーヴン・キングは文句なしに史上最強だ。原作小説『IT』(1986)は、膨大なキング作品の中でもトップ3に入る屈指の名作。この一作がなければ、超人気の“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)も生まれなかった。
 
ムスキエティ弟姉は、その唸りを上げる‘キング節’を原作の雰囲気そのままに見事に映像化した。
 
本作は、『スタンド・バイ・ミー』(1986、これもキング原作)の美しいホラーバージョン。軍事スリラーの要素がスパイスとして効いている。
ストーリーは原作と映画版からインスピレーションを得たオリジナル。ジョン・F・ケネディが大統領で、ソ連との冷戦下にある時代。舞台は、警察の腐敗と黒人差別が未だ色濃く残る、メイン州の廃れた町。
 
レトロ調のオープニング・クレジットが秀逸。パイロット(第1話)の冒頭約10分間の‘キモ怖さ’は別格で、観る者を一気にこの数奇な物語に引きずり込む。現前の超常現象と登場人物の空想が混然一体となり、キングの世界観が広がってゆく。
 
エピソードが進むにつれ、リリーを中心とした5人の仲間は絆を深めていく。警察に助けを求めても、信じるはずがない。一方でハンロン少佐は、「プリセプト作戦」に深く係わっていく。彼らの運命が交錯するとき、ペニーワイズ誕生の謎が明らかになり、デリーの町は恐怖に支配される。
戦慄と感動の最終話は文句なしの出来栄えで、68分間がアッという間だ。
 
“IT”ユニバースは映画、ドラマ、小説、どれから入っても楽しめるが、できればセットですべて堪能して欲しい。
“IT: Welcome to Derry”は完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
ペニーワイズのあの高笑いはシーズン2で戻ってくるはずだ。(本稿執筆時点では、HBOによるシーズン2の制作発表はない。)
 
原題:IT Welcome to Derry
配信:U-NEXT
配信開始日:2025年10月27日~12月15日
話数:8(1話 53-68分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、S・キング原作の非ホラー系ドラマ!」
S・キング原作のドラマは「非ホラー系」も傑作ぞろいなので、この機会に押さえておこう。
 
●“The Dead Zone”(2002-2007):A
●“Under the Dome”(2013-2015):B+
●“11.22.63”(リミテッド・シリーズ、2016、本ブログ第25回参照):A+
●“Mr. Mercedes”(2017-2019、本ブログ第50回参照):A
●“The Outsider”(リミテッド・シリーズ、2020):B+
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第135回 “THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第135回“THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『BEAST -私のなかの獣-』 本予告

 
スパイスリラーのエース対決が楽しめる極上のサイコスリラー!
年頭を飾る本作は、傑作スパイスリラーの主役2人“Homeland”のクレア・デインズと、“The Americans”のマシュー・リスが激突するNetflixのリミテッドシリーズ。本年度のゴールデングローブ賞作品賞、主演女優賞(デインズ)、主演男優賞(リス)にノミネートされた。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
 
“What did you do?”
—ニューヨーク州郊外の町オイスターベイコーブ
アギー・ウィッグス(クレア・デインズ)は、7年前に自叙伝『病める子犬 父への手紙』でピューリッツァー賞を取ったベストセラー作家だ。彼女の父親はサイコパスの詐欺師だった。
 
4年前、アギーの人生は一変した。8歳の息子クーパーを交通事故で失ったのだ。彼女は精神的に追い詰められ、やがて妻のシェリー(ナタリー・モラレス)とも離婚した(アギーはゲイだ)。
今は修理の必要な屋敷に引きこもって、トイプードルと暮らす毎日だ。執筆は進まず、常に怒りを抱え、経済的にも困窮している。
 
ナイル&ニーナのジャーヴィス夫婦(マシュー・リス&ブリタニー・スノウ)が隣に引っ越してきた。ナイルは世間を騒がせている不動産王で、失踪した前妻の殺人容疑が不起訴になったばかりだ。
アギーとナイルは初対面で衝突した。ジャーヴィス家の2匹の大型番犬とセキュリティシステムの騒音がアギーをいらつかせ、さらにナイルが提案している地域のジョギングコース建設に彼女が反対したからだ。
 
ナイルは仲直りのためにアギーを強引にランチに誘った。席上でナイルは次作が行き詰ったアギーに、「僕の本を書けばいい」と持ちかけた。
多少打ち解けたアギーは、「息子を殺した若者テディ・フェニグを苦しめてやりたい」と本音を吐露した。テディは飲酒運転を疑われたが無実となっていた。激高してテディをストーキングしたアギーは、接近禁止令を言い渡されていた。
 
その夜、アギーの自宅に雨に濡れて酔っ払ったFBI捜査官ブライアン・アボット(デヴィッド・ライオンズ)が突然現れる。アボットは「ナイルには用心しろ」と伝えると去っていった。彼は、ナイルの元妻マディソン失踪事件の主任捜査官だった。
 
翌朝、テディ・フェニグの自殺が報じられた。
そして、アギーはナイルについての本を書く決心をする…。
 
“BrBa”のジョナサン・バンクスが参戦!
クレア・デインズは、17歳の時にレオナルド・ディカプリオと共演した『ロミオ+ジュリエット』(1996)で一躍アイドルとなった。8シーズン続いた傑作スパイスリラー“Homeland”では、双極性障害の辣腕CIAエージェント、キャリー・マトソンを演じてエミー賞&ゴールデングローブ賞に輝いた。主演・助演賞ノミネートはエミー賞8回(受賞3回)、ゴールデングローブ賞7回(受賞4回)を数え、今や大女優の風格だ。デインズはキャリーを髣髴させる今回のアギー役でも、鬼気迫る演技力で観る者を圧倒する。(得意の「顔芸」も健在。)
 
英国出身のマシュー・リスは、ケリー・ラッセル(!)と共演した冷戦下のスパイスリラー“The Americans”(本ブログ第6回参照)で、ソ連のスリーパーエージェントを演じて大ブレークした。タイトルロールを演じた“Perry Mason”も見応え十分で、両作品を中心にエミー賞5回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞には4回ノミネートされている演技派だ。今回は、カリスマのあるナルシストでサイコパスの実業家ナイルを気持ちよさそうに演じている。(メーク強め。)
 
ワイルドカードとなるナイルの妻ニーナ役のブリタニー・スノウ、唯一正常に見えるアギーの元妻シェリー役のナタリー・モラレス、自己破滅型FBI捜査官アボット役のデヴィッド・ライオンズ、そして汚い仕事を一手に引き受けるナイルの叔父リックを演じるティム・ギニー。いずれも適材適所で、各役柄はエピソードが進むにつれて重要度が増す。
 
観逃せないのが78歳のジョナサン・バンクス。“Breaking Bad”およびスピンオフの“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)のフィクサー、マイク・エルマントラウトが一世一代のハマり役で、エミー賞に5回(トータル6回)ノミネートされている。本作では、ナイルの強面の父親マーティン・ジャーヴィスを圧倒的な存在感をもって演じてみせた。
 
「内なる獣」の対決!
クリエーター(兼共同脚本)のゲイブ・ロッターは、懐かしの“The X Files”最終シーズンに係わり、また作家でもある。ショーランナー(兼共同脚本)のハワード・ゴードンは“24”をメガヒットさせた後、前述の“Homeland”で絶賛された。
また製作総指揮には、(なぜか)ジョディ・フォスターと人気TVホストのコナン・オブライエンが名を連ねる。
 
力強さと脆弱さをオン/オフで切り替えるデインズと、温厚性と衝動性を行き来するリス。本作最大の見どころは、この2人が生み出すケミストリーだ。
そして、インタビューと駆け引きを通じて芽生える、アギーとナイルの歪んだ共感、友情、絆、愛情、—その危うさと気持ち悪さが、また何とも言えない作品の魅力となっている。
 
ストーリーは大胆で繊細な脚本に乗って、嘘と疑念を積み重ねながら深く静かに潜航する。散見されるご都合主義は、高まる緊迫感で巧みに覆い隠される。
次第に露呈するアギーとナイルの過去。
マディソンとテディに何が起きたのか?
そして衝撃のエンディングと不穏なエピローグまで、加速度的に面白くなる。
 
本作は、主人公2人が共に抱える「内なる獣」が対決する物語。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
 
原題:The Beast in Me
配信:Netflix
配信開始日:2025年11月13日
話数:8(1話 41-54分)
 
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」⑤
●『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(中林美恵子、辰巳出版、2025)
日本人唯一の元米国連邦議会正規公務員の著者が、国家構造、政策、国民意識等からトランプ再選後のアメリカを分かりやすく多角的に分析する好著!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第134回 “THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第134回“THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『ターミナル・リスト ~闇の狼~』 本予告

 
“The Terminal List”からのスピンオフ!
本年最後のイチ押しは、クリス・プラット主演の傑作アクションスリラー“The Terminal List”(本ブログ第93回参照)の前日譚。同作の重要なキャラクター、ベン・エドワーズの物語だ。
 
“The Terminal List: Dark Wolf”はAmazon Primeオリジナル。CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
 
“May our courage exceed our level of violence”(「勇気が暴力に勝らんことを」)
—2015年、イラク北部の都市モスル
ベン・エドワーズ(テイラー・キッチュ)は、SEALs(米国海軍特殊部隊)チャーリー小隊のチーフだ。ベンは上官のレイフ・ヘイスティングス中尉(トム・ホッパー)らとともに、モスル郊外の同盟軍訓練施設でイラク治安部隊の兵士を訓練している。
彼らの目的は、過激派組織IS(イスラム国)を壊滅することだ。
 
治安部隊とISの間で捕虜交換が行われることになった。ISの幹部アル・ジャブーリを釈放する代わりに、民間人の捕虜18人が返還される。ベンとチャーリー小隊も同行した。
橋の上で行われた交換は銃撃戦となり捕虜数人が死亡、ベンの腹心の部下で治安部隊所属のダラン・アミリ軍曹も重傷を負った。そして人質に仕掛けられていたIED(簡易爆弾)が爆発、アル・ジャブーリは行方をくらました。
 
—3か月後
ジェームズ・リース中尉(クリス・プラット)率いるアルファ小隊が到着した。チャーリー小隊による訓練を引き継ぐためだ。ジェームズ、ベン、レイフは戦友だ。
負傷したダランも家族とともに姿を見せた。左足を切断したにもかかわらず、母国のために軍務に復帰するという。
 
ある日、ベンたちがモスル市内へ偵察に向かう途中に訓練施設で自爆テロが発生、兵士7人が犠牲となった。
犯人はダランで、義足にIEDを仕込んでいた。ISに家族を人質に取られ、自爆テロを強要されたのだった。彼の妻も殺され、2人の子供は誘拐されていた。
 
復讐を誓うベンは、レイフ、ジェームズらとともに、独断で自爆テロの首謀者アル・ジャブーリのアジトを急襲する。
 
その結果、ベンとレイフは除隊を余儀なくされた。
後日、2人はCIAからのオファーを受けることになる…。
 
“Long live the brotherhood”(「絆よ、永遠なれ」)
ベン・エドワーズ役のテイラー・キッチュは、青春スポーツドラマの名作“Friday Night Lights”が代表作。陰のあるランニングバックのティムを演じてブレークした。最近では、西部開拓時代の硬派ドラマ“American Primeval”(『アメリカ、夜明けの刻』)に主演している。
本作ではイケメンぶりも控えめに、SEALsの信念を貫き通す新米CIA工作員を熱演する。
 
トム・ホッパーと言えば、痛快なスーパーヒーロー・ドラマ“The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照)で演じた童貞の怪力男ルーサーを思い出す。今回は、頼れる元SEALsの指揮官レイフ・ヘイスティングス役へ見事にイメチェンした。
 
ベンとレイフをヘッドハンティングするジェド・ハバフォード役のロバート・ウィズダムは、見覚えがあると思ったら懐かしい“The Wire”と“Prison Break”のレギュラーだった。強面で食えないCIAイラン工作部長にぴったりだ。
 
CIAのリエゾンでモサド工作員のイライザとタルを、イスラエル生まれのロナ=リー・シモンとシラーズ・ツァルファティが好演する。
 
脇へ回ったクリス・プラットは2つのエピソードに出演し、ジェームズ・リースを渋く演じてみせた。
 
元SEALsの矜持の物語!
ショーランナー(兼共同脚本)は“The Terminal List”と同じくデヴィッド・ディジリオ。骨太なストーリーはジャック・カーの原作ではなく、2人によるオリジナルだ(カーは製作総指揮と共同脚本も担当)。
 
ドラマの根幹にブレがないのは、実際にSEALsで20年のキャリアを持つカーの経験が細部にまで生かされているからだ(因みに、カーの小説は出版に政府の承認が必要で、削除された部分が黒塗りになっている)。上層部に翻弄される兵士たちの怒り、各オペレーションの立案過程、銃器の扱い・銃撃戦などの描写は圧倒的にリアルだ。
デヴィッド・ディジリオは、このリアリティとエンタメ性を絶妙なバランスで両立させて、見事に差別化している。
 
キャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)も鮮やかだ。直感型のベンは、官僚主義的な制約の多い軍隊から離れることで、スパイとしての才能を開花させる。だが立場が変わっても、「前線で戦う仲間たちを守る」という強固な信念は揺るがない。
一方レイフはCIAの冷酷で人命軽視のやり方になじめないが、ベンの背中を守る覚悟はできている。この高潔な兵士2人のコントラストがドラマに厚みを与えている。
 
舞台はジュネーブ、ウィーン、ミュンヘン、ブダペストなどヨーロッパ各地の都市。ストーリーの中心は、新技術で一気に核兵器開発を進めるイランと、それを阻止しようとするCIA工作員たちの非情なスパイ戦だ。ベンとレイフは諜報世界の欺瞞に翻弄されながらも、突破口を探る。終盤にはスパイドラマらしく連続ツイストが炸裂し、エンディングまで目が離せない。
 
“The Terminal List”(2022)以降、これほどのアクションドラマにはお目にかかれなかった(リー・チャイルド原作の“Reacher”が最も近いか)。結局、プロット、キャラクター、アクションと3拍子揃った本作がスピンオフとして登場するまで、われわれは待たされたわけだ。
 
ベンとレイフのハートはあくまでCIAではなくSEALsにある。つまり本作は、元SEALsの矜持の物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”は、CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
 
本作はオリジナルを観ていなくても問題なく楽しめる。
“The Terminal List”のシーズン2は、クリス・プラットが忙し過ぎて撮影が遅れていたが、来年配信されるようだ。本作のシーズン2とセットで早く観たい!
 
原題:The Terminal List: Dark Wolf
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2025年8月27日~9月24日
話数:7(1話 50-67分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~12月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“NCIS: Tony & Ziva”(『NCIS:トニー&ジヴァ』、Paramount+他)
“NCIS”ファン必見、同番組から去った人気キャラ2人が国際的陰謀に巻き込まれ、ヨーロッパで逃亡者となるコメディタッチのアクションドラマ!
 
●“The Chair Company”(『チェア・カンパニー』、U-NEXT)
家具メーカーにクレームをつけた強迫性障害の男(“SNL”のティム・ロビンソン)にとんでもない悪夢が降りかかる、アクの強い不条理ダークコメディ!
 
●“Black Rabbit”(『ブラック・ラビット』、Netflix)
ジュード・ロウ&ジェイソン・ベイトマン共演、NYでレストランを経営する弟とギャンブル依存症の兄が負のスパイラルに陥る極上のクライムドラマ!
 
●“Task”(『TASK / タスク』、U-NEXT)
元牧師のFBI捜査官(マーク・ラファロ)と、麻薬ディーラーばかりを狙うシングルファーザーの強盗(“Ozark”のトム・ペルフリー)の熱い戦いを描くヒューマン・クライムドラマ!
 
●“Death by Lightning”(『デス・バイ・ライトニング』、Netflix)
1880年に期せずして第20代合衆国大統領に選出されたJ・ガーフィールドが、妄想狂の男に暗殺されるまでの200日間を描く、地味ながら予想外に面白い実話ドラマ!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第133回 “BOOTS”(『オレたちブーツ』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第133回“BOOTS”(『オレたちブーツ』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『オレたちブーツ』 本予告

 
おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディ!
始めに、米国軍隊の同性愛者に関する入隊規定の変遷をおさらいしておく:
1)1993年まで同性愛者の入隊は禁止。
2)1994年2月に施行されたいわゆるDADT政策(“Don’t Ask, Don’t Tell Policy”)により、性的指向を公言しないことを条件に入隊が認められた。ただし同性愛者であることが発覚したら即時除隊。
3)2011年9月20日から正式に同性愛者の受け入れ開始。
 
“Boots”はNetflixの隠し玉で今年の大穴。’90年代にゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!
 
“WHERE IT ALL BEGINS”
—1990年、ルイジアナ州ニューオーリンズ
キャメロン・コープ(マイルズ・ハイザー)は18歳、高校を卒業したばかりだ。彼は家庭ではシングルマザーのバーバラ(ヴェラ・ファーミガ)に軽んじられ、怠け者の兄に無視され、学校では陰湿ないじめにあってきた。自分がゲイであることは、親友のレイ(リアム・オー)にしか話していない。(レイはストレートだ。)
 
レイの父親はベトナム戦争の英雄だ。彼は厳格な父親に認めてもらいたい一心から、この夏を海兵隊のブートキャンプで過ごすと決めていた。キャメロンはゲイの入隊は違法と知りつつ、「サマー」「キャンプ」という単語に騙されてレイと共に参加する。どうせ大学へ行く経済的余裕はない。軍隊で「自分を変えて自分らしく生きたい」という気持ちも多少はあった。
 
「レイと海兵隊のブートキャンプへ行ってくる」
「帰りにミルクをお願い」
それが母親と交わした最後の会話だった。
 
—海兵隊訓練場、サウスキャロライナ州パリスアイランド
配属先の兵舎では個性的な新兵たちが右往左往していて、さながら動物園のようだ。キャメロンとレイは思わず顔を見合わせた。
さっそく上級教官のマッキノンと2名の教官補佐による、鬼のシゴキが始まった。
 
あまりの厳しさに早くも音を上げたキャメロンは、初日の体力テストで故意に失格しようと試みる。だが、隣で懸垂に苦しむデブのジョンを助けた結果、2人とも合格してしまう。
 
アジア系のレイに暴力をふるった差別主義者の教官補佐がクビになり、代わってサリバン軍曹(マックス・パーカー)が赴任してきた。サリバンはグアムに駐屯していた若きエリートで、なぜパリスアイランドへ異動してきたのかは謎だった。
 
これからの13週間、キャメロンは精神的・肉体的に極限まで鍛えられる。何が起こり、どれだけ自分が変わっていくのか、彼には知る由もない…。
 
“Once a Marine! Always a Marine!”
18歳のキャメロンを演じたマイルズ・ハイザーは実は31歳。Netflixのミステリードラマ“13 Reasons Why”が代表作で、準主役のアレックスを全4シーズン演じた。ヴィヴィッドな演技力は数ある新兵役アクターの中でも群を抜く。ハイザーは19歳の時にゲイであることをカミングアウトしている。
 
サリバンを演じたマックス・パーカーは英国出身。周囲からは理想の海兵隊員に映る、悩める軍曹を颯爽と演じて魅了する。
 
レイ役のリアム・オーは初めての準主役。キャメロンとの友情を育みながら自身の弱点を克服していくレイを熱演している。
 
キャメロンの母親バーバラ役のヴェラ・ファーミガは、サイコホラー“Bates Motel”で主役のノーマ・ベイツを演じてエミー賞候補となった。最近では、ハリケーン’カタリナ’に襲われたニューオーリンズの病院を描いた佳作“Five Days at Memorial”で主演していた。
 
異彩を放つのがサイコパスの新兵ヒックスを演じたアンガス・オブライエンで、こいつやたら面白い。
 
“What you just earned will never fade!”
原作はグレッグ・コープ・ホワイトによる回想録“The Pink Marine”。ショーランナー(兼共同脚本)のアンディー・パーカーは、’80年代のミュージック、絶妙のユーモア、さらに青春学園ドラマ的な魅力を巧みに融合させ、見事に映像化してみせた。最近では、AIの進化をテーマにした壮大なSci-Fiアニメ“Pantheon”を手掛けている。
 
本作は反戦ドラマでも好戦ドラマでもない。銃撃戦もなければ、『トップガン』のように勇敢な主人公が戦場で活躍する場面もない。
これは、青年の葛藤と成長の記録なのだ。
 
キャメロンは、『フルメタル・ジャケット』より“The Golden Girls”が好きな優しい青年。軽い気持ちで入隊したブートキャンプで将来の戦友たちと出会い、レイとの友情を再確認する。そして過酷で屈辱的な訓練を耐え抜き、厳格な教官たちとの交流を通じて、タフで思慮深い自立した大人へと変貌してゆく。
それは、しばしばラブストーリーと誤解される『愛と青春の旅立ち』(原題は“An Officer and a Gentleman”、1982)の真のテーマ「士官である前に紳士であれ」にも通じている。
 
ゲイの自分を一生閉じ込めて生きるのか、強い自分に変わるのか—キャメロンは苦悩する。芯が強く、異なる価値観を理解し、他人の気持ちを推し量る自分の稀有な資質に気づかない。1990年という厳しい環境下で描かれる、キャメロンの絶望と希望、挫折と成功は観る者の胸を打つ。
 
物語の大半は訓練場内で展開する。詳細に描かれるエグい海兵隊の訓練は新鮮で、罵声を浴びながら徹底的にシゴかれるおバカで頼りない新兵たちが哀れで笑える。(今では人権的に許されないレベルだろう。)
ゲイは本作の重要なファクターだ。だがそこに多様性を押しつけるような説教臭さはなく、素直に理解できる誠実さがある。
 
各エピソードはサクサク観られてやめられなくなる。感動が止まらないシーズンフィナーレは、キャメロンたちの将来を暗示する不穏なクリフハンガーでフィニッシュ。いや、お見事でした。
 
本作は、Netflixの片隅に埋もれた愛すべき小品。口コミで評判が広がり、シーズン2の制作につながって欲しい。
“Boots”は、ゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!(“Oorah!”)
 
原題:Boots
配信:Netflix
配信開始日:2025年10月9日
話数:8(1話 40-50分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第132回 “ALIEN:EARTH”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第132回“ALIEN:EARTH”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『エイリアン:アース』 本予告

 
“The Alien Has Landed!”
リドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねる本作は、昨年公開された『エイリアン:ロムルス』の22年前、オリジナル『エイリアン』(1979)の2年前を描く前日譚。エイリアンが遂に地球に到達する。
(シガニー・ウィーバーがいないと、こういう悲劇が起こるのよ。)
 
“Alien: Earth”はDisney傘下のFXが制作、マンネリ気味のエイリアン・フランチャイズに新風を吹き込むスーパーエンタメ・Sci-Fiホラーなのだ!
 
“They can sense fear!”
—西暦2120年
強欲なメガ企業5社が、地球と植民地化した太陽系惑星を支配する世界。
そこでは「人間」、「サイボーグ」(マシン強化型ヒューマン)、「シンセティック」(AI搭載のヒューマノイド型ロボット)が共存している。
 
—地球から8億500万マイル離れた宇宙空間
ウェイランド・ユタニ社の深宇宙調査船マジノ号は、65年にわたる探査を終えて地球に帰還するところだった。
クルーは当初の目的通り、5種の捕食性生命体を捕獲していた。だが封じ込めに失敗し、サイボーグの保安責任者モロー(バブー・シーセイ)以外は、全員が虐殺された。航空システムが故障したマジノ号は、凶暴な生命体を乗せたまま地球に向かっている。
 
—地球
プロディジー社が保有するネバーランド研究島では、史上初めて「ハイブリッド」の誕生を迎えるところだ。被験者は余命わずかな11歳の少女マーシー。彼女は革新的技術によって、意識を取り込んだ強靭なシンセティックとして生まれ変わる。このハイブリッド技術は、近々同社の主力商品になるはずだ。
マーシーは自分の新しい名を‘ウェンディ’に決めた。
 
数か月後、マジノ号が地球に墜落し、プロディジーシティの高層タワーに突き刺さった。生存者救出のために、同社の軍隊が投入された。
 
ウェンディ(シドニー・チャンドラー)はニュースを見て愕然とした。兄のジョー(アレックス・ローサー)は軍の衛生兵なのだ。妹が死んだと思っているジョーは、ウェンディの存在を知らない。
 
ウェンディは救出任務を志願する。プロディジー社の若き天才CEOボーイ・カヴァリエ(サミュエル・ブレンキン)は、ゴーサインを出した。カヴァリエは、船内の生命体を横取りするつもりだった。
 
隊長を務めるシンセティックの科学者カーシュ(ティモシー・オリファント)、リーダーのウェンディ、「ロストボーイズ」と呼ばれる新米のハイブリッド5名からなる、即席の特殊部隊が組織された。
 
戦闘経験の乏しい彼らは、これから5種のエイリアンと対峙することになる…。
 
“Now I’m a forever girl!”
ウェンディを演じるシドニー・チャンドラーはカイル・チャンドラー(“Friday Night Lights”)の娘。ハードボイルド・ドラマ“Sugar”(本ブログ第116回参照)では、行方不明になるティーンエージャーを印象的に演じた。本役では、エキセントリックな魅力と高い演技力で、エイリアンたちと互角の存在感をアピールする。
 
ウェンディの兄ジョー役のアレックス・ローサーは英国出身。青春ブラックコメディ“The End of the F***ing World”(『このサイテーな世界の終わり』)では、主役のサイコパス少年を演じた。優しいがヌルいジョーのキャラにぴったりだ。
 
プロディジー社のCEOカヴァリエ役のサミュエル・ブレンキンも英国出身で、舞台版『ハリー・ポッター』ではスコーピウス・マルフォイを演じた。ピーター・パン症候群の天才サイコパス役に上手くハマった。
 
サイボーグの保安責任者モローを演じたバブー・シーセイは、怒涛のカンフードラマ“Into the Badlands”のピルグリム役が懐かしい。孤独な復讐者となるモローの重要性は、エピソードを重ねるごとに高まっていく。
 
シンセティックの科学者カーシュ役のティモシー・オリファントは、主役の連邦保安官ギヴンズを演じた“Justified”が代表作。無表情でクールなカーシュは、『ブレードランナー』でルトガー・ハウアーが演じたレプリカントを髣髴させる。
 
『エイリアン』のテーマパーク・バージョン!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のノア・ホーリーは、ドラマ版“Fargo”(本ブログ第13回参照)全5シーズンの製作、監督、脚本でエミー賞に計11回ノミネートされている才人だ(受賞は1回)。
 
オリジナルシリーズの魅力は、①宇宙船内の閉塞感から生まれる恐怖、②戦うヒロイン、③H・R・ギーガーによるエイリアン(ゼノモーフ)のメタリックな造形美だろう。
この3点は本作でも忠実に踏襲されている。特に第5話で解き明かされるマジノ号の惨劇は圧巻で、『エイリアン』のリブートのような完成度だ。
 
また、本作には新たな世界観が導入されている。マグセブン(Microsoft、NVIDIA、TeslaなどのメガIT企業7社)を思わせる5大企業が支配し、人間と不老不死のサイボーグ、シンセティック(およびハイブリッド)が共存する世界だ。プロディジーシティに『ブレードランナー』の退廃的な雰囲気が漂うのは、リドリー・スコットへのオマージュか。
 
ストーリーはウェイランド・ユタニ社とプロディジー社の支配権争いを背景に、エイリアン5種の脅威とウェンディの成長が交錯する。さらに、「ゼノモーフとウェンディとの交流」「人間の兄ジョーとハイブリッドの妹ウェンディとの絆」「ハイブリッドの反乱」など、魅力的なサブストーリーが走る。
終盤はさながら『エイリアン』のテーマパーク・バージョンの様相で、劇的なシーズン・フィナーレへ突入する。
 
『エイリアン』のドラマ化はハードルが高い。閉塞空間で襲いかかる生命体だけでは間が持たないからだ。ウェンディという魅力的なキャラクターを創造して‘エイリアン5種盛り’との「2本立て」とし、よりエンタメ性の高いエイリアン・ドラマにまとめ上げたホーリーの手腕には唸らされる。
“Alien: Earth”は、マンネリ気味のエイリアン・フランチャイズに新風を吹き込むスーパーエンタメ・Sci-Fiホラーなのだ!
 
原題:Alien: Earth
配信:Disney+
配信開始日:2025年8月13日~9月24日
話数:8(1話 46-66分)
 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第131回 “MURDERBOT”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第131回“MURDERBOT”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『マーダーボット』 本予告

 
『マーダーボット・ダイアリー』がドラマになった!
本作の原作は、筆者も愛読するマーサ・ウェルズの『マーダーボット・ダイアリー・シリーズ』。3大SF文学賞(ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞)に輝く人気シリーズだ。
 
“Murderbot”はApple TV+オリジナル、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
 
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”
—近未来の宇宙航行社会
警備ユニット(“SecUnit”)#238776431(アレクサンダー・スカルスガルド)は、有機組成と機械構造から成る、高い知能と戦闘能力を備えた再生品サイボーグだ。
強欲な企業リムに保有されている同機は、密かに自分の統制モジュールのハッキングに成功していた。行動制限を無効化したので、もう人間の命令に従う必要はない。
ふざけ半分に、同機は自分を「マーダーボット」(以下ボット)と名付けた。
 
だがこのことを企業リムに知られたら、スクラップにされてしまう。ボットは当面の間、人間に服従するふりをすることにした。
 
ボットの唯一の楽しみは、エンタメチャンネルでドラマを観ること。一番のお気に入りは、壮大なスペース・ソープオペラ『サンクチュアリームーンの盛衰』(“The Rise and Fall of Sanctuary Moon”)だ。
 
ボットの新たな任務は、ある惑星における調査隊の警備だった。彼らはヒッピー風の科学者グループで、ボットのような格安の再生品ユニットしか雇う余裕がなかったのだ。
 
人格者のリーダー、メンサー博士(ノーマ・ドゥメズウェニ)はテラフォーミング(地球惑星化)の専門家。グラシン博士(デヴィッド・ダストマルチャン)は、インターフェースを体内に埋め込んだ強化人間。他に4人の専門家を加えた計6人が調査隊のメンバーだ。
 
調査の初日、フィールドの地底から突如巨大生物が現れ、メンバー2人に襲いかかった。ボットは果敢に戦い、重傷を負いながらも何とか彼らを守り抜いた。
 
この事件のおかげで、ボットはメンバーからの信頼を得た。だが、カムコーダーを分析したグラシン博士は疑問を持つ。
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”—ショック状態に陥ったメンバーに、ボットはこう語りかけていた。警備ユニットにこのようなプログラミングは存在しない。
ボットはこのセリフを『サンクチュアリームーンの盛衰』から引用していた。
 
さらにボットには悩みがあった。再生前の断片的な記憶から判断するに、どうやら自分は以前大量殺人を犯したらしい。
 
チャーミングなボット役にハマったスカルスガルド!
ボット役のアレクサンダー・スカルスガルドは、スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドの息子。メガヒットしたヴァンパイアドラマ“True Blood”でブレークし、準主役のエリックを全7シーズン演じた。“Big Little Lies”(本ブログ第45回参照)では、キモ怖いDV夫を怪演してエミー賞&ゴールデングローブ賞を受賞。最近では、強烈な風刺コメディ“Succession”でIT企業のカルト的CEOを演じた。
スカルスガルドは、無機的だがチャーミングなボット役にみごとにハマった。
 
英国&南ア国籍のノーマ・ドゥメズウェニは舞台出身で、ローレンス・オリヴィエ賞を2度受賞している。アメリカン・ドラマでは、“Presumed Innocent”の判事役が記憶に残る。今回はボットの良き理解者となるメンサー博士を貫禄で演じた。
 
意地の悪いグラシン博士役のデヴィッド・ダストマルチャンは、リブート版“MacGyver”で宿敵マードックを演じた。来年配信予定の“One Piece”(本ブログ第107回参照)のシーズン2では、海賊の1人Mr.3に扮する。
 
劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』で、ホセイン船長をシリアスに演じて笑いをさらうジョン・チョーは韓国出身。大ヒットおバカ映画“Harold & Kumar”3部作(2004~、なぜか日本で未公開)のハロルド役で人気者となった。
 
センスが光る劇中劇のヴィジュアル化!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)はポール&クリスのワイツ兄弟。2人はスーパーヒットコメディ『アメリカン・パイ』(1999)、『アバウト・ア・ボーイ』(2002)を手掛け、後者ではアカデミー脚色賞にノミネートされた。兄のポールは高評価を得たミュージックドラマ“Mozart in the Jungle”を手掛け、クリスは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の共同脚本を担当している。
 
本作はシリーズ第1作『システムの危殆』(“All Systems Red”、2017/創元SF文庫『マーダーボット・ダイアリー上巻』に収録)がベース。全編がほぼ忠実に映像化されている。
最大の魅力はボットの愛すべきキャラに尽きる。タフで強面のシニカルなサイボーグは、ヘルメットを取ると気まずくて人間とアイコンタクトすらできない。
 
秀逸なのは劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』の大真面目なヴィジュアル化だ。ドラマならではのアイディアで、タイトルロゴやテーマソングまで揃えてある。このドラマはボットにとって人生ガイドと同時に、敵と戦う際の戦略書となっている。
中でも、パニック障害の発作を起こしたメンサー博士を落ち着かせるために、ボットがエピソードのひとつを再生して見せるシーンは爆笑ものだ。
通俗的でチープなドラマと、それを愛する冷笑的なボットとのギャップを狙った、ワイツ兄弟の鋭いセンスが光る。
 
ストーリーは、ボットと調査隊メンバーとのぎこちない交流、メンバーの抹殺を図る未知の敵との攻防、ボットの過去を巡る謎が絡みあって目が離せない。
フィギュアを使ったお茶目なオープニングクレジットは何回観ても楽しく、30分前後のエピソードはアッという間に終わってしまう。エンディングは予想外にハートウォーミングで切なくなる。
 
シーズン2の制作も決まった。“Murderbot”は、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
 
次回は話題の”Alien: Earth”を紹介する。同じSci-Fiドラマでも“Murderbot”とは対極にあり、見比べると面白いぞ!
 
原題:Murderbot
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年5月16日~7月11日
話数:10(1話 22-34分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(7月~9月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Chief of War”(『チーフ・オブ・ウォー』、Apple TV+)
『アクアマン』のジェイソン・モモア主演、ハワイの統治を巡って主要4王国が凄絶な戦いを繰り広げる実話ベースの活劇ドラマ!
 
●“The Girlfriend””(『ザ・ガールフレンド ~あなたが嫌い~』、Amazon Prime)
ロビン・ライト主演、息子を溺愛する常軌を逸した母親と、息子が恋に落ちたサイコパスのガールフレンドとの卑劣な騙し合いを描くセクシー・サイコスリラー!
 
●“Lioness”(『特殊作戦部隊:ライオネス』、U-NEXT)
ゾーイ・サルダナ主演、N・キッドマン&M・フリーマン共演、売れっ子クリエーターのテイラー・シェリダンが仕掛ける渾身のポリティカル軍事アクションのシーズン2!
 
●“Untamed”(『大地の傷跡』、Netflix)
ヨセミテ国立公園の雄大な大自然を背景に、公園局の特別捜査官(エリック・バナ)が女性の転落死の真相に迫っていく斬新なクライムドラマ!
 
●“Duster”(『DUSTER/ダスター』、U-NEXT)
‘70年代のアリゾナ州フェニックスを舞台に、犯罪組織の運び屋とFBI初の黒人女性捜査官が繰り広げる、カーアクション満載のレトロなクライムドラマ!
 
●“Pantheon”(『パンテオン:デジタルの神々』、Netflix)
SF短編の名手ケン・リュウ原作、シンギュラリティ(AIが人類を超える時点)が迫る近未来を舞台に、UI(“Uploaded Intelligence”)の台頭とそれに翻弄される人々を描く壮大なSci-Fiアニメ!
 
●“Ballard”(『バラード 未解決事件捜査班』、Amazon Prime)
マイクル・コナリー原作、マギー・Q主演、“Bosch”(本ブログ第20回参照)からのスピンオフで、シリアルキラーと腐敗警官グループを追うLAの刑事レネイ・バラードの活躍を描くクライムドラマ!
 
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第130回 “DOPE THIEF”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第130回“DOPE THIEF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
―鈴木純一さんのコラム『戦え!シネマッハ!!!!』連載終了に寄せて―
鈴木さんのコラムが6月で終了してしまいました。映画の「予告編」と「悪役」をテーマにした切り口は斬新で、毎回楽しみにしていたのでとても残念です。映画愛あふれる自筆のイラストも素敵でした。
また、最終回では私の米国駐在時代のコラム『テキサス映画通信:Houston, We have a problem!』にも触れていただき、ありがとうございます。熱量の高かった昔を思い出しました。
 
これからも、ともに映画ファンとしてあり続けましょう。
長い間の連載、お疲れさまでした!
 
では、今月のドラマなのだ。
 
予告編:『ドープ・シーフ』 本予告

 
不運な小悪党2人のバディ・クライムコメディ!
本作の原作はデニス・タフォヤの同名小説(未訳、2009)。“dope”には‛麻薬’と‛間抜け’の意味があるので、このイケてるタイトルは「麻薬強盗」と「間抜けな強盗」のダブルミーニングになっている。
 
“Dope Thief”はApple TV+オリジナルのリミテッド・シリーズ。不運な小悪党2人が、麻薬カルテルとDEA(麻薬取締局)に追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
 
“See, the key is preparation, right?”
―ペンシルベニア州フィラデルフィア
レイ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)とマニー(ワグネル・モウラ)は決して悪い人間ではない。だが若いころから悪事に染まっていて、強盗くらいしか稼ぐ手段を知らない。
 
2人のターゲットは、自宅でドラッグを精製しているティーンエイジャーだ。十分にリサーチをしてからDEAの捜査官になりすまし、キャッシュとブツを奪う。儲けは少ないが反撃されることも通報されることもない、安全で堅実なビジネスだ。蔓延するドラッグをコミュニティから取り除くという、彼らなりの言い訳も立つ。
 
レイの父親バート(ヴィング・レイムス)は、長い間ムショ暮らしをしている。レイを養子にして育ててくれたのは、バートの愛人テレサ(ケイト・マルグルー)だった。レイ自身にも前科があり、現在はアルコールとドラッグ依存症のリハビリ中だ。
レイは、テレサが医療費の請求書を山ほど抱えていることに気づく。問い詰めると、1万ドル必要だという。
 
マニーはブラジルからの移民で、レイとは幼なじみだ。信心深く、早く足を洗って恋人のシェリーと結婚したいが、先立つものがない。
 
2人はリスクを取って一獲千金を目指すことにした。レイの囚人仲間だったリックを誘い、郊外にあるメス(メタンフェタミン)の精製工場を襲撃する。だがハイになっていたリックが突然発砲して、銃撃戦になった。
レイは負傷し、リックと相手3人が死亡した。
 
パニくったレイとマニーは工場に火をつけて、大金の詰まった鞄とドラッグを奪って逃走する。
 
2人が襲ったのは、麻薬カルテルの工場だった。カルテルは直ぐにレイの正体を突き止め、手先のバイカーギャングを差し向けた。
 
追手はレイとマニーのみならず、彼らの家族、友人にも迫る。
一方、死んだと思われていたメスの製造者の一人、ミーナ(マリン・アイルランド)は命を取り留めていた。実は、彼女はDEAのおとり捜査官だった!
 
鉄板キャストの6人!
レイ役のブライアン・タイリー・ヘンリーは、大ヒットコメディ“Atlanta”で演じたラッパーの‛ペーパー・ボーイ’でブレークした(エミー賞助演男優賞にノミネート)。コメディアン顔だが芸幅は広く、高い演技力で演劇・ミュージカルもこなす才人だ。ジェニファー・ローレンスと共演した小品『その道の向こうに』(2022)では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
 
マニー役のブラジル人俳優ワグネル・モウラは、Netflixの“Narcos”で実在したコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを演じて、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。“Shining Girls” (本ブログ第95回参照)では、イメチェンして準主演の新聞記者役を好演。滋味のあるいいアクターだ。
 
主演2人の相性の良さは抜群で、喧嘩しながらも一層強まっていくレイとマニーの友情には胸を打たれる。
 
テレサ役のケイト・マルグルーの代表作はもちろん“Star Trek: Voyager”で、艦長キャスリン・ジェインウェイを全7シーズン演じた。刑務所ドラメディ“Orange Is the New Black”(本ブログ第4回参照)では巨漢のロシア人レッドを怪演、トレッキー(熱狂的Star Trekファン)たちの度肝を抜いた。
 
レイの父親バートを演じたヴィング・レイムスは、『ミッション:インポッシブル』シリーズのルーサー役で日本でも顔なじみだ。
 
ミーナ役のマリン・アイルランドは、“Sneaky Pete”(本ブログ第31回参照)でタフな保釈金立替業者ジュリア・ボウマンを演じて強烈な印象を残した。この人、‛凛とした姉御’を演らせたら天下一品だ。
 
渋い存在感を見せたのが、レイの信頼する麻薬バイヤーのサン・ファムを演じたダスティン・グエンだ。ベトナム出身のグエンはジョニー・デップと共演した“21 Jump Street”(1987年のドラマ版)がメジャーデビュー。武術家でもあり、怒涛のカンフードラマ“Warrior”でもいい味を出していた。
 
この6人はまさに適材適所、互いに強いケミストリーが働き鉄板のアンサンブルキャストとなった。
 
三つ巴の“cat-and-mouse”ゲーム!!!
ショーランナーのピーター・クレイグは、珍しく作家から脚本家への転身組だ(逆のコースはよく聞くが)。『ザ・タウン』『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション/レジスタンス』『バッドボーイズ フォー・ライフ』『THE BATMAN -ザ・バットマン-』『トップガン マーヴェリック』『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』など、共同脚本家としてそうそうたる娯楽大作を手掛けてきた。
 
本作はクレイグにとって初のTVドラマ制作で、最終話の監督と全エピソードの脚本も担当した。また、製作総指揮に名を連ねるリドリー・スコットが、パイロット(第1話)の監督を務めている。
 
特に印象的なのは、クレイグのバランス感覚の良さだ。コメディ、ヒューマンドラマ、クライムドラマを絶妙なさじ加減でブレンドしているのだ。また、バディドラマでありながら、あえてレイに重きを置いたことでキャラに厚みが生まれ、ストーリーに深みが加わった。
 
前半はコメディタッチのシーンが多く、手に負えなくなる状況に右往左往するレイとマニーが笑わせる。中盤ではコメディとクライムドラマのオン/オフが見事に決まる。後半になると笑いは影を潜め、ピュアなクライムドラマへとシフトしていく。ラスト3話の緊迫感は圧巻で、レイとマニー、麻薬カルテル、DEAによる息をのむ三つ巴の“cat-and-mouse”ゲームが活写される。そして、ツイストの利いたエンディングが鮮やかに決まる。
 
“Dope Thief”はApple TV+の隠し玉。不運な小悪党2人が追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
 
原題:Dope Thief
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年3月14日~4月25日
話数:8(1話 43-53分)
 
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第129回 “Matlock”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第129回“Matlock”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:予告編:『マトロック』 本予告

 
名優キャシー・ベイツの最新作は渾身のヒューマン・リーガルドラマ!
先月77歳になったキャシー・ベイツの最新作は、往年の同名ドラマのユニークなリブート。
“Matlock”は民放大手のCBSが制作しParamount+が配信する、優しくてスリリングでウィットに富んだヒューマン・リーガルドラマなのだ!
 
“I’m Madeline Matlock, I’m a lawyer like the old TV show!”
―マンハッタン、ニューヨーク市
おたおたした様子の老婦人が、5番街の法律事務所ジェイコブソン・ムーアの正面入口へ入っていく。彼女は従業員の助けを借りてゲートを通過すると、エレベーターで21階まで上がった。一転して、わが物顔でミーティングルームへ入る。打ち合わせ中だった幹部たちは、珍客の登場にあっけにとられている。
 
マデリン・“マティ”・マトロックと名乗るその女性(キャシー・ベイツ)は75歳で、30年以上前に引退した弁護士だった。一人娘を失い、浮気性の夫はギャンブルの借金を残して死んだ。マティは12歳の孫と安アパートで暮らし、借金を返すために仕事が必要だ。高額のサラリーを払うこの名門法律事務所の採用面接に応募したが無視されたので、直接出向いてきたという。
 
鼻で笑う精鋭の弁護士たちを尻目に、マティはマネージングパートナーのハワード・マークストン(ボー・ブリッジス)に驚くべき情報を提供する。ジェイコブソン・ムーアが訴訟中の大手医薬品会社が、和解金の上限を2300万ドルに設定したというのだ。ハワードたちは、落としどころを1900万ドルと踏んでいた。
 
一瞬で4百万ドルの収益をもたらしたマティは、見習いアソシエイトとして雇われた。気性の激しいジュニアパートナーのオリンピア(スカイ・P・マーシャル)が、抵抗虚しくこのお婆さん弁護士のお守り役に指名された。2人のアソシエイト、陽気で人柄のいいビリー(デヴィッド・デル・リオ)と冷たい野心家のサラ(リア・ルイス)が、チーム・オリンピアのメンバーだ。
 
マティの初仕事は、冤罪で26年間投獄されていた男の賠償交渉だった。運よく彼女の経験と機転によって、事務所はNY市から巨額の賠償金を勝ち取った。
 
だが、実はマティの本名はマトロックではない。
彼女は郊外の大邸宅に住む資産家だ。
そして、自らに課した困難なミッションがあった。
 
“Kathy, the show must go on!”
キャシー・ベイツのレジュメは恐ろしく長いが、代表作はスティーヴン・キング原作の『ミザリー』(1990)だろう。彼女はジェームズ・カーンを極限まで拷問して世界中の男を戦慄させただけでは物足りず、同作でアカデミー賞&ゴールデングローブ賞の主演女優賞までさらってしまった。その後もゴールデングローブ賞を1回、エミー賞を2回受賞している。
 
本作では、円熟の演技と圧倒的な存在感でマティに命を吹き込み、ベイツの俳優人生の集大成となった。引退の噂もあったが、本役でもゴールデングローブ賞にノミネートされ、シーズン2の制作も決まった。もうしばらくマティを演じ続けてくれそうだ。
 
オリンピア役のスカイ・P・マーシャルは、ちょっと残念な医療ドラマ“Good Sam”で準主役の医師レックスを演じていた。過去の作品リストを眺める限り、本役で初めて出演作に恵まれたのでないか。
 
ビリー役のデヴィッド・デル・リオとサラ役のリア・ルイスは、黒子に徹してベイツを引き立てながらも、自己PRもできている。
 
ハワード・マークストンを演じたボー・ブリッジスは、ミシェル・ファイファー&弟のジェフと共演した『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(1989)が懐かしい。本作では、ベイツが浮かないように大物アクターとして作品のバランスを保っている。
 
お気に入りのスナックのようにクセになる!
ショーランナー(兼共同脚本)のジェニー・スナイダー・アーマンは、5シーズン続いたThe CWの大ヒットコメディ“Jane the Virgin”の生みの親だ。
 
オリジナル版は、アンディ・グリフィス主演で´86年から9シーズン続いたNBC/ABC制作の正統派リーガルドラマ。ただし本作は、“The Equalizer”や“Kung Fu”のように、主役を女性に置き換えて今風に焼き直したリブートではない。マティは「マトロック」という偽名を、娘の好きだったテレビドラマから思いついただけ。つまり、オリジナルをリスペクトしながらも、彼女の職業が弁護士という点を除けば共通点はない。こんなリブート、聞いたことがない。
 
生き馬の目を抜くNYの訴訟社会では、幹部以外の高齢弁護士は数少なく軽視される。それがマティにとって最大の武器となる。
 
彼女は時代遅れで頼りなく見えるが、訴訟をこなすにつれて全盛時代の鋭さを取り戻していく。だが当時のように非情になり切れない。マティは年齢を重ねたことで、ときとして事務所の勝利至上主義に反感を覚え、感情に流されて敵方に同情してしまう。このキャラクターアーク(人物の成長・変化の軌跡)が彼女の魅力を一層際立たせている。
 
法廷戦略はオリンピアが立案する。情弱なマティを調査能力にたけたサラがフォローし、ビリーがチームの緩衝材となる。4人の間には次第に信頼と絆が育まれ、チーム・オリンピアは強固になっていく。
 
本作は、基本的には民放の王道である1話完結の勧善懲悪型法廷ドラマだ。とにかくパイロット(第1話)の冒頭6分間が秀逸の出来で、視聴者の心をつかんで離さない。
そして、後半になるとマティの極秘ミッションはサイドストーリーからメインストーリーへと転換し、二転三転しながら加速度的に緊迫感が高まる。
 
各エピソードは程よいツイスト、適度なヒューマンタッチ、絶妙のユーモアがブレンドされていて、お気に入りのスナックのようにクセになる。
“Matlock”は優しくてスリリングでウィットに富んだヒューマン・リーガルドラマなのだ!
 
原題:Matlock
配信:Paramount+(Amazon Prime、WOWOWオンデマンド、J:COM STREAM経由)
配信開始日:2025年4月18日~6月20日
話数:19(1話 41-43分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第128回 “The Studio”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第128回“The Studio”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『ザ・スタジオ』 本予告

 
ハリウッドを笑い飛ばすゴージャスな爆笑コメディ!
本作は、怖いもの知らずのセス・ローゲンが、映画制作の舞台裏を暴きながらハリウッドを笑い飛ばす、映画好きには垂涎の一作。
“The Studio”はApple TV+オリジナル、豪華ゲスト満載、レトロ感漂うゴージャスな爆笑コメディなのだ!
 
マーティン・スコセッシを裏切った男!
—ハリウッド、ロサンゼルス
マット・レミック(セス・ローゲン)は、「映画の神殿」と呼ばれるコンチネンタル・スタジオの幹部。独身で勤続22年のワーカホリック、優柔不断でかなりウザい男だ。今やハリウッドでは少数派となったアートフォームとしての映画の信奉者でもある。
 
マットが待ち望んでいた昇格のチャンスが、突然降って湧いた。コンチネンタル・グループの新CEOグリフィン・ミル(ブライアン・クランストン)が、大コケ作品を連発するスタジオ代表のパティ・リー(キャサリン・オハラ)をクビにしたのだ。
 
グリフィンはマットを新たなスタジオ代表に選んだ。ただし条件が2つ。芸術系作品は扱わず、利益至上主義に徹すること。次作として、飲料メーカーのアニメキャラ「クールエイドマン」を主人公にした大作を作ること。つまり、“film”ではなく“movie”を作れということだ。マットは不本意ながら同意するしかなかった。
 
「クールエイドマン」の監督を求めて、マットは敬愛するマーティン・スコセッシ(本人)と会う。折しもこのレジェンド監督は、「ジョーンズタウンの集団自殺」をテーマとした脚本を書きあげていた。カルト教団の実話で、多くの信者が毒入りクールエイドを飲んで自殺した事件だ。
マットは舞い上がった。これを「クールエイドマン」として制作すれば、オスカーとブロックバスターを同時に狙えるではないか。マットはその場でスコセッシから脚本を買い取り、巨額の予算を約束してしまう。
 
グリフィンは激怒した。なぜ大手スポンサーの製品を辱める映画を作る? ビビったマットは、それはクールエイドを守るための戦略で、スコセッシの企画を事前に闇に葬ったのだと説明する。
 
グリフィンは一転してマットの先見の明を褒めたたえた。
 
シャーリーズ・セロン(本人)のパーティーで悪い知らせを聞いたスコセッシは、彼女の胸で泣いた。
 
間違いなくセス・ローゲンの代表作!
カナダ生まれのセス・ローゲンはスタンダップ・コメディアン出身。2000年代のコメディシーンを席巻したジャド・アパトーに見いだされ、『40歳の童貞男』(2005)、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007、共同脚本)、『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(2007、この邦題は何とかしてよ)などに出演した。クリエーター、製作総指揮、監督、脚本、主演の5役を務めた本作は、間違いなく彼の代表作となった。
 
マットの前任者パティ・リー役のキャサリン・オハラもカナダ出身のベテランアクターだ。大ヒットコメディ“Schitt’s Creek”のモイラ役で、2020年度のエミー賞、ゴールデングローブ賞、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)で主演女優賞の3冠に輝いた。最近では、“The Last of Us”(本ブログ第101回参照)のシーズン2で主人公ジョエルのセラピストを演じた。
 
制作部副社長でマットの親友サルを演じたアイク・バリンホルツは、2000年代にヒットしたカルト的スケッチコメディ“MADtv”で主演とライターを務めた。本作では、ゴールデングローブ賞授賞式で突如スポットを当てられバズってしまうシーンで笑いを独り占めする。
 
気性の激しいマーケッティング責任者マヤ役のキャスリン・ハーンは、MCU(“Marvel Cinematic Universe”)の“WondaVision”とそのスピンオフ“Agatha All Along”で、スーパー魔女アガサ・ハークネスを演じている。
 
新CEOのグリフィン・ミルを演じたブライアン・クランストンは、言わずと知れた“Breaking Bad”のウォルター・ホワイト。コメディ畑出身で、最後の2エピソードでは抱腹絶倒の演技を見せてくれる。
 
結局は映画愛を謳うドラマだった!
クリエーターはセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグ(他3人)で、このペアは全話の監督と一部脚本も担当している。“Invincible”(本ブログ第83回参照)、“The Boys”(本ブログ第63回参照)とそのスピンオフなど多くの映画・ドラマを手掛けてきた。
 
レトロ感が漂う画面に、ロングテイク(長回し)を多用した撮影が見事にマッチしている。うっとおしいマットがトラブルを解決しようと右往左往するたびに、ハリウッドの内情が面白おかしく暴露される仕掛けだ。
 
各エピソードにも趣向が凝らしてあり、冒険アクション、アート風LGBT作品、ノワール、ホラーコメディなどあらゆるジャンルの映画製作、さらにゴールデングローブ賞やCinemaConの様子も楽しめる。中でも、マットたちがロン・ハワードの新作の退屈な個所を何とかカットしようと奮闘する第3話、アイス・キューブを中心に多様性を満たすキャスティングを考え過ぎて迷宮にはまる第7話には爆笑させられる。
 
スコセッシに始まり、シャーリーズ・セロン、スティーヴ・ブシェミ、ロン・ハワード、アンソニー・マッキー、アイス・キューブ、オリビア・ワイルド、ザック・エフロン、ジョニー・ノックスヴィル、アダム・スコット、ゾーイ・クラヴィッツ、テッド・サランドス(Netflixの共同CEO)など、多彩なゲストを集めるセス・ローゲンの人脈に驚かされる。本人役で登場するこれらセレブたちは、豪華なだけでなくリアリティを高めている。
 
本作を’風刺コメディ’と形容するのは誤りだ。Netflixの会員数が世界で3億人を超え、AmazonがMGMを所有するいま、オールドファッションな映画スタジオは存続の危機にある。マット・レミックの言動は馬鹿げているが、そこにシニカルな響きはない。あるのは、誰よりも劇場で映画を観るのが好きな男の悲痛な叫びだ。
 
シーズン2の制作も決まった。“The Studio”は、ハリウッドを笑い飛ばしながらも実は映画愛を高らかに謳うドラマだった!
 
原題:The Studio
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年3月26日~5月21日
話数:10(1話 23-44分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(4月~6月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Blue Bloods”(『ブルーブラッド ~NYPD家族の絆~』、Hulu Japan)
トム・セレック&ドニー・ウォルバーグ主演、“Hill Street Blues”、“NYPD Blue”と並ぶ警察ドラマの金字塔の堂々たるファイナルシーズン(S14)!
 
●“Mid-Century Modern”(『ミッドセンチュリーモダン』、Disney+)
マット・ボマー&ネイサン・レイン&ネイサン・リー・グレアム主演、ボマーのコメディセンスが光る、ゲイの親友3人が織りなすチャーミングなシットコム!
 
●“NCIS: Origins”(『NCIS:オリジンズ』、Paramount+)
“NCIS”フランチャイズのスピンオフ第6弾は、マーク・ハーモンが演じた特別捜査官リロイ・ジェスロ・ギブスの若き日々を描くオリジナルシリーズの前日譚!
 
●“Forever”(『君との永遠』、Netflix)
幼なじみだったティーンエイジャー2人が再会し、恋に落ち、すれ違いとケンカを通して愛を育んでいく、とびきりキュートでビターなラブストーリー!
 
●“Daredevil: Born Again”(『デアデビル:ボーン・アゲイン』、Disney+)
主人公は盲目の弁護士、MCU史上最もバイオレントで最も面白い、7年ぶりに復活したダーク・スーパーヒーロー・ドラマのシーズン4!
 
●“Motorheads”(『モーターヘッズ』、Amazon Prime Video)
これは今年のダークホース!田舎町を舞台に大人たちのノスタルジアとティーンエイジャーたちの恋、友情、ストリートカーレースを描く、車好きにはたまらないクールな青春ドラマ!
 
●“Number One on the Call Sheet”(『Number One on the Call Sheet』、Apple TV+)
ドウェイン・ジョンソン、W・スミス、W・ゴールドバーグ、H・ベリーなど、世界的な人気の黒人アクターのインタビューを通じて、ハリウッドに根強く残る人種の壁を映し出す渾身のドキュメンタリー!
 
●“Super/Man The Christopher Reeve Story”(『スーパーマン/クリストファー・リーヴの生涯』、U-NEXT)
1995年に落馬事故で四肢麻痺になり、その後に真のスーパーヒーローとなったC・リーヴとその家族を描く、DC/HBO/CNNコラボによる感動のドキュメンタリー!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。