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明けの明星が輝く空に 第194回:『ウルトラマンF』

今年の1月、仮面ライダーシリーズ初の女性主人公が登場する作品、『仮面ライダーアインズ』の配信が始まった。ならば、ウルトラシリーズも女性が主役の作品がそろそろ出てもいいのではないか?これについては先日、ウルトラシリーズ最初期の2作品に出演した桜井浩子さんに、ご意見を伺う機会(白石雅彦著『「ウルトラQ」の誕生』と『「ウルトラマン」の飛翔』の増補版刊行を記念したトークショー)があった。その際、実写化の候補になるかもしれないとして桜井さんが名前を挙げたのが、小説『ウルトラマンF』だった。

ホラー小説作家として知られる小林泰三氏が書いた『ウルトラマンF』。僕は数年前に読んでいたのだが、正直な話、物語としてどこか消化不良な印象を受けた。ただ、10回以上の連載を想定した内容だった話を、4回分に縮小しなければならなかったという事情があったそうだから、物足りなかったのはそのせいなのだろう。

テレビ番組『ウルトラマン』の後日譚にあたる『ウルトラマンF』には、番組の主要キャラクターたちが登場する。今作品でウルトラマンになるのは、科学特捜隊の唯一の女性隊員、富士明子(『ウルトラマン』での表記はフジ・アキコ)だ。彼女は、『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」で宇宙人によって巨大化させられた過去があるが、今回は巨大化は特殊なナノロボットの仕業だったという設定が加えられた。そして、ある事故が起きてナノロボットが発動。富士隊員は巨大化してしまう。事故が発生したのが科特隊の施設内だった上、巨大化の程度も抑えめだったため、外部に知られずに済んだが、その後の作戦行動中に再び巨大化。その事実は、すでに巨人兵士計画を進めていた、ある国連関係者の知るところとなり、結果として富士隊員はその計画に協力することとなる。

しかし巨大化しても、富士隊員の身体は人間のままだ。ウルトラマンではない。ただ、彼女は特別に開発された巨人兵士用のアーマーを装着しており、それにはどんなエネルギーでも吸収し成長する宇宙生物バルンガの能力が取り込まれていた。そのおかげで、“悪のウルトラマン”、ダークザギの破壊光線を浴びてしまった富士隊員だったが、特殊アーマーと細胞内のナノロボットとの相互作用により、肉体がウルトラマンへと変貌する。

実を言うと、宇宙生物バルンガはウルトラシリーズ第一作、『ウルトラQ』の登場怪獣だ。『ウルトラマンF』には、このほかにもシリーズ各作品の“ネタ”が効果的に織り込まれている。例をもうひとつ挙げると、富士隊員と江戸川由利子が双子の姉妹であるという設定。江戸川由利子は『ウルトラQ』の主人公の一人で、両人物とも同じ俳優=桜井浩子さんが演じていたのだが、小説終盤、双子という設定が生きてくる。富士隊員が人間の姿に戻るための細胞の再構成に、由利子のゲノムが利用されるのだ。

この小説を原作にして、映像作品を作るとしたらどうだろうか?素人なりに想像してみよう。もし映画化するなら、ダークザギらを倒す小説中盤の第3章までが良さそうだ。その理由は、敵の“ラスボス”感が強く、交戦中、偶然にも富士隊員がウルトラマンへと変貌を遂げて敵を倒すという、まさにクライマックスにふさわしい展開だからだ。その後、それぞれ新たな敵が現れる第4章と第5章は、続編という形で分けた方がいいだろう。ただし、敵が小ぶりになった印象がある上、富士隊員の内面の描写が少ない点は気になる。彼女はウルトラマンになろうと思っていたわけではない。結果として通常の人間ではなくなってしまった彼女がどう感じ、何を思うかといったことが、もっと語られるべきではないかと思う。

映像化に際しては、ネックになりそうな問題もある。それは、アーマーが開発される以前の、肉体が巨大化しただけの富士隊員の姿をどう見せるかということだ。小説ではぼかしているが、どうやら裸身のようなのだ。昔から、巨大ヒーローに変身した主人公の服はどうなるのかという問題を、僕ら視聴者は意識の外に追いやってきた。普通に考えれば、ビリビリに破けてしまうだろう。このことを念頭に置いた発言ではなかったが、桜井さんはAIによるフェイク画像の蔓延という近頃の風潮を懸念されていた。ましてや、裸となると…。

もちろん、女性登場人物の描き方で注意が必要なのは、映像の面だけではない。たとえば、富士隊員が理性より感情を優先させたかのように思える行動を取る場面があるが、これは固定化した古い発想の表れだと指摘できるのかもしれない。しかし、全般的に見れば、容姿についての言及がほぼないことや、愛を行動原理にしていないことなどは、男目線からの型にはまった作劇とは一線を画しており、評価されるべきだろう。

小林泰三氏は本作のあとがきで、面白いことを言っている。『ウルトラマン』のファンは怪獣派、ウルトラマン派、そして巨大フジ隊員派(!)に分類できるというのだ。小林氏本人は、もちろん巨大フジ隊員派。そんな派閥があることは初めて知ったが、サブカルチャー界隈では「巨大娘」に萌える人もいるらしい。そう言えば僕も、どちらかといえば背が高いアイドルが好きだった。巨大娘萌え…。もしかしたら、素養があるのかもしれない。

参考:過去記事

第127回:ウルトラ名作探訪3:「バルンガ」

第143回:ウルトラ名作探訪11「禁じられた言葉」

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。

【最近の私】窓の外にバードフィーダーを吊ってひまわりの種やミカンを置いたら、シジュウカラやメジロが来るようになりました。でもこれも、自然のエサが少なくなる冬の間だけ。小鳥のレストランも、もうじき店仕舞いです。

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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.99 ポン・デ・リングみたいな果物!?

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先日、パートナーの親戚が、南部の方から海の幸を沢山持ってきたというので、バーベキューにお呼ばれしました。こんがり焼かれた沢山の蟹や海老、いか、貝などのいい香りが庭中に行き渡り、お腹もそれに応えるように準備万端。お皿に山ほどの魚介類があり、日本だったらおいくらする!?というほどのご馳走っぷり。北部料理には海の幸がないため、久しぶりの魚介類をみんなで堪能しました。

そんな食後にご親戚の一人から「ヨーコ、マカムテー知ってる?」と聞かれました。マカムはタイ語で、いわゆるタマリンド(タイのフルーツ)のこと。我が家にも2本マカムの木があるので、「あ、うちにもあるよ!」と得意げに言ったのですが、みんな疑いの目。「マカムテーだよ!?」そして見せてくれたのが、きれいな黄緑とマゼンタピンクの、グルンと丸まったポン・デ・リング(ミスタードーナツの定番商品ポン・デ・リング)のような形のフルーツ。確かに我が家のマカムは茶色くて長い実で地味。さっそく、その柔らかい黄緑の皮を剥くと、ピンクがかった白い実が。サクサク&スカスカした食感でほんのり甘いかなあ!?我が家の茶色くねっとりしたマカム(タマリンド)とは全く別物。名前は一部一緒でも予想外の果物でした。マカムは日本のスーパーでも売っているくらいだいぶメジャーになって来ましたが、このマカムテーは傷みが早いのでなかなかお目にかかれないようです。まだまだ知らない食べ物があるなあ、国内食の旅にいつか行くのもいいなあと思った一コマでした。

まるでポン・デ・リングのようなマカムテー
先日公園に行ったら、珍しくこんな形のヤシの木が。

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Written  by 馬場容子(ばば・ようこ)

東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
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明けの明星が輝く空に 第193回 特撮キャラも見た目が9割!

誤解を恐れずに言おう。僕はルッキズムに支配されている!応援したくなるスポーツ選手は、だいたいイケメン・イケジョ。趣味のロードバイクを購入する際には、9割は見た目で選んだし、スマホも色と形が購入の決め手になった。

当然、僕のそういった嗜好は、特撮キャラクターにも及ぶ。先月の記事で取り上げたホースオルフェノクは、騎士のような外見に一目惚れした怪人だ。仮に僕がコスプレーヤーだったとしたら、迷わずそのコスチュームを選び、コスプレ会場に乗り込むことだろう。

物心ついたころから、僕にとって至高の特撮ヒーローはウルトラセブン(『ウルトラセブン』1967年~68年)だった。それは、悲劇性をはらんだ彼の活躍が胸に刺さったからだが、見た目の要素も小さくなかったことも事実だ。ホースオルフェノク同様、特撮史上、一二を争うイケメンではないかと思う。特徴的なのは、横長の六角形をした目だ。ウルトラマンの卵形の目とは対照的に、シャープな輪郭線を持つ目。前寄りの位置に小さな黒目(撮影用マスクに明けられた覗き穴)があり、そこから何本もの筋が放射状に、黄色に彩色された周縁部に向かって伸びる。一説によると、ウルトラセブンをデザインした芸術家の成田亨氏は、イギリスの彫刻作家、バーバラ・ヘップワースの影響を受けているという。ヘップワースの作品の中には、空洞に弦を張ったものがあり、成田氏ほかの作品には、それを取り入れたものがあるという。ウルトラセブンの目も、同じことが言えるのかもしれない。しかしその目にある筋は、見ようによっては一つの天体から四方に向かって伸びる光跡のようでもある。成田氏のデザイン画を見たとき、僕は直感的に宇宙を表現したものと感じた。

シャープな線で構成されているのは、目だけではない。銀色に輝くメタリックな頭部全体に、同じ特徴が見られる。特に人間の唇や顎をデフォルメしてデザインされた口元は、まるで彫刻刀で彫られかのようだ。さらに頭頂部の、西洋の騎士のヘルメットにあるようなとさか状の装飾。類似するデザインは、ウルトラセブンより先に、漫画(のちにアニメ化もされた)『鉄人28号』の主人公ロボットにも見られた。ただ、ウルトラセブンが独創的なのは、それが取り外し可能な武器で、ブーメランや小刀のような使い方ができたことだ。切れ味鋭い刃の部分は、当然ながら非常に鋭角的でシャープな形状をしている。

僕にとって外見が大事なのは、ヒーローだけでない。怪獣も同じだ。みなさんは、ゴジラの顔つきが作品ごとに違うことをご存じだろうか。新たに着ぐるみを作り直すため、微妙に変わってしまうのだ。また、シリーズが進んでいくうちに、目がクリッとして愛嬌を感じさせるような顔になったのは、ゴジラが人類の味方という設定に変わったからだった。その後、原点に戻って再び人類に災厄をもたらす存在となると、ゴジラは一様に凶暴な目つきになる。そんな中でもイイなあと思うのは、『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999年)のゴジラだ。目つきは鋭いが、黒目が大きいせいか邪悪さは感じられない。むしろ、勝負に挑むアスリートのように、邪心のないまっすぐな目をしている。そして頭は小さく、長めの口吻は先が鋭角的で、歴代ゴジラの中でもスピーディーに動けそうな雰囲気がある。そして、各パーツのバランスが良く、非常に整った顔立ちのゴジラだと感じる。(その分、怪獣としての面白みには欠けるかもしれない。たとえば、着ぐるみの造形が粗雑な印象でアンバランスな印象がぬぐえない『ゴジラの逆襲』(1955年)の“逆ゴジ”や、極端に小さい目が、どこを見ているかわからない『シン・ゴジラ』(2016年)の“シンゴジ”には、尋常のモノにはない気味悪さと迫力があった。)

ただし、僕がいちばん好きなゴジラはほかにいる。それは、一般的な意味でのイケメンとは違うかもしれない。というのも、顔を腫らしたボクサーのような顔つきをしているからだ。そのゴジラとは、『モスラ対ゴジラ』(1964年)に登場した“モスゴジ”。顔が腫れているように見えるのは、眉骨付近の肉が厚ぼったく、頬の肉が垂れ気味なせいだが、強い眼光を放ち、何発パンチを浴びても戦意を失わない猛者といった雰囲気がある。さらに気に入っているのが、無理に怖そうな表情を作っていないところだ。最近のハリウッド版ゴジラは、取ってつけたようなしかめ面をしており、僕にはこけおどしのようにしか見えない。モスゴジはそれに比べれば無表情で、それがかえって凄みを感じさせる。余談になるが、以前、若貴兄弟の“お兄ちゃん”こと若乃花関の、現役時代の写真を見て背筋がブルッとしたのを覚えている。それは、取り組み前の仕切りの写真だった。無表情ながら、その目からは戦いに集中していることが伝わってきて、なんとも恐かった。あれが殺気というものだろうか。

最後に、僕が好きな特撮キャラはイケメンだけではない、ということを付け加えておこう。たとえば、『人造人間キカイダー』(1972年~1973年)の悪役ロボット、ハカイダー。頭に透明なヘルメット/笠のようなものを被り、移植された科学者の脳が透けて見えているという奇妙なデザインなのだが、卑怯な手を嫌い、実力で勝とうとする姿が魅力的だった。反対に、たとえばウルトラセブンの中身が“ダメンズ”だったら、いくら外見は良くても好きにはならなかったろう。つまり、見た目が9割、だけど残りの1割も大事、ということだ。(最後の最後で記事の主旨からずれてしまった気もするが、結論としてはきれいに収まった・・・、かな?)

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。

【最近の私】ウルトラシリーズ最初期のヒロインを演じた、桜井浩子さん登壇のトークショーに行って来ました。最後の質問タイムで、女性が主人公の作品が今後生まれる可能性について尋ねたところ、なるほどそういうことにも気を配る必要があるのかと気がつかされ、勉強になりました。

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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.98 新年です!自分のお寺にGO!

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タイ北部では、一部のお寺が、干支の仏像を守り本尊としています。そして自分の生まれた年の干支のお寺に、一生に一度行くと幸運に恵まれるという言い伝えがあります。タイ人の友人に連れられ、私も20年前にチェンマイ県のお隣のランプーン県にある酉年のお寺に行きました。お寺には酉の置物がたくさん飾られていたのを覚えています。友人の話に触発され、私も!と早速お正月ドライブへ。運よく酉年のお寺は我が家から比較的近くちょうどいい距離。20年前の印象とは違い、観光客も増えていて、きれいに飾り付けされていました。多くの参拝客とともに仏塔の周りを周り、無事新年のお参りができました。元旦にタイの餅米をついたお餅でお雑煮を、そして人生の節目に自分の干支のお寺に行くなんて、日本とタイの混合文化行事という感じでいいもんだなあ…と青空に映える仏塔を眺め一年のいいスタートを切ったのでした。

タイの北部に訪れる際は、ぜひご自分の干支のお寺に行ってみてくださいね。

青空にそびえ立つ酉年のお寺の仏塔
酉の置物があちらこちらにたくさん!
たくさんの観光客で賑わっていました。
仏像
お参り後に可愛いカフェを見つけて一休み

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Written  by 馬場容子(ばば・ようこ)

東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
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明けの明星が輝く空に 第192回 干支と特撮:ウマ

去る12月某日、不要品処分のため、リユースショップに行った時のこと。査定の間、店内をぶらついていて、ウマがモチーフの怪人、ホースオルフェノクのフィギュアを見つけた。もちろん“即買い”した。今回の記事の参考資料として・・・というより、その姿に惚れ込んでいたからだ。
※写真は本人所有のフィギュアを撮影

平成仮面ライダーシリーズ(2000年1月~2019年8月までの20作品)には、ユニコーンなどを含むウマ系の怪人が数体いる。ホースオルフェノクは2003年~2004年放送の『仮面ライダー555(ファイズ」)』に登場。甲冑をまとった、西洋の騎士のような出で立ちは、「怪人」という言葉が似合わないほど雄々しく凜としており、どこかの古城に飾っても違和感がないかもしれない。ライダーシリーズ、いや、あらゆる特撮作品の全ての怪人の中で、その魅力的な容姿は群を抜いている。

まず目につくのは、その落ち着いたカラーリング。特撮ヒーローや怪人は、子どもを対象にしたビジネス=キャラクター商品販売の都合上、カラフルなものが多いが、ホースオルフェノクはグレーのモノトーンだ。『仮面ライダー555』の設定では、「怪人=人類の進化形態として蘇った死者」という設定があり、「死」のイメージを喚起する色としてグレーが選ばれたのだが、これがホースオルフェノクの騎士のような甲冑姿と相まって、重厚感を生んでいる。

もちろん、派手な色使いがさまになる場合もある。たとえば『仮面ライダーキバ』(2008年~2009年)には、ステンドグラスをデザインコンセプトに取り入れた怪人たち=ファンガイアが登場。黒がベースカラーの身体に、鮮やかな色が散りばめられ、ちょっとしたアート作品のようだ。ウマ系の怪人で言えば、『仮面ライダーオーズ/OOO』(2010年~2011年)に登場するユニコーンヤミーは、ビジュアル系バンドのような、衝撃的な色彩が目を引く。薄い紫色の身体に、金色の角と銀色の顔。身体にも金色や銀色などを配し、ウェーブのかかった長いたてがみは赤紫色だ。

ファンガイアとユニコーンヤミー、そして僕の“推し怪人”であるホースオルフェノクも、同じデザイナー=篠原保氏が手がけた作品だ。ウマというのは鼻梁が長く、頭部が大きくなりがちなモチーフだが、ユニコーンヤミーとホースオルフェノクの場合、小顔でスタイリッシュなデザインにうまく落とし込んでいる。ただ、両者は首の長さが対照的だ。

ユニコーンヤミーの首にはヒトに似た顔があり、二つの顔が縦に並んでいるため、当然首は長くなる。長い首にもう一つの顔がある、と言った方がわかりやすいだろうか。顔が二つあるのは、ヤミーと呼ばれる怪人たちに共通した特徴だ。彼らが登場する『仮面ライダーオーズ/OOO』は、出渕裕氏――第189回『干支と特撮:ヘビ』(https://www.jvta.net/co/akenomyojo180/)で紹介したキャラクターデザイナー――がメインデザイナーを務めており、どうやら「二つの顔」は篠原氏のアイディアではなさそうだ。ただ、篠原氏はその7年前、『仮面ライダー555』のキャラクターデザインを単独で担当した際、同じコンセプトのデザインも考案していた。その一例が、ホースオルフェノクだ。

ホースオルフェノクの二つの顔は、ユニコーンヤミーのように、それぞれ独立したものとして存在しているわけではない。むしろ、二つが融合して一つになっているかのようだ。どういうことかというと、ウマの顔が仮面のようにもう一つの顔の前にあり、その重なり具合が絶妙なため、まるで一つの顔のように見えるのだ。この記事冒頭で、ホースオルフェノクの姿を「全身甲冑に覆われた、西洋の騎士」にたとえた。その頭部は、ローマ兵かギリシャ兵が着用したヘルメットをかぶっているように見える。特にその前面は、鼻を守るノーズガードが特徴的な、古代ギリシャのコリント式ヘルメットをモチーフにしたかのようなデザインだ。コリント式ヘルメットには、顔の側面を守る頬当てもあるため、兵士の顔で露出する部位は目のあたりと口元に限定される。ホースオルフェノクの場合は、額のあたりにウマの顔があり、その鼻梁がノーズガードのように鼻、さらには口元までも隠す形になっている。だから、その下に隠された顔で露出しているのは、二つの小さな目とその周辺だけだ。

ただ、この目は小さくとも、しっかりとした存在感がある。明るいグレーで彩色され、周囲が黒に近い色のため、まるで光を放っているようだ。生気を宿していると言ってもいい。それに比べ、ウマの目の方は漆黒で、まるで死んでいるかのように見える。もちろんこれは意図されたものだろう。おそらく、ウマの顔は単なる飾りで、その下がホースオルフェノクの本当の顔だということを示しているに違いない。それでも、顔面の大半を占めるウマの鼻梁の存在感が大きく、その下で輝くグレーの目とうまく融合して一つの顔に見えてくる。一種のだまし絵のようでもあり、なんとも巧みなデザインだ。

その他にも、正面からは耳に見えるが、横から見れば板状に後方に伸びる装飾や、ウマのたてがみのようでもあり、映画に出てくるローマ兵のヘルメット頭頂部に付けられた房飾りのようでもある装飾など、篠原氏のさまざまなアイディアが込められたディテールは見ていて楽しい。実は、控えめながら角も一本あり、だったらユニコーンオルフェノクでしょ、とツッコミたくもなるが、それは野暮というもの。特撮キャラクターの角については、4年前の記事(https://www.jvta.net/co/akenomyojo133/)にも書いたが、やはり角があるとグッと引き締まる(と思う)。これは完全な妄想だが、僕には見えるようだ。篠原氏がデザインの仕上げに角を加え、ひとこと、「これぞ画竜点睛・・・」と満足げにつぶやく姿が。

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【最近の私】コラム記事仲間の土橋さんにいただいた『モスラの歌』のレコード。特注したシングル盤用フレームが完成し、早速飾りました。持ってること自体が奇跡的な半世紀以上前のお宝品。こうやって飾っている人間は他にいるまいと、悦に入っています。

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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.97 ネンマツチョーセイ!?

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年末に入り、私にとってビッグニュースが飛び込んで来ました。近所に日本人の家族が引っ越してくるというではないですか!(実は国際結婚カップルだそう)

このエリアは、市内からも離れているし、元々はローカルな人ばかりで、引っ越してきた当時は電気も通っていないような場所だったから驚きです。確かにチェンマイは、日本人リタイアメントの方々が元々来ていた所ですが、今では若い人たちが多く移り住んできて、日本人の層ががらりと塗り替えられている感じがします。現実的な話として、10年以上前、為替のいい時では10万円が約4万バーツだったのが、最近のレートでは約1万9千バーツと半分以下の価値になってしまったのです…。(しょぼん。日本頑張れー!)つまり、年金暮らしの人には暮らしづらい国になってしまい、逆にインターナショナルスクールを含む学校、通訳のいる病院、各国のレストランなどインフラが整い、充実してきたチェンマイは、若い人々に魅力的な街になってきたのです。

為替の変動で暮らしにこれほどの影響があるものかと落ち込み、また街というものは本当に生き物のように移り変わるんだなと、心の年末調整中です。


花の季節が始まる予感

みなさま、今年も一年「花と果実のある暮らし」を読んでいただきありがとうございました。来年はこうした変化で、どんな暮らしになっていくのでしょう。お楽しみに。2026年みなさまにとっていい年になりますように。

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明けの明星が輝く空に 第191回 クリスマスには・・・シャケぇ!?

ことしのクリスマス、果たして農林水産省は再び“シャケ推し”でいくのか。スーパー戦隊ファンは、固唾を飲んで見守っている。というのはオーバーだが、過去2年、同省のクリスマス関連ツイートが話題になったことは事実だ。きっかけは、『怪盗ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(2018年~2019年)の第45話「クリスマスを楽しみに」に、“シャケ激推し”の怪人、サモーン・シャケキスタンチンが登場し、「クリスマスにはシャケを食え!」と叫んだことだった。

例によって、絶妙な緩さが魅力のスーパー戦隊シリーズ。サモーンが行う非道は、街の肉屋を急襲し、チキンの代わりにシャケを置かせるという、実にたわいのないものだ。「今年のクリスマスはシャケ一色に染めてやる!」と謎の宣言をし、嵐のように現れて、嵐のように去って行く。そんなサモーンの行動に目をつけた農林水産省が、2023年に魚食普及の一環として、「#クリスマスにはシャケを食え」と、サモーンの画像付で公式Xにポストした。

ところが、同省は翌2024年の公式Xに、「#シャケ もいいけど、他の魚も食べてほしい」とポスト。クリスマスカラーということで、マグロとアボカドを使ったメニューを紹介したのだ。(とはいえ、農林水産省は同じ日に、公式YouTubeチャンネルで、「【水産庁】サモーン・シャケキスタンチン様に感謝しながらシャケ食べた」と題する動画もアップしている。)

それにしても、サモーンという怪人の目的は何だろう。チキンの代わりにシャケを食べさせて、一体何になるのか。彼は異世界犯罪集団ギャングラーの一員で、その組織は犯罪行為を通して、人間社会の掌握を目論んでいるらしい。窃盗や誘拐、中にはプロパガンダ映画の制作といったユニークなことをする怪人もいるが、クリスマスにシャケを食べさせることで人間社会を掌握できるとも思えない。たとえばこれが仮面ライダーシリーズであれば、シャケには毒が混入されている、といった仕掛けが考えられるが、サモーンは純粋にシャケを食べてほしいだけのようだ。

もちろん、クリスマス商戦でチキンの売り上げを伸ばそうと思っている店主たちは、たまったものではないだろう。中には、閉店に追い込まれる店だってあるかもしれない。それでも、暴力を振るうでもなく、ただ鶏肉を撤去しシャケを陳列棚にきれいに並べて置いていくだけのサモーンは、どことなく憎めない。スゴイ勢いで走って来て、高い所から飛び降りた際に無様に転んだ場面では、「着地しっぱーい!でも、めげない!」と言って走り続ける、健気さのようなものさえ感じさせた。

サモーンはその攻撃技も、ユニークで楽しい。まずは“切り身配り”。シャケの塩焼きをヒーローたちの口に投げ込む。攻撃を食らった一人が、思わず「うまいな」とつぶやいたことからわかるように、それはちゃんとした料理だった。そして極めつきの大技が、“シャケチャーハン”と“氷頭なます”。ヒーローをご飯と一緒に炒めたり、甘酢に漬けたりするのだ!技を食らった方も、「パラパラになっちゃうよー!」とか「すっぱい!すっぱい!」とか、なかなか愉快な苦しみ方だ。画面にはそれぞれのレシピや作り方が表示され、なんともシュールな映像が出現。画面右下には「※イメージ!?」というテロップまで表示され、目の前の光景が現実に起こっていることなのか、それともサモーンが見せる幻影なのか、なんだかよくわからない。もちろん、こんな映像を真面目に解釈するほど野暮ったいことはないので、単純にノリで楽しむのが正しい鑑賞方法だ。

ところで、サモーンは悪役でも、彼を全否定するとシャケという食材の否定にもなりかねない。そこは現代の作品らしく、ヒーローたちが「確かに鮭はすばらしい食材だと思う」とか、「僕もサーモンは大好物の部類に入るよ」などと多様性を認める発言をしている。その上で、「クリスマスにはチキンでしょうがー!」と、正論(?)をぶつけるのだ。この言い方も絶妙だ。たとえば「クリスマスにはチキンだ!」というように、突き放した言い方と比べるとわかりやすい。「でしょう?」という言葉には、「そうじゃない?違う?」といったように、相手の立場も少しは認めているようなニュアンスがある。それでいて、語尾に「が」を置くことで、相手が間違っていることを強く主張する言い回しにもなっている。

余談だが、僕は「でしょうが」という言い回しを聞いて、ドラマ『北の国から’84夏』の、「子どもがまだ食ってる途中でしょうが!」という台詞を思い出した。父親の黒板五郎が、ラーメン屋で器を下げようとした店員に怒鳴るシーンだ。脚本を書いた倉本聰氏によれば、あの台詞は物語の“へそ”、またはドラマチックの“ドラマ”ではなく“チック”なんだそうだ。それは、ちょっとした台詞、場面ではあるけれど、グッと心をつかまれるとか、印象深く記憶に残るようなもののことらしい。

サモーンの「クリスマスにはシャケを食え!」は、まさにその“へそ”なのだ、と言えたらきれいにまとまったのだが、残念ながらそうとは言えない。サモーンは他にも、「ノーモア・チキン」、「チキンのかわりにシャケを食べろ」、「クリスマスにチキンを食べるなんて許せない」などなど、同じような台詞をまくし立てる。「クリスマスにはシャケを食え!」は、その大量の台詞の中に埋没してしまっている。

個人的には、ヒーローがシャケチャーハンにされるという、ある意味とてもショッキングな映像も含め、「パラパラになっちゃうよー!」こそが、この作品の“へそ”なんじゃないかと思う。バカバカしくも楽しい。これぞ、スーパー戦隊シリーズを象徴する名場面。けっこう本気で、そう考えている。

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【最近の私】予期せぬ出逢いがあるという意味で、テレビは書店に似ています。先日たまたま日本赤軍のドキュメンタリー(NHK)を観ましたが、「オールドメディア」の底力を見た気がします。それに比べてSNSの情報って薄っぺらい。正直な話、そう感じました。

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花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集 Vol.96 ムッとした一コマ

先日、友人を送りに空港に行った時の出来事。空港はアブタビ行きのチェックインをしようとするたくさんの人でごった返していました。私の友人は健常者ではないので事前に車椅子を要請してありました。彼女は待っている間も辛そうで、たまにしゃがんだりしていました。隣のラインには、観光を満喫したような西洋人観光客4人組がチェックインをしています。その中の70代くらいの男性はすでに車椅子を頼んであったようですが、さらに60代くらいの女性が車椅子を追加したいと頼んでいます。しばらくして向こうから2台の車椅子を押した空港職員がやって来ると、そのグループがそれに気づいて合図をし、職員はそちらへ向かっていきました。明らかにそのうちの一台は友人用。友人は立っていられないくらいの状態で今すぐ車椅子が必要なのに…。彼らはそんな友人に気づいていながら見ぬふりをして先に乗ってしまったのです。「しょうがないわね」という表情でグランドスタッフがもう一台手配してくれました。しかし…「すみませんが、あそこまで行ってください」と言われ、結局友人は指定された所まで歩くことに…。

もちろん、車椅子を使われる皆さんのほとんどはご高齢だったり、足が痛かったり、また見えない持病があったりします。しかし、最近、車椅子利用は優先されて楽だという理由で気軽に利用する人たちが出てきているようです。「本当に必要な人をちゃんと優先してほしい!」。この一連の出来事に気づいてさえいない友人の代わりにちょっと声をあげてみました。

お月様、平穏祈願。

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Written  by 馬場容子(ばば・ようこ)

東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
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花と果実のある暮らし in Chiang Mai
チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美
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明けの明星が輝く空に 第190回 ウルトラ名作探訪24『恐怖のルート87』

ウルトラマン第20話「恐怖のルート87」の冒頭には、伊豆シャボテン動物公園が「大室山公園」として登場する。僕は大学生の頃、初めてそこに行ったとき驚いた。番組で見た「高原竜ヒドラの石像」が鎮座していたのだ。獣の体に、鷲のような頭と翼を持つ巨大な像。同公園のシンボルとなっているそれは、実際には「高原竜」という名で、「ヒドラ」は番組が付けた架空の名前である。

伊豆シャボテン動物公園(当時は伊豆シャボテン公園)には、『ウルトラマン』の制作スタッフがシナリオ準備段階で訪れたそうだ。そこで見た高原竜を元に、怪獣ヒドラが考案されたという。その姿は、多少の違いこそあれ、高原竜そのままだ。

ヒドラが登場する「恐怖のルート87」では、最後に不思議なことが起きる。ウルトラマンが戦うのをやめ、ヒドラを飛び去らせてしまうのだ。実はこのとき、ウルトラマンには、ヒドラの背中に乗る一人の少年の姿が見えていた。

「恐怖のルート87」は時代を反映し、交通戦争を物語の下敷きとしている。当時は、いわゆるモータリゼーションにともない、交通事故が社会問題となっていた。この作品でも、半年前にムトウ・アキラという少年が、国道87号線で轢き逃げの犠牲者となっていたことが語られる。彼が生前に描いた怪獣の絵は、大室山公園の石像のデザインに採用されていた。ヒドラである。

時系列が前後するが、この事実が発覚する前の物語冒頭で、すでに亡くなっていたはずのアキラ少年の姿が目撃されていた。彼は科学特捜隊本部に現れ、ヒドラが暴れ出すとだけ告げる。そしてその警告通り、大室山公園を見下ろす大室山から、ヒドラが出現する。念のため公園で警戒にあたっていた科特隊が攻撃すると、ヒドラは空へと飛びあがり、姿をくらましてしまった。

このあとヒドラは、国道87号線を走る車を次々に襲う。すでにアキラ少年の事情を聞かされていた主人公のハヤタ隊員は、ヒドラにはその少年の魂が乗り移っている可能性を指摘。続けて仲間の隊員が「呪われた国道87号線か」とつぶやいたところで、ムラマツ隊長から「魂だ、呪いだと言っている場合じゃないぞ」と注意を受ける。この台詞は暗に、オカルトは彼らの(そして『ウルトラマン』という番組の)管轄外であることを示唆しているが、その一方で霊魂の存在を真っ向から否定するものでもない。観る者を物語に引き込む神秘的な空気を残しつつ、番組本来の世界観を維持。巧みな脚本だ。

番組後半、ウルトラマンはヒドラと対決する。強敵相手に、さしものウルトラマンもノックアウト寸前にまで追い詰められた。体勢を立て直し、スペシウム光線を放つウルトラマン。ヒドラが空中へ飛び立つ。さらに続けてスペシウム光線を放とうとすると、ヒドラの背中にうっすらとアキラ少年の姿が浮かんだ。ウルトラマンは構えた手を下ろし、飛び去るヒドラをただ見送った。

「恐怖のルート87」は、『ウルトラマン』が単なる勧善懲悪の物語ではないことを示している。7月の記事で紹介した「怪獣墓場」(https://www.jvta.net/co/akenomyojo186/)は、怪獣の悲哀がテーマになっていたが、今作も“怪獣=憎むべき存在”ではないことを教えている。紋切り型の勧善懲悪ではない物語。それを子どものころに観られた僕らは幸せだと思う。

ヒドラが飛び去る場面では、ウルトラマンのスーツアクター、古谷敏氏の演技も注目に値する。スペシウム光線を構えた手の指先から、フッと力が抜ける。ウルトラマンの心情が垣間見える瞬間だ。仮面で顔が隠され、台詞もない中、指先だけで内面を表現。動きに多少の不自然さが感じられないこともないが、演技とは表情やセリフ回しだけではない、ということを示す好例だ。

もう一点注目したいのは、半年前に亡くなっていたアキラ少年と会い、言葉を交わしたのが女性であるフジ・アキコ隊員だけだったということだ。アキラ少年が部屋を出て行った直後、同じドアから入ってきた男性隊員は、その姿を見ていない。また、フジ隊員は、ヒドラの背中にアキラ少年の姿を見た唯一の人間でもある。古来、女性は異界とチャネリングできる能力があると見られてきた。たとえばイタコは巫女同様、全員女性だ。そう考えると、アキラ少年にちなんだフジ隊員の描写は、ステレオタイプな発想に基づいたものと言える。ただ、60年近く前の作品なのだから、今の価値基準だけで論じるのはフェアではない。それでも、今はそういったことに鈍感でいることが許されない時代だ。その点は、留意しておく必要があるだろう。

「恐怖のルート87」のエピローグでは、轢き逃げ犯人が捕まったことが明らかになる。これでアキラくんも天国へ行けると、無邪気に喜ぶ科特隊の面々だったが、ちょっと待った。それじゃあヒドラの攻撃を受けた車の運転手たちは、全く無関係なのに命を奪われたということに…。昔の作品であっても、ここはツッコミを入れてもいいだろう。怪獣だけじゃなく、人間にも優しい物語をお願いします!

「恐怖のルート87」(『ウルトラマン』第20話)
監督:樋口祐三、脚本:金城哲夫、特殊技術:高野宏一

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。

【最近の私】スーパー戦隊シリーズ終了という記事を読んで驚きました。出演者同士の不倫問題が取りざたされていますが、今放送中の番組ではなく、50年も続くシリーズ自体を終わらせるほどのことなのかどうか。とにかく公式発表が待たれます。

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改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 
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花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集 Vol.95 偶然

★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」
インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。

「ヨーコ!」。空港で手を振る姿は、まさに30年前、アメリカの大学で皮肉交じりに教えていた先生でした。30年という月日が一瞬のうちに吹き飛んでいき、私たちは長いハグをしました。バリ島のウブドに向かう車の中で、彼女の人生に起きたことをじっくりと聞きながら、運命的なことを感じました。

ウブドの街角のガネーシャ

彼女がウブドに来始めたのは20年前。それから、ウブドには毎年のように訪れていたそうです。

「ウブドの仲間たちでHIVの患者さんを助けているお医者さんをサポートしているの。彼のヴィラにいつも泊まっているのよ。素敵な所だからあなたも気に入るわ。」

「え、私も20年前にチェンマイに来て、HIV感染施設孤児施設に関わったんです。」

彼女も私もこの偶然にとても驚きました。お互い何も知らずに、我々は同じ時期に同じようにHIV関係のサポートをしていたのです。振り返れば、彼女の同僚の一人、つまり私の先生の一人はLGBTであり、私が在学中にAIDSを発症し、この世を去りました。きっと私たちの中に、少なからずこの経験が残っていたのでしょう。当時(90年代)のAIDSという病は、社会でも大きく取り上げられていた問題でしたが、30年経った今では医療の進歩や社会の理解により、その状況は大きく変わりました。ウブドに向かう車窓の外を見ながら、同時期に世界のあちこちでポツポツと何かが動いていたんだというこの現象に感慨深いものを感じると共に不思議と明るい気持ちが込み上げてきました。

ヒンドゥーの結婚式

【関連記事】

花と果実のある暮らしin Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.94 再会

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Written  by 馬場容子(ばば・ようこ)

東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
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