明けの明星が輝く空に 第199回:夢幻のヒロインたち9:春日藤千代
登場作品:映画『ガス人間第一号』(1960年) キャラクター設定:零落した日本舞踊の家元 “ガス人間”と運命を共にする
「幽玄」という言葉は、こんな光景のことを言うのだろう。『ガス人間第一号』の冒頭、銀行強盗犯を追った岡本警部補が、人里離れた夜の山中で鼓の音を耳にする。その音が聞こえてくる方向へ向かうと、やがて屋敷に辿り着いた。庭へと回り込む岡本。その目に飛び込んできたのは、戸が開け放たれた板の間で、般若の面を着けた女性が舞う姿だった。
舞っていたのは、昭和の名優、八千草薫さんが演じる春日藤千代。凜とした風情が美しい日本舞踊の家元だが、春日流は弟子がみな離れるなどして落ちぶれ、発表会を開くことすら危ぶまれる窮状にあった。逃走した強盗殺人犯、水野は、彼女のために金を工面しようと犯行に及んだのだ。彼はある科学者による実験の犠牲者で、結果的に、自分の意思で体をガス化できるようになっており、その特殊な能力を使って犯罪を重ねる。
先月初旬、Netflixで配信が開始された『ガス人間』(全8話)は、本作のリブート版で、設定やストーリーは別物だ。画面から漂う緊迫感はさすがだが、オリジナルが持つ趣や幻想性には乏しい。個人的な意見ではあるが、60年以上前に公開された『ガス人間第一号』は、こんにちに至るまで、特撮史上最もロマンティックかつ、悲劇的な物語だ。
水野は彼女を愛している。彼の愛には、どこにも利己的なところがない。金の出どころを知った藤千代に対し、僕を利用すればいいとさえ言う。そんなふうに言われ、普段は感情を表に出さない藤千代も、この時ばかりは恋する女の目になり、水野の胸に顔を埋めている。ただ、彼女も水野を愛していたのか。映画は意図的に、それを明確にしていない。
藤千代は、事件を追う記者、甲野京子に、水野を愛しているのかと問われると、少し驚いた表情を浮かべてから目線を反らし、諦めたかのような口調で「どうにもならないんです」とだけ答えている。愛していることを認めたように聞こえるが、映画全体を観ても、彼女が水野を愛している確証になるようなシーンはない。藤千代にとっては、踊りこそ全て。だからこそ、強盗によって手に入った金だと知った後も、発表会をやり遂げようとする。水野の胸に顔を埋めたのも、彼女を苦境から救ってくれる唯一の存在が目の前にいる男だったという実情を考えれば、思わず心がなびいたという解釈も可能だ。
実を言うと、本作のメガホンを取った本多猪四郎監督も、ラストの悲劇的結末を生む藤千代の心境について、「情にほだされた」という表現を使っていたらしい。水野役の土屋嘉男さんが、水野は愛されていたと解釈していることに対して、水野から見ればそうだろうとも言っていたようだ。その悲劇的結末とは――。
発表会の劇場で踊り終えた藤千代。客席には水野ただ一人。「すばらしかった」と言って藤千代を抱きしめる。しかしこの時、劇場内には引火性のガスが充満していた。警察は、捕まえることが不可能なガス人間を爆殺しようとしていたのだ。水野はそれを察知し、発火装置を壊していたが、藤千代が彼の背に回した手にはライターがあった。一瞬の躊躇。恋慕の激情に流されるかのように、水野を固く抱きしめる。それでも、彼女は意を決する。涙を浮かべた目を見開くと、中空を見つめたまま、ライターに火を点けた。
『情鬼』――それが、藤千代が披露した演目のタイトルだった。架空の演目であるが、踊りを見る限り、道成寺に伝わる安珍・清姫の物語と類似の内容のようだ。すなわち、悲しみの淵に沈んだ女性が、恨みから人ではないものに変化( へんげ ) する。当然、映画の作り手は、そこに何らかの意味を含ませているだろう。とすれば、情鬼とは藤千代自身のことだ。踊りの終盤、彼女は般若の面を被って舞う。手にしているのは、能の舞台で鬼や龍神役が使う打杖と呼ばれる小道具か。その先には藤の枝。まだ鬼へと変わる前、憎しみから花をむしり取った時のものだろう。それを狂おしく打ち振る。しかし、目の前の誰かを打つかのように振り上げたところで手が止まり、杖は足もとに落ちた。そして最後は、苦悶と悲しみの中に絶命する。(断っておくが、能や日本舞踊を見る目を僕は持ち合わせていないので、これは当てずっぽうに近い推測だ。ついでに言うと、女心を論ずるのも…。)
藤千代は、水野との心中を選んだ。彼女は、水野の犯行で得た金で発表会を開いた。もちろん、その罪は自覚していただろう。心中は贖罪のためだったのだろうか。同時に、狂気に染まった水野の魂を救済するという意味もあったかもしれない。それも「愛」のひとつの形だ。ただし、どちらかといえば慈悲の心に近い。いずれにせよ、映画は明確には語ってくれない。しかし、俳句の例を引くまでもなく、全てを説明せず余白を残した方が想像力は刺激される。そして人はそんなところにも、ロマンを感じるものだ。
春日藤千代の余白にも、ロマンがある。
参考:過去記事
第118回:特撮俳優列伝23 八千草薫 https://www.jvta.net/co/akenomyojo118/ 第97回:特撮俳優列伝8 土屋嘉男 https://www.jvta.net/co/akenomyojo97/
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ジャン・リュック・ゴダール監督のことを描いた映画『ヌーヴェルヴァーグ』を観てから、ゴダール監督の長編デビュー作『勝手にしやがれ』を観ました。ちょっとだけ「映画通」っぽいことしてるなあと、自己満足した次第です。 —————————————————————————————–
明けの明星が輝く空に 改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.104 近所のマッサージ屋さん
★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」 インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。
タイといえば、タイ古式マッサージが有名ですが、最近ビジネスライクなところも増えて質も落ちてきている気がします。そんな中、近所にいいマッサージ店はないだろうかとGoogle マップで探して試したお店が一軒ありました。
初めて訪れた時、ドアを開け「マッサージできますか。」と尋ねると、小柄な女性は、「普通のマッサージを受けたい場合は隣の店へどうぞ。どこかお悪いのであれば治療マッサージはお受けします。」と言いました。はっきり言ってくれた所が気に入って、少し気になっていた腰をお願いしたいと言ってそこで施術を受けました。部屋は殺風景だけれど、きちんと整理されていて、清潔感もありました。話をするとシングルマザーで2人の子どもを育て上げたとのこと。もちろん資格を持って教えられる立場でもありながら、今でもきちんと勉強を続けているという。そんな彼女のマッサージを受けた次の日、テニスの仲間から、「今日動きがいいね。」と言われ、それ以来約一年、疲れた時には、彼女の元へ駆け込むという私にとってありがたい場所になりました。
イメージ
お気に入りのバーム
そんな彼女が最近、「娘も手伝ってくれることになり、お店を移転し、スパ要素も入れるのよ。」という。彼女の実直なマッサージが好きだったので、私の中では応援したい気持ちと複雑な想いが交錯してしまいました。こういう所からも娘に継がせていきたい、もっと広げたいという気持ちが生まれるように、発展というのはその手綱を持つ人で大きく変わるもの。彼女と娘さんを信じて、ビジネスライクな今時のスパマッサージ店という発展に向かわないことを願っている今日この頃です。
雨季の合間の晴れ間
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
花と果実のある暮らし in Chiang Mai チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美 バックナンバーはこちら
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明けの明星が輝く空に 第198回:「ギャオ」なんて鳴いてない!
ガメラシリーズ第3作『大空中決戦ガメラ対ギャオス』(1967年)に登場した英一少年は、怪獣にギャオスと名付けた理由を聞かれてこう答えた。「鳴き声がギャオって聞こえるもん。」え?なに言ってんの?子供のころ、僕はそう思った。全然そんなふうに聞こえなかったからだ。ギャオスの出す音はもっと、「キャイコォォ」とか「キアオォォ」とかいった感じである。(怪獣の声ほど、文字で表すのが難しいものはない)
英一少年の発言は、怪獣対策本部でのものだ。制服姿の人々は、警察や自衛隊のお偉いさんたちだろう。もちろん、怪獣映画らしく博士もいる。英一少年はそんな大人たちの真ん中で得意げに怪獣の目撃談を述べる。誰かが「あの怪獣」と言えば、すぐさま「ギャオスだよ!」と間違いを正す。結局、皆が「ギャオス」と呼び始め、正式名称となった。鳴き声が「ギャオ」と聞こえなかった僕は、この現実的とは言えない流れに、子供ながらに違和感を覚えたこともあり、どこか偉そうな英一少年に対して大いに反感を抱いた。
昭和の特撮作品には、子供がしゃしゃり出てきたり、自分勝手な行動で迷惑をかけたりすることが多かった。そんな子供たちの見本市のような様相を呈していたのが、ガメラシリーズだ。「ガメラは子供の味方」という設定上、子供を中心に物語が進むのは当然ではあったが、映画の中の生意気そうな少年たちは虫が好かなかった。シリーズ第4作『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』(1968年)では、停泊中の小型潜水艇に少年2人が勝手に乗り込んでイタズラ。そのせいで動かせなくなって困っている大人に対し、いけしゃあしゃあと自分たちなら動かせると言い放ち、再び乗り込んでまんまと水中遊泳を楽しんだ。2人はその後、異星人の人質となり、子供たちを助けたければ降服せよという要求が、人類に突きつけられることになる。
シリーズ第6作『ガメラ対大魔獣ジャイガー』(1970年)でも、自由奔放すぎる少年2人が登場。彼らは、ジャイガーによって仮死状態になったガメラの体内に、無断で小型潜水艇を使って進入。偶然、ジャイガーの弱点を見つけるという“お手柄”を立てる。結局、勝手な行動をとがめられることもなく、「子供たちの持っている素朴な直感と汚れなき魂を、大人になっても失ってはならない」という、(とってつけたような)教訓を得た、と語るナレーションが入り、彼らの行動は見事な美談として映画は幕を閉じる。
こういった子供の登場人物は、ガメラシリーズに留まらない。もうひとり、『ウルトラマン』のホシノ少年を忘れるわけにはいかないだろう。彼の自由奔放さも、誠に目に余るものがある。第2話「侵略者を撃て」では、科学特捜隊の車に隠れて乗り込み、見つかると「へへへ、まともに頼んだら置いてけぼりにされちゃうからね」と屈託なく言い放ち、車の中にいたことについて「気にしない、気にしない」とごまかす。こういった――天真爛漫だとか無邪気だとか言えば聞こえはいいが――立場や状況を一切無視した言動に、僕は腹が立ってしょうがない。さらに、あろうことか彼は科特隊本部の作戦室に、なぜか自由に出入りする。第3話「科特隊出動せよ」では、そこから武器を拝借し、科特隊専用機に潜り込んで、怪獣のいる現場まで無断で付いていった。そして、ひとりで怪獣に攻撃を仕掛けるのだが、逃げる際に転んで気を失い、倒れているところを発見される。その時、うわごとのように「ウルトラマン、ネロンガ(怪獣の名前)をやっつけてくれよ」などと言い、それを聞いた主人公のハヤタ隊員がウルトラマンに変身して怪獣を倒す。なんという都合の良さか!
こういった子供が嫌いなのは、僕だけではなかったらしい。同じような意見はネット上で簡単に見つかった。いわく、「勝手な行動をして」見ていても「イラつく」とか、「大人の領分に子供が強引に入ってくるのが嫌」などなど。中には、「子供は子供らしいキャラが嫌い」というような、大人が映像作品に登場させる子供についての真理(?)をズバリ言い当てているものもある。
そもそも、なぜ怪獣映画やヒーロー番組に、子供の登場人物が必要なのだろう。考えられるのは、子供の観客や視聴者の感情移入のしやすさを狙っているということだ。実際、子供が登場しなかったガメラシリーズの第2作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)では、飽きてしまった子供たちが何人も席を立ったそうだ。また、作劇上の要請もあるかもしれない。子供がトラブルを起こせば、物語を展開させるきっかけとなる。さらに、ピンチに陥った子供を救い出すというエピソードを盛り込めば、その結末を誰もが見届けたくなるだろう。ちなみにSNS上には、足手まといの子供は、ヒーローの邪魔をしてはならないという反面教師として役に立っていた、という意見もあった。ふうむ。
ところで、ギャオスの名付け親となった英一少年だが、あらためて作品を観ると、なかなか愛嬌のある男の子だ。少しぽっちゃり気味のほっぺが愛くるしい。洞窟の落石で身動きが取れなくなるシーンなど、怖がっている顔を見ると守ってあげたい気分になる。「ギャオ」なんて聞こえないじゃないかとあの時は思ったが、彼に対するイメージは半世紀以上立ってようやく上書きされた。大人げないことを言うのはやめにしよう。こうして僕は今、英一少年との歴史的な和解に辿り着いた気分に(勝手に)なっているのである。
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】サッカーのW杯やテニスのウィンブルドンなど盛りだくさんなスポーツ界ですが、僕は世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランス一択です。今年はガリビエ峠もアルプ・デュエズも登場すると知って大興奮。酷暑なのが気がかりですが、今から楽しみです。
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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.103 オンラインショッピングの信用度
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個人的な話になりますが、先輩がもうすぐ59歳になるにあたり、還暦までの日めくりカレンダーを作ろうと奮起した私。これはテレビドラマ『続・続・最後から二番目の恋』で主人公の和平さんが千明さんにプレゼントしていたもの。いいアイデアだなあと思ったのがきっかけで、私も作ろう!と思った次第であります。
久々の工作気分。あまり考えもせず、ブロックメモに、先輩の誕生日からの日付と一言を添えていこうと、まずタイのShopeeというオンラインのショッピングサイトでブロックメモ400枚入りを購入。届いたメモに、さっそく数字のスタンプで日付を押していったら…なんと365日のうち50日くらい足りないではないですか!ここまできて足りないとは…。400枚と謳っているのだから、余裕分であるはずの35枚も合わせれば85枚も足りない!インチキーー!400枚入りといっても、ブロックメモが届いてわざわざ数える人は少ないし、ほとんどの人は足りないことには気づいていないのだと思います。しかし、私としては困った事態に。運よく予備に買っていた2ブロック目を開けて、「ちっ、やられたなあ…」と思いながら、ひたすら作業を続けるのでありました。
そういえば、先日頼んだフェイスカバーは色違いが届いていたし、タイのオンラインショッピングの信頼度は私的には60%です。
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
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明けの明星が輝く空に 第197回:夢幻のヒロインたち8:霧島美穂(仮面ライダーファム)
登場作品:『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』(2002年) キャラクター設定:シリーズ初の女性仮面ライダー 姉を生き返らせるために戦う
「真司…真司…。靴の紐ぐらいちゃんと結べよな。」
戦いで傷付いた霧島美穂は、真司と別れた後、そうつぶやいてこの世を去った。瀕死の重傷であることは悟られたくなかった。常にマイペースでつかみどころがなく、あっけらかんとした態度を取っていた彼女らしい最期だ。
この作品の主人公である城戸真司(仮面ライダー龍騎)と美穂の出逢いは偶然だった。ある結婚詐欺師を追っていた見習い記者の真司は、その男が女性をだまそうとしている現場に踏み込む。しかし、男に詰め寄っている間に、女性は姿を消してしまった。それも、男から贈られた結婚指輪とともに。逆に詐欺師をだましたこの女性こそ、霧島美穂だ。無断で拝借した他人の豪邸に男を招き入れて信用させるあたり、相当したたかな人物である。
その美穂が犯罪に手を出すのには、理由があった。姉の遺体の冷凍保存を維持するための費用が必要だったのだ。そして姉を生き返らせるために、彼女は仮面ライダーファムとして戦う。最終的な勝者となれば願いを叶えることができるという、「生き残りゲーム」の参加者として。彼らは鏡の中の異世界に住むミラーモンスターとの契約により、全員仮面ライダーに変身することができる。つまり、本作で繰り広げられるのは、いわば最強ライダー決定戦。ライダー同士によるバトルロイヤルなのだ。
その参加者の顔ぶれは、さまざまだ。TV版『仮面ライダー龍騎』(2002年~2003年)には、学生や弁護士、実業家などが登場する。『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』は、TV版とは結末が異なる“アナザー龍騎”とも言える内容で、美穂はこちらが初登場。そのほか、まだTV版ライダーバトルから退場していない者たちが存在する。その中に、殺人鬼、浅倉(仮面ライダー王蛇)の姿もあった。この男こそ、美穂の姉を死に追いやった犯人で、美穂にとっては復讐を果たし、勝ち残って姉を生き返らせるという二つのチャンスを手に入れたことになる。
シリーズ初の女性仮面ライダーであるファムは、気品を感じさせる外見が印象的だ。それは、白をメインカラー(ファムのモチーフはハクチョウ)に、部分的に金色をあしらった配色のためだろう。白という色には「清廉」や「純粋」といったイメージがあるが、これは美穂という人物の内面を示しているのだろうか。姉を生き返らせたいという彼女の思いは、純粋で尊い。(その一方で、アクセントカラーの金色が「お金」、つまり美穂が人をだまして調達する金銭を象徴していると考えてみるのも面白い。ただの善人だとするよりも、人物造形として深みが出るだろう。)
ハクチョウというモチーフも、よく考えると示唆的だ。「スワンソング」という言葉は、死を前にハクチョウは美しい声で鳴くという言い伝えから来ているし、バレエの『白鳥の湖』は、演出によってはヒロインが命を絶つ結末もあるという。つまりハクチョウは、「死」のイメージもまとっている。前述したとおり、美穂は結局生き残ることができない。ファムのモチーフにハクチョウが選ばれたのは、それを暗示するためだったのかもしれない。
ファムの武器のひとつは、細長い棒状の剣だ。それを使って、フェンシングのように突き技を繰り出す。また、顔面を覆うフェイスシールドにはスリット状の“覗き穴”があり、背にはマントを装着。まるで西洋の騎士のような出で立ちで、白と金を配したカラーリングと相まって、“王家の女性剣士”とでも呼ぶべき高貴な雰囲気がある。それだけに、大いに活躍が期待されるところだったが、残念なことに戦闘能力は高くなかった。姉の仇である浅倉は戦いの中で“消滅”したが、ファムは浅倉の変身体である王蛇には刃が立たず、自分の力で倒すことはできなかった。美穂には手を血で染めて欲しくないという思いが、作り手にはあったのだろうか。
美穂はその後の戦いで重傷を負ったところを、真司に助けられる。倒れたまま動けない美穂を前に、動揺する真司。すると美穂はゆっくり左手を上げ、真司のおでこを指で軽く弾いた。「また引っかかった」とイタズラっぽい笑みを浮かべる美穂。どこまでも人を食った態度だ。しかし、すでに美穂は自分が助からないことを悟っていた。それでも真司を安心させ、二人は別れる。その直後、道端に倒れ込んだ美穂は空を見上げ、生き返らせることができなかった姉に謝罪した。そして、真司の名をつぶやく。出てくるのは感謝の言葉かと思いきや…。冒頭で紹介した「靴の紐ぐらいちゃんと結べよな」という台詞は、彼女が2回も真司の靴紐を結んでやったことを踏まえてのものだ。最期に「ありがとう」では、はっきり言って平凡な場面になっていたろう。それにどこか湿っぽいし、よそよそしさも感じてしまう。美穂の最期の言葉は、彼女のカラッとした人柄を示すとともに、真司に対する親しみの気持ちも表していたに違いない。そんなことを知る由もない真司は、バイクを運転しながら美穂の結んでくれた靴紐に視線を落とす。そうして嬉しそうな表情を浮かべ、走り去っていった。
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】いつの間にか、腰に不安を抱えるようになってしまいました。運動は問題ないのですが、体がほぐれていない朝はメリメリ音がしそうな感じ。湯治は無理だけど、打たせ湯とか電気風呂のある銭湯通いでもしようかな…。
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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.102 海を渡った梅仕事!?
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いきつけのパン屋さんに行ったら、タイ人のオーナーから、「あそこにいるお客さんが、梅干しについて知りたいって言うんだけど、話聞いてくれる?」と相談を受けました。そのお客さんは40~50代のアメリカ人の男性で、話を聞くと、梅の実をたくさん買ったので、梅干しを作ろうと思うんだけど、赤紫蘇はどこで売っているのか?という内容でした。近頃タイ人でも梅酒を飲むし、作ることにも興味があるようです。日本の文化は着実にタイに浸透しているなあと思っていたら…なんと西洋人が梅に関するこんなディープな質問をしてくるとは!!
梅干しじゃなくて、もっと簡単な梅酒や梅シロップを作ったらと提案したら、すでにYouTubeを見て両方作ったそう。そして青紫蘇なら最近スーパーでも見かけるけれど、赤紫蘇は私もチェンマイで見た事がないと伝えました。でも赤紫蘇がなくても梅干しは作れるし、まずは赤紫蘇なしの梅干しを好きかどうか食べてみたら?と薦めてみたところ、なんと彼はまだ梅干しを食べたことがないと言うではないですか。ええー!それじゃ出来上がりが分からないじゃなーい…と拍子抜けしながらも、西洋人が梅仕事をする時代なんだなあと驚いた一コマでした。
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.101 ニッポン中古文化
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お茶の時間、タイ人の友人が、日本の中古品のことを話題にあげました。もちろん、20年前からタイでも中古品のお店はあり、洋服の中古店などは、こだわった店主がセレクトしたものが置いてあるようなイメージでした。ところが今は…「いやいや、もっと規模が大きいファクトリーのような中古販売場になっていて面白いのよー!」と友人がいうので、そのまま二人で一緒に見に行くことに。いつも通っている大通りから少し入ると、殺風景で大きな敷地に4~5軒、トタン屋根の工場のような建物がありました。建物の中に入ると日本の家にありそうなものが山のように置いてあります。洋服、おもちゃ、アウトドア用品、家具、トランク、胡麻すり器、日本人形、引き出物の食器…。圧倒されて、何を見て良いかわからないほど!また、曜日によって、セールの割引額が変わり、洋服やバッグは1キロいくらで販売されています。ちなみに私が行った日は90%オフセール!友人はコーチのバッグを数百円くらいで買いました。タイ人や中国人、西洋人もいます。目が肥えている人は、金が付いたもの、お財布など(たまにお金が入っている)を目当てにする人もいるそうです。
中古販売場の雰囲気
中古販売場の雰囲気
つまり、これらは亡くなった人の荷物(遺品)、引っ越しで不要のものなどが、そのままこちらに海を越えてやって来た証であり、日本の高度経済成長期で物が豊かだった時代の痕跡のように感じました。不要なものが必要な人の所に行くのは良いことですが、これからますます進む高齢化社会の一面を切り取った現実に見えました。土地が変われば見方も変わる。日本では要らないものでも他の視点でみたら安い宝物になるのです。そんなお店の中で躊躇し圧倒されていた私も、しばらくすると友人の宝物探しに参加しているのでした。
昭和レトロなキリンの100周年ペアグラスを150円でGET
昭和レトロなキリンの100周年ペアグラスを150円でGET
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
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明けの明星が輝く空に 第195回:特撮俳優列伝31 志田こはく
半世紀続いたスーパー戦隊シリーズが、ついに幕を下ろした。最後の作品となった『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』(2025年2月~2026年2月)は、なんとか無事に完走した、という印象が強い。というのも、メインキャストの1人が不祥事を起こし、これから物語の佳境を迎えるという昨年11月、番組降板に追い込まれてしまったからだ。そのピンチを救ったのが、第40話から急きょ代役で出演した、志田こはくさんである。
志田さんが演じたのは、戦隊メンバーの一人、ゴジュウユニコーンに変身する一河角乃(いちかわすみの)。前任者の降板が突然だったため、同一人物を異なる俳優が演じることになってしまった。しかし、偶然にも角乃が探偵という設定があったおかげで、何とかつじつま合わせが可能になった。つまり、彼女は潜入捜査のため特殊な力を借りて顔を変えたのだが、その容貌が気に入ったので元に戻らなくてもいいことにした、という理由付けがされたのだ。
正直、無理がないとは言い切れない展開だ。しかし、志田さんの勢いのある演技は、そんな疑念を吹き飛ばすほどパワフルなものだった。「無理は承知の上」と言わんばかりの、いい意味で開き直った、潔さすら感じさせる明るい演技は、全く嫌みがない。これは天性のものだろう。
その溌剌とした明るさは、テレビドラマ初出演となった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年3月~2023年2月)でもいかんなく発揮されていた。そう、志田さんはすでに、スーパー戦隊シリーズの出演経験があったのだ。それも、オニシスターに変身して戦う鬼頭はるか役。戦隊メンバーの一員だ。そこで見せたはじけっぷりは、新人俳優であることを感じさせない、天晴なものだった。
実際、番組プロデューサーの白倉伸一郎氏は、志田さんのことを「逸材」だと思ってみていたそうだ。戦隊シリーズの中で、最も印象に残っている女性メンバーは誰かと聞かれ、「強いて挙げれば」という条件付きながら、唯一、志田さんに言及している。白倉氏いわく、志田さんは「18歳ながら俳優として一本立ちしており、周囲の模範になるようなところがある。」実際、「志田を見習え」と言っていた監督も中にはいたそうだ。
志田さんが演じた鬼頭はるかは、さっぱりした性格の女の子で、かなり三枚目な役どころだ。敵からの攻撃を受け「うへぇ!」と叫んだりするなど、“ヒロイン”という言葉から想像するようなタイプではない。ファンの間で話題になったのは、毎回のように見せる“変顔”で、かなりオーバーな表情を臆面もなく披露してくれている。そんなコメディエンヌとしての素養を買われたためか、鬼頭はるかが運転免許を取ろうと四苦八苦する第40話「キケンなあいのり」は、志田さんのコミカルな演技を前面に押し出した作品となった。少々やりすぎと感じる場面もあるのだが、それは演出の問題だろう。路上教習中に敵と遭遇し、ハチャメチャな運転で対峙するシーンは、志田さんのはっちゃけた演技が最高レベルに達し、痛快だ。そして物語終盤、めでたく免許を取得し得意げなはるかが、あちこちにぶつけた跡のある車で現れ、仲間をドライブに誘う。その時の、滑稽なほどカッコつけたセリフの言い回しと表情は、絶妙の一言。僕は思わず吹き出してしまった。
そんな志田さんだが、俳優としての魅力はむしろシリアスな場面にある。特に、深刻な場面で見せる目の表情がいい。ご本人も印象に残っていると語る第10話「オニがみたにじ」は、そういった意味で見どころが多い。ある日、どんな願いごとも叶えられる条件をクリアしたはるかは、失った人生を取り戻すため戦隊から脱退する。そうして彼女の願いによって書き換えられた世界では、真利菜という別の女性が代わりに戦隊メンバーになっていた。しかし真理菜は、はるかの代わりに人生の苦悩も引き受けてしまう。苦悩する真利菜を見たはるかの心が揺れる。その際の思いつめたような表情。結果として彼女は戦隊に戻る決意を固めるのだが、その時には揺るぎない強い意志を感じさせる顔に変わっていた。眼差しによって、演じる人物の内面を見事に表現する志田さんの演技が、第10話のドラマ性を高めていると言えるだろう。
志田さんの目の演技は、ピンチヒッターとして一河角乃を演じた『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』でも、いいアクセントになっている。彼女のシリアスな表情が物語にドラマ性を加味し、コミカルなシーンの多い番組を締めてくれているのだ。キャスト降板からの代打出演という注目される状況で、きっと大きなプレッシャーもあっただろう。そんな中、堂々とした見事な代役ぶりだった。いや、むしろ、単なる代役を超え、「一河角乃=志田こはく」というイメージを視聴者に植え付けることに成功したのではないだろうか。まさに番組のピンチに現れた「救世主」。業界での評価も、さらに上がったに違いない。今後の活躍も、大いに期待できそうだ。
個人的な話をすると、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は、放送当時、最後の数話しか観たことがなかった。今回、第1話から鑑賞し始め、途中第40話をフライングして観て、この原稿を書いている時点で第32話。残りは第40話を除いた17話だ。ここからは、志田さんの出演シーンをじっくり味わいつつ、ゆっくり完走を目指そうと思う。早く観終わってしまったら、もったいない。今は、そんな気分だ。
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】これまで大阪駅は乗り換えで利用した程度でしたが、今回その周辺も含め、初めて見て回って驚きました。新しい、きれい、そして便利!あっち見て「へえー」、こっち見て「ほおー」。完全に“お上りさん”状態でした。
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花と果実のある暮らし in Chiang mai プチ・カルチャー集 Vol.100 ピーチ色のTシャツ
★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」 インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。
3月頭に、タイ人作家さんがやっている草木染めのワークショップに行って来ました。今の時期、満開の花を咲かせているのは、東南アジアに生息し、flame of forest flower(森の炎:鳳凰木)と呼ばれる木。炎と呼ばれるほど、鮮やかなオレンジ色の花で染めるという企画です。そして、その花を持って行くとワークショップ代が無料になりますというキュートなアイデアも!確かにこの時期、道路沿いにオレンジ色の花が落ちてオレンジ色の絨毯のよう、という場面を目にします。リサイクルという意味でもそれを拾って染めができるとは、まだ田舎であるここだからこそ実現可能なアイデアですね。染め自体は何度かやったことはあるのですが、この季節のお花で染めるのは初めて。どんな色になるのか期待ワクワク。早速花を煮たエキスに薄汚れた私の白いTシャツを入れた瞬間、一気にきれいな濃いオレンジ色に染まりました。さてその後、乾かす時間が充分になく、みんな家に持ち帰って干すことに。しかし、帰宅後、すっかり家のゴタゴタに惑わされた私は、ビニールにTシャツを入れたまま寝てしまいました。翌朝起きて慌ててTシャツを出してみるとくしゃくしゃになっていたところがマダラになって、お世辞にもタイダイ染めとも言えない模様に…。
ワークショップにて
穏やかな風景
急いで何度も何度も洗濯をしていくとみるみるうちに色が消えていき、もうどうしようもないくらい薄くなって、ようやくマダラが消えたのでした。「なんだか貧弱になっちゃったなあ。」とがっかりしながらTシャツを干しておいたその日の夕方…夕日の中、乾いたTシャツがきれいなピーチ色に変身しているではないですか。濡れた状態では想像もしなかった、失敗から生まれたピーチ色のTシャツ。この手間のかかった季節色のTシャツは、アップサイクルされたお気に入りの一枚となりました。
ピーチ色のTシャツ
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ)
東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
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明けの明星が輝く空に 第194回:『ウルトラマンF』
今年の1月、仮面ライダーシリーズ初の女性主人公が登場する作品、『仮面ライダーアインズ』の配信が始まった。ならば、ウルトラシリーズも女性が主役の作品がそろそろ出てもいいのではないか?これについては先日、ウルトラシリーズ最初期の2作品に出演した桜井浩子さんに、ご意見を伺う機会(白石雅彦著『「ウルトラQ」の誕生』と『「ウルトラマン」の飛翔』の増補版刊行を記念したトークショー)があった。その際、実写化の候補になるかもしれないとして桜井さんが名前を挙げたのが、小説『ウルトラマンF』だった。
ホラー小説作家として知られる小林泰三氏が書いた『ウルトラマンF』。僕は数年前に読んでいたのだが、正直な話、物語としてどこか消化不良な印象を受けた。ただ、10回以上の連載を想定した内容だった話を、4回分に縮小しなければならなかったという事情があったそうだから、物足りなかったのはそのせいなのだろう。
テレビ番組『ウルトラマン』の後日譚にあたる『ウルトラマンF』には、番組の主要キャラクターたちが登場する。今作品でウルトラマンになるのは、科学特捜隊の唯一の女性隊員、富士明子(『ウルトラマン』での表記はフジ・アキコ)だ。彼女は、『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」で宇宙人によって巨大化させられた過去があるが、今回は巨大化は特殊なナノロボットの仕業だったという設定が加えられた。そして、ある事故が起きてナノロボットが発動。富士隊員は巨大化してしまう。事故が発生したのが科特隊の施設内だった上、巨大化の程度も抑えめだったため、外部に知られずに済んだが、その後の作戦行動中に再び巨大化。その事実は、すでに巨人兵士計画を進めていた、ある国連関係者の知るところとなり、結果として富士隊員はその計画に協力することとなる。
しかし巨大化しても、富士隊員の身体は人間のままだ。ウルトラマンではない。ただ、彼女は特別に開発された巨人兵士用のアーマーを装着しており、それにはどんなエネルギーでも吸収し成長する宇宙生物バルンガの能力が取り込まれていた。そのおかげで、“悪のウルトラマン”、ダークザギの破壊光線を浴びてしまった富士隊員だったが、特殊アーマーと細胞内のナノロボットとの相互作用により、肉体がウルトラマンへと変貌する。
実を言うと、宇宙生物バルンガはウルトラシリーズ第一作、『ウルトラQ』の登場怪獣だ。『ウルトラマンF』には、このほかにもシリーズ各作品の“ネタ”が効果的に織り込まれている。例をもうひとつ挙げると、富士隊員と江戸川由利子が双子の姉妹であるという設定。江戸川由利子は『ウルトラQ』の主人公の一人で、両人物とも同じ俳優=桜井浩子さんが演じていたのだが、小説終盤、双子という設定が生きてくる。富士隊員が人間の姿に戻るための細胞の再構成に、由利子のゲノムが利用されるのだ。
この小説を原作にして、映像作品を作るとしたらどうだろうか?素人なりに想像してみよう。もし映画化するなら、ダークザギらを倒す小説中盤の第3章までが良さそうだ。その理由は、敵の“ラスボス”感が強く、交戦中、偶然にも富士隊員がウルトラマンへと変貌を遂げて敵を倒すという、まさにクライマックスにふさわしい展開だからだ。その後、それぞれ新たな敵が現れる第4章と第5章は、続編という形で分けた方がいいだろう。ただし、敵が小ぶりになった印象がある上、富士隊員の内面の描写が少ない点は気になる。彼女はウルトラマンになろうと思っていたわけではない。結果として通常の人間ではなくなってしまった彼女がどう感じ、何を思うかといったことが、もっと語られるべきではないかと思う。
映像化に際しては、ネックになりそうな問題もある。それは、アーマーが開発される以前の、肉体が巨大化しただけの富士隊員の姿をどう見せるかということだ。小説ではぼかしているが、どうやら裸身のようなのだ。昔から、巨大ヒーローに変身した主人公の服はどうなるのかという問題を、僕ら視聴者は意識の外に追いやってきた。普通に考えれば、ビリビリに破けてしまうだろう。このことを念頭に置いた発言ではなかったが、桜井さんはAIによるフェイク画像の蔓延という近頃の風潮を懸念されていた。ましてや、裸となると…。
もちろん、女性登場人物の描き方で注意が必要なのは、映像の面だけではない。たとえば、富士隊員が理性より感情を優先させたかのように思える行動を取る場面があるが、これは固定化した古い発想の表れだと指摘できるのかもしれない。しかし、全般的に見れば、容姿についての言及がほぼないことや、愛を行動原理にしていないことなどは、男目線からの型にはまった作劇とは一線を画しており、評価されるべきだろう。
小林泰三氏は本作のあとがきで、面白いことを言っている。『ウルトラマン』のファンは怪獣派、ウルトラマン派、そして巨大フジ隊員派(!)に分類できるというのだ。小林氏本人は、もちろん巨大フジ隊員派。そんな派閥があることは初めて知ったが、サブカルチャー界隈では「巨大娘」に萌える人もいるらしい。そう言えば僕も、どちらかといえば背が高いアイドルが好きだった。巨大娘萌え…。もしかしたら、素養があるのかもしれない。
参考:過去記事
第127回:ウルトラ名作探訪3:「バルンガ」
第143回:ウルトラ名作探訪11「禁じられた言葉」
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【最近の私】窓の外にバードフィーダーを吊ってひまわりの種やミカンを置いたら、シジュウカラやメジロが来るようになりました。でもこれも、自然のエサが少なくなる冬の間だけ。小鳥のレストランも、もうじき店仕舞いです。
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