花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集 Vol.72 スポーツ時代到来!?
★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」 インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。
私のタイ人のテニス仲間が、タイのバレーボールチームが優勝した!と興奮気味に話してきました。彼女は会社の同僚とバレーボールをやっていて、今月頭、タイのナコーンラーチャシーマーで行われた第22回アジア女子バレーボール選手権大会でタイが日本や中国を制して優勝したとのこと。
タイでも最近では、昔よりスポーツに関心が集まっています。我が家の近くにはサイクリングチームが立ち寄るカフェがあり、サイクリングの途中で団欒しているスポーツマンたちを多く見かけます。かつてタイのジムといえば、ムエタイジム?!というくらい普及しておらず、ジムに行きたいと言って紹介してくれたのは、公園や村の広場に置かれた錆びれたマシーンたちでした…。しかし、コロナあたりから、室内のいわゆるトレーニングジムができ始め、ジムに併設されているプールで泳ぐ人も増えています。北部チェンマイでは海がないので泳げない人も多いのですが、最近では水泳を習う子どもたちも。昼間は暑いので、タイ人は夕方5時くらいからプールで泳ぎ始めますが、プールは1年中使えるので、将来タイの水泳選手からオリンピックのメダリストが出るのではないかと期待しています。
こうしてみるとタイの日常にスポーツが入りこんできたなと実感します。気候もいいし、スポーツツーリズムも可能性がありそうです。かつての日本のようにタイでも続々と若いアスリートが増えていきそうな予感、これからのアジアの活躍が楽しみです。
村の所々にあるかわいいジム用具
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ) 東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
花と果実のある暮らし in Chiang Mai チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美
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スタントマンは耐死仕様の殺人ドライバー! カート・ラッセルin『デス・プルーフ in グラインドハウス』
【最近の私】Netflixで配信のノルウェー製ドラマ『ミステリーバス』が北欧版『世にも奇妙な物語』みたいで面白かったです。
俳優が似たような役を演じていると、観客から「また同じ役か」というイメージを持たれやすい。だから、俳優は普段と違った、変化球ともいえるキャラクターを演じたりする。今回は、カート・ラッセルが『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)で扮した殺人ドライバーを紹介したい。
『デス・プルーフ』の舞台は、テキサス。あるバーに女性グループが久々に集い、飲みながら恋愛話やいろいろな話題で盛り上がっていた。そんな彼女たちを、見つめている男がいた。この男は、スタントマン・マイク(カート・ラッセル)。自身の車のボンネットに骸骨のマークをペイントしている。数々の映画でスタントマンを務めてきたマイクは、自分がこれまで出演した作品について女性たちに語る。だが若い女性たちに「そんな映画知らな~い」と言われ、ムッとするマイク。おじさんが若い女性に自慢話をしたらフラれるような、笑える場面です。こんな感じで、映画の前半はガールズトークと、スタントマンおじさんの話が延々と続きます。だが、マイクは実は殺人鬼。バーで犠牲者となる若い女の子を探していたのだった。ここから映画は一気にシフトチェンジし、ホラー映画へと雰囲気が変わっていく。
マイクの愛車は、耐死仕様(デス・プルーフ)となっていて、スタントマンが車を運転して危険なアクション場面に挑む時に使うような特別車である。酔った勢いでバーを出る女性たち。マイクは愛車に乗り、暗闇で女性たちを待ち伏せていた。車を走らせながら話に夢中になっているガールズだち。そこに、反対方向からフルスピードでマイクが突っ込んでくる!女性たちは壮絶な最期を迎える。マイクも重症を負ったが、デス・プルーフ車のおかげで死は免れた。
ホラー映画では、殺人鬼がナイフやチェーンソーを持って殺人を繰り返す。だが本作でマイクが使うのは、特別仕様の車である。凶器を自動車にしたのが、この映画のユニークな点である。デビッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』(1996年)で、自動車事故に性的興奮を覚える人物が登場していた。マイクも自身が傷ついても殺人を犯すという、変質的な面が垣間見られる。
カート・ラッセルは1951年マサチューセッツ州生まれ。10代から子役として映画に出演する。『ニューヨーク1997』(1981年)や『遊星からの物体X』(1982年)などのジョン・カーペンター監督作に出演。『バックドラフト』(1991年)では消防士、『デッドフォール』(1989年)では刑事など、タフな役が多い。
『デス・プルーフ』のクエンティン・タランティーノ監督が”物体X”“ニューヨーク”のファンで、彼を起用したという。のちの『ヘイトフル・エイト』(2015年)でも、タランティーノ監督はカートを再び起用している。カートはそれまで悪役(しかも殺人犯)を演じたことはないので、そんな意外なキャラクターを演じさせるのも、映画狂のタランティーノらしいチョイスといえる。
テキサスでの殺人から14カ月後、舞台はテネシー州に移る。この土地に、映画業界で働く4く人の女性たちが集まり、休暇を過ごそうとしていた。そして、ここにもマイクの姿があった。後半では、女性4人組とマイクの死闘となるが、そこからさらに意外な展開になる。その内容はここでは言えないので、未見の方はぜひ観てほしいです。
—————————————————————————————– Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち) 映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。 —————————————————————————————–
戦え!シネマッハ!!!! ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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明けの明星が輝く空に 第164回:ウルトラ名作探訪16 「恐怖の宇宙線」
怪獣は物語の都合上ワルモノにされるが、本能に従って行動する彼らの本質は決して「悪」ではない。反対に、人間の側に正義があるのか問われる場合もある。「恐怖の宇宙線」の主役である子どもたちにとっては、なんとウルトラマンこそワルモノであった。
ある日、ムシバと呼ばれる少年が、土管に怪獣の落書きを描く。彼がガヴァドンと名付けたその怪獣は翌日、現実のものとなって町に出没した。地球に異様な宇宙線が降り注いだことが原因らしい。ただその怪獣は、攻撃を受けても特に反撃はせず、やがて居眠りを始める。手をこまねいて見ているしかない科学特捜隊の面々。やがて日が暮れると、怪獣ガヴァドンは夕闇に溶けるように消えていった。
その夜、ムシバと友人たちが土管置き場に集まり、ガヴァドンを強そうな怪獣に描き直す。しかし、翌朝、再び出没したガヴァドンは相変わらず寝てばかり。それでも、ただいるだけで日本の経済活動はストップしてしまう。巨体から発するイビキが強風や騒音を生んでしまうからだ。3度目の出現の際、ついに戦車部隊による攻撃が始まった。ウルトラマンも登場するが、ガヴァドンへの攻撃に抗議していたムシバたちからは「帰って」という声が上がる。ウルトラマンがガヴァドンと戦う間、子どもたちはずっと口々に「殺さないでよー」、「やめてくれよー」といった声を上げ続けていた。
ガヴァドンは結局、ウルトラマンに抱え上げられ、空の彼方へと姿を消す。その夜、ムシバたちが空を見上げていると、ウルトラマンの声が聞こえてきた。毎年七夕の星空の中で、ガヴァドンに会えるようにしよう、というのだ。その言葉を聞いて喜ぶかと思いきや、「雨が降ったらどうなるんだよぉ」と不満げなムシバ。夜空にぼんやり浮かんだガヴァドンの目から、星が流れ落ちた。
おそらく、子どもたちに帰れと言われた特撮ヒーローは、この時のウルトラマンだけだろう。ウルトラマンのヒーロー性を否定したとも言える本作は、番組のコンセプトを覆す危険性をはらんだ作品だった。監督は、ウルトラファンなら知らぬ人はいないという鬼才、実相寺昭雄監督。脚本を書いた佐々木守氏とのコンビで撮った6本の作品は名作揃いだが、このようにヒーロー番組の王道から外れたものが多い。
そもそもガヴァドン自体、従来の怪獣のパロディと取ることができる。なにせ凶暴性はゼロ。攻撃されても反撃せず、寝てしまうのだから。そしてパロディ化は、科学特捜隊にも及んでいる。作戦会議でイデ隊員が、夜の間にガヴァドンの落書きを消してしまえばいいと妙案を出した場面だ。同僚のアラシ隊員は「科学特捜隊が落書きを消しに行けるか」と突っぱね、ムラマツ隊長も我々は正々堂々と戦うと大真面目に宣言するのだ。明らかにイデの意見の方が正論なのだが、ムラマツらは科特隊のあるべき姿に固執してしまっている。これは、マンネリ化した「怪獣出現→科特隊出動→攻撃」といった番組のフォーマット(常識)に対する皮肉なのだろう。
一般論として、常識や王道が大人のものとすれば、そこから外れるのが子どもである。作戦会議でのやりとりの後、場面が変わって夜の土管置き場。ムシバたちが集まってきていた。彼らは厳しい親の目を盗み、夜だというのに外出してきたのだ。常識的な親は子どもの安全を考えて夜の外出を禁ずるが、子どもからすればそれは束縛だ。そんな彼らにとって、絵という二次元の束縛から解き放たれたガヴァドンは、自由の象徴だったに違いない。いや、さらに言えば、ガヴァドンは子どもたち自身なのかもしれない。考えてみて欲しい。なぜガヴァドンは、日が落ちると姿を消す怪獣なのか。その設定のウラには、どんな意図があるのか。それはおそらく、夕方家に帰る子どもたちのメタファー、あるいはカリカチュアだからなのだ。
物語は最後に、大人と子どもの対比を描いて幕を閉じる。科特隊の面々が訪れた公園で、大勢の子どもたちがコンクリートの地面に絵を描いていた。中には怪獣の絵を描いている子もいる。再び特殊な宇宙線が降り注ぎ、第2、第3のガヴァドンが出現しないとも限らない。「自分の好きなものを描く自由は子どもたちにある」というナレーションが流れる中、困惑するハヤタ隊員(ウルトラマン)やムラマツ隊長らの姿があった。
「恐怖の宇宙線」におけるウルトラマンは、ムシバたちから見ればヒーローでも超人でもなく、大人たちの1人に過ぎなかった。普通なら感動的な場面になったであろう、七夕にガヴァドンと会えるようにしようと語りかけたところでも、「雨が降ったら」という“ツッコミ”を入れられてしまい、まったく立つ瀬がない。こんなふうにウルトラマンを揶揄してしまった実相寺監督は、自らの作品を「直球」ではなく「変化球」だと表現している。訳あってTBS局内で“干されていた”のだが、『ウルトラマン』で登板。番組を撮りたくてウズウズしていたのか、「恐怖の宇宙線」からは人と違ったことをしてやろうといった意気込み、自己主張のようなものが感じ取れる。そして、そんな監督の企みからは、たとえウルトラマンといえども逃れられなかったのである。
「恐怖の宇宙線」(『ウルトラマン』第15話)
監督:実相寺昭雄、脚本:佐々木守、特殊技術:高野宏一
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。 【最近の私】大学の後輩に誘われ、数年ぶりに劇場で芝居を観ました。舞台の演技は映画・テレビと全然違うもんだなあと、今さら気がつきました。でも一番驚いたのはチケット代。観劇って贅沢な趣味なのだなあ。
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明けの明星が輝く空に 改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集Vol.71 ようやくグリーンカレー
★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」 インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。
先日、最近仲良くなったタイ人のお家にお呼ばれしました。フランス人の旦那さんだけあって、洋風の一軒家でのパーティー、と言ってもとてもカジュアルで居心地もいい。そこで出されたのが、タイカレーの定番、ゲーンキアオワーンでした。日本でも馴染み深い、グリーンカレー。好き嫌いが分かれる一品です。正直、私は長くタイにいるのに、ゲーンキアオワーンが苦手な方で、出されたものは食べるものの、自ら食べることはありません。が、その夜食べた味は、なんともクリーミーで、今まで食べたことのないものでした。その味が忘れられず…。
スーパーにいろいろなカレーペーストが並んでいるので、後日彼女に、どのブランドを使っているか聞いてみました。すると答えは、市場で売っている何種類ものハーブを石臼で叩いたものだという! ハーブにはグリーン唐辛子、レモングラス、こぶみかん、クミン、コリアンダーなどが入っていて、お店の端に2、3袋置いてありました。さっそくそのペーストを買ってみると…フレッシュで香りもよく、とてもさっぱり。そして最後に以前記事にしたフアガディ(https://www.jvta.net/co/hanatokajitsu-petit51/ )、つまり一番出汁ならぬ、一番ココナッツクリームでリッチ&クリーミーに仕上げるのです。あの夜、家庭料理の凄さを改めて実感。一品に対する価値観がガラリと変わり、私の人生にようやくグリーンカレーが入ってきたのでした。
初挑戦!濃厚リッチなGreen curryに仕上がりました。 パートナーからもゴッドライク!
市場に売っているカレーペーストや食材
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ) 東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
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やさしいHAWAI’I 第78回 聖なる妻ケオプオラニ(2)
【最近の私】久しぶりにコロナから少し解放された夏休み。次男一家の双子の孫が愛知からやって来て、長男一家と全員集合。近くの回転すしで大いに盛り上がりました。
前回はケオプオラニの、公になっている一般的な情報を紹介しました。しかし、私は何となく不満でした。どの資料を読んでも、ほぼ同じ表面的な内容だったのです。これではまるで、あの血の通っていない肖像画のようなものです。どこかにもう少し“人間ケオプオラニ”について書かれているものがないか、さらに調べを進めていったところ、ある文献に遭遇しました。
ハワイ州には、ハワイ、ポリネシア文化に関する州最大のビショップ博物館があります。そのアーカイブにデビッド・マロの自筆のエッセイが、長い間誰の目にもさらされず保管されており、それをハワイ大学の言語学、および人類学の研究者であるCharles Langlas と Jeffrey Lyon が、発見。マロの手書きのハワイ語を英語に翻訳し、さらに歴史学者のサミュエル・カマカウ、ジョン・パパ・イイ、エスター・モオキ二、文化人類学者のリネキン、そして宣教師の一人リチャーズなどの見解と比較検討し、『David Malo’s Unpublished Account of Keopuolani』というタイトルで、The Hawaiian Journal of History vol. 42 (2008)に掲載していたのです。
以前にも書きましたが、デビッド・マロは、サミュエル・カマカウやジョン・パパ・イイなどと共に、古代ハワイの歴史に関する著名な学者で、初代ハワイ歴史協会の会員でもありました。彼のエッセイが誰の目にもとまらずビショップ博物館のアーカイブに長い間保存されていたこと自体、大変不思議なのですが、私はその内容(英訳された文献)を読んで、衝撃を受けました。実はこれはビショップ博物館が、あえて公にはしたくなかったのではないかとさえ感じたくらいです。
古代ハワイの文化歴史は、現代の我々の感覚では遠く理解できない部分があり、価値観も全く違います。マロは、ケオプオラニの生活のすぐそばにいたし、彼女の教師でもありました。また娘のナヒエナエナに英語を教えていましたから、ケオプオラニの人生を熟知していたことは事実でしょう。そしてマロはそれをエッセイとして綴っていたのも事実でしょう。しかし1842年に彼が書いたこの文献がハワイ歴史学会で公になることを、マロ自身は望んでいなかったのではないかと思うのです。
この協会宛てに、彼は手書きでこう書いています。(原文はハワイ語)。
Attention you people of the association. I’m feeling too ill to attend the conference at which this account of Keopuolani would probably have been presented.
(協会のメンバーへ。私は大変気分がすぐれないので、ケオプオラニに関するこのエッセイが提出されたであろう会議には、出席いたしません 扇原訳)。
では一体どんなことが書かれていたのか。
エッセイには、ケオプオラニとカメハメハとの生活に関しての詳細な情報や、身近な人間でないと知り得ない、プライベートなことが書かれていました。中でも私が最も辛いと感じたのは、マロが、ケオプオラニは合計14人から17人の子供を産んだ可能性があると語っていたことです。これはいったいどういうことなのか。
カメハメハは知られているだけで20人前後の妻と呼べる女性がいました。これは特別なことではなく、歴史に登場する国のトップは一般的に、周囲に多くの女性を抱えていました。主な理由は確実に世継ぎを得るためです。ですから、カメハメハに多くの子供がいるであろうことは想像がつきます。ただカメハメハの場合は、たった一つ自分に欠けていた高貴なランクの血筋を強く求めており、ひたすらケオプオラニという、神に近いランクの女性に子供を産ませたかったわけです。
しかし当時は生まれてきた子供が無事大人に成長できる確率は大変低かったのです。新生児を健康に育てる衛生上の知識の欠如、西洋人が運び入れた様々な感染症、そして近親相関を続けてきたことによって、なかなか健全な子供が生まれてこなかった、などの理由が考えられます。世継ぎが生まれても、もしものためにさらにもう一人・・・そんな風に次々に身ごもっても、おそらくほとんどの子供が死産や未熟児となって成長半ばで命を落としたのでしょう。(カメハメハ三世も大変体が弱く、ようやく育ったと言われています)。それにしても人生でこんなに多くの子供を身ごもったということだけでも、彼女がハワイ王国でどのような存在であったかは、容易に推測できます。
今回このマロのエッセイを読んで、私はハワイ王国の華やかなカメハメハ大王の陰で、聖なる妻と呼ばれたケオプオラニの実際の人生を知りました。彼女は人間として、女性として、幸せを感じたことがあったのでしょうか。そんなことが、脳裏から離れませんでした。一般的な情報として、ケオプオラニは病弱であった、とあります。それは当然のことだったでしょう。
ただ一つ、彼女には真の夫と呼べる男性が存在したことは救いでした。彼の名はカラニモクといい、大変有能な人物で、カメハメハ一世、二世そして三世の前半の期間、ハワイ国の首相のような立場でした。言語も達者でビジネスにも長けており、ハワイにいた西洋人に高い評価を受けていた人物です。当時ハワイでは、高位の首長は世継ぎを産んだ妻に、自分に忠実な部下を第二の夫として与えることが一般的でした。そうすれば、反乱を起こされる可能性が低くなるからです。(ただ、なぜかカメハメハはカアフマヌが第二の夫を持つことは決して許さなかったそうです)。ケオプオラニにはカラニモクと同時に、ホアピリという夫もいましたが、宣教師から、夫は一人でなくてはならないと諭され、ホアピリを最後の夫と決めて、死ぬまでともに過ごしました。(なぜカラニモクではなくホアピリを選んだかの理由は、どこにも記されていませんでした。ただカラニモクは大変もてる男性で、妻も大勢いたという記述がありました)。
ケオプオラニは後に体調を崩し、何度か死線をさまよい、ついに45歳でこの世を去りますが、皮肉なことに死ぬ間際に、ようやく生きることへの光をキリストに見出すのです。そして神の御名の下ハリエットという洗礼名を授かり、自分の真実の愛をキリストに奉げると誓いました。さらに、娘のナヒエナエナに自分が今まで従ってきたハワイの宗教は間違っていた、これからはキリスト教の教えに従って生きるようにと、強く言い残しました。ただこのことが、ナヒエナエナに再び悲劇をもたらすのです。
次回はそのことについて語りたいと思います。
かぐわしい香りのホワイト・ジンジャーの花 私のケオプオラニのイメージの花です 出典:近藤純夫『ハワイアン・ガーデン』楽園ハワイの植物図鑑
【参考文献】
・アロハプログラム
https://www.aloha-program.com/
・https://www.ubcpress.ca/charles-langlas
・https://hawaiibookandmusicfestival.com/charles-langlas
・https://artmuseum.williams.edu/event/making-material-histories-a-close-look-at-19th-century-hawaiian-language-texts-in-the-williams-archives/
・file:///C:/Users/aogih/Downloads/Davida_Malos_Unpublished_Account_of_Keop.pdf
・https://artmuseum.williams.edu/event/making-material-histories-a-close-look-at-19th-century-hawaiian-language-texts-in-the-williams-archives/
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Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
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やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。
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森のクマさんがコカインで大暴れ! 『コカイン・ベア』の予告編
【最近の私】Netflixのドラマシリーズ『キングダム』を観ました。評判通り、面白かったです。続きが作られるといいですが。
動物が人間を襲うパニック映画は、今まで数多く作られている。2000年代以降では、『クロール ―狂暴領域―』(2019年)のワニ、『ビースト』(2022年)のライオン、『MEGザ・モンスター』(2018年)の巨大サメなどが登場してきた。今回は動物パニック映画の新作『コカイン・ベア』(2023年)の予告編を紹介したい。
予告編は、飛行機から数百万ドルのコカインが落とされるというニュース場面から始まる。
物語の舞台はジョージア州。「ある~日、森の中♪」のBGMが流れる中、少女が森の中で、あるものと遭遇する。それは、ハイになったクマだった!
この映画は、実話を基にしている。FBIに追われていた密売人が投げ捨てたものだった。コカインの入ったバッグを飛行機から落として、自分もパラシュートで降りようとしたが死亡してしまう。密売人が落としたコカインをクマが食べてしまったという。ちなみに、コカインを食べたクマは、剥製にされてケンタッキー州のショッピングモールに展示されることになった。「実話を基にした映画』は山ほど制作されているが、元警察官が密売人になったり、クマが剥製にされてショッピングモールに飾られたりするなど、どこまで映画化されているのか、興味がわきます。
予告編に戻る。コカインの持ち主だったマフィアたちが、落としたコカインを探しに森に行く。だが、マフィアの目の前で、クマがコカインを食べてしまった。ハイになったクマは、森の中を走り、看板をぶち破り、森で居合わせた観光客、子どもたち、さらに森林警備隊もまきこむ騒動に発展していく。人間たちは、クマから逃げ切ることができるのか。
クマを主人公にしたパニック映画は『グリズリー』(1976年)から始まったと思われる。近年では『パディントン』(2014年)もありますね。また人気キャラが著作権フリーになったことから、まさかのホラー映画『プー あくまのクマさん』(2023年)が制作された。一時期、サメを主人公にした『シャークネード』(2013年)や前述の『MEG』などが量産されていたが、これからはクマ・パニック映画が流行るのですかね。
『コカイン・ベア』の監督はエリザベス・バンクス。もともとは俳優として『ブッシュ』(2008年)や『ハンガー・ゲーム』(2012年)など数多くの映画に出演している。また監督として『チャーリーズ・エンジェル』(2019年)を手がけている。バンクスは本作を「コーエン兄弟と『死霊のはらわた』(1981年)が出会ったよう」とコメントしていることから、これからもコメディやホラー映画の路線を進むと思われる。また記事によると、彼女は『コカイン・ベア』の続編にも乗り気みたいです。
出演陣にも注目したい。人気テレビシリーズ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』(2013~2018年)のケリー・ラッセル、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)でハン・ソロを演じたオールデン・エアエンライク、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)のオシェア・ジャクソン・Jrなどが顔をそろえている。また、2022年に亡くなったレイ・リオッタが、マフィアのボス役で登場するのも注目だ。『グッド・フェローズ』(1990年)や『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)からファンだった自分には、彼が出ているだけで観に行きたくなります。
ウソのような本当の話を映画化した『コカイン・ベア』については、アメリカで公開する前からSNSで話題になっていた。日本公開を望むファンもいたが、本当に日本で劇場公開というのも、まさかの展開ではある。クマ対人間の戦いが、どんな結末を向かえるのは、劇場で確認してきます!
今回注目した予告編:『コカイン・ベア』 監督:エリザベス・バンクス 出演:ケリー・ラッセル、オールデン・エアエンライク、オシェア・ジャクソン・Jr、レイ・リオッタ 2023年9月29日より公開 公式サイト:https://cocainebear.jp/
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明けの明星が輝く空に 第163回:夢幻のヒロインたち2:ヒロミ(ハチオーグ)
登場作品:『シン・仮面ライダー』(2023年)
キャラクター設定:SCHOKER上級幹部構成員、洗脳した人々を町ごと支配する
ヒロミは、いわゆる“悪のヒロイン”だ。本作のヒロインである緑川ルリ子が、まだSHOCKERに所属していた頃から2人は知り合いで、敵対する今も「ルリルリ」と親しみを込めて呼ぶ。しかしその一方で、過去を捨てたかのように、自分はもうヒロミではなくハチオーグだと名乗る。
黄色の着物に黒の打ち掛け姿。日本刀の収集が趣味だという彼女は、若いヤクザ風の男を1人、さらにSHOKCERの構成員たちを数多く従えている。といっても、“女親分”のイメージではない。どこか少女の面影を残す若い女性で、おっとりとして上品な物腰は、良家のお嬢様のようだ。最初の登場場面では、モーツァルト『ディヴェルティメント第17番ニ長調K.334第3楽章』が流れるのだが、「上品」「優雅」といった雰囲気の曲が選ばれたのは、もちろん彼女のイメージ構築という演出意図のためだろう。
その人物造形をより明確にするためか、映画には対照的なもう1人の悪のヒロイン、サソリオーグが登場する。こちらは、女性アクションキャラクターの古典的類型、“見世物としてのエログロ”そのものだ。赤と黒のロングドレスのスリットから、黒ストッキングに包まれた脚を見せてエロスを強調し、白いマスクには立体的なサソリの意匠が施され、興奮するとその尻尾がグルグル回ってグロテスクを演出する。さらに彼女は人を殺しながら「エクスタシー」と叫びながら狂気と恍惚の表情を浮かべるなど、異常性が際立つキャラクターだ。
ただし、ヒロミにしても上品さの裏に禍々しさを秘めていた。それが明らかになるのは、彼女が幸福について語る場面だ。彼女は穏やかに、そしてどこか嬉しそうに、人々を支配することが自分にとっての「ささやかな幸せ」であり、服従こそ奴隷にとっての幸せと言い切るのだ。
モーツァルトに日本刀という不釣り合いな組み合わせも、不穏さを匂わせる仕掛けではあるが、むろん刀はヒロミにとって単なる部屋の飾り物ではなく武器だ。そして、刀を使った彼女のアクションシーンは外連味に溢れ、観る者を魅了する。戦いの直前、着物の裾を払って脚をのぞかせ、任侠映画ばりに片肌を脱ぐ。ただし、素肌は曝さない。着物の下は黒のボディスーツ。それに黒い手袋とブーツを合わせた姿が演出するのは、エロスではなくスタイリッシュさだ。
ボディスーツは蜂の巣をモチーフにした六角形の模様に覆われ、忍者の鎖帷子を連想させる。そして手下の男と2人で本郷猛(仮面ライダー)と戦う際、まさに忍者のように刀を構え、腰を低く下ろしてタメを作る。カメラは両者を後方からのローアングルで捉え、緊迫感と勢いのあるBGMが流れる。俳優の肉体、画角、音楽が生む躍動感への期待。実に見事だ。
ヒロミは、ハチオーグ変身後の言動も魅力的だ。仮面ライダーに変身した本郷にも刀を持たせ、「これで得物も同じ」とフェアな戦いを望む姿勢を見せ、気負わず静かに「では、参る」のひと言。まるで時代小説に出てくる剣豪のようではないか。
実はこの戦闘の前後で、ヒロミの生々しい感情が露わになる。ルリ子のためにも投降してくれと本郷が言ったとき、彼女は「むしろ、それ逆効果。私はルリ子を泣かせたいの」と、冷たい笑みを含んだ顔をルリ子に向けた。そして仮面ライダーとの激しい戦闘中も、彼女の意識はルリ子に向けられたままだ。攻撃を繰り出しながら、「あなたのオモチャを目の前で壊してあげる。だから泣いて!」、「私のせいで悲しんで!傷ついて!切なくなって!お願い!ルリ子っ!」と叫び、それまで抑えられていた負の感情が一気に吹き出した。
ヒロミはルリ子に対し、歪んだ愛情を抱えていた。それが公式の人物設定だが、その理由について映画内では語られない。ルリ子がSHOCKERを裏切ったことを知り、自分も裏切られたと感じたのだろうか。あるいは、それ以前から憎しみのような感情を抱いていた可能性もある。“生体電算機”として人工子宮から生まれたルリ子は、おそらく組織内で優秀な存在だったろう。同じく人工子宮から生まれたヒロミだが、ルリ子に対する劣等感のようなものがあったのか。支配欲の強いヒロミはそれを受け入れられず、自分の思い通りにならないルリ子を憎んだ。だから泣かせたい。そうすればルリ子を支配したことになる。そんな心理が働いたのかもしれない。
結局、ヒロミは本郷に敗れるが、ルリ子の思いを汲んだ本郷は彼女を殺さない。自分に死んで欲しくないというルリ子の思いを知ったヒロミは、思い詰めたような目でルリ子を見つめる。2人はきっと和解できる。そう思えた瞬間、銃声が轟いた。第三者(政府の人間)が介入したのだ。倒れたまま、何かを訴えるようにルリ子を見つめるヒロミ。ルリ子が慌てて駆け寄ると、「残念。ルリルリに殺して欲しかったのに」という言葉を残し、彼女は息絶えた・・・。
2人の関係は、『週刊ヤングジャンプ』で現在連載中の漫画、『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKERSIDE-』で明かされる可能性が高い。映画の前日譚を描くこの作品には、まだ少女のルリ子も登場する。やがてヒロミについても描かれるだろう。ただ個人的には、2人の過去を知りたくないという気持ちも強い。謎は謎のまま。その方が楽しいこともある。
—————————————————————————————– Written by 田近裕志(たぢか・ひろし) JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。 【最近の私】文芸翻訳者の越前敏弥さんが、通訳者の橋本美穂さんをゲストに迎えて開いた講座に(朝日カルチャーセンター)出席しました。「通訳は瞬発力」という橋本さん。そのために必要なことは結局翻訳にも言えることで、刺激を受けました。それにしてもエネルギッシュな人です。だからこそ、ピコ太郎のライブの同時通訳も務まったのだと納得。
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明けの明星が輝く空に 改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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やさしいHAWAI’I 第77回 聖なる妻ケオプオラニ(1)
【最近の私】9月には2週間ゆっくりとハワイを楽しむ旅をする予定でしたが、突然事情が許さなくなり涙を呑んで諦めることに。でも来年は必ず夢をかなえます。
今回はカメハメハにとって、どうしても必要な人物であった「聖なる妻」ケオプオラニについて語りたいと思います。
ケオプオラニの肖像画 出典:「アロハプログラム」
上記は、私の知っている限りで唯一の、聖なる妻と呼ばれたケオプオラニの肖像画です。あまりに型にはまった無表情な姿は、前回取り上げた表情豊かなカアフマヌのスケッチ(下2枚)と比較すると、ほとんど人間味が感じられません。
なぜでしょうか?
カアフマヌの肖像画 出典:アロハプログラム
カアフマヌの肖像画 出典:「アロハプログラム」
1778年、キャプテンクックが初めてハワイを訪れて以降、1820年代にかけて、多くの西洋人がハワイへやって来ました。目的は様々でしたが、その一つに当時ハワイに自生していた白檀(サンダルウッド)があります。西洋人は、中国では高額で売れることに目を付け白檀を乱伐する一方で、ハワイは西洋人との取引からわずかな収益しか得ていませんでした。王国は西欧諸国から、船、武器、酒などを買い付け負債が徐々に膨大となり、それを補うためにさらに白檀の伐採が加速し、ついには枯渇して白檀貿易は終焉を迎えます。
これらの貿易商人のほかに、ハワイには捕鯨船員や探検家など多くの西洋人が集まりました。その中には画家もやって来て、興味深いハワイ人の生活や文化を紹介するために、多くのスケッチを描きました。対象となったのは、カメハメハ大王、カアフマヌ、その他の王室のメンバーでしたが、画家たちはなぜかケオプオラニにはあまり関心を抱かなかったと言われます。(それゆえ、彼女の肖像画は私の知る限り、上記に示したわずか一枚です)。いえ、実は関心がなかったのではなく、ケオプオラニの姿を見る機会を与えられなかったのが、その理由だったのです。それはいったいどういうことだったのでしょうか。
前回、カメハメハ大王にとって重要な存在であったカアフマヌについて書きました。身の丈1.8メートルで極めて美しく、大きな野心をかかえ、新しいハワイへのゲートを開く役目を果たした、カメハメハが最も気に入っていたカアフマヌ。カメハメハの死後、摂政として力を持ち、古いカプ(タブー)や従来の信仰を捨て、亡くなる間際に自らキリスト教徒となったカアフマヌ。彼女は表舞台で大いにその存在感を示しました。西洋人もこぞって彼女と接触を持ち、この興味深い女性の肖像画も多く描かれました。
そんな彼女の陰のような存在でありながら、カメハメハ大王にとってはどうしても必要であった女性、それは「聖なる妻」と呼ばれていたケオプラニという人物です。私はカアフマヌに強い関心を持っていましたが、さらにこのケオプオラニという女性が、一体どのような人物であったのか、カメハメハの下でどんな人生を送ったのか、大変興味を持っていました。彼女に関する情報は、カアフマヌよりさらに限られますが、その中で再び、私なりの彼女の姿を映し出してみたいと思います。
まずは何をもって「聖なる妻」と呼ばれたのか。
ケオプオラニは、キャプテンクックがハワイを初めて訪れた1778年に生まれました。彼女の先祖をたどると、父はハワイ島の大酋長、母はマウイ島の大酋長の血筋で、ついには神に繋がるほどの高貴な家系でした。古代ハワイでは、高貴な生まれを継続させるために、親族内での結婚が勧められ、とくに兄妹の間の結婚は最もステータスが高い結婚とされていました。ケオプオラニの両親は、それぞれ高貴な血筋である上に、母親が同じ人物で父親が違うという関係(これをNiau-Pio ニアウ・ピオと言います)であったため、その高貴な生まれはさらに神々と同じくらい崇高であると見なされたのです。この最高ランクのステータスは、子孫にまで受け継がれていきます。
当時のハワイの社会で最高ランクの立場にいたケオプオラニは、あまりに高貴なためSacred と呼ばれ、多くのカプ(タブー)を持っていました(これが「聖なる妻」と呼ばれた所以です)。彼女の前では誰もが、たとえカメハメハでさえも上半身の衣類を脱ぎ、地面にひれ伏さなくてはならず、直接その姿を目にすることはできません。また、太陽が彼女を照らし、そこに現れた彼女の影を踏んだ者は死刑となり、焼き殺されました。(これをカプ・モエといいます)
そんなカプを持っているケオプオラニの人となりは、実は優しく穏やかで、自分ではカプを厳しく守っていましたが、人民がカプを破ることに対してはとても寛大でした。それゆえ自分の影を踏んだものが死刑になることを避けるために、日中人前に出ることはほとんどなく、西洋人は彼女の姿を目にする機会がなかったのだろうと推測できるのです。
戦略に長け、大きく勢力を伸ばしていたカメハメハにとって、ハワイ諸島の統一は目前でしたが、ただ一つ欠けていたことがあります。カメハメハの家系のランクはそれほど高くなく、今後ハワイ国王の地位を継続していくためには、より高貴な存在となる後継者をつくることが必要でした。それには高貴な家系の女性を妻とすることが必須であり、それも処女でなくてはなりません。生まれてくる子供は明確に国王の血を引いていることが証明されなくてはならなかったのです。
1790年、カメハメハは、ハワイにやって来た西洋人から船、銃、そしてそれを操ることのできる西洋人の船員を手中にし、勢力を増強してマウイ島を攻撃し始めます。マウイの首長カヘキリは破れ、その一族だったケオプオラニ、彼女の祖母、母親の3人はカメハメハにとらえられます。その時ケオプオラニはおよそ12歳でした。カメハメハがハワイ諸島を統一し国王になるために、最も必要としていた高貴な血筋。それはケオプオラニを妻にすることによって得ることができることを、カメハメハは十分知っていたのです。
記録を調べると、ケオプオラニには3人の子供がいたと記されています。(第一子は未熟児で生後まもなく死亡し、子供の数には入っていません。また第ニ子が未熟児で死亡したという説もあります)。1797年男児を出産。リホリホと名付けられ、後のカメハメハ二世となります。それから17年の間をおいて、1814年カウイケアウオリ(後のカメハメハ三世)、翌年には娘のナヒエナエナが生まれました。
1820年には宣教師が初めてハワイを訪れ、布教のためハワイに滞在する許可を求めてきました。大半の首長たちは反対しますが、ケオプオラニは快く許可し、その後宣教師、そしてキリスト教の影響を強く受けるようになります。
1823年に体調を崩したケオプオラニは宣教師を伴ってマウイ島に移り住み、娘のナヒエナエナと過ごします。自分の死を予感したケオプオラニは、カメハメハ二世となっていた息子のリホリホに、父親のカメハメハが大切にしていたハワイの国民と土地をしっかり守り、宣教師たちと友好な関係を続けること、もう一人の息子カウイケアウオリと娘のナヒエナエナにはキリスト教の教えに従い、キリストを神として愛することを強く指示しました。死の間際には自らもキリスト教に改宗し、ハリエット(宣教師の一人、スチュワートの夫人の名前)という洗礼名を授かり、自分が死んだのちは、古代ハワイの葬式ではなく、キリスト教のやり方にのっとって葬儀を行うように言い残します。そしてついに1823年9月45歳で亡くなりました。
ケオプオラニに関する資料は、どれを読んでもほとんど上記と同じようなことが記されており、表面的な情報のみで、何か物足りなさを感じました。きれいごとを並べただけで、ケオプオラニの人間として生きた証のようなものが感じられなかったのです。
そこで、さらに調べていたところ、驚くような文献が現れたのです。次回はそのことに関して書きたいと思います。
【参考文献】
・アロハプログラム
https://www.aloha-program.com/
・Hawaiian Dictionary by Pukui
・『Keopuolani, Sacred Wife, Queen Mother, 1778-1823』 by Esther T. Mookini
・『History of the Sandwich Islands』 by Anderson Rufus
・『The Sacred Wife of Kamehameha I Keopuolani 』
The Hawaiian Journal of History #5
・『The overthrow of the kapu system in Hawaii 』
The journal of the Polynesian Society
・『Memoir of KEOPUOLANI, Late queen of the sandwich islands』
by Richards William
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Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
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やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。
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花と果実のある暮らし in Chiang Mai プチ・カルチャー集 Vol.70 散髪ボランティア
★「花と果実のある暮らし in Chiang Mai」 インパクト大の写真をメインにタイのリアルなプチ・カルチャーをご紹介しています。
50歳を目前にしたタイ人の友人が今散髪の学校に通っていると聞いたのは、ちょうど3カ月くらい前のことでした。タイでは美容師は国で守られている職業で、タイ人以外は基本的にはこの職に就けないそうです。彼女に会うたびに、学校はどうかと聞くと、早々に実習をしているというのです。面白いことに、彼女たちの実習は、チェンマイ市内の川沿いの道路脇などで、ボランティアで行っているというではないですか。本当の意味での実習です。あまりうまく切れなかった時は、先生が最後に直してくれるそう。もちろん、お金を払わないのでお客さんも文句は言わないそうです。ある日川沿いをドライブしていたら、本当に数人の男性が椅子に座り、屋外で髪を切ってもらっているではないですか! なんだかとてもプリミティブですが、楽しい場面を見て嬉しくなりました。彼女はようやくコースも終わり、今後は入院療養中で美容院に行かれない人たちの髪を切りにいくのが夢だそう。人生後半に素敵な夢を持つ友人がとても眩しく見えました。
自宅の軒先で髪を切る風景
理髪店の看板
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Written by 馬場容子(ばば・ようこ) 東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。 —————————————————————————————–
花と果実のある暮らし in Chiang Mai チェンマイ・スローライフで見つけた小さな日常美
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時代を超えた敵役 トーマス・F・ウィルソンin『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
【最近の私】もうすぐ『ミッション:インポッシブル』新作が公開です。予告編や特別映像を観ながら、楽しみにしています。
今年の夏は『インディ・ジョーンズと運命のダイアル』(2023年)が公開されるなど、80年代の映画シリーズの続編が制作されている。とはいえ、(個人的には)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985~1990年)は、おそらく続編は作られないだろうと思う。今回はこの作品でトーマス・F・ウィルソンが演じた、主人公を苦しめる敵役を紹介したい。
物語の舞台は1985年のカリフォルニア州のある町。主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)は、地元の学校に通う高校生だ。マーティは親友のブラウン博士・通称ドク(クリストファー・ロイド)がスポーツカーを改造して作ったタイムマシンに乗って、彼だけが1955年にタイムスリップする。マーティは1955年に存在するドクを探し、現代に戻ろうとするが、ここで問題が発生する。1955年はマーティの父親ジョージと母親のロレインが結婚するきっかけになった年だった。両親が出会うきっかけの場所にマーティが居合わせたことで、ロレインはジョージではなくマーティを好きになってしまう。このままではマーティが生まれないことに…。マーティは何とかして両親をカップルにすべく奮闘し、ドクの協力を得て現代(1985年)に戻ろうとする。
ここで1985年と1955年に登場するのが、ビフ・タネン(トーマス・F・ウィルソン)だ。ビフとジョージは高校の同級生。高校時代からジョージをいじめていて、その関係は大人になっても変わらない。映画の冒頭の1985年では、ビフがジョージから借りた車をぶつけて壊してしまうが、ビフは弁償しようともしない。気弱なジョージは、ビフに文句が言えない。そんなふがいない父親をみてしまうマーティ。
1955年にタイムスリップするマーティは、そこでもビフとジョージの関係が現在と変わらないことにがっかりする。しかもビフはジョージと結婚するはずのロレインが好きで、何かと彼女に手を出そうとする。マーティはビフの妨害から逃れながら、何とかして両親を恋人同志にして、運命を元に戻すことができるのか。
シリーズ第1作目『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)の魅力は、主人公のマイケル・Jフォックスやドク役のクリストファー・ロイド、そして彼の両親を演じたクリスピン・グローバーとリー・トンプソンなど、俳優たちが見事にキャラクターにはまった点だろう。さらにウィルソンが演じたビフも、憎らしいだけではなく、ユーモアを加えて、だだの悪役にしなかったところもポイントが高い。この作品を観ると、俳優が適役を演じるのは、作品にとっても、俳優にとても重要なのだと感じる。
これは有名な話だが、もともとマーティはエリック・ストルツが演じる予定だった。実際に撮影も5週間ほど進んでいたが、彼が演じることに違和感を持った監督たちが、マイケルに変えたという。エリックもこの役に合っていたと思うが、今ではマイケル以外の配役だったら、続編が作られていたかどうかわからないだろう。
ビフを演じたトーマス・F・ウィルソンは、1959年生まれ。俳優を志し、80年代はTVドラマ『ナイトライダー』などに出演する。そして彼の人気を決定づけたのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで演じたビフだ。その後は映画や数々のドラマにゲスト出演、またアニメの声優も務めている。
『『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は何回も観ているが、これからもマーティやドク、そしてビフに再会するために、見続けるだろう。それだけ完成度が高いシリーズだからこそ、続編はいらないのだと強く思います。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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