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明けの明星が輝く空に 第113回:特撮俳優列伝20 吉田義夫

明けの明星が輝く空に 第113回:特撮俳優列伝20 吉田義夫
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【最近の私】先日『チコちゃんに叱られる!』で、スペシウム光線のポーズが取り上げられていた。街頭インタビューを受けたサラリーマンたちが真似をするのだが、正確にできる人がほとんどいない。若い世代ならともかく、中高年でできない人たちには、”猛省”を促したい!

 

野球ファンが「ヨシダヨシオ」という名前を聞けば、阪神タイガースのレジェンド、吉田義男さんを思い出すだろう。今回紹介するのは「義男」ではなく、「義夫」。特撮作品以外にも、時代劇や『男はつらいよ』シリーズなど、多くの映画やテレビドラマに出演した吉田義夫さんである。

 
吉田さんは、元高校の美術講師という異色の肩書きを持つ俳優だ。講師を続けながら劇団に所属し、演劇活動を行っていたようだが、映画デビューは40歳になってからと、少々遅い。大きくはないがギョロっとした印象の目と、こけた頬に高い鼻。どちらかと言えば強面で、時代劇で悪役を演じることが多かった。当時の子どもたちは、チャンバラごっこの際、吉田さんの役になりたくない一心で、じゃんけんに勝とうとしたそうだが、吉田さんの演じる悪役には愛嬌があり、子どもたちからたくさんファンレターが来た、という話も伝わっている。

 
水木しげる原作の特撮テレビドラマ、『悪魔くん』(1966年)で吉田さんが演じたメフィストは、まさに愛嬌たっぷりなキャラクターだった。主人公・真吾少年(悪魔くん)の相棒となって魔物退治をするのだが、たいていの場合、最初は非協力的。真吾に召喚されても、「オレの知ったことか」と面倒くさがって言うことを聞いてくれない。ところが、真吾が持つ“ソロモンの笛”の音色が苦手で、それを聞かされると頭から煙を吹き出して苦しがる。結局、イヤイヤ指示に従うのだが、そこからは頼もしいパートナーとなって、果敢に敵と戦ってくれる。

 
当時、吉田さんはすでに50代半ば。モノクロ作品なのではっきりしたことは不明だが、どうやらグレーか何かのカツラを被っているようで、吉田さん演じるメフィストは、「おじいちゃん」の印象に近い。敵を倒すのもやっと、といった感じだし、池に落ちてびしょ濡れとなり、下着姿になって服を乾かすなんていう間抜けな一面もある。チョコレートをもらうと上機嫌になるなど、強面なのにコミカルな三枚目で、スーパーヒーローからはほど遠いが、その分、親しみが持てる。また、真吾との別れの場面では、そらした目をしばたたき、涙をこらえるような表情を見せたりもして、非常に愛すべきキャラクターなのだ。僕は、そこに吉田さん自身の人柄がにじみ出ている気がしてならない。

 
人柄が感じられるという意味では、吉田さんが演じる老人は秀逸だ。たとえば、『怪奇大作戦』(1968年)12話「霧の童話」に登場する山村の老人。高速道路建設のため移転を迫られる村で、老人仲間と結託して落ち武者の亡霊を演じ、たたりがあるぞと警告するのだが、正体を暴かれ警察に連行されてしまう。そのとき、心配する孫を安心させようと見せた悲しげな笑顔は、人生の年輪を重ねた者ならではの優しさに満ち溢れていて、心にしみる。その他、『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)に出てくる漁師役でも、本当に優しげなお爺さんだった。

 
吉田さんはその一方、頑固者を演じても実にさまになっていた。『ウルトラセブン』(1968年)20話「地震源Xを探せ」で演じた岩村博士は、絵に描いたような「頑固じじい」で、口をへの字に結び、目をひんむいて、相手の話をまったく聞こうとしない。演技であることを全く感じさせない芝居で、優しげな老人との演じ分けは「お見事!」としか言いようがない。これぞ役者、と言うべきだろう。ここで特筆すべきは、相手を怒鳴りつけたりしても全く嫌みがないことだ。それはやはり、吉田さんが身にまとう愛嬌のおかげだったんだろうと思う。

 
最後に付け加えておきたいのが、吉田さんほど、つけ眉毛などの特殊メイクが似合う俳優はいないだろう、ということだ。『悪魔くん』のメフィストは、いわゆる「わしっぱな」に、毛先が上を向いた長い眉毛が印象的だが、『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年)でも、同じようなメイクで登場していた。寅次郎の夢に出てくる海賊役だったのだが、迫力があると同時に漫画チック。大仰な芝居と相まって、実に楽しいキャラクターだ。きっと、スーパー戦隊もののような、作り込んだ絵の特撮作品にも、吉田さんはピッタリだったに違いない。そういった姿も、ぜひたくさん見せて欲しかった。この記事を書いていて、しみじみそう思うのである。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 

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※メディア・トランスレーション・センター(MTC)は様々な得意分野を持つ翻訳者が在籍しています。
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