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明けの明星が輝く空に 第116回:特撮俳優列伝22 本郷功次郞

明けの明星が輝く空に 第116回:特撮俳優列伝22 本郷功次郞
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【最近の私】メジャーリーグの中継で、”nasty”という表現がよく使われる。「打てっこないよ!無理!」というような球のことを言うのだが、妙訳が浮かばない。「えげつない」ではニュースにふさわしくないし、「すごい」ではニュアンスが伝わらない・・・。

 
初めて本郷功次郞さんを見たのは、1977年に始まった刑事ドラマ『特捜最前線』でのことだった。本郷さんは橘という刑事役で、風格すら感じさせるその存在感から、直感的に“名のある俳優”であることが分かったが、それにしては見覚えのない顔だったので、不思議に思ったことを覚えている。

 
実は、「初めて見た」というのは、僕の思い違いだった。なぜなら、本郷さんは1960年代に、ガメラシリーズと大魔神シリーズ、合わせて4本も特撮映画に出演していたからだ。(覚えていなかったのは、子供のころは怪獣や特撮場面にしか興味がなかったからだろう。)

 
本郷さんは、市川雷蔵や勝新太郎の次世代を担う俳優として期待され、田宮二郎らと並ぶ大映の看板スターだった。東宝の加山雄三とは、よく比較されたという。そんな本郷さんだが、俳優になった経緯が面白い。大学の柔道部に所属していたころ、道着姿の写真が、柔道映画の出演者を探していた大映の目に止まったのだ。当時、本郷さんは俳優をやる気はなかったが、柔道映画ならと出演を引き受けることにしたそうだ。

 
俳優としての本郷さんは、文芸映画志向が強かったので、ガメラ映画の話が来ても、重病を装って逃げていたそうだ。制作部の部長が見舞いに来たときには、知り合いの医師のつてで看護婦を呼び、栄養剤の注射を打ってもらって、血のついた脱脂綿をたくさんゴミ箱に入れておいたというから、かなり入念な仮病ぶりだ。しかし、治るまで待つと言われてしまい、とうとう観念したという。

 
そうして出演したのが、ガメラシリーズの第2弾『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)だった。本郷さんが演じたのは、主人公・平田圭介という青年。会社設立の資金を得るため、兄・一郎の計画に乗る。その計画とは、一郎が戦時中、ある島の洞窟に隠した宝石を密輸して、大もうけしようというものだ。仲間の裏切りがあったり、格闘シーンがあったり、さらには島の娘との恋愛を予感させるシーンまであり、大人の観客にも見応えのある映画になっている。また、圭介は装いも革ジャンやスーツに黒い手袋、またトレンチコートと、主人公らしくスタイリッシュ。大映期待の俳優にふさわしい役を用意されていた、と言えるのではないだろうか。

 
『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』と同じ1966年に公開された、大魔神シリーズ第2弾『大魔神怒る』でも、本郷さんは主役を任された。演じたのは、千草十郎時貞という若き領主で、ちょんまげ姿もよく似合っている。十郎は隣国に攻め込まれ逃亡の身となってしまうが、取り囲む敵を一喝する場面は、台詞にキレと力強さがあって、惚れ惚れするほどカッコいい。時代劇の出演本数は多くないようだが、時代劇俳優としても十分スターになる要素を持っていたのではないだろうか。また、平田圭介はどちらかというと純朴さが垣間見える青年だったが、十郎はそれとは対照的に凜々しく頼もしいキャラクターで、本郷さんの二枚目ぶりを堪能するには格好の作品だと思う。

 
その後出演した『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)、『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』(1968年)では、子どもが物語の重要な位置を占めるようになったせいか、存在感の薄い役に甘んじることになってしまう。特に後者の『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』は、本郷さんの活躍の場がほとんどない。演じたのはボーイスカウトの隊長で、ご本人はその半ズボン姿が気に入らなかったらしい。他の俳優が芸術性の高い作品に出ている一方、「なんで俺だけ、冒険ダン吉みたいなショートパンツなんだ」と思ったというが、本郷さんの当時の気持ちをよく表している。(冒険ダン吉とは、1930年代に『のらくろ』と人気を二分した漫画『冒険ダン吉』の主人公。さすがに僕も、この漫画は読んだことがない。調べてみると、ダン吉はショートパンツではなく、なんと腰蓑だった!)

 
特撮映画出演当時、会社を恨んだという本郷さんだが、平成になってから『ガメラ大怪獣空中決戦』(1995年)の出演オファーをもらったときはうれしかったそうだ。生前、「(ガメラ映画は)いまでは財産になってしまっていますからね。出られたことを本当に感謝していますよ」と語っていた本郷さん。ファンとしては、そんな言葉が聞けるだけで、これ以上うれしいことはない。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
※田近さんのコラムでは、「特撮俳優列伝」として往年のスターたちを紹介。
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のエンドロールに登場した初代スーツアクターの中島春雄さんや、『仮面ライダー』の死神博士でお馴染みの天本英世さんら20人以上の魅力を解説しています。バックナンバーはこちら

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