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明けの明星が輝く空に 第117回:ハロウィーンにいかが?

明けの明星が輝く空に 第117回:ハロウィーンにいかが?
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【最近の私】ラグビーW杯の日本vsアイルランドを、試合会場で観ましたた!まさに一生に一度の経験。アイルランドのファンもいい人たちでした。ノーサイドの精神っていいね。頑張れ日本、頑張れアイルランド!!

 
子供の頃に観てトラウマとなり、記憶の深層に残った映画がある。1967年のソビエト映画『妖婆 死棺の呪い』だ。長いことタイトルも分からずにいたが、紀伊國屋書店でDVDを見つけた時には、これは貴重だと思い“即買い”した。

 
驚いたことに、改めて観てみるとバリバリのホラー映画ではなかった!DVDのケースに「怪奇幻想譚」とあるように、ファンタジー的色彩が強い作品だ。だから、ハロウィーンに楽しむには、ピッタリの作品ではないかと思う。

 
物語の舞台はウクライナのキエフ。時代設定は不明だが、灯は電気ではなくロウソクだし、交通手段は馬車なので、中世だろうか。主人公は神学校で学ぶホマーという青年で、夏休みに友人らと帰省の途につく。旅の途中、泊めてもらった家の老婆が魔女だったことが、彼にとって不幸の始まりだった。

 
夜、納屋で横になったホマーに、無言ですり寄る老婆。逃げようとするホマーの肩に乗り、そのままの体勢で空高く浮遊する。正体に気づいた彼が老婆を散々に打ち据えると、いつの間にか美しい娘に姿を変えていた。息も絶え絶えの彼女を置いて神学校に逃げ帰ったホマー。そこへ、ある大地主の屋敷から、祈祷の依頼が来る。その家の令嬢が何者かによって瀕死の重体となり、本人の希望でホマーに臨終の祈りを頼みたいというのだ。嫌がるホマーが半ば強制的に屋敷に連れて行かれると、すでに娘は事切れており、教会に置かれた棺の横で、三晩に渡って祈りを捧げることになる。

 
一夜目。ホマーが準備を始めると、死んだはずの娘がカッと目を見開いた。そして立ち上がり、台上の棺から宙を滑るように降りてくる。ホマーは、大急ぎで聖なる円を床に描き、結界を張った。まるで透明な壁があるかのように、魔女は中に入って来られない。必死に神に救いを求めるホマー。そうこうしているうちに朝が来て、魔女はまた空中を滑るように棺に戻っていった。

 
次の夜、魔女は棺ごと宙に浮き、ホマーの名前を呼びながら、教会の中をグルグル飛び回る。結界を破ろうとするが、聖なる円は強く、またしても朝が来てホマーは難を逃れた。

 
そして最後の晩、魔女が無数の魑魅魍魎を召喚する。壁から湧き出るように姿を現す吸血鬼や食屍鬼たち。ホマーに襲いかかるのと同時に、朝を告げる一番鶏の鳴き声が響き渡るが、時すでに遅し。ホマーは息絶えてしまった。

 
幼かった僕は、この教会内での一連の場面が怖くて仕方なかった。とくに魔女が棺ごとグルグル飛び回る映像は、脳裏に焼き付いて離れない。結界があって安全なはずなのに、それがなぜか、かえって恐怖心をあおる。以前、このブログで“城壁”が壊されるときの戦慄について書いた(第46回『怪獣への愛はあるか』http://jvtacademy.com/blog/co/star/2013/11/post-39.phpが、自分を守ってくれる“城壁”の反対側に魔物がいるという状況は、ある程度冷静でいられるだけに、余計に恐怖を感じさせるのではないだろうか。『キング・コング』(1933年)前半の、島のシーンも同じだ。村とジャングルを隔てる壁の向こうにコングが現れた時、得も言われぬ恐怖を感じてしまう。

 
『妖婆 死棺の呪い』の特撮技法にも、簡単に触れておこう。合成映像なども使用されているが、興味深いのは、より古典的な手法だ。例えば、吸血鬼らが壁から湧き出る場面。正面からは分からないが、横から見ると壁は二重構造になっていて、その隙間から俳優たちが登場する仕組みになっているらしい。また、宙を浮く棺はワイヤーで吊っているのではなく、支柱の上に載せられており、その仕掛けを棺から垂れ下がる布でうまく隠しているようだ。こんな創意工夫の面白さが感じられるのも、アナログ時代の作品ならではだろう。

 
それにしても、なぜ大地主の娘が魔女になったのだろうか。明確な説明はないが、彼女がふしだらな女だったことが村の男たちによって語られており、ここに文化的背景が透けて見えるように思う。中世ヨーロッパの価値観に従えば、そんな女性は「魔女」とみなされたのだろう。そんなことを考えていると、納屋で老婆がホマーにすり寄った目的も見えてきた。なんせ彼女は元々、性的に奔放な女性だったのである。ひょっとすると、この映画で一番恐ろしいのは、棺に乗ってグルグル飛び回る魔女ではなく、納屋での老婆だったのかもしれない。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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