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明けの明星が輝く空に 第118回:特撮俳優列23 八千草薫

明けの明星が輝く空に 第118回:特撮俳優列23 八千草薫
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【最近の私】今回のラグビーW杯、競技場で観戦した際、国歌を一緒になって歌いました。日本はもちろん、ニュージーランド、アイルランド、ウェールズ、南アフリカ。至福の44日間でした!

 
大多数の方は、今回のタイトルを見て「まさか!」と思ったに違いない。およそ八千草薫さんほど、特撮のイメージとかけ離れた俳優もいないだろう。今回は、特撮ファン以外には知られていない、大女優の一面をご紹介しよう。

 
八千草さんは、宝塚歌劇団に所属していた1950年代から映画に出演し、三船敏郎主演の『宮本武蔵』(1954年)でヒロインの「お通」を演じるなど、女優として確固たる地位を築いていた。そんな中、29歳の時に出演したのが東宝映画『ガス人間第一号』(1960年)だ。以前、このブログで紹介した土屋嘉男さん(『特撮俳優列伝8 土屋嘉男』https://www.jvta.net/co/akenomyojo97/)の代表作である。

 
八千草さんが演じた役は、日本舞踊の家元、春日藤千代。楚々として上品な物腰の中に、芯の強さを感じさせるヒロインだ。春日流は名門だったが、どういうわけか一門はバラバラとなり、いまは年に一度の発表会も開けないほど落ち目となっている。その藤千代に資金を援助するのが、土屋さん演じる水野という男で、彼はある科学者によって体がガス状に変化するガス人間にされてしまったが、その特殊な能力を生かし、藤千代のため銀行強盗を繰り返す。

 
それまで「おきゃんな令嬢役」が多かったという八千草さんは、映画の脚本を読んで、藤千代の神秘的なイメージに惹かれたという。藤千代は水野とは恋仲なのだが、そういったことを窺わせる言動をしないし、家元として苦境にあっても、常に毅然とした態度で、凜としたたたずまいを崩さない。ある意味、何を考えているのか捉えどころがない女性なのだ。

 
そんな藤千代の心の機微を、八千草さんはセリフに頼らず、表情や体の動きで見せてくれる。例えば、藤千代が発表会に向け稽古をしている場面。ずかずかと踏み込んで来た警察に対し、最初は驚いた様子だったが、次に怒りの色が顔に浮かび、挑むような目つきに変わっていく。藤千代は一言も発しないが、その心の動きがよく伝わってくる。

 
また、援助資金の出どころが発覚したあと、水野が姿を見せた場面では、「君のためにやったんだ」と言われ、困惑の表情を浮かべる。しかし、「僕にはほかに何も望みはない。君はすばらしい踊りを思う存分してくれればいい」との言葉に、悲しげで切なそうな目を向けた。たとえ盗んだ金であっても、目をつぶらざるを得ないという家元としての悲しみと、自分のためだと言ってくれる水野に対しての恋心が、その表情から読み取れる。

 
さらには、もう一人のヒロインである新聞記者が、水野の犯行を止めるよう説得する場面。世間が注目しているのは発表会ではなく、藤千代と水野の関係だと言われて憤慨するが、水野を愛しているかとの問いに対しては動揺した様子を見せる。愛されてはいるが、水野への想いは「愛」と呼べるほどのものなのか、自分は彼を利用しているだけではないのか。八千草さんはここでも、目の動きや所作だけで、藤千代の複雑な心境を見事に表現している。

 
八千草さんの、『ガス人間第一号』における見せ場はほかにもある。それは、映画全編に渡って披露される踊りだ。もともと宝塚で日本舞踊は身につけていたが、映画のために毎日稽古に励んだという。映画のクライマックス、藤千代念願の発表会の場面は、カメラがその舞台全体を正面から捉え、あたかも劇場の客席にいるかのような目線で、彼女の踊りを堪能できる演出になっている。

 
このあと物語は、悲劇的な結末を迎える。見返りを求めず、ただ藤千代のためを考え、強盗以外に殺人までも繰り返した水野。彼からの金銭を受け取り、その曲がった形の愛を受け入れた藤千代。彼女は自分の罪を償うかのように、水野との心中を選び、すべてを終わらせる。それも、誰もが予想し得なかった形で。

 
公開当時、「メロドラマとしても一級品」との批評が、朝日新聞に掲載されたそうだ。そういった評価も、藤千代の清廉な生き様があればこそ、だろう。そんな藤千代を、八千草さんは見事に演じ切った。残念ながら先日お亡くなりになってしまったが、藤千代には何度でも会える。なんとも素敵なことではないだろうか。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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