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明けの明星が輝く空に 第123回:『Fukushima 50』と特撮

明けの明星が輝く空に 第123回:『Fukushima 50』と特撮
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【最近の私】縫わずにできるマスクを、バンダナで作ってみた。仕事現場で「カッコいい」という声がチラホラ出たが、着脱するたびに形が崩れやすいということを発見。あと少し暑いです。

 
映画『Fukushima 50』の冒頭、福島県沖の海に起きた異変がスクリーンに映し出される。海底のプレートがずれて隆起し、海面を押し上げる。津波発生の瞬間だ。やがてそれは、海岸線に建つ原子力発電所に押し寄せていく。

 
特撮、つまり特殊撮影という技法は、空想の世界を映像化するためだけのものではない。現実に起こったことを映像で再現する場合にも有効で、『Fukushima 50』の津波のシーンは、その典型的な例だ。その後に起きた、原子炉建屋の水素爆発も然りである。

 
実は、「水」や「火」の表現は、ミニチュア全盛期の特撮が苦手としていたものだ。例えば、スタジオに100分の1の縮尺で海岸のセットを組んだとしよう。10mの大波を再現するには、10cmの波を立てればいいことになる。ところが、カメラを通して見ても、それは大きな波には見えない。本物の大波で発生するような、細かいしぶきや泡が再現できないからだ。“特撮の神様”こと故円谷英二氏は、「模型は精密に作ることが出来ても、炎や煙、水(波飛沫)を小さくすることは出来ない」と語ったそうだが、この言葉はミニチュア撮影の限界を端的に物語っている。

 
『Fukushima 50』の津波映像は、もちろんCGである。この映画で特撮・VFX監督を務めた三池敏夫氏は、平成ガメラ三部作や『シン・ゴジラ』(2016年)などの特撮美術を担当した経歴を持つ。特撮美術とは、ミニチュアセットや模型などを製作する仕事のことで、技術的な側面だけ見ればVFXとはずいぶんかけ離れているが、今回の津波のCG映像を作る際にも、原子力発電所のミニチュア模型が活用されていた。

 
模型があれば、それをスキャンするだけでCGのベースが成立するという利点がある。また、先に精巧なミニチュアを作っておけば、スタッフ全員がクオリティのレベルに関して共通認識を持つことができる。三池さんによれば「CGはできあがるまで最終的なクオリティが分からない」から、ミニチュア模型が「安心保証」にもなるという。CGが使えないような事態になっても、現場で素材を撮っておけばそれが使えるからだ。

 
発電所に押し寄せた津波が、構造物や手すりなどに当たった際の複雑な動きをプログラミングするのにも、模型が役に立っている。最初からCGでやろうとすると大変だが、あらかじめ模型という立体情報をスキャンして取り込んでおけば、水の動きにリアリティを持たせることができるそうだ。その結果、津波のシーンは若松節朗監督に高く評価され、映像の尺を伸ばすことになったという。

 
三池さんはCG映像の制作について、「日本の映画はハリウッド映画ほど予算も時間も余裕がないですから、現物で確認した方が早いわけです。(中略)日本映画だと、CGを作るに当たってアナログも活用した方が勝算がある」と語っている。昭和から連綿と受け継がれてきたミニチュア特撮の伝統・技術は、CGで何でも描ける時代になっても、存在意義を失っていないようだ。

 
ちなみに『Fukushima 50』において、VFX技術が使われたのは、津波や爆発のシーンだけではない。例えば、秋に撮影されたシーンを3月に見えるようにしたり、人物の吐く息を白くしたりと、それとは気づかれないようなところで活用されていたそうだ。津波が到達する前、異変を感じた海鳥たちが海上を飛び去っていく映像があったが、あれもCGではないだろうか。海鳥たちは人間には感じられない何かを察知したのだなと思いゾッとしたが、異常事態を表現するには実に効果的なシーンだったと思う。

 
台本を読んで、どんな特撮映像が必要か考えるのも、特撮・VFX監督の仕事だったというから、海鳥たちのシーンも三池さんのアイデアだったのかもしれない。60年以上、時代を遡るが、『ウルトラマン』などは台本に「特撮よろしく」とだけ書かれていたらしい。怪獣がどう出現して、ウルトラマンがどう戦うか、それらは全て特撮監督が絵コンテを作って決めていたそうだ。

 
実は、三池さんが震災関連の仕事に携わるのは、『Fukushima 50』が初めてではない。過去には、「阪神淡路大震災 人と防災未来センター」の1.17シアターで上映される、震災再現映像用のミニチュアセットを担当している。また、2017年12月から2018年3月まで開かれた『熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展』で展示された、2mを超える熊本城の模型も製作している。三池氏は熊本出身なだけに、作品には様々な想いが込められていたことだろう。そして今回、東日本大震災の津波を再現するにあたり、「多少残酷でも現実に起きたことをちゃんと表現しよう」と若松監督と話し合ったそうだ。制作者の覚悟が感じられるエピソードだが、そういった意味でも、『Fukushima 50』の津波のシーンは、単なるスペクタルを超えた映像と言えるだろう。

 
『Fukushima 50』公式サイト
https://www.fukushima50.jp/

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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