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明けの明星が輝く空に 第126回:ウルトラ名作探訪2:「カネゴンの繭」

明けの明星が輝く空に 第126回:ウルトラ名作探訪2:「カネゴンの繭」
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「今みたいな世の中、親よりお金の方が大事だもんな」。自分の親に向かいドキッとするような言葉を口にしたのは、『ウルトラQ』15話「カネゴンの繭」の金男少年だ。彼は大のお金好きが災いし、お金を食べないと生きられないカネゴンに変身してしまう。

 
怪獣といっても、カネゴンの身長は2mほど。中身は金男のままで、腹ぺこで動けなくなったりする“珍”怪獣である。ウルトラシリーズには憎めない怪獣も多く登場するが、カネゴンはその代表格。ユーモラスなのは姿形も同様で、がま口をモチーフにしたという頭部は、2枚のシンバルを重ねたように平べったく、表面にはサザエの貝殻のような意匠が施されている。てっぺん近くからは2本の触覚状のものが伸びており、その先っぽにあるのが目だ。また、大きな口にはジッパーが付いており、それを閉められると、モゴモゴとしゃべれなくなってしまう。この奇抜で珍妙な姿の怪獣をデザインしたのは、シュルレアリスムを探求する彫刻家でもあった成田亨氏。既存の生物に囚われないウルトラ怪獣を多く生み出し、シリーズの人気を支えた功労者だ。

 
カネゴンの存在だけではなく、物語もまた奇妙奇天烈だった。金男がカネゴンに変身したのは、金が成る大きな繭に取り込まれてしまったからだが、ガラクタの中から見つけたその繭は、もともと手の平に収まる程度の大きさだった。どこから来たのか、なぜ大きくなったのかは明かされない。困り果てた金男が、友達に連れられ、うさん臭い祈祷師のもとへ行くと、「ヒゲオヤジが逆立ちすれば人間に戻れる」というお告げがあった。「ヒゲオヤジ」とは、子どもたちが遊び場にしている造成地の作業員で、ブルドーザーに乗って彼らを追い払うおっかない存在だ。とてもじゃないが、太刀打ちできない。その後、紆余曲折を経て、また追いかけられる羽目になるのだが、カネゴンを見て驚いたヒゲオヤジが崖から転落し、途中で逆さまになって引っかかった。逆立ちだ。その直後、カネゴンがお尻からロケット噴射! 空へ飛んでいく。すると、カネゴンの陰からパラシュートが現れ、ふわふわと降りてくる。子供たちが落下地点に急ぐと、そこには人間の姿に戻った金男がいた。

 
最後のロケット噴射の場面には、驚きで言葉を失ってしまう。いくらなんでも唐突だし、そもそもロボットでもないのにロケット噴射? 怪獣が口から火を吐く、宇宙人が目から光線を発するという非科学的な映像に慣れっ子の僕も、さすがにこれは意味が分からない・・・。いや、こういった場面に意味を求めてはいけないのだろう。それこそ無意味な行為だ。理解不能な映像で、視聴者を驚かせ困惑させること自体が作り手の狙いで、それ以上でもそれ以下でもないのかもしれない。ただ、ひとつ言えるのは、いい意味でバカバカしさが突き抜けていて、理屈抜きに楽しめるということだ。そして「ええー!?」と思っているうちに一件落着。“狐につままれた”というか“煙に巻かれた”といったような気分になるが、それ自体もなんだか楽しいのである。

 
「子どもは親の鏡」というが、実は金男の両親もお金が大好きである。彼らは金男のお金好きをたしなめてはいたが、陰では自分たちも似たようなことをしていた。この物語のラストシーンが実に秀逸だ。金男が家に帰ると、そこには2体のカネゴンの姿が。それは、変わり果てた両親の姿だったのだ。一件落着と安心させておいてからのどんでん返しには、拝金主義を揶揄する社会批評的メッセージも込められている。このチクリと皮肉の利いたエンディングが、作品の完成度を高めたことは間違いないだろう。

 
ほかにも注目したいのは、子どもたちをいたずらに美化せず、冷徹な目で描写している点だ。最初は自分たちのお小遣いをカネゴンに食べさせていた友人らも、スッカラカンになってしまうと「返せ」と言って迫る。さらに、「カネゴンはお金を食べないと死ぬ」と聞かされても、「知るもんか」と言って帰ってしまった。残った何人かの友だちも困った挙げ句、カネゴンをどこかに売り飛ばす算段を始める。解剖されたりするような研究所はダメだと、変な思いやりは見せるのだが、最後に出した結論は「芸を仕込んで見世物にしよう」だった。子どもは時として残酷な一面を見せるが、それがさらりと表現されている点も、僕は大変気に入っている。

 
それでも、この作品は子どもたちへの賛歌なのだと思う。活躍するのはみんな子どもたちで、大人は物語の添え物に過ぎない。実は、『ウルトラQ』本来の主人公である万城目や由利子たちも、一切登場しないのだ。造成地で遊んだり、ヒゲオヤジにイタズラを仕掛けたりする子どもたちの姿の、なんと生き生きとしていることか。そして、それに添えられる楽しげなBGMも、また実に印象的だ。タラタッタッターと跳ねるようなリズムと、トランペットの朗らかな音色が奏でる明るいメロディーに、心は自然と浮き立つ。観終わったあと幸せな気分になれるという意味では、ウルトラシリーズ随一の名作と言って間違いない。

 
「カネゴンの繭」(『ウルトラQ』15話)
監督:中川晴之助、脚本:山田正弘、特殊技術:的場徹


 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】最近、カワイイ動物の動画にはまっている。ネコとイヌのように違う種類の動物が仲良くしている姿は、見ていてホンワカする。それにしても、ネコって意外と表情豊かなんですね。知らなかった。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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