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明けの明星が輝く空に 第127回:ウルトラ名作探訪3:「バルンガ」

明けの明星が輝く空に 第127回:ウルトラ名作探訪3:「バルンガ」
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1966年に放送がスタートした『ウルトラQ』は、企画当初『UNBALANCE』というタイトルだった。その名が示すとおり、日常生活のバランスが崩れたときの恐さや面白さを描き、日常性への警告とする狙いがあった。日常の風景に非日常的なものが入り込んだ映像は特撮作品の魅力のひとつだが、「バルンガ」もそんな映像が楽しめる作品だ。

 
あらゆるエネルギーを吸収して成長する宇宙生命体バルンガは、地球へ帰還中だった宇宙船の燃料を吸い尽くし、墜落事故を引き起こす。数日後、主人公の万城目と由利子が乗ったセスナ機も突如ガス欠に見舞われる。機体を調べると、不思議な物体が見つかった。ゴツゴツとした石のようだが、風船のようにプカプカと浮いている。その後、車で移送中に大きくなり始め、やがて東京上空で巨大化していく。底辺から短い触手のようなものを生やし、ところどころ光を明滅させながら、平穏な街の上に居座るのだった。

 
まさに、日常の中の非日常的光景だ。ただし、東京が普段通りなのは見た目だけで、バルンガ対策として全ての送電が停止され、都市として機能不全の状態に陥っていた。そんな中、事件解決のキーマンとなった奈良丸博士の言葉には、ハッとさせられる。博士は半ば肯定的に「こんな静かな朝はまたとなかったじゃないか」と語るのだ。大都会に対する痛烈な皮肉である。いまの現実世界に目を転じれば、コロナ禍で人の移動が減り空気がきれいになったという、皮肉としか言いようのない報道があったが、「バルンガ」の描く世界はそれと二重写しになって見えてくる。奈良丸博士はまた、こうも言った。「この気違いじみた都会も休息を欲している」、「ぐっすり眠って反省すべきこともあろう」と。
※セリフは当時の文言を引用

 
1960年代の日本は高度経済成長のまっただ中だった。忙しい都会での生活が当時の人の目にどう映っていたか、容易に想像できる。良質なSFを“現実を見つめ直すきっかけをくれるもの”と定義するなら、「バルンガ」は間違いなく名作と呼べるだろう。脚本を書いた虎見邦男氏は、残念ながら1967年に他界。三十代半ばだったというから、本来ならもっと長生きをし、多くの名作を残していたに違いない。

 
「バルンガ」の魅力は、特撮映像や風刺を込めたテーマだけではない。奈良丸博士のキャラクターもまた、作品に妙味を加えている。事件の20年前、博士はバルンガを発見し学会で発表したものの証拠を示せず、詐欺師呼ばわりされ姿を消していた。物語冒頭で墜落死した宇宙飛行士が自分の息子だったこともあり、その言葉や態度には厭世的な空気が漂う。例えば、バルンガは「神の警告」であり、立ち向かうのは無意味だと言い切ってしまうのだ。また、突如人前に現れ「まもなくバルンガは宇宙へ帰る」とだけ告げるなど、どこか謎めいた印象を残す。俳優、青野平義さんが感情を抑えた演技で博士のキャラクターを際立たせ、印象に残る人物像を作り上げている。

 
小道具にも注目したい。博士の手元には常に風船があった。その理由はさておき、バルンガとの対比のためであることは明らかだろう。つまり、「日常」対「非日常」である。また、風船の色の設定が赤なのも興味深い点だ。赤には不思議な力がある。胸をざわつかせるような、心をつかまれるような。そこに物語があるように感じさせる何かを持っている。さらに、日の丸が赤であるように、太陽のイメージが投影されていたのかもしれない。(これは物語のラストとの関連において重要なのだが、それは後ほど述べる。)

 
『ウルトラQ』はモノクロ作品なので、風船の色を直接視覚で捉えることはできなかった。しかし2011年に『総天然色ウルトラQ』として生まれ変わり、その問題も解決。放映から45年を経て、ようやく虎見氏のアイデアが映像に反映されたのだ。ちなみに、新宿で行われた『総天然色ウルトラQ』発売記念イベントには、僕も足を運んだ。登壇したみうらじゅん氏が、カラー化に否定的な友人、泉麻人氏と大喧嘩になったエピソードを披露。吐き捨てるように「死ねばいいのに」と言い放ったのには大笑いしたが、実は僕もどちらかと言えば否定派だ。それでもバルンガの風船は、視覚的効果を考えればカラー化することに意義があったと思う。

 
結局事件は、人工太陽を打ち上げてバルンガを地球から遠ざけ、「本来の食べ物」である太陽に向かわせることで終息する。奈良丸博士は言った。「バルンガは太陽と一体になるのだよ。太陽がバルンガを食うのか、バルンガが太陽を食うのか。」それを聞いた由利子は「まるで禅問答ね」と邪気のない笑顔を見せるが、直後のエンディングナレーションが視聴者を突き放す。

 
「明日の朝、晴れていたらまず空を見てください。そこに輝いているのは太陽ではなく、バルンガなのかもしれません。」

 
太陽の莫大なエネルギーを吸い尽くしたバルンガ自身が太陽となる。そして、太陽=恒星がバルンガの食糧なのだとしたら、夜空に輝く星のいくつか、あるいは大多数がバルンガなのかもしれない・・・。こんな想像の広がりを許容するのも、名作の条件のひとつではないだろうか。

 
「バルンガ」(『ウルトラQ』11話)
監督:野長瀬三魔地、脚本:虎見邦男、特殊技術:川上景司


 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ようやく夏らしくなった。僕にとっては大滝詠一、山下達郎、高中正義の季節。そしてなぜか湘南の海を思い出す。あんまり行ったことがないのに。不思議だ。
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