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明けの明星が輝く空に 第131回:ウルトラ名作探訪6:「1/8計画」

明けの明星が輝く空に 第131回:ウルトラ名作探訪6:「1/8計画」
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『ウルトラQ』の17話「1/8計画」は、マット・デイモン主演のアメリカ映画『ダウンサイズ』(2017)の元ネタではないかという説がある。その指摘が正しいかどうかは不明だが、人間の体を人工的に縮小するという共通点があることは確かだ。

 
「1/8計画」では、人間を1/8の大きさに縮小。Sモデル地区と呼ばれる1/8サイズの街に居住させていた。主人公のひとりである由利子は、「1/8計画 第3次募集中」と書かれた看板と、建物に吸い込まれていく人々の流れを目にし、興味本位で様子を見に行く。そして、説明を聞いているうちに他の希望者たちと一緒にされ、うやむやのうちに縮小されてしまう。

 
実は、これに先立つ物語の冒頭で、混雑する渋谷駅の様子と、人に押され転んでしまう由利子の姿があった。作品の背景に人口過密問題があったことは明らかだが、いまから50年以上も前の1960年代、すでに東京がそういった問題を抱えていたことに軽い驚きを感じてしまう。「1/8計画」の脚本を書いたのは、『ウルトラQ』のメインライターとして多くのプロットを書いた金城哲夫氏。人口問題に対するSF的解答として、人間を縮小するというアイデアを提示してみせた。同じような話をひとつとして書かなかったと言われるアイデアマンだが、他の惑星への移住に解を求めなかったところに、非凡なものを感じる。

 
金城氏が脚本に盛り込んだのは、人口増加に対する警鐘だけではない。ユートピア思想が孕む危険性も、「1/8計画」では顔を覗かせる。由利子が送られたSモデル地区は、納税の義務がなく仕事をする必要もない、いわば楽園だ。その一方、徹底した管理と合理化が図られ、人々は名前ではなく市民番号で呼ばれる。それを由利子に告げたのは、彼女が住むことになるS13地区の区長と2人の民生委員だったが、終始作ったような優しい笑顔を浮かべているのが妙に気持悪い。また区長が、外の世界を「不平等で争いごとの多い世界」とし、すっぱり忘れなくてはいけないと告げるあたり、どことなく洗脳の臭いすら漂ってくる。

 
一方、人間を縮小するという金城氏のアイデアは、特撮面でユニークな映像を生み出すこととなった。小さくなった由利子がモデル地区から脱走し、仲間の淳や一平が働く飛行場の事務所にたどり着いた場面、電話も鉛筆も、全てのものが由利子から見れば8倍の大きさだった。特撮ではミニチュアセットが使われることが多いが、まるっきりその反対だ。しかも電話は受話器を外すことが可能で、ダイヤルもちゃんと回せるという芸の細かさ。鉛筆も、なんと実際に書くことができた。

 
この後、由利子が戻ったSモデル地区のセットも登場するが、こちらはミニチュアの街だ。それだけなら怪獣が登場するいつもの映像と代わり映えしないが、「1/8計画」でそこに登場するのは怪獣サイズの人間だった。それは由利子を探しに来た淳と一平で、彼らは通常サイズの人間なのだが、1/8の人々から見れば怪獣に等しい。由利子のいる部屋を見つけ窓から手を伸ばす淳は、目的こそ違えども、まるでヒロインをさらおうとするキングコングのようだ。ただ、二人が足の踏み場に気をつけながら高速道路をまたいだり、うっかり電線に触れてしまい火花が飛んだりするのを見ると、自分もそこにいるような気分になって、なんとも楽しい。

 
由利子がなぜSモデル地区に戻ったかというと、行方不明となった自分は死んだものとして処理され、遺影まで用意されていることを知って悲嘆してしまったからだ。彼女は悲しみの中、大きな鉛筆を使って「さようなら」と置き手紙を残す。探しに来た淳が一緒に帰ろうと言っても、完全にすねてしまった彼女は「このまま、ここの住人になるわ。さびしくなんかないわ」と強がって見せる。「1/8計画」は、由利子の心理描写も見どころの一つだ。淳、一平、由利子の3人は主役とはいえ、主に事件を傍観する立場で、今回のように自身が物語の中心となることは少ない。由利子を演じた桜井浩子さんは、放送当時まだ20才そこそこの若手女優だっただけに、「1/8計画」の撮影では大きなやりがいを感じたことだろう。

 
物語の結末は、今なら安易と言われてしまいそうな“夢オチ”だ。全ては、渋谷駅で転んで気を失った由利子が、病院のベッドで見ていた夢だったのである。ただし、半世紀も前の作品なのだから、当時の視聴者の受け止め方は違っていたであろう。また、目が覚めた由利子が淳たちを見て、みんな自分と同じ1/8になったと勘違いして喜び、それを見た淳が頭の打ち所が悪かったかと心配して終わるエンディングも、暗い余韻を残し、批判されがちな夢オチとはひと味違う。そして、石坂浩二さんによるエンディングナレーションが、この物語に神秘性を加え、作品をより魅力的なものにしている。それを最後に引用し、この記事を締めくくろう。

 
「古い記録によると、巨石文化時代の人類は身の丈18メートル、身の幅が5メートルもあったという。現在の人類はいつから、そして誰の手によって、どういう理由で小さくなったのか。それはまだ謎のままである。」

 

 
「1/8計画」(『ウルトラQ』17話)
監督:円谷一、脚本:金城哲夫、特殊技術:有川貞昌


 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】最近、新聞を見て驚いた。僕の後輩が出演する映画の広告が、デカデカと出ているではないか。本人から話は聞いていたが、まさかTOHOシネマズにかかるほどの作品だとは!映画は『ミセス・ノイズィ』。後輩は、隣人のオバサン役です。
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明けの明星が輝く空に
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