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明けの明星が輝く空に 第133回:角を授かりし者たち

明けの明星が輝く空に 第133回:角を授かりし者たち
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戦国武将の兜は面白い。競うかのように“前立(まえだて)”などの装飾に創意工夫が凝らされ、見ていて飽きることがない。モチーフは昆虫や植物、文字など様々だが、たいてい角に見える、または角に見立てることも可能で、実際に角を模した物もある。

 
特撮キャラクターの中には、まるで角付きの兜をかぶったような姿のものがいる。『仮面ライダー剣』(2004年~2005年)に登場した怪人、コーカサスビートルアンデッドだ。兜は兜でも西洋的な雰囲気が漂うが、それは日本式の兜に見られる“吹返(ふきかえし)”が顔の横にないためだろう。鈍い光を放つゴールドという色彩も、洋風なイメージを後押しする。その一方、首周りの防御を目的とした“しころ”にヒントを得たような意匠も施され、日本の兜の要素も取り入れられているようだ。

 
肝心の角についてであるが、名前の由来であるコーカサスオオカブトは、ほぼ同じ長さの3本の角を持つ。しかし、この怪人の角は日本のカブトムシのそれを想起させるものだ。カブトムシと言えば、あの先端が枝分かれした頭部の角(頭角)を誰もが思い浮かべるだろう。それに似たものが、コーカサスビートルアンデッドの前頭部から斜め前方に向かって屹立。先端部はやや膨らみ、3本の太い“棘”が突き出ている。カブトムシがモチーフの特撮キャラクターは少なくないが、その長さと形状、そして硬質感という点で別格だ。特撮作品において登場した全ての角と比べても、これほど見事なものはないのではないか。下からのカメラアングルが多いのも、その存在感を際立たせるための演出に違いない。また頭頂部には、太いかぎ爪状になった角が先端を前に向けて立っており、こちらはカブトムシでいうところの胸部の角(胸角)だろう。横から見た時、この2本の角が生むバランスの取れた構図もまた素晴らしい。

 
兜の意匠は怪獣にも取り入れられている。怪獣の形態評論家とも言うべき小林晋一郎氏が、「神が宿る角」と評したゴモラ(『ウルトラマン』)の角だ。(小林氏の本業は医師だが、高校生の頃に書いたストーリー原案が『帰ってきたウルトラマン』に採用されたという希有なウルトラファン。『バルタン星人はなぜ美しいか 形態学的怪獣論<ウルトラ>編』という著書の中では、美術品を鑑賞するかのような目でウルトラマンや怪獣のデザインを分析し、意匠に込められたデザイナーの思いなどを論じている。)ゴモラをデザインしたのは、彫刻家でもあった成田亨氏である。ウルトラマンのほか、数々の怪獣を生み出したウルトラシリーズ草創期の功労者だ。ゴモラの角は、戦国時代の武将、黒田長政の「大水牛脇立兜」がモチーフだというが、形状は大きく異なっている。太く短い角は、正面から見るとまるで三日月のようなシルエットだ。2本の角は、それぞれ顔と同じぐらいのボリュームがあり、頭から角が生えているというより、その真ん中に顔があるという印象を受ける。そしてなにより際立つのが造形物としての美しさで、小林氏は「磨き上げられたべっ甲に近い堅さと艶」と評し、着ぐるみを制作した高山良策氏の力量を絶賛している。

 
より長政の兜に近いのは、ウルトラの父の角だろう。ウルトラヒーローたちのピンチなどに駆けつけたウルトラの父は、ウルトラマンに立派な角を付けた姿をしており、それが当時の子どもたちには好評だったらしい。(僕自身は、角のせいで“頭でっかち”に見えてしまい、好きではなかったが・・・。)ただし、その頃すでに円谷プロダクションを離れていた成田氏は批判的で、芸術家と商業的デザイナーの違いについて以下のように指摘している。デザイナーは「自己探求よりも他者の目が気になり、他者に好かれるものを求め」、「形の厳しさを知らないから、何でも増やしてウルトラマンに角を増やしたりする」。何とも辛辣なコメントだ。成田氏は怪獣をカオス(混沌)と捉え、それに対するコスモス(秩序)としてのウルトラマンから余計なモノをそぎ落とした。そうやって生み出した自分の“作品”に手が加えられ、強い憤りを感じたに違いない。

 
しかし、成田氏の想いとは裏腹に、角の生えたウルトラマンの系譜は続いている。『ウルトラマンタロウ』(1973年~1974年)のタロウ、そして2019年に放映された『ウルトラマンタイガ』のタイガは、それぞれウルトラの父の息子と孫という設定となり、角を生やしていた。タイガ以外のウルトラマンたちにしても、(平成以降は特に)初代のシンプルさからはほど遠いデザインだ。天国にいる成田氏の嘆きもここに極まれり、といったところではないだろうか。それでも、昭和特撮を愛してやまない庵野秀明監督が、今年公開予定の映画『シン・ウルトラマン』に、胸のカラータイマーがないウルトラマンを登場させることにしたのは朗報だ。実は、成田氏のデザイン画にカラータイマーはなく、その後に付け加えられた物だったからだ。『シン・ウルトラマン』はそういった意味で、まさに「真」のウルトラマンと呼べるのではないだろうか。ファンとしては、成田氏がウルトラマンに込めた意味に想いを馳せる貴重な機会にすべきだろう。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】「赤」という色自体は好きというわけではないが、「赤いモノ」にはなぜか惹かれる。スマホにWi-Fiルーター、自転車用サングラスに、東急ハンズオリジナルのシャーペン、電気ストーブ。いつの間にか、身の回りに赤が増殖している・・・。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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