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明けの明星が輝く空に 第170回:夢幻のヒロインたち3:マリ(ビジンダー)

明けの明星が輝く空に 第170回:夢幻のヒロインたち3:マリ(ビジンダー)
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登場作品:特撮TV番組『キカイダー01』(1973年~74年)
キャラクター設定:悪の組織を裏切り、主人公と共闘する女性型ロボット

スーパー戦隊シリーズを中心に、戦う特撮ヒロインは数多くいるが、『キカイダー01』のマリほど、動きにキレのあるヒロインはいないだろう。それも当然と言えば当然のことで、演じたのは、本格アクション女優の草分け的存在、志穂美悦子さんだった。昭和のアクションスター、千葉真一氏が立ち上げたジャパンアクションクラブ(JAC)でスタントを学んだ志穂美さんだけに、空手技を駆使した戦いぶりは実に見事。マリの強さにも説得力が出た。

マリについて特筆すべきは、アクションだけではない。彼女は、物語の中で独自の立ち位置を占めており、個としてのキャラクターを確立していた。ありていに言ってしまえば、男性キャラの“添え物”ではないのだ。その意味で、特撮作品における希有なヒロインだった。

彼女は当初、イチロー(キカイダー01)の敵として登場する。悪の組織、シャドウの作ったロボット(ビジンダー)だったのだ。イチローは、女性や子どもに対して警戒心が下がる。そこに目をつけたシャドウによって、普段は若い女性の姿をしたロボットとして送り込まれた。しかし、イチローにはビジンダーであることを見抜かれ、君を助けたいとの申し出を受ける。というのも、マリはイチローを欺くため優しい心をプログラミングされており、ビジンダーへの変身前は、悪事を働くこともなかったからだ。

イチローの言葉に揺れ動くマリだったが、使命を果たそうとビジンダーに変身して戦いを挑む。しかし、キカイダー01に変身したイチローに敗れてしまう。イチローはその後、マリに“良心回路”を取り付けることに成功。それは不完全なものだったが、シャドウからは裏切り者とみなされ、結果としてイチローと力を合わせて戦うことになる。

マリはイチローの味方になったといっても、基本的には別行動をとっていた。また、戦闘能力が高いため、イチローの足手まといになったり、救ってもらったりすることもない。そのあたりが、主人公のアシスタント的役割にとどまるヒロインとは、一線を画す。さらに、初登場回である第30話以降は、彼女を中心としたエピソードが多く、作劇上も重要な立ち位置にあった。実際、元東映プロデューサーの吉川進氏は、実質的にビジンダーが主人公だったと証言している。

マリのドラマの根幹にあるのは、自分は完全ではないという思いから来る苦悩だ。シャドウの大幹部に「できそこない」と罵られ、激しく反発することもあった。またある時は、シャドウの指令に抗いきれずにイチローを攻撃してしまい、「やっぱり私は中途半端」だと悩む。そして、いつかイチローのように、強く正しい存在になりたいと願うのだ。

思い悩むマリの姿は、普通の人間と何ひとつ変わらない。観ているうちに、彼女がロボットであることを忘れてしまいそうだ。機械が、あるはずのない感情を示したとき、それはより明確な輪郭をもって立ち現れるように思う。「人間と感情」という組み合わせであれば、それは自然なものだから、僕らは特別な意識を持たずに受け入れるだろう。一方、「機械と感情」という組み合わせは不自然だ。しかし、だからこそ、その心の有り様がより浮かび上がって見えるし、僕らは一層そこに目を凝らそうとするのではないだろうか。少々理屈っぽくなってしまったが、簡潔に言えば、マリがロボットだからこそ感情移入しやすい、ということもあるのではないかと思う。

そして、これは希望的観測であるが、「中途半端な自分」に悩むマリは、番組の作り手たちから子どもたちに向けたエールだったと解釈したい。自分に100%の自信を持てるような子どもは、決して多くないだろう。誰しもコンプレックスや悩みを抱えているものだ。そんな子たちがマリの姿を見て、悩んでいるのは自分ひとりではないと知り、勇気を奮い立たせてもらえれば。そんな思いが制作現場にあったとすれば、ステキなことではないか。

マリには、恋愛エピソードも用意された。ある理由からロボットを憎む英介という青年に、好意を寄せられるのだ。実は彼は、マリがロボットだということは知らなかった。そんな彼にマリは真実を打ち明けられず、いったんは姿を消す。しかし、あきらめきれない英介は、なんとかマリを見つけて、自分の気持ちを告白する。そのとき、マリは「これでも私が好きですか」と言って、英介の目の前でビジンダーに変身する。愕然とする英介に、マリは別れを告げ、去っていった。

このエピソードは、青年のひたむきな愛に振り向くことを許されないのがマリの宿命だ、というナレーションで締めくくられる。なんという哀しい存在なのだろう。思えば、原作者である石ノ森章太郎氏が生んだヒーローたちは、みな哀しみを抱えていた。仮面ライダーしかり、サイボーグ009しかり。『キカイダー01』のイチローの設定は、前作である『人造人間キカイダー』の主人公ジロー(キカイダー)が悩めるロボットだった点が不評だったため、反対方向へ舵が切られていた。そんな中、番組の後半に入ってから登場したマリは、実は石ノ森ワールドの王道的存在だったのである。

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】映像分析の参考にと、アニメの絵コンテ講座(全2回)を受講中です。1回目はワークショップ形式。今、2回目に向け、課題に取り組んでいます。難しいけれど面白い!どんなフィードバックがもらえるか、今から楽しみです。

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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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