明けの明星が輝く空に 第194回:『ウルトラマンF』
今年の1月、仮面ライダーシリーズ初の女性主人公が登場する作品、『仮面ライダーアインズ』の配信が始まった。ならば、ウルトラシリーズも女性が主役の作品がそろそろ出てもいいのではないか?これについては先日、ウルトラシリーズ最初期の2作品に出演した桜井浩子さんに、ご意見を伺う機会(白石雅彦著『「ウルトラQ」の誕生』と『「ウルトラマン」の飛翔』の増補版刊行を記念したトークショー)があった。その際、実写化の候補になるかもしれないとして桜井さんが名前を挙げたのが、小説『ウルトラマンF』だった。
ホラー小説作家として知られる小林泰三氏が書いた『ウルトラマンF』。僕は数年前に読んでいたのだが、正直な話、物語としてどこか消化不良な印象を受けた。ただ、10回以上の連載を想定した内容だった話を、4回分に縮小しなければならなかったという事情があったそうだから、物足りなかったのはそのせいなのだろう。
テレビ番組『ウルトラマン』の後日譚にあたる『ウルトラマンF』には、番組の主要キャラクターたちが登場する。今作品でウルトラマンになるのは、科学特捜隊の唯一の女性隊員、富士明子(『ウルトラマン』での表記はフジ・アキコ)だ。彼女は、『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」で宇宙人によって巨大化させられた過去があるが、今回は巨大化は特殊なナノロボットの仕業だったという設定が加えられた。そして、ある事故が起きてナノロボットが発動。富士隊員は巨大化してしまう。事故が発生したのが科特隊の施設内だった上、巨大化の程度も抑えめだったため、外部に知られずに済んだが、その後の作戦行動中に再び巨大化。その事実は、すでに巨人兵士計画を進めていた、ある国連関係者の知るところとなり、結果として富士隊員はその計画に協力することとなる。
しかし巨大化しても、富士隊員の身体は人間のままだ。ウルトラマンではない。ただ、彼女は特別に開発された巨人兵士用のアーマーを装着しており、それにはどんなエネルギーでも吸収し成長する宇宙生物バルンガの能力が取り込まれていた。そのおかげで、“悪のウルトラマン”、ダークザギの破壊光線を浴びてしまった富士隊員だったが、特殊アーマーと細胞内のナノロボットとの相互作用により、肉体がウルトラマンへと変貌する。
実を言うと、宇宙生物バルンガはウルトラシリーズ第一作、『ウルトラQ』の登場怪獣だ。『ウルトラマンF』には、このほかにもシリーズ各作品の“ネタ”が効果的に織り込まれている。例をもうひとつ挙げると、富士隊員と江戸川由利子が双子の姉妹であるという設定。江戸川由利子は『ウルトラQ』の主人公の一人で、両人物とも同じ俳優=桜井浩子さんが演じていたのだが、小説終盤、双子という設定が生きてくる。富士隊員が人間の姿に戻るための細胞の再構成に、由利子のゲノムが利用されるのだ。
この小説を原作にして、映像作品を作るとしたらどうだろうか?素人なりに想像してみよう。もし映画化するなら、ダークザギらを倒す小説中盤の第3章までが良さそうだ。その理由は、敵の“ラスボス”感が強く、交戦中、偶然にも富士隊員がウルトラマンへと変貌を遂げて敵を倒すという、まさにクライマックスにふさわしい展開だからだ。その後、それぞれ新たな敵が現れる第4章と第5章は、続編という形で分けた方がいいだろう。ただし、敵が小ぶりになった印象がある上、富士隊員の内面の描写が少ない点は気になる。彼女はウルトラマンになろうと思っていたわけではない。結果として通常の人間ではなくなってしまった彼女がどう感じ、何を思うかといったことが、もっと語られるべきではないかと思う。
映像化に際しては、ネックになりそうな問題もある。それは、アーマーが開発される以前の、肉体が巨大化しただけの富士隊員の姿をどう見せるかということだ。小説ではぼかしているが、どうやら裸身のようなのだ。昔から、巨大ヒーローに変身した主人公の服はどうなるのかという問題を、僕ら視聴者は意識の外に追いやってきた。普通に考えれば、ビリビリに破けてしまうだろう。このことを念頭に置いた発言ではなかったが、桜井さんはAIによるフェイク画像の蔓延という近頃の風潮を懸念されていた。ましてや、裸となると…。
もちろん、女性登場人物の描き方で注意が必要なのは、映像の面だけではない。たとえば、富士隊員が理性より感情を優先させたかのように思える行動を取る場面があるが、これは固定化した古い発想の表れだと指摘できるのかもしれない。しかし、全般的に見れば、容姿についての言及がほぼないことや、愛を行動原理にしていないことなどは、男目線からの型にはまった作劇とは一線を画しており、評価されるべきだろう。
小林泰三氏は本作のあとがきで、面白いことを言っている。『ウルトラマン』のファンは怪獣派、ウルトラマン派、そして巨大フジ隊員派(!)に分類できるというのだ。小林氏本人は、もちろん巨大フジ隊員派。そんな派閥があることは初めて知ったが、サブカルチャー界隈では「巨大娘」に萌える人もいるらしい。そう言えば僕も、どちらかといえば背が高いアイドルが好きだった。巨大娘萌え…。もしかしたら、素養があるのかもしれない。
参考:過去記事
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】窓の外にバードフィーダーを吊ってひまわりの種やミカンを置いたら、シジュウカラやメジロが来るようになりました。でもこれも、自然のエサが少なくなる冬の間だけ。小鳥のレストランも、もうじき店仕舞いです。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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