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やさしいHAWAI’I 第78回 聖なる妻ケオプオラニ(2)

やさしいHAWAI’I 第78回 聖なる妻ケオプオラニ(2)
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【最近の私】久しぶりにコロナから少し解放された夏休み。次男一家の双子の孫が愛知からやって来て、長男一家と全員集合。近くの回転すしで大いに盛り上がりました。
 

前回はケオプオラニの、公になっている一般的な情報を紹介しました。しかし、私は何となく不満でした。どの資料を読んでも、ほぼ同じ表面的な内容だったのです。これではまるで、あの血の通っていない肖像画のようなものです。どこかにもう少し“人間ケオプオラニ”について書かれているものがないか、さらに調べを進めていったところ、ある文献に遭遇しました。
 

ハワイ州には、ハワイ、ポリネシア文化に関する州最大のビショップ博物館があります。そのアーカイブにデビッド・マロの自筆のエッセイが、長い間誰の目にもさらされず保管されており、それをハワイ大学の言語学、および人類学の研究者であるCharles Langlas と Jeffrey Lyon が、発見。マロの手書きのハワイ語を英語に翻訳し、さらに歴史学者のサミュエル・カマカウ、ジョン・パパ・イイ、エスター・モオキ二、文化人類学者のリネキン、そして宣教師の一人リチャーズなどの見解と比較検討し、『David Malo’s Unpublished Account of Keopuolani』というタイトルで、The Hawaiian Journal of History vol. 42 (2008)に掲載していたのです。
 

以前にも書きましたが、デビッド・マロは、サミュエル・カマカウやジョン・パパ・イイなどと共に、古代ハワイの歴史に関する著名な学者で、初代ハワイ歴史協会の会員でもありました。彼のエッセイが誰の目にもとまらずビショップ博物館のアーカイブに長い間保存されていたこと自体、大変不思議なのですが、私はその内容(英訳された文献)を読んで、衝撃を受けました。実はこれはビショップ博物館が、あえて公にはしたくなかったのではないかとさえ感じたくらいです。
 

古代ハワイの文化歴史は、現代の我々の感覚では遠く理解できない部分があり、価値観も全く違います。マロは、ケオプオラニの生活のすぐそばにいたし、彼女の教師でもありました。また娘のナヒエナエナに英語を教えていましたから、ケオプオラニの人生を熟知していたことは事実でしょう。そしてマロはそれをエッセイとして綴っていたのも事実でしょう。しかし1842年に彼が書いたこの文献がハワイ歴史学会で公になることを、マロ自身は望んでいなかったのではないかと思うのです。
この協会宛てに、彼は手書きでこう書いています。(原文はハワイ語)。
 

Attention you people of the association. I’m feeling too ill to attend the conference at which this account of Keopuolani would probably have been presented.
(協会のメンバーへ。私は大変気分がすぐれないので、ケオプオラニに関するこのエッセイが提出されたであろう会議には、出席いたしません 扇原訳)。
 
では一体どんなことが書かれていたのか。
 
エッセイには、ケオプオラニとカメハメハとの生活に関しての詳細な情報や、身近な人間でないと知り得ない、プライベートなことが書かれていました。中でも私が最も辛いと感じたのは、マロが、ケオプオラニは合計14人から17人の子供を産んだ可能性があると語っていたことです。これはいったいどういうことなのか。
 

カメハメハは知られているだけで20人前後の妻と呼べる女性がいました。これは特別なことではなく、歴史に登場する国のトップは一般的に、周囲に多くの女性を抱えていました。主な理由は確実に世継ぎを得るためです。ですから、カメハメハに多くの子供がいるであろうことは想像がつきます。ただカメハメハの場合は、たった一つ自分に欠けていた高貴なランクの血筋を強く求めており、ひたすらケオプオラニという、神に近いランクの女性に子供を産ませたかったわけです。
 

しかし当時は生まれてきた子供が無事大人に成長できる確率は大変低かったのです。新生児を健康に育てる衛生上の知識の欠如、西洋人が運び入れた様々な感染症、そして近親相関を続けてきたことによって、なかなか健全な子供が生まれてこなかった、などの理由が考えられます。世継ぎが生まれても、もしものためにさらにもう一人・・・そんな風に次々に身ごもっても、おそらくほとんどの子供が死産や未熟児となって成長半ばで命を落としたのでしょう。(カメハメハ三世も大変体が弱く、ようやく育ったと言われています)。それにしても人生でこんなに多くの子供を身ごもったということだけでも、彼女がハワイ王国でどのような存在であったかは、容易に推測できます。
 

今回このマロのエッセイを読んで、私はハワイ王国の華やかなカメハメハ大王の陰で、聖なる妻と呼ばれたケオプオラニの実際の人生を知りました。彼女は人間として、女性として、幸せを感じたことがあったのでしょうか。そんなことが、脳裏から離れませんでした。一般的な情報として、ケオプオラニは病弱であった、とあります。それは当然のことだったでしょう。
 

ただ一つ、彼女には真の夫と呼べる男性が存在したことは救いでした。彼の名はカラニモクといい、大変有能な人物で、カメハメハ一世、二世そして三世の前半の期間、ハワイ国の首相のような立場でした。言語も達者でビジネスにも長けており、ハワイにいた西洋人に高い評価を受けていた人物です。当時ハワイでは、高位の首長は世継ぎを産んだ妻に、自分に忠実な部下を第二の夫として与えることが一般的でした。そうすれば、反乱を起こされる可能性が低くなるからです。(ただ、なぜかカメハメハはカアフマヌが第二の夫を持つことは決して許さなかったそうです)。ケオプオラニにはカラニモクと同時に、ホアピリという夫もいましたが、宣教師から、夫は一人でなくてはならないと諭され、ホアピリを最後の夫と決めて、死ぬまでともに過ごしました。(なぜカラニモクではなくホアピリを選んだかの理由は、どこにも記されていませんでした。ただカラニモクは大変もてる男性で、妻も大勢いたという記述がありました)。
 

ケオプオラニは後に体調を崩し、何度か死線をさまよい、ついに45歳でこの世を去りますが、皮肉なことに死ぬ間際に、ようやく生きることへの光をキリストに見出すのです。そして神の御名の下ハリエットという洗礼名を授かり、自分の真実の愛をキリストに奉げると誓いました。さらに、娘のナヒエナエナに自分が今まで従ってきたハワイの宗教は間違っていた、これからはキリスト教の教えに従って生きるようにと、強く言い残しました。ただこのことが、ナヒエナエナに再び悲劇をもたらすのです。
次回はそのことについて語りたいと思います。
 

かぐわしい香りのホワイト・ジンジャーの花 私のケオプオラニのイメージの花です 
出典:近藤純夫『ハワイアン・ガーデン』楽園ハワイの植物図鑑 

 
【参考文献】

・アロハプログラム
https://www.aloha-program.com/

・https://www.ubcpress.ca/charles-langlas
・https://hawaiibookandmusicfestival.com/charles-langlas
・https://artmuseum.williams.edu/event/making-material-histories-a-close-look-at-19th-century-hawaiian-language-texts-in-the-williams-archives/
・file:///C:/Users/aogih/Downloads/Davida_Malos_Unpublished_Account_of_Keop.pdf
・https://artmuseum.williams.edu/event/making-material-histories-a-close-look-at-19th-century-hawaiian-language-texts-in-the-williams-archives/

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Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
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やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。
 
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