『フレンズ:ザ・リユニオン』24時間で字幕を完成させた舞台裏とは?
ニューヨークで共同生活を送る男女6人の日常を描いた『フレンズ』は、10年にわたって放送された人気ドラマ。放送終了から17年の時を経た今年、出演者が集まったスペシャル企画『フレンズ:ザ・リユニオン』が配信され、人気を集めている。日本では5月31日にU-NEXTで配信がスタートし、わずか1週間で、海外ドラマ初週視聴ランキング第1位となった。アメリカでの配信は5月27日、その4日後に字幕付きで日本で配信された舞台裏にはJVTAの翻訳チームのもう一つのドラマがある。
映像素材の到着から納品まではわずか24時間。尺は110分。翻訳チームは11名。字幕の枚数は1720枚。ディレクションを担当したメディア・トランスレーション・センター(MTC)の藤田庸司ディレクターによると、JVTAならではの様々なマジックボックスがあるという。
◆『フレンズ』の大ファンのみで翻訳チームを結成
「事前に翻訳チームメンバーをピックアップ、今回はプロデビュー時に提出されたPRシートに『フレンズ』が大好きとアピールしている人だけを選んで依頼しました。今回のような超短納期の案件は、調べものにかける時間がほとんどありません。特に今回は出演者が集まってトークをする同窓会といった内容なので、オリジナルを熟知していることは必須条件でした」(藤田庸司ディレクター)
翻訳チームの皆さん(50音順)
家近範子さん
上田明子さん
菊池花奈美さん
小池 綾さん
小勝負ななみさん
武富香子さん
見手倉友希さん
八木真琴さん
山下容子さん
山田祐子さん
渡邉千晶さん
◆5月27日21時に映像素材が到着 翻訳作業をスタート
尺は約110分。1人分は約10分。字幕総数は1720枚。納品は翌日17時
今回は26日にスクリプトが共有され、映像素材到着前に大体の内容は翻訳者も把握していたほか、ファンだけに本国での放送後のSNSの英語の反響などもチェックしていたそうだ。同窓会風のバラエティ番組には、随所にドラマ本編のシーンが散りばめられている。翻訳者たちも懐かしい顔ぶれとの再会に冒頭から泣いてしまったという。
短納期でチーム翻訳をする場合、各パートごとにブレがないよう、全体の統一を図る必要がある。今回、約20分の翻訳とチェックを担当した翻訳者、菊池花奈美さんは、『フレンズ』の全シーズンを10回は見ているという強者で、自ら統一表づくりを申し出てくれた。統一表には『フレンズ』特有の用語、固有名詞、キャラクターの決めゼリフなどをまとめた。
「本編の字幕はオリジナルに合わせているので、該当の用語がどのシーズンのどのエピソードで登場したかをメモしてチーム内で共有しました。本編シーンは、少し見ればどのエピソードなのかだいたい当たりがつきます。イントロを聞いて曲名を当てるゲームのような感覚です(笑)。そのためオリジナルの字幕を探すのには苦労しませんでした」(菊池花奈美さん)
◆5月28日14時から16時にかけて原稿が納品完了。
藤田庸司ディレクターと翻訳チームの菊池花奈美さんが字幕データを合体
チェック作業がスタート
藤田庸司ディレクターも初稿の完成度の高さに安堵したという。少し分かりにくいところは、翻訳者に代案などを出してもらってブラッシュアップしたものの、全員が作品のファンなのでトーンも把握しており、みなプロ意識が高く、こちらから多くの指示を出さなくても自ら精度を高めてくれたと話す。
「憧れの『フレンズ』に携われるということでチームのモチベーションは最高潮でした。24時間という短い作業時間でも頑張れたのは、フレンズ愛のおかげと言っても過言ではありません。挨拶メールでのチームの皆様の熱量もすさまじく、開始前から大盛り上がりでした。本作を視聴する方は『フレンズ』のファンであることはもちろん、本編の字幕を覚えるほど繰り返し見ている方も多いと思います。そのため、チェックでは、統一表に記載したような用語はオリジナルを踏襲しているかを中心に確認しました」(菊池花奈美さん)
◆5月28日21時 納品完了
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◆JVTA ならでのノウハウで旬な番組をいち早く日本へ
JVTAは、これまでもこうした短納期の翻訳案件をいくつも手がけてきた。映画祭などの受賞式やレッドカーペット、世界のアーティストが参加したチャリティ番組などさまざまな作品に携わった中で得たディレクションのノウハウがぎゅっと濃縮されている。
「一番緊張するのは素材が届く前です。届いた後は流れていくだけですから。今回のようにチームで作業する時はまず、パート分けをして字幕制作ソフトのひな形を作り、sdbファイルを各自に配布。提出後の原稿合体を踏まえて、全体のフォーマットやタイムコードなどをきっちり合わせておきます。作業開始の前日に各自のフォーマットを合体するリハーサルをするなど、抜かりなくレールを敷いておきます」(藤田庸司ディレクター)
事前にスクリプトがあっても映像が差し替えになる、セリフの抜けが多くて聞き起こしが必要になるといったリスクの想定も必要だ。聞き起こしだけを集中的に担当できる翻訳者にスタンバイしてもらうなど、何があっても作業を止めずに進行できる状態を作っておく。翻訳者には1人15分翻訳できる実力があっても、あえて短めの10分で多めに人数を確保する。時間に焦ってギリギリで取り組むより、精神的にも余裕を持って取り組み、見直しもできることが、初稿の質を高める。
「こうした下準備を整えておくことが私の役割です。翻訳が始まってしまえば、私は翻訳者を信頼しているので、あとは違和感のある箇所を少し直していく程度のことが多い。こうした対応はJVTAならではの強みだと思います。翻訳者は皆同じコースで学び、トライアル合格後OJTを修了して一定の知識や経験があるからこそ、こうしたチーム翻訳が可能なのです。
また、プロデビュー時には翻訳者の得意分野や過去の経験などを記載したPRシートを作成し、各映像素材に対応できる人材をマッチングしています。具体的に好きなジャンルや番組、アーティスト、俳優などを把握することで、今回のような最強チームを作ることができます。翻訳者の皆さんは、どんな些細なことでもぜひ我々にアピールしてください。どの翻訳者にも夢がかなう可能性が拡がっているのですから」(藤田庸司ディレクター)
今、プロとして活躍する翻訳者の中には『フレンズ』で日常会話など英語の学習をしたという人も多い。『フレンズ』全10シーズンと『フレンズ:ザ・リユニオン』はU-NEXTで配信中。ぜひご覧ください。
◆これが90年代の青春!名作「フレンズ」シリーズ
https://video.unext.jp/browse/feature/FET0006577
◆JVTAYouTube動画『フレンズ:ザ・リユニオン』の翻訳者が語る熱い字幕制作秘話
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