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世界の名作を子どもたちへ!「編訳」を担当した修了生にインタビュー

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日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の修了生であり、映像翻訳者、児童文学作家として活躍中の小松原宏子さん。小松原さんが講師を務める課外講座『翻訳に役立つ知識と教養 聖書を学ぶ・基礎知識編』、『翻訳に役立つ知識と教養 聖書を学ぶ・エピソード編』は、分かりやすいと毎回大人気となっています。そんな小松原さんが「編訳」を担当した書籍『10歳までに読みたい世界名作 15巻 あしながおじさん』(学研教育出版)が発売されました。『あしながおじさん』は、当校の英日映像翻訳科のコースでも課題に登場するので、受講生・修了生の皆さんにもなじみ深い作品。ご自身もこの作品が大好きだったという小松原さんに、「編訳」とはどんな仕事なのか聞いてみました。
 

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★編訳とは具体的にどんな作業なのか、教えてください。 
簡単にいうと、原作を完訳するのではなく、子どもたちが読みやすいように分かりやすい言葉で翻訳をし、さらにコンパクトにまとめていく作業です。ただ短くするだけでは名作の素晴らしさを伝えきれないので、エキスをぎゅっと凝縮し、さらにシンプルな言葉であらすじとエッセンスを盛り込まなければなりません。『10歳までに読みたい世界名作』シリーズの場合、漢字は10歳の子どもが読めるようにほぼ小学4年生くらいまでに学校で習うものが基本で、なおかつ、すべてにルビがふられています。また、「もったいぶった」「うさんくさそうな」などの表現は子どもが理解できるのか? などについて常に編集者の方と話し合いながら言葉を選んでいきます。漢字をひらがなにひらくことで、分かりにくくなることもあるし、文字数も増えてしまうので悩ましいところですね。
 

★本を拝見したのですが、難しい言葉には注釈がついているのがいいですね。

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子どもは読書をするなかで言葉を覚えていくでしょう。ですから「きふ(寄付)」「こっけい」「幾何」「ハムレット」「マイル」「イースター」などさまざまな言葉に短い解説がついています。注釈が入れられるスペースがあるのは、紙面だからこそ。1秒4文字という字数制限に苦しむ映像翻訳者からすると有難いですよね(笑)。それでもイラストが満載で字が大きい分、全体の文字数はかなり削る必要があります。『あしながおじさん』の場合、テキストの量は原作の10分の1くらいでしょうか。このシリーズでは、もう1冊『若草物語』も担当したのですが、こちらは原作がもっと長いので20分の1か30分の1くらいにまとめる必要がありました。
 

★「情報の取捨選択をしながら短くまとめて作品の本質を伝える」。これはまさに映像翻訳のスキルですね。

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そうなんです。長い物語の中でどの部分を抜き出すべきなのかは、私自身の読書体験に基づいています。子どものころ、自分が印象に残った場面はやはり重要だと思うんですね。主人公のジルーシャは孤児院で育った少女ですが、ある日孤児院の理事である“あしながおじさん”のサポートで大学に通えることになります。やがて作家として自立し大好きな人と結婚するのです。私はこの作品を単なるシンデレラストーリーとは思いません。ジルーシャは、援助を受けながらも、流行の帽子や外国旅行などの贅沢な贈り物に対してはきっぱりとことわる勇気を持っているからです。私は、「どんな環境にあっても誇りとユーモアをもって自立していくことの大切さを説いた物語として伝えたい」と考えました。ですから物語の核となる“あしながおじさん”とのエピソードはしっかり追いながらも、ジルーシャの強さや誇りが感じられる場面をきちんと盛りこみました。
 

★『若草物語』では原作にはないけれども補足した一言もあったそうですね。
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はい。貧しい4姉妹の3女ベスと裕福な老人ローレンスさんとの交流が描かれる中で、ローレンスさんが亡くなった孫娘の形見のピアノをベスにプレゼントする場面があります。私はそこに原作にはない「ベス、ローレンスさんはお金で買えないものをあなたにくれたのよ」という一言を加えました。もし子どもたちが「お金持ちなら新しいピアノを買ってあげればいいのに“お古”のピアノなんて」と思ってしまったらこの名シーンは台無しでしょう? 編訳者としてはどうしても「いつか大人になったらぜひ完訳でもう1度読んでみてください」と言わずにはいられません。でもこの本でしかこの作品に触れない子どももいるはず。だからこそ、私が感じた感動をきちんと伝えたい。そんな想いで編訳に取り組んでいます。
 

★『あしながおじさん』の完訳本は古い言葉遣いが多いイメージですが、そのあたりはいかがでしたか?

原作は100年以上も前の作品なので、完訳も「~ですもの」「~ございますわ」など昔っぽい言い方が多いですね。でも時代とともに言葉は変わっていくもの。こ難しい言葉遣いでは「おばさんっぽい」と違和感があるでしょうし、挿絵の女の子ともイメージが合わなくなってしまいます。ですから今回は、当時の雰囲気やジルーシャのユーモアのセンスは残しつつ、もっと普通の女の子の話し方に変えています。例えば40年、50年前の児童書には目上の人が「あんた」とよびかけるシーンがよくありましたが、今はあまり使われていませんよね。読者は今の子どもたちということを意識した言葉選びを意識しました。
 

★今回の編訳で子どものころには気づかなかった発見があったとか?

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『あしながおじさん』の原作タイトル『Daddy-Long-Legs』は、実はアシナガグモではなく、ザトウムシのことでした。ちなみに、もし私が初訳で出すなら、「あしながパパ」にしたと思います。このあだ名には、ジルーシャが家族のような存在ができて甘えたい気持ちが込められていると思うので。でも「あしながおじさん」だったからこそ長く愛される名作になったのかもしれませんね。
 

また、訪問委員のプリチャードさんが女性だったことを初めて知りました。ジルーシャの作文の才能を認めてくれたり、ドレスを買ってくれたりするなど重要な存在で、私はこの人があしながおじさんではないかと思いながら読んでいたものです。しかし、原作をみたら、Miss Pritchardと書いてあったのです! あわてて昔私が読んでいた本を見直すと「プリチャードのおじさん」とあり、誤解の謎が解けました(笑)。当時、私のように編訳をした人は原作が手に入らず、きっと日本語訳だけを見てまとめたのでしょう。当時の苦労がしのばれます。ちなみに私は「地区委員のプリチャード嬢」と訳しました。また性別が曖昧になって挿絵におじさんが描かれたら大変でしょう?(笑)
 

★今後も出版翻訳のお仕事が控えているそうですね。

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スヌーピーの作者、チャールズ・シュルツさんの伝記を翻訳しました。こちらは編訳ではなく完訳で、チャールズさんを取材したジャーナリストが彼の一生を描いたもの。中にはスヌーピーのマンガの引用もあるのでその翻訳が大変でした。なにしろ、スヌーピーには根強いファンがいますし、マンガのセリフには深い意味が込められていますから。映画『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』の12月公開に合わせて11月末に発売予定です。お子さんだけでなく、大人にもぜひ読んでもらいたいですね。
 

また、『10歳までに読みたい世界名作』のシリーズでもう1冊編訳を担当する予定です。こちらは、原作が上中下と3巻ある長い作品なのでまた苦労しそうですが、子どもたちに名作の素晴らしさを伝えられるよう、頑張ります。私がこうして大好きな名作の編訳に携わることができたのは、映像翻訳を学んだお陰です。受講生・修了生の皆さんにもぜひ、さまざまなジャンルのお仕事に挑戦して欲しいですね。
 

小松原宏子さんが主宰する家庭文庫「ロールパン文庫」公式サイト
http://www.rorupanbunko.com/

 

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