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【映像翻訳者のAI戦略】AIにはない「創造力」で、新たな翻訳業界を生き抜く

【映像翻訳者のAI戦略】AIにはない「創造力」で、新たな翻訳業界を生き抜く

JVTAは2023年10月期より、英日・日英映像翻訳科の新たなカリキュラムとして「戦略としてのAI翻訳」を導入した。機械翻訳(Machine Translation =MT)の進化を踏まえ、映像翻訳者がAIと共存していくためのビジネス戦略を考える。

「2006年の『Google翻訳』誕生以降、MTの精度は向上し続けています。日進月歩のAI技術を考えれば、人間が取って代わられる日もいつか来るかもしれません。ですが私たちは、AIの長所と短所を学べば、戦略を練って備えることができます。新たなカリキュラムは、既存のサービスやツールに触れながらMTの限界値を探り、映像翻訳者にしかない技術を理解して磨き上げる場としています」(JVTA講師 石井清猛)

同校は1996年の創立以来、「長く、安定して活躍できる言葉のプロフェッショナルを育成する」という理念のもと、映像翻訳科だけでなく様々なコースとカリキュラムを提供してきた。2011年には、「映像のバリアフリー化」による日本語字幕ガイド・音声ガイド制作者の需要を受け、独自にバリアフリー講座を新設している(2024年5月期より「メディア・アクセシビリティ科」として再編)。

「ビジネスの世界は、日々目まぐるしく変化しています。職業訓練校である以上、その流れに合わせてカリキュラムを改編・新設することで、より戦略的なアプローチをしていかなければなりません。この度の『戦略としてのAI翻訳』も、来たるAI時代を見据えたJVTAオリジナルのカリキュラムとなっています」(JVTA講師 石井清猛)

■変わりゆく翻訳需要:MTPE(Machine Translation Post Editing)とは

「戦略としてのAI翻訳」は、総合Ⅰ・ⅡコースでMTの現状や翻訳支援型ツール「OmegaT」の活用方法を学んだ後、実践コースでドキュメンタリー作品のMTPEに取り組む。MTPEとは、MTエンジンから訳出された文章(MT原稿)をベースに、映像翻訳者が誤訳の修正から表記の統一、表現のブラッシュアップまでを行う工程だ。講義では「DeepL Pro」のMT原稿をベースに、直訳調の言葉をより伝わりやすい和語に変換する、人物の雰囲気に合わせて口調を工夫するなど、チームに分かれて原稿を完成させていく。

MTPEは翻訳者が一から訳すHuman Translation(HT)とは異なり、高スピードかつ低コストという特長から多くの企業・団体で導入が進んでいるが、映像翻訳の場合はMTだけで作品を完成させるのは難しい。字幕の文字数設定や改行を要するフォーマッティングの壁、俳優の表情や映像の構図からわかる文字情報以外も字幕化するコンテクストの壁があるためだ。しかし作業効率を追求するクライアントも見え始めていることから、MTPEの需要も今後高まると予想される。「AI×翻訳者」という新たなビジネスの潮流を受け、映像翻訳者はどのように備えるべきなのだろうか。

「MTPEでも、HT同等の能力が求められます。基本的な翻訳力、コンテクストを理解するメディアリテラシー、言葉の引き出しという、映像翻訳の基礎と応用力が全てです。PEの編集という側面だけを捉えて、“翻訳初心者でもできる仕事”と考えるのは誤解であり、むしろ経験を積んだ映像翻訳者にしかできない仕事なのです」(JVTA講師 桜井徹二)

■AIの限界を人間の「戦略」に

桜井講師が「映像翻訳の基礎と応用力が必要」と強調する背景には、クライアントと翻訳者に生じるジョブのミスマッチ問題がある。翻訳者がMTの精度を正確に把握しないまま案件を受注した結果、HT並みの編集作業を要したという実例もある。MTPEの場合、翻訳者はMT原稿の品質を客観的に評価したうえで自分がすべき作業を見積もり、提示されたターゲット品質に向けて翻訳を完成させなければならない。そのためには、多くの作品や原稿に触れた経験値と、研さんを積んだ言語編集力が不可欠なのだ。実践コースでMTPEの課題に取り組んだ受講生からは、「HTで学んだ基礎がPEで役に立った」という声も上がった。

「現在のMTは、感情やユーモア、前後の文脈を読み込んでアウトプットするレベルに至っていません。MT原稿は“平均値”の言葉を並べて直訳するため、台詞の大意を把握するのには役立ちます。ですが映像翻訳の本質は、言葉の裏まで理解して字幕を創造することです。そこがMTの限界値であり、映像翻訳者の武器になると言えます」 (JVTA講師 桜井徹二)

文字以外のコンテクストや台詞に隠されたニュアンスまでを文字化する映像翻訳は、極めて繊細な仕事だ。そのため専門家たちも、「AIが完全に映像翻訳者の代わりとなるのは難しいだろう」との見方を示している。あらゆるネットワークやプラットフォームで言葉が量産されるようになった現代で、多彩な表現力を職能とする映像翻訳者は貴重な存在だ。その価値が広く認知され続けるよう、JVTAは今後も時代に即した技術をカリキュラムに取り入れていく。

by Yukiko Takata



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