【JVTA修了生によるいくつもの情報の層が視聴者をサポート】映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』を英語字幕で世界へ
ドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』(山田礼於監督 2021年制作)は、JVTAの修了生が多面的に携わっている作品だ。
この作品では、日本初のユニバーサルシアターのシネマ・チュプキ・タバタ(以下、チュプキ)の代表、平塚千穂子さんを中心に、「耳の聴こえない人に向けた“手話通訳”がついた舞台公演の魅力を、目の見えない人に向けた“音声ガイド”で伝える」という未知なる挑戦に挑む様子が描かれている。
耳の聴こえない人にも演劇を楽しんでもらうために挑んだ、
3人の舞台手話通訳者たちの記録。
その映像を目の見えない人にも伝えられないか?
見えない人に「手話」を伝えるには。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』公式サイトより引用

作中には、JVTAのメディア・アクセシビリティ科修了生の彩木香里さんが出演し音声ガイドの制作過程に参加している。また、耳の聞こえない人のためのバリアフリー字幕の制作を同コース修了生の犬塚修さんが担当。さらに、JVTAのインターンの学生が作成した英語字幕を付与したバージョンも制作され、いくつもの「情報の層」が重なっている。
◆『こころの通訳者たち What a Wonderful World』予告編 ※音声ガイド版
◆WATCH2024上映作品『こころの通訳者たち What a Wonderful World』予告編 ※英語字幕付き
◆いくつものツールで視聴できる上映会にJVTAディレクターが登壇
2025年11月、チュプキでバリアフリー日本語字幕、音声ガイド、英語字幕というすべてのツールが視聴できる上映が行われた。
英語字幕は、JVTAの学生インターンが中心となってSDGsに関連する日本発のドキュメンタリー作品を上映する無料のオンラインイベント「WATCH 2024」(https://www.watch-sdgs.com/watch2024/)の上映のために制作されたもので、国内外の大学生と大学院生51名がチームとなって英語字幕を作り上げた。学生たちの語学のスキルはさまざまで、チーム内では日本語やその解釈が得意な人、英語が得意な人などさまざまな学生がお互いの知識を生かして意見を出し合ったという。チュプキでの英語字幕付き上映では、学生に英語字幕制作の指導をしたJVTAの麻野祥子ディレクターが上映後のトークイベントに登壇し、平塚さんと英語字幕の制作秘話を語った。

学生たちのほとんどは、今回初めて英語字幕に触れた。日本語からの直訳で作ると考えていた人も多く、想像していたものと実際の作業は大きく異なっていたようだと麻野ディレクターは話す。映画の劇中演劇『凛然グッドバイ』の台本を自ら探して読み込むなど熱心に取り組んだ学生もいたそうだ。
◆英語タイトルに込められた想い
英語のタイトルは、『Interpreters Beyond Boundaries』。平塚さんは、字幕制作過程に携わる過程で、タイトル案に5つの提案があり、そのワードにたどり着いたそれぞれの理由が詳細に送られてきたことに感動したと話す。トークショーでは、その具体的な文章が読み上げられ、観客の皆さんから感嘆の声があがっていた。学生たちが投票した下記のデータを基に、チュプキでも議論のうえ、「Interpreters Beyond Boundaries」が選ばれた。この例からも「こころの通訳者たち」という原題の直訳ではない、さまざまな工夫が凝らされていることが分かる。
・“Interpreters Beyond Boundaries”(11票)
・“A Voice for the Unspoken Souls”(8 票)
・“Conveyers of Heart”(4 票)
・“From Heart to Heart”(4 票)
・“Interpreters from the Heart”(3 票)
「この映画は聾者のための手話の動きを視覚障害の方への音声ガイドにどのように変換して伝えるかという、まさに翻訳や通訳の本質みたいな部分を描いています。そこにさらに、外国語に変換するという取り組みの際も、学生たちも私たちが作中で議論したように、形じゃなくて中身の部分をすごく大事に考えてくれたんですね。もともと多層的な作品に英語字幕でもう一層、 人の心が加わって、また深くしてくれたと感じました。」(平塚さん)

ドキュメンタリーは、翻訳者にとっては難しいジャンルだ。ドキュメンタリーは台本がなく、話者自身も考えがまとまらないまま話していることも多い。そのため翻訳する際は、話者が何を言おうとしているのか、その本質を理解する必要がある。
「日本語はちょっと曖昧でも成立してしまいますし、主語を省くことが多いのが特徴です。しかし、英語では主語と述語をはっきりさせないと文法的におかしくなってしまうので、その違いも一つのチャレンジでした。」(麻野ディレクター)

平塚さんが特に印象に残ったセリフがある。作中で平塚さんがある提案をした時に他のスタッフが小声で「無茶ぶり」とつぶやくシーンだ。
「『ダメ元でやってみる』『当たって砕けろ』という意味で、『here goes nothing』と訳しました。直訳とは離れてしまいますがニュアンスを重視し、場面の流れに合うようなセリフにしました。」(麻野ディレクター)
「これは素晴らしい翻訳だと思います。無茶ぶりっていうのは、決してネガティブなことではない。無茶だけどやろうよっていう、私たちの想いを汲んでいただいたなと思いました。」(平塚さん)
◆映画出演者とバリアフリー字幕、英語字幕の制作者が対面
このトークショーの客席にはバリアフリー字幕を手がけ、現在はチュプキの広報も務める犬塚修さんの姿もあった。犬塚さんはJVTAのバリアフリー講座(当時)の字幕講座を修了し、初めて手掛けた字幕がこの作品だったそうで、ひときわ思い入れも強い。
「『無茶ぶり』の訳は私も気になっていましたが、本当にニュアンスを汲み取ってくださったんだなと感じました。私もバリアフリー字幕を作る際に何度も何度も見た作品なのに英語字幕がついたことで、もうひとつ感動がプラスされた気持ちになりました。」(犬塚修さん)

また、学生のインターンとしてこの英語字幕制作に参加し、現在はJVTAスタッフとして活躍するフランス出身のエリ・プリコッドコ ディレクターも上映会に参加。作品の舞台となった映画館でこの映画を観て感動もひとしおだったという。
「作中では話し合いの中の手話通訳、舞台の手話通訳、音声ガイドなどさまざまなカタチで言葉を変換するという挑戦をしており、私たちが手がけた英語字幕も含め、みな“伝える”ために同じように苦労を重ねてきたのだと思いました。私も何度も見た作品なのに、この会場で皆さんと観ることができて本当に感動しました。」(エリ・プリコッドコ ディレクター)
様々な情報保障のレイヤー(出演と音声ガイド制作、バリアフリー字幕、英語字幕)にJVTA修了生が携わったこの映画の公式パンフレットには、JVTAの新楽直樹代表がメッセージを寄稿。JVTAならではの多面的な対応を具現化する一作となっている。英語字幕が完成したことで、この映画をさらに多くの人に届けることが可能になった。

「チュプキでの英語字幕上映期間にも外国人の観客が来てくれました。また、知人を通じてスウェーデンの映画祭での上映が実現しました。今後、他の国の映画祭にも出品していけたらと考えています。」(平塚さん)
JVTAでは、海外の映画祭出品のサポートも多くの実績がある。本作が海外でさらに多くの人に届くよう、JVTAも支援も続けていきたい。

◆『こころの通訳者たち What a Wonderful World』 公式サイト
◆ユニバーサルシアター CINEMA Chupki TABATA 公式サイト
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