【映文連 国際短編映像祭】昨今増えている企業のPR映像を訳すポイントとは
11月27日(木)、映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025が東京池袋の新文芸坐で開催される。このイベントで上映されるのは、企業や団体のPR映像をテーマにした短編18作品。The WorldMediaFestivals(ドイツ)、 US International Awards(アメリカ)、Cannes Corporate Media & TV Awards(フランス)、AutoVision Awards(ドイツ)といった世界を代表する企業映像祭において今年度受賞した作品を中心にラインナップされている。JVTAは全18本の日本語字幕と公式サイトの作品紹介の解説文の作成とその英訳を担当し、9人の翻訳者が手がけた。(一部字幕のない作品もあり)。
翻訳者の小山史子さんは、今回5本の短編作品(『This is the rhythm of Swift』『The Broken Heart』『Am Wörthersee』『Visit the Original Sweden』『Close-ups of clean-ups』)の日本語字幕と作品解説の作成を手がけた。小山さんはこれまで、スポーツドキュメンタリー、アクション・サスペンスドラマ、企業PR映像などを担当している。アメリカ在住歴が長いため、エンタメ関係の案件を手掛けることも多く、現地の文化や空気感を肌で感じながら楽しく取り組んでいると話す。一方、政府関連の広報業務の経験もある。企業のカンファレンスのスピーチの翻訳などを手がける際は、企業独特のグロッサリー(専門用語)やスタイルガイドがあるため、丁寧に確認しながら作業を進めることに気を遣うという。
「その企業や団体の魅力を簡潔に分かりやすく伝えることを常に意識しています。特に企業ものの場合、その企業のことを知らない方が見ても理解できるよう、専門用語を避けて平易な言葉を選ぶようにしています。」(小山史子さん)
この映像祭の特徴はどれも10分にも満たない短い映像であること。例えば、スパイスをテーマにしたスイスの作品『Close-ups of clean-ups』はわずか53秒だ。字幕の数がわずかなうえに、1つの字幕の文字数も少なかったため、小山さんは言葉の選択に最後まで迷ったという。
「特に、味覚や触感を表現する形容詞が連続する作品だったため、似たような言葉が並ばないように辞書で類義語を調べたり、語尾の活用を工夫したり、最後まで頭を悩ませました。」(小山さん)
今回小山さんは映像の字幕だけでなく、クライアントからのシノプシスを元にして公式サイトに掲載される作品解説の作成も担当した。100字という限られたボリュームの中で、単なる説明に終わらせないことを心掛けた。
「まだ映像を見ていない方がこの解説文を読んで、『ぜひ見てみたい』と興味を持っていただけるような文章を目指しました。作品解説は映像への入り口となる文章ですので、作品の魅力や見どころを端的に、かつ印象的に伝えることに工夫を凝らしました。」(小山さん)
公式サイトには、作品解説が日本語と英語で併記されている。この英訳のほとんどを手がけたのが、日英翻訳者の下平里美さんだ。下平さんは、配信用コンテンツの吹き替え・字幕翻訳を中心に活躍。実写ドラマやアニメ、リアリティショー、邦画やドラマ・アニメのトレーラー、企業内研修の字幕、映画祭出品用の短編作品やトーク映像など幅広いジャンルの作品を手がけている。企業VPに特化したこのイベントではどんな工夫をしたのだろうか。
「まず制作側が提供する資料を最重視しました。そこに作品の意図や要素が凝縮されているからです。資料からターゲット層とメッセージを明確にし、核となるキーワードを精査しました。必要に応じてSNS投稿や記事、関連映像も確認し、背景を丹念に調べました。英語表記は一般的なものよりも資料の中で採用されている表記を優先し、制作側の思いが反映されるよう心がけました。」(下平里美さん)
今回、下平さんが担当した英語の作品解釈は17作品にも及ぶ。決められた字数制限の中で、多くの作品の概要をそれぞれの特徴を盛り込みながら書き分ける作業となった。下平さんが最も苦労したのは、要素を盛り込みすぎると、ネタバレに近づいてしまうということだったという。
「字数制限があるため文の密度が高く、メッセージが強くなりがちです。偏った解釈に陥っていないか時間を置いて何度も読み直しました。日本語版の解説も適宜参照し、乖離が生じないよう注意しました。読んで映像を『見たい』と思っていただける文章を最後まで意識しました。」(下平里美さん)
字幕や吹き替えというと映画やドラマのイメージが強いが、昨今はJVTAでも企業関連の案件を担当する機会が増えている。そのため、下平さんも受講したJVTAの日英映像翻訳コースでも、企業VPの英訳の授業が盛り込まれた実践的な内容となっている。
「企業映像の解説はドラマやアニメと異なり、脚本を単に要約するだけでは十分ではありません。企業の立場を理解し、意訳を通してメッセージを正確に伝える力が求められます。キーとなるメッセージが明確であることも大きな特徴です。それを正確に捉えるため、背景を丁寧に調べ、まっすぐに且つ魅力的に伝える姿勢は、授業で培われた基礎であり、今もジャンルを問わず実務の土台になっています。」(下平里美さん)
企業のPR動画は短い尺の中に企業の想いが凝縮されている。同じ字幕といっても映画やドラマとは違うトーンや言葉の選び方も求められ、その企業や業界に関するリサーチなども欠かせない。動画配信が主流の今、こうした翻訳のニーズはますます高まっている。このイベントは、世界の映像祭の受賞作品の数々が見られる貴重な機会、ぜひ会場に足を運んでほしい。

◆映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025
2025年11月27日(木)19:00~21:00
新文芸坐
公式サイト:https://www.eibunren.or.jp/icfs/icfs2025.html

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