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大学生が映像翻訳を通して初めて向き合う難民問題

大学生が映像翻訳を通して初めて向き合う難民問題

「難民が生まれてしまう理由とは何か?」

これは12月6日に明星大学で行われた「明星大学特別上映会」で、スクリーンを前に、一人の学生が来場者へ問いかけた言葉だ。

■10年以上にわたり続くJVTAと明星大学の取り組み

明星大学 国際コミュニケーション学科では、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の指導のもと、2014年から特別な取り組みを続けている。それは、国連UNHCR協会が主催する「難民映画祭」の上映作品に、学生たちが日本語字幕を付けるというプロジェクトだ。

学生たちは、教育機関や企業が自主的に上映を行う「難民映画祭パートナーズ」制度を利用し、自分たちが字幕を手がけた作品を上映する機会を得ている。

学生たちは履修科目として1年を通して「映像翻訳」を学ぶ。字幕翻訳の基本ルールや訳す際のテクニックをJVTAのベテラン講師から指導を受ける。

■学生たちが初めて知る難民問題

映像翻訳は、英語が得意なだけでできる作業ではない。特に作品のテーマが「難民問題」となると、難民の定義や、作品の舞台になっている国の現状なども知っておく必要がある。今回学生が字幕を手掛けた作品はシリアを舞台にした『希望と不安のはざまで』だ。本作の翻訳ためには、10年以上続いたシリア内戦に関する知識が必須だった。

多くの学生にとって、これまでの生活で「難民問題」や「内戦」は遠い世界の出来事。シリアの正確な位置さえ答えるのが難しい状態からのスタートだった。それ故に、実際に字幕に携わった学生にとってかなり入念なリサーチが求められた。調べる範囲はシリアの位置から歴史、政権の移り変わりなど多岐にわたる。

「誰が見ても分かりやすい字幕にすることを意識し、作品の制作者の思いを尊重しながら、翻訳を行うためには、難民問題やシリアの情勢について、細かなリサーチをして臨みました」(学生)

■日本語と向き合い、その難しさを知る

字幕翻訳は夏休みの8日間をかけて行った。約50分の作品を5つのパートに分け、5チームがそれぞれ担当する箇所の字幕を付けていく。字幕翻訳は無理なく読み切れる目安が1秒4文字とされている。また、1行の文字数が決められていて、2行までしか出すことができない。その制限の中で読み手が理解しやすい言葉で訳すことも求められるため、日本語を駆使する必要もある。学生からも、こんな感想が聞かれた。

「同じセリフでも訳し方によって印象やニュアンスが大きく変わります。そのため作品に出てくる人物のことや、社会状況などを理解した上で、適切かつ視聴者に分かりやすい日本語を選ばないとならず、チーム内で議論することも多かったです」

映像翻訳に英語力が必要なのはもちろんだが、意外にも日本語力が問われ、それに苦戦する人が多い。JVTAの映像翻訳コースで学ぶ受講生たちからも「自分の日本語力の足りなさを改めて知った」という声をよく聞く。活字離れ、日本語離れが加速する世代の学生たちにとっては、これほどまでに言葉と向き合った期間はなかったはずだ。

■講師の視点からみた学生たちの成長

今回映像翻訳を指導したJVTA講師の桜井徹二に学生たちが字幕翻訳に取り組む様子、進むに連れて見えてきた変化を聞いた。

「翻訳前、多くの学生はシリアに関する知識も乏しく、映画で描かれる内容も遠い国の出来事と映っていました。しかし作品の翻訳後、上映会実施に向けて様々な資料を作る際には打って変わってシリアの状況への理解が深まり、最新のシリアの報道にも気を配っていたり、映画とは異なる自分なりの視点を持ったりと、自分事として捉えている様子が伺えました。字幕翻訳の作業を通じて制作者や登場人物の意図や心情を深く咀嚼した経験が、背景の理解を深めるのに大いに役立ったと感じています」(JVTA桜井)

明星大学が取り組んだのは「難民問題」だったが、どんなテーマでも、作品を通して歴史や政治、社会を学ぶきっかけになる。そして、英語だけではなく日本語に向き合う機会を与える究極の手段だ。本プロジェクトは、学生が「自分の使う言葉を真剣に考える」ためにも有効である。

2025年度 明星大学 特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特設サイト

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