【世界難民の日・特別上映イベント】難民選手団は東京オリンピックで何と闘い、何を勝ち得たのか?
6月20日は「世界難民の日」(World Refugee Day)。この日は国内外で難民問題を啓蒙する取り組みが行われていることをご存じだろうか。
今年は、国連UNHCR協会による難民映画祭のスピンオフイベントで、ドキュメンタリー映画『難民アスリート、逆境からの挑戦』が上映される。この作品は、内戦、政治的抑圧、宗教的理由などの理由で故郷を追われ、「難民選手団」として東京オリンピック出場を目指した5人(出場4人)の選手の姿を追っている。JVTAは2008年から難民映画祭を字幕制作で毎年サポートしており、この作品の日本語字幕を担当、修了生10名がチームを組み翻訳に取り組んだ。
◆翻訳チーム
佐藤清子さん 元吉有紀さん 安住菜那さん 小石原奈央さん 中川真実さん
三木規伊さん 浜崎弥生さん 三崎友衣奈さん 宮野晃代さん 山口愛実さん
IOC難民選手団は、2016年のリオ五輪で初めて結成され、2度目の参加となる東京五輪には29名のアスリートが選出された。今年のパリ五輪にも36名の出場が発表されている。翻訳チームのリーダーを務めたのは、難民映画祭の翻訳は念願だったと話す佐藤清子さん。パリ五輪を前に、この作品はより多くの人に難民について知ってもらうきっかけになると、特別な意義を感じながら翻訳作業にあたったという。一方、副リーダーの元吉有紀さんは、新型コロナウイルスという目に見えない敵とも戦わねばならなかった東京オリンピックに自らもボランティアとして参加。無観客の異様な会場の雰囲気を思い出しながら、追体験するような気持ちで作品に入り込んでしまったと話す。お2人に作品のみどころと翻訳秘話を聞いた。
「難民アスリートがどんな試練を乗り越え、何を背負って五輪の舞台に立つのかを知ることができる作品です。五輪出場という自分の夢をかなえるだけではなく、世界中の難民を励ます存在であろうとするアスリートの姿に心が動かされます。」(佐藤清子さん)
「彼らは生きることさえ困難な状況にありながらも、希望を捨てず、東京オリンピックの出場枠を目指して奮闘します。その原動力は、使命感や、母性、不屈の精神から来ています。彼らの揺るぎない強さや、家族・仲間を思う深い愛を感じて、訳している間に何度も目頭が熱くなりました。」(元吉有紀さん)
ドキュメンタリー作品は特に、綿密なリサーチが求められるジャンルだ。この作品は5人を追う群像劇であり、説得力のある字幕にするには翻訳者自身がイラン、シリア、南スーダン、カメルーンとさまざまな国におけるそれぞれの事情を把握する必要がある。佐藤さんはリーダーとしてチーム内を取りまとめるなかで、各々の裏取りの確かさに感動しきりだったという。相互チェックをすることで複数の目線がそれぞれの訳文のブラッシュアップの助けになった。
「心が折れかかっているカヌーの選手が言葉少なに気持ちを吐露する場面では、カヌーの構造と、こぎ方を理解している経験者の方のコメントに助けられ、本当に助かりました。」(佐藤さん)
「ワアド監督自身も、シリア内戦で母国を追われた難民です。彼女の視点からアスリートたちを取材し、彼らの苦しみや喜びを伝え、励ますシーンは胸を打たれます。彼らの経験を通じて監督自身も前向きな気持ちを取り戻していく姿も、この映画のもう一つの見どころだと思います。」(元吉さん)
この作品のハイライトはやはり、オリンピックの競技のシーンだ。スポーツ関連の映像はルールや専門用語を理解し、関係者が見ても違和感のない表現にしなければならない。
「作品の性質上、多くの場面で競技について深掘りする必要がありました。私自身、ウエイトリフティングはなじみのない競技だったため、ほんの短いフレーズの訳出にも慎重になりましたね。早口で、技の名前も入る実況を担当した方も苦労されたことと思います。選手それぞれの事情や思いを知ったうえで見る競技シーンは見どころの1つです。特に映像を見たい場面でもありますので、読むのが負担にならない字幕になるよう、より配慮を必要としました。」(佐藤さん)
「5人のアスリートそれぞれの背景、難民となるまでの想像を絶するような過去、オリンピック出場までの苦難、そして試合経過が、本人のインタビューを交えながら次々と切り替わります。そのため 、シーンが変わる度に主語や設定を補足したり、分かりやすい言葉に置き換えたりと工夫しました。また各競技のルールや専門用語を調べ、その言葉で視聴者に意味が伝わるかどうかを考えつつ、専門用語を使うことでリアルな競技の雰囲気も大切にしました 。また試合の実況シーンでは、映像、字幕、テロップと目に飛び込んでくる情報が多いため、シンプルで分かりやすい訳を心掛けました。同時にそれがアナウンサーの使う表現として適切で、かつ試合の緊迫感や感動が伝わる訳になっているか、多くの案を出し合いました。」(元吉さん)
チーム内での数々の修正を通して元吉さんは、語尾の微妙なニュアンスで、意志の強さや女性/男性らしさ、会話における人の関係性の違いが現れることを体感し、翻訳の奥深さを改めて学んだという。
国連UNHCR協会の山崎玲子さんは、難民映画祭の意義について、「難民という言葉のひとくくりの中に入れてしまうのではなく、映画を観ることでそれぞれの背景を理解し、一人ひとりの人生を肌身で感じてほしい」と話す。作品とじっくり向き合った翻訳者にも、視聴者に伝えたい想いを聞いてみた。
「7月26日から開催されるパリ五輪は難民選手団にとって3度目のオリンピック。世界中の難民にとっての希望である難民選手団のアスリートたちの雄姿に、心から声援を送りたいと思っています。」(佐藤さん)
「『難民』と聞くと、ネガティブで暗く、かわいそうなイメージがあり、平和な日本にいると遠い存在に感じられがちです。しかし、この映画で特集された5人のアスリートが取材中に見せる自然体の姿や笑顔には、とても親近感を覚えます。シーンが進むにつれ彼らに共感し、 応援し、寄り添うことができます。その過程で、難民という人々が身近に感じられるようになっている、そして難民問題を考えるということが、そこからもう始まっているんだと思います。監督もおっしゃっていますが、『私たちに何ができるか』ということだけでなく、『なぜ難民がいるのか』という背景にある社会問題にも目を向けることが大事だと思います。是非この映画を通じて、どんな困難や逆境も乗り越える勇気を手にしてください。そして来たる夏のパリオリンピックで難民選手団に注目し、力強い声援を送りましょう!」(元吉さん)
◆世界難民の日・特別上映イベント「難民アスリート、逆境からの挑戦」
【オンライン開催】2024年6月20日(木)~6月30日(日)
【劇場開催・東京】2024年6月19日(水)17:00 – 19:10 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
詳細・参加申し込みはこちら
◆第19回難民映画祭は2024年11月開催の予定
現在、JVTAの指導のもと、字幕制作が進行中。
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