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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が7月13日に開幕 ゼミ形式で英語字幕をつける「字幕PROゼミ」をレポート

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が7月13日に開幕 ゼミ形式で英語字幕をつける「字幕PROゼミ」をレポート
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デジタルで撮影・制作された作品のみにフォーカスした国際コンペティション、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が7月13日に開幕します。この映画祭は、若手映像クリエイターの登竜門としても知られており、未来の巨匠の作品に出合えるのが最大の魅力。過去には、白石和彌監督(『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』)や中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』『チチを撮りに』)など今注目のクリエイターがアワードを受賞しています。JVTAは毎年、字幕制作でサポートしており、今年も3本の長編、4本の短編の英語字幕を修了生が手がけました。

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こうした映画祭は映像翻訳者にとっても実践的な経験を積める貴重な場です。JVTAでは、この映画祭で上映される作品に字幕を付ける「英語字幕PROゼミ」を開催しています。英語字幕PROゼミとは、映画祭などで上映予定の作品にゼミ形式で字幕を付けるもの。MTCディレクターから2度のフィードバックを受けながら上映用の字幕を仕上げていきます。

 
そこで今回は、石川エディス講師が担当するチームの2度目のフィードバックをレポート。ゼミに参加したのは、日英映像翻訳科修了生の内田有衣子さん、染野日名子さん、宮本和子さんです。短編作品『はりこみ』の英語字幕を担当しています。

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『はりこみ』©FUNNY FOR

 
『はりこみ』は、住宅街に止めた車の中ではりこみを続ける刑事たちの会話劇。監督は、劇団殿様ランチを主宰する板垣雄亮氏です。夜間に交わされる、とりとめのない会話からそれぞれの人物像が浮かび上がってきます。28分のこの作品を3人で分け、チームで翻訳をしました。

 
フィードバックでポイントになった箇所をいくつか紹介します。

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◆女性刑事と後輩の男性刑事が犯人の元交際相手の女性の写真を見ている場面。
彼女の容姿について「別に普通じゃない」という女性へ後輩からの一言。

 

あれすか ひょっとして武藤さんて自分のこと、かわいいとかきれいとか思ってるんすか?

 
(受講生の字幕)You do think you are beautiful, don’t you?


 
エディス講師 この場合、彼は確認の意味で聞いています。日本では「●●じゃない?」というニュアンスでよくDon’t youを習うようですが、ネイティブには違和感があることも。Don’t you think you are beautifulもまた意味が変わってきます。ここではよりシンプルにright? が会話として自然で、「でしょ」というニュアンス。Today is Wednesday, right? ぐらいのイメージですね。

 
You think you’re beautiful, right?

 
◆後輩刑事と女性刑事がそれぞれの恋愛観を語る場面

 
後輩 男に対する執着も凄そうですもんね
女性 え、そんなこと言って大丈夫?

 
(受講生の字幕)
後輩刑事 You may be clingy with your boyfriend, too.
女性刑事 Well, is it okay for you to say that?

 

エディス講師 ポイントは後輩のセリフのmay。mayは一般的に50パーセントくらいの可能性を表します。でも彼はもっと確信を持って話しているはず。この場合はほぼ100パーセントを表すWouldがふさわしいと思います。この嫌味に対する女性の答えもニュートラル過ぎます。もっとアグレッシブな表現にして会話を盛り上げましょう。

 
後輩刑事 You would be clingy with your boyfriend, too.
女性刑事 You think you can talk to me like that?


 
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『はりこみ』©FUNNY FOR
◆後半から同乗してきた先輩刑事のセリフ。上司である部長から「煮干しが物忘れにいい」と何度も聞かされていると愚痴をこぼす場面。

 
オレもうその話何回も聞いてんのよ

 
(受講生の字幕)
But I heard the same story many times from him.


 
エディス講師 日本語に沿って訳すとこの受動態の表現になりますね。日本人は受け身をよく使いますが英語ではあまり使いません。もちろん、これも間違いではありませんが、主語を変えるともっとアクティブな印象になります。

 
He’s told me that same story many times.

 
◆買い出しから戻った後輩刑事が上司に差し出したのはアンパン。期待が外れた先輩刑事の一言。

 
ふざけんなよおまえ いつの時代の刑事だよ
(受講生の字幕)
When on earth do you live?


 
エディス講師 これは表記に注意。earthは土という意味ですが、この場合は地球という惑星のことを指しているので冒頭は大文字のEにしましょう。他の言い方ならWhat century are you from?などもいいですね。

 
When on Earth do you live?

 
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PROゼミではこうした細かいニュアンスを話し合いながら、よりナチュラルでリアルな字幕を作っていくのです。シンプルな会話でもワードチョイスを一つ変えるだけでセリフの印象が変わることが分かりました。
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ゼミの修了後、翻訳者の皆さんにPROゼミの感想を聞いてみました。チーム翻訳で28分の作品を3人で分担し、冒頭が内田有衣子さん、中盤が染野日名子さん、終盤を宮本和子さんが担当しました。3人ともチーム翻訳も映画の翻訳も字幕制作ソフトを使った翻訳も初めてとのこと。

 JVTA 今回のPROゼミで苦労した点をそれぞれ教えてください。

宮本和子さん 担当箇所では、バンカケ(職務質問)、ニンチャク(犯人の人相や着衣)、キンパイ(特別緊急配備)など警察の専門用語や略語がいくつかあり、まず日本語で調べて言葉の意味を確認し、英語にしました。

 
内田有衣子さん この作品全体を通して監督が何を伝えようとしているのかをまず知りたいと思い、監督のツイッターを見たり、過去作品を調べたりしました。この作品はもともと演劇です。明らかにコメディの会話劇ではあるけれど、何を伝えたいのかが、はじめはあまりよく分かりませんでした。単純に面白いなとは思ったのですが、監督が考えていることを、より深くつかむために念入りに調べものをしました。

 
染野日名子さん 作品の全体的なことは内田さんが先にいろいろ調べて私たちにもシェアしてくれました。私が一番大変だったのは、字幕制作ソフトの使い方です。本格的にソフトを使って字幕を作ったのは3人とも初めてでした。実際に字幕制作ソフトで字幕を作り、字幕データをエクスポートして皆で共有し、さらに直したものを反映していくという一連の作業を体験して仕事のイメージができるようになりました。ソフトの使い方にてこずると字幕を練っている時間がなくなってしまうので、これはいい勉強になりました。次に取り組む時はスムーズにできそうです。

 
JVTA フィードバックではハコ切りについてのアドバイスもありました。冒頭の内田さんは短めに切ってテンポよく、後半の染野さんと宮本さんは長めの傾向だったようですね。

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宮本和子さん そうですね。後半は会話が混み入ってきて、長めのハコを切ることが多く、もっとテンポよく分けるように指摘された箇所がくつかありました。掛け合いのセリフが多く、タイミングが難しかったですね。

 
内田有衣子さん お2人のパートは人が増えていく分、複雑でよりハコを切りにくかったのだと思います。冒頭の私のパートは2人だけで話しているので掛け合いにしてテンポよく切ったほうが面白いと思ったんです。でも染野さんのあたりで3人になり、宮本さんのパートでは4人になり、セリフも長くなる…。1人ずつのセリフを1枚ずつ短く出して掛け合いにしてテンポ良くするのが難しかったと思います。説明調の長いセリフも多くなるので、長めの表示の方が読みやすいですし。作品を通してハコの長さを統一するのは難しいと感じました。

 
JVTA チームで翻訳をするのも初めてだそうですが、いかがでしたか?

 
染野日名子さん Googleスプレッドシートを教えてもらい、とても便利でした。調べた内容を共有したり、お互いの意見を書き込んだりして、メールでのやり取りよりもスムーズにできたと思います。ただ、常に3人でアップデートしていると書き足した場所が分からなくなりそうで不安になることも。字幕は全部で約450枚。「やっぱり変えたい」と書き足したことを、お互いに気づけるのかと。ですから、結構頻繁に1から450まで全体的に目を通してチェックをしていましたね。記入の時は日付を明確に書くことも意識していました。

 
宮本和子さん 最後のパートに1人が関西弁のような言葉で話すセリフがあります。この言葉をどう英語にするかに迷いました。その言葉遣いが物語にキーポイントになるので、すごく重要なんです。私自身はくだけた英語表現はあまり知らなかったので、お2人にたくさん提案を頂きました。

 
JVTA 例えばどんな風に工夫されたのでしょうか?
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『はりこみ』©FUNNY FOR

 
内田有衣子さん 大阪弁を話している感じを英語でも見せるために、youをyaにしたり、短縮形のカジュアルな言葉に変えて、I like themではthを省いてI like’em.にしたり。

 
染野日名子さん 日本語で聞いて明らかに方言っぽく話しているニュアンスを英語の字幕でも感じてもらうためにどうしたらいいのか、3人で話し合いました。

 
宮本和子さん 登場人物全員にこれを使うと違いが分からなくなってしまうので、特定の人物だけに使って差をつけました。

 
JVTA 会場の皆さんにはぜひそのあたりにもぜひ注目してほしいですね。お疲れ様でした!

 
★『はりこみ』の詳細と上映スケジュールはこちら
http://www.skipcity-dcf.jp/films/japanese_short03.html

 
★SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
7月13日(金)~22日(日)
公式サイト
http://www.skipcity-dcf.jp/index.html

 
【関連記事】
6月23日公開の映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督の過去の短編作品『テイク8』の英語字幕もJVTAが担当しました。
英語字幕PROゼミの様子はこちら
https://www.jvta.net/tyo/2016skipcity-prosemi/

 
カメラを止めるな! 公式サイト
http://kametome.net/index.html

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