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日本のマンガが英語になるまで。世界を魅了する「マンガ翻訳」の知られざる裏側

日本のマンガが英語になるまで。世界を魅了する「マンガ翻訳」の知られざる裏側

いまや『オックスフォード英語辞典』(OED)や『Cambridge Dictionary』等の数多くの辞書に見出しとして掲載され、世界の共通語として使われている「MANGA」。日本のマンガの海外市場規模は拡大を続けており、日本政府もマンガの海外進出を後押しし、翻訳や現地でのイベントの支援に力を入れている。

マンガの世界進出が加速する中、大きなカギとなるのが「ローカライズ」だ。マンガを世界に届けるには単にセリフを他の言語に置き換えるだけでは不十分。マンガならではの世界観、キャラクター性を考慮したセリフの翻訳はもちろん、オノマトペや描き文字にまで気を配ってローカライズすることが必要である。

2026年の「JVTAサマースクール」では、注目度が上昇しているマンガ翻訳に特化したセミナーを開催。日英映像翻訳のコース開発ディレクターであるジェシー・ナスが、人気マンガのローカライズを手掛けたサラ・タングニーさんをゲストに迎え、日本のマンガが英語に生まれ変わるまでの裏側を聞いた。サラさんはアメリカのマンガ賞「American Manga Awards 2025」で最優秀翻訳賞を受賞した作品『The Otaku Love Connection(オタクも恋も連鎖する)』の編集担当者であり、『Cherry Magic! Thirty Years of Virginity Can Make You a Wizard?!(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)』や『My Happy Marriage(わたしの幸せな結婚)』なども手掛けている。

サラさんの担当作品一例

1冊のマンガがローカライズされるまでの時間は「約1年」!?
1冊の単行本が英語版として完成するまでにはどのくらいの時間がかかるのか?サラさんはプロジェクトによって様々で一概には言えないとしつつ、平均して9カ月〜1年ほどだと言う。 そこには翻訳だけではなく、マンガならではの数多くのプロセスが存在している。 セミナーでは、サラさんの所属するSquare Enix Manga & Booksでの作業の一例が紹介された。

【日本のマンガが英語版になるまで】
1.素材の受け取り・構造チェック:まずは作品をデータや紙媒体で受け取り、内容を確認。何ページあるのか、どこにどのようなページがあるのか、カラーはどこに必要かなどをチェックする。さらに、日本のマンガ単行本には、カバーを外した本体の表・裏に描き下ろしマンガがあったり、ページの端のスペース(柱)に作者のメッセージが書かれていることがあったりする。そのようなものは海外のマンガでは存在しないため、英語版にしたときにどこに配置できるかを細かく考える。

2.翻訳作業:翻訳者へ翻訳を依頼。出来上がった翻訳を編集者がチェックする。

3.レタリング:日本語の文字を消し、英語のテキストに差し替える作業をレタリング(Lettering)と言い、文字を流し込む専門の職人をレタラー(Letterer)と呼ぶ。チェックの済んだ翻訳ファイルをレタラーに送り、吹き出し内のセリフ、心の声、さらにオノマトペ等も英語に置き換える。

4.繰り返し確認:レタリングが済んだ状態で確認し、翻訳テキストだけでは気づかなかった部分を修正する。 また外部のプルーフリーダーによる確認も実施。最後に編集者が印刷前の最終確認を行う。サラさんは最終確認時、大きなモニターにファイルを映してページを隅々まで見るそう。何度もチェックをしたうえでいよいよ印刷へ。

日本語のマンガではセリフが縦書きだが、英語版では横書きになる。そのため吹き出しの中に入るテキストのバランスや見た目も考慮したうえで翻訳することが必要だ。

ここが面白い!マンガ翻訳ならではの工夫
マンガの翻訳では前述したように、吹き出しの大きさやイラストとのバランスを考えることが必要だ。日本語は主語や目的語を省略しても伝わる言語だが、英語の場合は基本的に主語や目的語を明確にする必要がある。したがって、英語にするとセリフが長くなりやすい。

「英訳した際、吹き出しの大きさに対してセリフが長くなりすぎてしまうことがあります。翻訳としてとても良くできていても、吹き出し内に収まらないとマンガ翻訳ではNG。そこがマンガ翻訳のポイントのひとつですね」(サラさん)

吹き出し内に収めなくてはならないという点は、決められた字数でセリフを作る字幕翻訳に似ている。実際、JVTAで日英の映像翻訳を学んだ修了生が字幕制作で培った『限られた文字数で魅力を伝えるスキル』を活かして、マンガ翻訳で活躍している例が多々ある。

また、日本語特有の「オノマトペ」も工夫のしどころだとサラさんは言う。日本のマンガには「ドキドキ」「ザザーッ」など、独特なオノマトペ(擬音語・擬態語)が多々出てくる。英語版では元の日本語のデザインに似せて英語の効果音に差し替えたり、場合によっては日本語の描き文字を残したまま小さく英語を入れたりすることもある。サラさんは編集者として、日本語版と比較しながら最適な方法を探すという。作品の雰囲気を壊さず、読者に伝わるような工夫が凝らされているのだ。

多くのコンテンツに触れ、言葉のセンスを磨いてほしい
セミナーを通し、日本のマンガが世界に届けられ多くの読者が楽しむ裏側には、様々なプロフェッショナルが関わっていることが分かった。マンガのローカライズは、サラさんをはじめ、作品と作者へのリスペクトと情熱を持ったプロが支えている。

JVTAで日英映像翻訳を学ぶ人の中にも、将来は漫画翻訳にもキャリアを広げたいという人がいるかもしれない。最後に、サラさんにマンガ翻訳者を目指す人へのアドバイスを聞いた。

「まず、日本のマンガやメディアコンテンツにたくさん触れることをお薦めします。それと同時に、英語でもマンガや小説を読んでほしいと思います。多くのコンテンツに触れ、英語でどのように表現されているのか、どんな表現がふさわしいのかを知り、言葉のセンスを磨いてほしいですね」(サラさん)

海外での売上が右肩上がりとなっている日本のマンガ。その勢いは今後ますます増していくだろう。それに伴い、高いスキルを持った日英翻訳者の必要性も高まるはずだ。確かな語学力を持ち、マンガやエンタメコンテンツが好きな方には、追い風となる時代が来ている。

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