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映画+トークを通して、環境保護やジェンダー平等の問題を「自分ごと」に。「WATCH 2025」上映イベント開催レポート

映画+トークを通して、環境保護やジェンダー平等の問題を「自分ごと」に。「WATCH 2025」上映イベント開催レポート

2025年7月3日(木)~7月13日(日)にかけ、学生がSDGsに関連する海外ドキュメンタリー作品に字幕をつけて上映する無料のオンラインイベント「WATCH 2025: For a Sustainable Future(以下、WATCH 2025)」を開催。本イベントは東京外国語大学(東京都府中市)が共催、神戸市外国語大学(兵庫県神戸市)が協力となる産学連携のインターンシップ・プログラムだ。インターン生が主体となり翻訳、プロモーション、イベント制作を行うことが大きな特徴である。プログラムは2022年より実施しており、今年で4回目となった。

「WATCH 2025」では、国内外の大学から参加した53名のインターン生が日本語字幕を付けた長編ドキュメンタリー2作品、英語字幕を付けた短編ドキュメンタリー作品1作品のオンラインでの無料上映を実施。さらに長編ドキュメンタリー2本は、東京外国語大学の「TUFS Cinema」と連動し、リアルでの上映イベントを開催した。

TUFS Cinemaは、映画を通じ、世界の諸地域における社会・歴史・文化の理解を深めることを目的として東京外国語大学で行われている上映イベントである。今回は「SDGsを考える映画特集」として、「WATCH 2025」のインターン生が字幕を制作した『自然と未来~オーストリアとブータンからの学び~』と『イスラームの変革者~女性イマームの誕生~』の2作品を上映。さらに各映画のテーマに造詣の深いゲストを招き、学生とのトークセッションを行った。

(左から)髙梨真央さん、寺村優奈さん、古川高子先生、村山木乃実先生、
内田理香子さん、村上梨緒さん、近藤絢乃さん(司会)、桜井徹二(JVTA)


テクノロジーに囲まれた私たちが、自然保護と幸福を両立するには?
1本目の上映作品は『自然と未来~オーストリアとブータンからの学び~』。監督自身がブータンとヨーロッパを旅しながら、気候変動と人間の暮らしの関係を見つめ直すドキュメンタリーだ。自然と調和したブータンの有機農業やGNH(国民総幸福量)の思想を通じ、現代の消費行動や価値観に問いを投げかける作品である。

上映後のトークセッションには、東京外国語大学 世界言語社会教育センター 特任講師で、ヨーロッパ近現代史や自然と人間の社会史について研究している古川高子先生がゲストとして登場。東京外国語大学の寺村優奈さんと髙梨真央さんが共に登壇し、インターン生が作った字幕の感想や、映画の内容から派生した「自然保護とはどうあるべきか」という疑問、自然保護と幸福を両立するにはどうしたらいいのかなどを質問した。

セッションの中で髙梨さんは、「テクノロジーに囲まれた便利な生活をする現代において、どのようにその幸福を享受しながら自然を保護していくことができるのか?」と古川先生に問いかけた。この問いについて古川先生は、「技術と自然は対立するものではなく、どちらも人間をとりまく『環境』である」と回答した。

「テクノロジーと自然は対立するものではなく、どちらも人間を取り巻く『環境』だと考えてみるとどうでしょうか。例えばテクノロジーが進化して、人間を監視したり人間に命令するようになるかもしれません。そうなると、その時点で初めて人間は『命令されない環境』を考えるようになります。
山の中に暮らしているような人は、自分の周りの環境を整えないと、いつ自然に殺されるか分からない生活をしています。それが自然保護をする理由なんです。そしてそれは、長い目で見たら人間の幸福につながるはずです。
テクノロジーに囲まれている私たちも、その進化によっていつその脅威にさらされるか分かりません。進み過ぎたテクノロジーを制限する必要性に迫られるかもしれません。それは決して幸福な状態とは言えないでしょう。
つまり幸福を享受しながら自然保護をするという考えではなく、『自分たちの周りの環境を保護しなければ幸福になれない』と、少し逆転の発想をするのが良いと思います」(古川先生)

この回答に髙梨さんは「『自然は大事だから保護しなくてはならない』と考えていたが、環境を守ることが人間を保護することにつながり、最終的に幸福に繋がっていくという意見が新鮮に感じた」と感想を述べた。映画鑑賞と古川先生の解説を通し、地球規模で遠く感じがちな「自然保護」が、自分ごととなった人は多いだろう。




日本とは異なる、イスラムの「平等」の定義
2つ目の上映作品は『イスラームの変革者~女性イマームの誕生~』。女性主導によるモスクの開設を目指す主人公が、イスラム教に対する誤った認識や恐怖が広がりつつある現実に際し、従来のジェンダー・ヒエラルキーからの脱却を目指す物語である。

上映後のトークセッションのゲストは、東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所特任研究員で宗教学、ペルシア文学、イラン思想を研究する村山木乃実先生。東京外国語大学の内田理佳子さんと東京外国語大学大学院の村上梨緒さんが共に登壇し、イスラムに関する専門用語や日本ではなかなか知る機会の少ないイスラムにおける結婚や離婚、ジェンダーギャップなどについて聞いた。

映画の中では女性がイマーム(導師)となることについて、様々な議論が行われるシーンがあった。それにちなみ、村上さんはイスラムにおけるジェンダー平等について村山先生に質問。すると村山先生は「イスラム圏の一般的理解や政府の見解における『平等』の概念と、他の地域における『平等』の概念は異なる」と解説した。

「日本や他の地域における一般的なジェンダー平等の概念は、『男女が同じ能力や役割を持ち、それを発揮する機会を持つこと』です。一方、イスラムにおける一般的な考え方は『男女それぞれが別々の能力や役割を持ち、それを相互補完的に発揮すること』。根本の考え方が違うので、日本の平等の概念でそのままイスラムの平等を考えることは難しいのです」(村山先生)

しかしながらイスラムの世界でも、女性の高等教育や社会進出の広がり、世界的フェミニズム運動に後押しされる形で、従来の男性中心主義の考えに対抗する動きも起きていると村山先生は言う。このような変化が進むためには、女性やマイノリティの問題に関して連帯して変革を求めることが重要であり、そのためには「WATCH 2025」のようなイベントを通して「問題を知る」ことが大切であると結んだ。



終盤には会場参加者からの質疑応答も実施。「『自然と未来~オーストリアとブータンからの学び~』の舞台のひとつであるオーストリアの自然保護は、隣国のドイツの影響もうけているのか?」「イマームというものは、誰がどのような形で権威を認めるのか?」など、多数の質問が先生方に寄せられた。映画、トークセッション、さらに質疑応答を通し、世界規模での環境保護やジェンダー平等について理解を深め、更なる興味を掻き立てられる上映イベントとなった。イベントを通し、参加者は自分から遠いと思っていた社会問題を少し身近に感じられるようになっただろう。

「WATCH 2025」のインターンシップ・プログラムの概要や上映作品情報は、公式HPで掲載している。さらに、学生主体でのInstagramとnoteも運営。こちらではインターン生視点での字幕翻訳の感想や、インターン生がプロの映像翻訳者に行ったインタビューなども掲載している。ぜひこちらもチェックしてほしい。


WATCH 2025 公式サイトは▶こちら
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