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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第27回 “The Man in the High Castle”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第27回 “The Man in the High Castle”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第27回“The Man in the High Castle”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 


 

遂に登場、フィリップ・K・ディックの「高い城の男」!
もし第二次世界大戦で枢軸国(日・独・伊)が勝利していたら、世界はどうなっていたのか?
お待たせしました。フィリップ・K・ディック原作の歴史改変ドラマ「高い城の男」が、遂に日本上陸。前評判どおり、文句なしのクオリティで見応え十分、Amazon入魂の一作だ!
 

日独がアメリカを統治する世界
画面にゆっくりと現れるハーケンクロイツ(鉤十字)と日章旗、そして自由の女神とラシュモア山の合衆国大統領の彫像…。バックに流れるのは「エーデルワイス」。(『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)で、クリストファー・プラマー演じるトラップ大佐が、ナチス政権下の祖国オーストリアを想って歌った曲だ)
このオープニングには思わず引き込まれる。
 

1947年、ドイツが首都ワシントンに原爆を投下した結果、アメリカは無条件降伏し、連合国は枢軸国に屈した。アメリカはドイツと日本に分割統治され、ロッキー山脈を境に東側が大ナチス帝国(“The Greater Nazi Reich”)、西側が日本太平洋合衆国(“Japanese Pacific States”)となり、中央に中立地帯が設けられた。
 

1962年、ヒトラーはアルツハイマーを患っている。だがドイツは圧倒的な技術力で世界をリードしていて、近々アメリカ全土を手中に収めるつもりだ。日本の核兵器開発は失敗に終わっていた。
 

「イナゴ身重く横たわる」とは?
舞台はサンフランシスコ。ジュリアナ・クレイン(アレクサ・タヴァロス)は、恋人のフランク・フリンク(ルパート・エヴァンス)と貧しいながらも幸せな生活を送っていた。ジュリアナは合気道を通じて日本文化を学んでいたが、妹のトゥルーディはレジスタンスに加わった。
 

レジスタンスが全米各地で盛り上がる中、トゥルーディが日本の憲兵隊に射殺される。
 

彼女は死ぬ直前、ジュリアナに謎のフィルムを預けていた。それは「イナゴ身重く横たわる」(“The Grasshopper Lies Heavy”)という珍妙なタイトルだったが、その映像はジュリアナとフランクを戦慄させる。フィルムはトゥルーディによって、中立地帯に住む「高い城の男」へ届けられるはずだった。
 

ジュリアナはフィルムを持って中立地帯へ行き、そこでNYから来た活動家ジョー・ブレイク(ルーク・クラインタンク)と出会う。一方、アメリカ人のナチス親衛隊大将ジョン・スミス(ルーファス・シーウェル)は、レジスタンス殲滅のために先手を打っていた。
 

その頃、日本の田上通商大臣(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)は、ナチスの情報将校と密談をもつ。田上は日独関係の将来を憂慮し、ドイツとの戦争回避に奔走していた。
 

そこに、突然劇的なSF的ツイストがさく裂する!
 

ディックの世界観、深化するストーリー
レジスタンスに巻き込まれたジュリアナ、フランク、ジョーの3人は、数奇な運命に翻弄されながらも懸命に生きる(三角関係という問題もある)。田上は「戦争の大義」に疑問を持ち、ジョン・スミスはナチスの規律と家族の板挟みに苦悩する。各キャラクターは等身大の人間として描かれ、丁寧な脚本と地味だが演技力のあるアクターたちによって深く掘り下げられている。
(ただし、本作はストーリーの設定上「ハリウッド映画的で微妙な日本人や日本の文化」がBGMなので、気になる人は敬遠した方がいい)
 

ディックの確固たる世界観と主要キャラクターはそのままに、ストーリーは原作から大幅に変更かつ深化されている(“loose adaptation”という)。やはりディックの原作だった『ブレードランナー』(1982)も同じ方式で、同作の監督だったリドリー・スコットは、本作では製作総指揮を務めている。
 

「第二次世界大戦におけるアメリカ敗北」をテーマとした小説は、他にも何作かある。昨年翻訳が出たピーター・トライアスの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』は、日本が巨大ロボットを使ってアメリカを統治する話だ。ドラマで観る「日独統治下のアメリカ」は不気味な光景で、インパクトは強烈。その結果、本作は尋常ではないサスペンスと中毒性を持つ人間ドラマとなった。これにはハマる。
 

「イナゴ身重く横たわる」に秘められた力とは何なのか?
「高い城の男」の正体とは?
 

気になるシーズン2は、本国では昨年12月にAmazonから配信された。(1年待ちかなあ)
読者の皆さんはまずシーズン1を観て、これから現実世界で起こるサプライズに備えよう!

 

<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ⑦
Title: “Street Life”
Artist: The Crusaders with Randy Crawford
Movie: “Sharky’s Machine” (1981)


映画のオープニングで、アトランタのダウンタウンを歩くバート・レイノルズにかぶせてこの名曲が使われた。クルセイダーズのオリジナル・アルバムからどうぞ。

 

 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
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