これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第137回 “PLURIBUS”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第137回 “PLURIBUS”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『プルリブス』 本予告
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“BrBa”のクリエーターによるSci-Fiスリラー!
「史上最高のテレビドラマ」との誉れ高い“Breaking Bad”(“BrBa”)。この至高のクライムドラマを生んだヴィンス・ギリガンの最新作が本作だ(舞台も再びアルバカーキ!)。
“Pluribus”はApple TV(旧Apple TV+)オリジナル。癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
(※)pluribus:多数、多数から。語源はアメリカ合衆国を表すラテン語「E pluribus unum(多数からひとつへ)」。
“We Is Us”
—14か月前
天文学者たちが、600光年先の深宇宙から発信されたシグナルを発見した。おそらく人類誕生時から送られ続けていたものだ。ようやく解読すると、それはコード化されたRNAの配列データで、生物というよりウイルスに近いものだった。
—29日前、米国陸軍感染症医学研究所
政府の極秘プロジェクトに携わる研究者が、実験用マウスに噛まれて溶原性ウイルスに感染。所内で集団感染が発生した。
—現在、ニューメキシコ州アルバカーキ
キャロル・スターカ(レイ・シーホーン)は新作発表ツアーを終えて、マネージャーで妻のヘレンと共にアルバカーキ空港に到着した。キャロルは、官能歴史ロマンス『ワイカロの風シリーズ』を大ヒットさせたベストセラー作家だ。だが皮肉屋で気難しく、自分の低俗な作品にうんざりしている。
深夜になって、2人は空港近くのバーを出た。
突然、キャロルを除く街中の人々が、全身を硬直させながら痙攣し始めた。特にヘレンは症状がひどく、呼吸をしていない。
人々の痙攣は数分で収まり、次々と立ち上がった。みんなフレンドリーで、心配そうにヘレンの周りに集まってくる。だが様子がおかしい。
ヘレンは死んだ。体が痙攣のショックに耐えられなかったようだ。茫然自失のキャロルは何とか彼女の死体をトラックで自宅まで運び、家に立てこもった。
唯一放送しているテレビ局の緊急連絡先に電話をすると、画面に映っているホワイトハウスの閣僚につながった。その閣僚は‘彼ら’の代表で、大統領は死亡し、パンデミックは地球を席巻しているという。今や世界中で人々がウイルスに感染して意識を同化させ、「幸福」を感じている。免疫があるのはキャロルを含めて世界でわずか12人。
代表は、彼女にも‘彼ら’の仲間になって欲しいという。
翌朝、キャロルの‘付き添い’となるゾーシャ(カロリーナ・ヴィドラ)が現れた。
レイ・シーホーンの一人舞台!
レイ・シーホーンは、“BrBa”の前日譚“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照 )の弁護士キム役でブレーク、エミー賞助演女優賞に2度ノミネートされた。今回は、最後まで「幸福」を拒絶するキャロルを壮絶に演じて、本年度のゴールデングローブ賞の最難関だった主演女優賞を勝ち取った。
本作はシーホーンの一人舞台だ。
ゾーシャ役のカロリーナ・ヴィドラはポーランド出身で、これが初の準主役級。シーホーンとの間には磁力のようなケミストリーが働き、キャロルとゾーシャの微妙な関係を刺激的なものにしている。
‘パラグアイの謎の男’マヌッソスを演じたカルロス・マヌエル・ベスガは、コロンビア生まれのベテランアクター。アメリカン・ドラマは初出演ながら重要な脇役を熱演した。
「‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。」
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のヴィンス・ギリガンは、社会現象となった懐かしいSci-Fiドラマ“The X-Files”の制作・脚本に関わり頭角を現した。2008年以降、“BrBa”、“Better Call Saul”、さらに後日譚となるTVムービー“El Camino”を送り出し、“BrBa”フランチャイズを不動のものとした。
ギリガンは実にエミー賞に23回(受賞4回)、ゴールデングローブ賞に4回(受賞1回)ノミネートされている。
人々がすべての知識・経験・スキルを共有し、戦争・犯罪もあらゆる差別もない世界。個人という概念は存在せず、そこにあるのは平和・愛・理解、そして完全な公平と平等。つまり、理屈の上では100%幸福な世界だ。
これは果たしてユートピアか、ディストピアか?
本作はSci-Fiドラマと言っても、スペースシップやエイリアンが登場するわけではない。B級感が漂う、ブラックユーモアに満ちた心理スリラーだ。
劇中キャロルが一連の出来事に例えて言及するのは、SF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)。人々の意識が同化する“hive mind”の概念は、“Star Trek: The Next Generation”のボーグを連想させる。もっとも、本作における‘彼ら’の実態は「ヒューマノイド型生成AI」に近い。
エンドクレジットに“This show was made by humans”とメッセージが出るが、いかにもAI嫌いのギリガンらしい。
‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。そして主人公の使命は、世界中の「幸福な人々」を元の生活に戻すこと。確固たる世界観に裏付けられた、この笑えないほど皮肉な設定は強烈に効いている。
欠点は幾つかある。中盤にダレるストーリー、クセの強いキャロルのキャラ、消化不良気味のエンディングなど。
だがスリリングなパイロット(第1話)、オリジナリティのあるプロット、シーホーンの圧巻の演技、ギリガン流の奥行きのある映像美、そして次シーズンへの期待感(シーズン2まで契約済み)が欠点を補って余りある。
“Pluribus”は、癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
原題:Pluribus
配信:Apple TV
配信開始日:2025年11月7日~12月24日
話数:9(1話 42-62分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(1月~3月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。
●“Hacks: S1-S3”(日本未公開)
エミー賞主演女優賞4連覇!74歳のジーン・スマートが伝説的な女性スタンダップ・コメディアンに扮する、辛辣な笑いと苦い感動に包まれたHBOの看板ドラマ!
(U-NEXTが配信してくれないのでUSA版DVDで観た。)
●“SEAL Team”(『SEAL Team シール・チーム』、U-NEXT)
“Angel”、“Bones”のデヴィッド・ボレアナズ主演、SEALs(米国海軍特殊部隊)の過酷な任務と葛藤をリアルに描き切った傑作アクションシリーズの最終シーズン(S7)!
●“The Lowdown”(『ローダウン 独自調査ファイル』、Disney+)
ハードボイルド・ファンにお勧め、イーサン・ホークが不屈の二流ジャーナリストを渋く演じるコメディタッチのクライムドラマ!(この副題は何とかならないか?)
●“The Hunting Wives”(『ハンティング・ワイブス』、Netflix)
テキサスのセレブ妻たちの醜聞・欺瞞・秘密が乱れ飛ぶ、低俗でお下劣で強烈な中毒性のあるエロティック・クライムスリラー!(これぞ“guilty pleasure”!)
●“Star Trek: Starfleet Academy”(『スター・トレック:スターフリート・アカデミー』、Paramount+)
シリーズ生誕60周年記念の最新作は、若き士官候補生たちの夢、友情、成長を活写する青春Sci-Fiドラマ!(67歳〈撮影時〉のホリー・ハンターの魅力爆発!)
●“Wonder Man”(『ワンダーマン』、Disney+)
スーパーパワーを隠して役者として生きる若者と落ちぶれたベテランアクターとの友情を描く、マーベル・ユニバースの愛すべき小品!(トレヴァー役で再出演のベン・キングズレーが唸るほど上手い!)
●“A Knight of the Seven Kingdoms”(『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』、U-NEXT)
“Game of Throns”の100年前を舞台に、根無し草の気のいい騎士と聡明な少年従士との絆を描く小粒なスピンオフドラマ!
●“F.B.I.”(『FBI:特別捜査班』、hulu)
FBIニューヨーク支局の現場捜査員とハイテク分析チームが、テロリスト、暗殺者、シリアルキラー、誘拐犯等を追い詰める現在最高の警察ドラマ、充実のS7!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『IT / イット ウェルカム・トゥ・デリー“それ”が見えたら、終わり。』 本予告
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“Pennywise, the Dancing Clown returns!”
本作はスティーヴン・キング原作の『IT/イット』シリーズ(2017&2019)の前日譚で、‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズの誕生秘話が描かれる。
“IT: Welcome to Derry”は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによるオリジナル(配信はU-NEXT)。完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
“This is not America, this is Derry”
—メイン州デリー、1962年
雪の降る夜。なぜかおしゃぶりを咥えている男の子が、町の映画館に忍び込んだ。上映されているのは『ザ・ミュージックマン』。彼はほどなくマネージャーに追い出され、仕方なく国道でヒッチハイクを始めた。
その子の名前はマティ、デリー学園の生徒だ。彼を拾ってくれたのは、子連れの優しそうな中年夫婦だった。暖かい車内では、ラジオがソ連の核実験を伝えている。夫婦が卑猥なジョークを飛ばし始めた。弟はひたすら単語のスペルを唱え、姉はタッパーウェアに入った生レバーの臭いをかいでいる。何かがおかしい。
その夜、マティは行方不明になった。
—4か月後
デリー空軍基地に、リロイ・ハンロン少佐(ジョヴァン・アデポ)が赴任してきた。国防総省の極秘プロジェクト「プリセプト作戦」に参加するためだ。妻のシャーロット(テイラー・ペイジ)と12歳の息子ウィルもほどなく合流する。
黒人のハンロン少佐は、初日から基地内で差別を受けた。
リリーは1年前に父親を事故で失った。ピクルスの瓶詰工場で機械に挟まれたのだ。彼女はデリー学園のクラスメートにいじめられ、‘変人リリー’と呼ばれている。
実は、マティはリリーの秘密の友人だった。
デリーでは、マティだけでなく子供たちが次々と行方不明になっていた。
ある日、リリーは自宅の排水口からマティの声を聞いた。『ザ・ミュージックマン』の劇中歌だ。彼女はマティの友人2人を誘って捜索を始める。マティが最後に目撃された映画館に行く。そこで働くロニーも協力してくれた。
無人の館内で、ロニーは『ザ・ミュージックマン』を上映し始めた。すると、スクリーンにマティが映っているではないか。だがマティの顔はピエロに変わり、そいつは布でくるんでいた小さな怪物を解き放った。
怪物はスクリーンを突き破り、リリーたちを襲い始めた!
‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズが27年ぶりに覚醒したことを、デリーの人々は知る由もない…。
“We’re losers and always will be”
本作の主役は、いじめられっ子5人組。
精神を病みながらも友人の救出を諦めないリリー(クララ・スタック)、軍人の父親からのプレッシャーに悩む理系の秀才ウィル(ブレイク・キャメロン・ジェームス)、父親の冤罪を晴らそうと奮闘するロニー(アマンダ・クリスティーン)、ちょっとズレてるリリーの親友マージ(マチルダ・ローラー)がドラマをけん引する。
そして、マージへの愛を貫き通す粋な気取り屋リッチ(アリアン・S・カルタヤ)には、不覚にも泣かされる。
彼らの合言葉は「勇気」だ。
映画版に続いてペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドはスウェーデン出身。やはりS・キング原作の“Castle Rock”にも主演している。父親は“Star Wars: Andor”のステラン・スカルスガルド、兄は“Murderbot”(本ブログ第131回参照 )で主演したアレクサンダー・スカルスガルドだ。
リロイ・ハンロン少佐役のジョヴァン・アデポは、“Jack Ryan”(本ブログ第55回参照 )、“When They See Us”(本ブログ第57回参照 )で準主役を演じた。
“Thank you for visiting Derry”
立案および製作総指揮は、アンディ&バーバラ・ムスキエティの弟姉コンビ。映画版2作ではバーバラが製作、アンディが監督を務め、ドラマ版ではアンディは共同監督に名を連ねる。
エンタメ作家を「質x量」で評価すると、スティーヴン・キングは文句なしに史上最強だ。原作小説『IT』(1986)は、膨大なキング作品の中でもトップ3に入る屈指の名作。この一作がなければ、超人気の“Stranger Things”(本ブログ第32回参照 )も生まれなかった。
ムスキエティ弟姉は、その唸りを上げる‘キング節’を原作の雰囲気そのままに見事に映像化した。
本作は、『スタンド・バイ・ミー』(1986、これもキング原作)の美しいホラーバージョン。軍事スリラーの要素がスパイスとして効いている。
ストーリーは原作と映画版からインスピレーションを得たオリジナル。ジョン・F・ケネディが大統領で、ソ連との冷戦下にある時代。舞台は、警察の腐敗と黒人差別が未だ色濃く残る、メイン州の廃れた町。
レトロ調のオープニング・クレジットが秀逸。パイロット(第1話)の冒頭約10分間の‘キモ怖さ’は別格で、観る者を一気にこの数奇な物語に引きずり込む。現前の超常現象と登場人物の空想が混然一体となり、キングの世界観が広がってゆく。
エピソードが進むにつれ、リリーを中心とした5人の仲間は絆を深めていく。警察に助けを求めても、信じるはずがない。一方でハンロン少佐は、「プリセプト作戦」に深く係わっていく。彼らの運命が交錯するとき、ペニーワイズ誕生の謎が明らかになり、デリーの町は恐怖に支配される。
戦慄と感動の最終話は文句なしの出来栄えで、68分間がアッという間だ。
“IT”ユニバースは映画、ドラマ、小説、どれから入っても楽しめるが、できればセットですべて堪能して欲しい。
“IT: Welcome to Derry”は完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
ペニーワイズのあの高笑いはシーズン2で戻ってくるはずだ。(本稿執筆時点では、HBOによるシーズン2の制作発表はない。)
原題:IT Welcome to Derry
配信:U-NEXT
配信開始日:2025年10月27日~12月15日
話数:8(1話 53-68分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、S・キング原作の非ホラー系ドラマ!」
S・キング原作のドラマは「非ホラー系」も傑作ぞろいなので、この機会に押さえておこう。
●“The Dead Zone”(2002-2007):A
●“Under the Dome”(2013-2015):B+
●“11.22.63”(リミテッド・シリーズ、2016、本ブログ第25回参照 ):A+
●“Mr. Mercedes”(2017-2019、本ブログ第50回参照 ):A
●“The Outsider”(リミテッド・シリーズ、2020):B+
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第135回 “THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第135回 “THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『BEAST -私のなかの獣-』 本予告
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スパイスリラーのエース対決が楽しめる極上のサイコスリラー!
年頭を飾る本作は、傑作スパイスリラーの主役2人“Homeland”のクレア・デインズと、“The Americans”のマシュー・リスが激突するNetflixのリミテッドシリーズ。本年度のゴールデングローブ賞作品賞、主演女優賞(デインズ)、主演男優賞(リス)にノミネートされた。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
“What did you do?”
—ニューヨーク州郊外の町オイスターベイコーブ
アギー・ウィッグス(クレア・デインズ)は、7年前に自叙伝『病める子犬 父への手紙』でピューリッツァー賞を取ったベストセラー作家だ。彼女の父親はサイコパスの詐欺師だった。
4年前、アギーの人生は一変した。8歳の息子クーパーを交通事故で失ったのだ。彼女は精神的に追い詰められ、やがて妻のシェリー(ナタリー・モラレス)とも離婚した(アギーはゲイだ)。
今は修理の必要な屋敷に引きこもって、トイプードルと暮らす毎日だ。執筆は進まず、常に怒りを抱え、経済的にも困窮している。
ナイル&ニーナのジャーヴィス夫婦(マシュー・リス&ブリタニー・スノウ)が隣に引っ越してきた。ナイルは世間を騒がせている不動産王で、失踪した前妻の殺人容疑が不起訴になったばかりだ。
アギーとナイルは初対面で衝突した。ジャーヴィス家の2匹の大型番犬とセキュリティシステムの騒音がアギーをいらつかせ、さらにナイルが提案している地域のジョギングコース建設に彼女が反対したからだ。
ナイルは仲直りのためにアギーを強引にランチに誘った。席上でナイルは次作が行き詰ったアギーに、「僕の本を書けばいい」と持ちかけた。
多少打ち解けたアギーは、「息子を殺した若者テディ・フェニグを苦しめてやりたい」と本音を吐露した。テディは飲酒運転を疑われたが無実となっていた。激高してテディをストーキングしたアギーは、接近禁止令を言い渡されていた。
その夜、アギーの自宅に雨に濡れて酔っ払ったFBI捜査官ブライアン・アボット(デヴィッド・ライオンズ)が突然現れる。アボットは「ナイルには用心しろ」と伝えると去っていった。彼は、ナイルの元妻マディソン失踪事件の主任捜査官だった。
翌朝、テディ・フェニグの自殺が報じられた。
そして、アギーはナイルについての本を書く決心をする…。
“BrBa”のジョナサン・バンクスが参戦!
クレア・デインズは、17歳の時にレオナルド・ディカプリオと共演した『ロミオ+ジュリエット』(1996)で一躍アイドルとなった。8シーズン続いた傑作スパイスリラー“Homeland”では、双極性障害の辣腕CIAエージェント、キャリー・マトソンを演じてエミー賞&ゴールデングローブ賞に輝いた。主演・助演賞ノミネートはエミー賞8回(受賞3回)、ゴールデングローブ賞7回(受賞4回)を数え、今や大女優の風格だ。デインズはキャリーを髣髴させる今回のアギー役でも、鬼気迫る演技力で観る者を圧倒する。(得意の「顔芸」も健在。)
英国出身のマシュー・リスは、ケリー・ラッセル(!)と共演した冷戦下のスパイスリラー“The Americans”(本ブログ第6回参照 )で、ソ連のスリーパーエージェントを演じて大ブレークした。タイトルロールを演じた“Perry Mason”も見応え十分で、両作品を中心にエミー賞5回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞には4回ノミネートされている演技派だ。今回は、カリスマのあるナルシストでサイコパスの実業家ナイルを気持ちよさそうに演じている。(メーク強め。)
ワイルドカードとなるナイルの妻ニーナ役のブリタニー・スノウ、唯一正常に見えるアギーの元妻シェリー役のナタリー・モラレス、自己破滅型FBI捜査官アボット役のデヴィッド・ライオンズ、そして汚い仕事を一手に引き受けるナイルの叔父リックを演じるティム・ギニー。いずれも適材適所で、各役柄はエピソードが進むにつれて重要度が増す。
観逃せないのが78歳のジョナサン・バンクス。“Breaking Bad”およびスピンオフの“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照 )のフィクサー、マイク・エルマントラウトが一世一代のハマり役で、エミー賞に5回(トータル6回)ノミネートされている。本作では、ナイルの強面の父親マーティン・ジャーヴィスを圧倒的な存在感をもって演じてみせた。
「内なる獣」の対決!
クリエーター(兼共同脚本)のゲイブ・ロッターは、懐かしの“The X Files”最終シーズンに係わり、また作家でもある。ショーランナー(兼共同脚本)のハワード・ゴードンは“24”をメガヒットさせた後、前述の“Homeland”で絶賛された。
また製作総指揮には、(なぜか)ジョディ・フォスターと人気TVホストのコナン・オブライエンが名を連ねる。
力強さと脆弱さをオン/オフで切り替えるデインズと、温厚性と衝動性を行き来するリス。本作最大の見どころは、この2人が生み出すケミストリーだ。
そして、インタビューと駆け引きを通じて芽生える、アギーとナイルの歪んだ共感、友情、絆、愛情、—その危うさと気持ち悪さが、また何とも言えない作品の魅力となっている。
ストーリーは大胆で繊細な脚本に乗って、嘘と疑念を積み重ねながら深く静かに潜航する。散見されるご都合主義は、高まる緊迫感で巧みに覆い隠される。
次第に露呈するアギーとナイルの過去。
マディソンとテディに何が起きたのか?
そして衝撃のエンディングと不穏なエピローグまで、加速度的に面白くなる。
本作は、主人公2人が共に抱える「内なる獣」が対決する物語。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
原題:The Beast in Me
配信:Netflix
配信開始日:2025年11月13日
話数:8(1話 41-54分)
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」⑤
●『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(中林美恵子、辰巳出版、2025)
日本人唯一の元米国連邦議会正規公務員の著者が、国家構造、政策、国民意識等からトランプ再選後のアメリカを分かりやすく多角的に分析する好著!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
Tipping Point Returns Vol.33 「本物の翻訳」と出会った日
単純な全文訳ではない、テストでそう書いたら×になる、でも、伝えたい人のほんとうの想いがすーっと心に入り込んで、じわっと染みてくる――。そんな訳文に出会ったことはないだろうか。私にはある。出会ってから50年が経つ今も色褪せることはなく、「翻訳のあるべき姿」を考える際には必ず見つめ直すことにしている。
『手をとりあって』という洋楽をご存じだろうか。原題は「Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」。1976年に英国のロックバンドであるクイーンが発表したアルバム『華麗なるレース(原題;A Day at the Races)』に収録された一曲だ。2018年の映画『ボヘミアン・ラプソティ』が大ヒットしたことで、クイーンは単なる‘懐かしいバンド’ではなくなった。今も「全盛期には生まれてないけど知っている。好き!」という人は少なくないだろう。
初期のクイーンは、本国や米国ではいろもの扱いだったものの、どういうわけか日本では爆発的な人気を博していた。リーダーでギターリストのブライアン・メイやボーカルの故フレディ・マーキュリーは、その驚きと喜びを様々なメディアで語っている。そんな時代に作られたバラードが「Teo Torriatte (Let Us Cling Together))」だ。お気づきだろう。邦題の『手をとりあって』は和訳でもいわゆる創作訳でもない。そのままの置き換えである。
私が「本物の翻訳」と衝撃を受けたのは、曲名や歌詞の対訳(ライナーノーツなどに付ける解説訳)ではない。オリジナルの歌詞の中に原文と訳文が同居している部分だ。引用しよう。
Let us cling together as the years go by. Oh my love, my love. In the quiet of the night, let our candle always burn. Let us never lose the lessons we have learned.
皆さんならすぐに頭の中に和訳が浮かぶだろう。曲のサビに当たる箇所だ。実際の歌では、このあとにもう一度同じ旋律で同じ内容のサビが繰り返される。ただし、今度は日本語だ。
手をとりあってこのまま行こう、愛する人よ。 静かな宵に光を灯し、愛しき教えを抱き。
たった2つのセンテンス。あまりにも簡素で美しく、ため息しか出ない。曲を聴いてもらえばわかるが、溢れることも不足することもなく、元の旋律に見事に調和している。語数が完璧なのである。しかも、静かな宵「に」、光を灯「し」、愛しきお教えを抱「き」と、英語の歌詞には不可欠の韻を踏むことも忘れない。だから日本語ネイティヴではなくても歌いやすい。聴く私たちの耳にも違和感なく、はっきりと届く。
初めてこの曲を聴いた頃の私には、今のように味わい尽くすまでの知識も感性もなかったが(翻訳というのはこういうことなんだ)と衝撃を受けた。
この翻訳をしたのは、クイーン来日時に通訳を務めたChika Kujiraokaという方だという。ネットで検索すると「鯨岡ちか」という表記でクイーンやこの曲との関わりを示すものがいくつか見つかる。当時、海外のロックバンドの通訳兼アテンドについた人が、通訳業だけを生業とするプロだとは想像し難い。肩書として翻訳者を名乗っていたとも思えない。
でもこの2文は本物だ。ネット検索では鯨岡さんらしき人とクイーンのメンバーがおそらくオフの日に観光地で撮ったのであろう写真がある。クイーンを受け入れ、愛し、同時に日本と日本のファンのことを知ってほしいという想いが、その笑顔からはあふれているように見える。
彼女が翻訳という行為をどう考え、意識したのかはわからない。しかし、この仕事は間違いなく「本物の翻訳」だ。彼女の仕事は半世紀にもわたり私の心と頭の中で息づいている。きっとこれからも。だからそう断言できる。
「本物の翻訳」とは何か。それはオリジナル言語のコンテンツに対するあふれんばかりの興味、愛情、知識、そして想いや願い、時には祈りを、驚くほど簡素で読みやすい(聴きやすい)ことばに置き換えて、優しくそっと差し出す行為だ。そんな想いを共有できる修了生や受講生、目指す人と共に過ごせている私は幸せだ。
きっと皆さんにも「大切にしている、理想としている翻訳」があるだろう。ぜひこの冬休みに思い起こしてほしい。思い当たらなければ、これから出会えばいい。壁にぶつかったとき、悩んだとき、乗り越えるための力やヒントを与えてくれるはずだ。(了)
追記 同じような記憶や大切にしている翻訳、好きな翻訳があればぜひ教えてください! 感想や意見も大歓迎です。 ☞niiraアットマークjvtacademy.com ※アットマークを@に置き換えてください。
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————————————————– Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表) 学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。 ————————————————–
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第134回 “THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第134回 “THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『ターミナル・リスト ~闇の狼~』 本予告
VIDEO
“The Terminal List”からのスピンオフ!
本年最後のイチ押しは、クリス・プラット主演の傑作アクションスリラー“The Terminal List”(本ブログ第93回参照 )の前日譚。同作の重要なキャラクター、ベン・エドワーズの物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”はAmazon Primeオリジナル。CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
“May our courage exceed our level of violence” (「勇気が暴力に勝らんことを」)
—2015年、イラク北部の都市モスル
ベン・エドワーズ(テイラー・キッチュ)は、SEALs(米国海軍特殊部隊)チャーリー小隊のチーフだ。ベンは上官のレイフ・ヘイスティングス中尉(トム・ホッパー)らとともに、モスル郊外の同盟軍訓練施設でイラク治安部隊の兵士を訓練している。
彼らの目的は、過激派組織IS(イスラム国)を壊滅することだ。
治安部隊とISの間で捕虜交換が行われることになった。ISの幹部アル・ジャブーリを釈放する代わりに、民間人の捕虜18人が返還される。ベンとチャーリー小隊も同行した。
橋の上で行われた交換は銃撃戦となり捕虜数人が死亡、ベンの腹心の部下で治安部隊所属のダラン・アミリ軍曹も重傷を負った。そして人質に仕掛けられていたIED(簡易爆弾)が爆発、アル・ジャブーリは行方をくらました。
—3か月後
ジェームズ・リース中尉(クリス・プラット)率いるアルファ小隊が到着した。チャーリー小隊による訓練を引き継ぐためだ。ジェームズ、ベン、レイフは戦友だ。
負傷したダランも家族とともに姿を見せた。左足を切断したにもかかわらず、母国のために軍務に復帰するという。
ある日、ベンたちがモスル市内へ偵察に向かう途中に訓練施設で自爆テロが発生、兵士7人が犠牲となった。
犯人はダランで、義足にIEDを仕込んでいた。ISに家族を人質に取られ、自爆テロを強要されたのだった。彼の妻も殺され、2人の子供は誘拐されていた。
復讐を誓うベンは、レイフ、ジェームズらとともに、独断で自爆テロの首謀者アル・ジャブーリのアジトを急襲する。
その結果、ベンとレイフは除隊を余儀なくされた。
後日、2人はCIAからのオファーを受けることになる…。
“Long live the brotherhood” (「絆よ、永遠なれ」)
ベン・エドワーズ役のテイラー・キッチュは、青春スポーツドラマの名作“Friday Night Lights”が代表作。陰のあるランニングバックのティムを演じてブレークした。最近では、西部開拓時代の硬派ドラマ“American Primeval”(『アメリカ、夜明けの刻』)に主演している。
本作ではイケメンぶりも控えめに、SEALsの信念を貫き通す新米CIA工作員を熱演する。
トム・ホッパーと言えば、痛快なスーパーヒーロー・ドラマ“The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照 )で演じた童貞の怪力男ルーサーを思い出す。今回は、頼れる元SEALsの指揮官レイフ・ヘイスティングス役へ見事にイメチェンした。
ベンとレイフをヘッドハンティングするジェド・ハバフォード役のロバート・ウィズダムは、見覚えがあると思ったら懐かしい“The Wire”と“Prison Break”のレギュラーだった。強面で食えないCIAイラン工作部長にぴったりだ。
CIAのリエゾンでモサド工作員のイライザとタルを、イスラエル生まれのロナ=リー・シモンとシラーズ・ツァルファティが好演する。
脇へ回ったクリス・プラットは2つのエピソードに出演し、ジェームズ・リースを渋く演じてみせた。
元SEALsの矜持の物語!
ショーランナー(兼共同脚本)は“The Terminal List”と同じくデヴィッド・ディジリオ。骨太なストーリーはジャック・カーの原作ではなく、2人によるオリジナルだ(カーは製作総指揮と共同脚本も担当)。
ドラマの根幹にブレがないのは、実際にSEALsで20年のキャリアを持つカーの経験が細部にまで生かされているからだ(因みに、カーの小説は出版に政府の承認が必要で、削除された部分が黒塗りになっている)。上層部に翻弄される兵士たちの怒り、各オペレーションの立案過程、銃器の扱い・銃撃戦などの描写は圧倒的にリアルだ。
デヴィッド・ディジリオは、このリアリティとエンタメ性を絶妙なバランスで両立させて、見事に差別化している。
キャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)も鮮やかだ。直感型のベンは、官僚主義的な制約の多い軍隊から離れることで、スパイとしての才能を開花させる。だが立場が変わっても、「前線で戦う仲間たちを守る」という強固な信念は揺るがない。
一方レイフはCIAの冷酷で人命軽視のやり方になじめないが、ベンの背中を守る覚悟はできている。この高潔な兵士2人のコントラストがドラマに厚みを与えている。
舞台はジュネーブ、ウィーン、ミュンヘン、ブダペストなどヨーロッパ各地の都市。ストーリーの中心は、新技術で一気に核兵器開発を進めるイランと、それを阻止しようとするCIA工作員たちの非情なスパイ戦だ。ベンとレイフは諜報世界の欺瞞に翻弄されながらも、突破口を探る。終盤にはスパイドラマらしく連続ツイストが炸裂し、エンディングまで目が離せない。
“The Terminal List”(2022)以降、これほどのアクションドラマにはお目にかかれなかった(リー・チャイルド原作の“Reacher”が最も近いか)。結局、プロット、キャラクター、アクションと3拍子揃った本作がスピンオフとして登場するまで、われわれは待たされたわけだ。
ベンとレイフのハートはあくまでCIAではなくSEALsにある。つまり本作は、元SEALsの矜持の物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”は、CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
本作はオリジナルを観ていなくても問題なく楽しめる。
“The Terminal List”のシーズン2は、クリス・プラットが忙し過ぎて撮影が遅れていたが、来年配信されるようだ。本作のシーズン2とセットで早く観たい!
原題:The Terminal List: Dark Wolf
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2025年8月27日~9月24日
話数:7(1話 50-67分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~12月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
●“NCIS: Tony & Ziva”(『NCIS:トニー&ジヴァ』、Paramount+他)
“NCIS”ファン必見、同番組から去った人気キャラ2人が国際的陰謀に巻き込まれ、ヨーロッパで逃亡者となるコメディタッチのアクションドラマ!
●“The Chair Company”(『チェア・カンパニー』、U-NEXT)
家具メーカーにクレームをつけた強迫性障害の男(“SNL”のティム・ロビンソン)にとんでもない悪夢が降りかかる、アクの強い不条理ダークコメディ!
●“Black Rabbit”(『ブラック・ラビット』、Netflix)
ジュード・ロウ&ジェイソン・ベイトマン共演、NYでレストランを経営する弟とギャンブル依存症の兄が負のスパイラルに陥る極上のクライムドラマ!
●“Task”(『TASK / タスク』、U-NEXT)
元牧師のFBI捜査官(マーク・ラファロ)と、麻薬ディーラーばかりを狙うシングルファーザーの強盗(“Ozark”のトム・ペルフリー)の熱い戦いを描くヒューマン・クライムドラマ!
●“Death by Lightning”(『デス・バイ・ライトニング』、Netflix)
1880年に期せずして第20代合衆国大統領に選出されたJ・ガーフィールドが、妄想狂の男に暗殺されるまでの200日間を描く、地味ながら予想外に面白い実話ドラマ!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
Tipping Point Returns Vol.32 邦題が教えてくれる、日本語のややこしさと楽しさ
海外の人に「最もヒットした日本映画って何?」と聞かれて『劇場版 「鬼滅の刃」無限列車編』と答えられる人は多いだろう。しかしさらに「無限列車って何?」と聞かれたら説明できるだろうか? 日本映画で最も観られた作品にもかかわらず、意味はよくわからない、が答えだろう。(2025年11月時点)
「無限列車」や最新作の「無限城」も正確な意味は知らない。でも、怖さやスリリングなイメージは強く伝わってきて、とてもいい感じなのだから、それで十分では? 確かに観る側、消費する側ならそれでいいかもしれない。しかし、言葉を売る人は、それでは困る。たとえ正確な意味は伝わらなくても、時には「誤解」を誘発することになっても、「それらを意図した言葉づくりで人の心を掴む力」が求められるからだ。
私は日本映像翻訳アカデミーの映像翻訳本科で日本語を教えて30年になる。いくつかのプログラムのうち、1997年から2023年まで、総合コース・Ⅰ(旧入門コース)でも授業をもっていた。そこで題材としていたのが「洋画の邦題」だ。作品をヒットさせたい、一人でもたくさんの人に観てほしいと願う売り手は、どのような狙いで邦題を決めたのか。その理由を推察、探究することで、自分の中にも「不特定多数の視聴者・観客(市場)に響くよう、意図をもって言葉を生み出す装置」を備えることが目的の授業だ。
前課題は、今の自分の感覚で「いい感じと思う邦題とダメだなと思う邦題」を挙げ、その理由を添えること。授業では、自分の感覚は売り手の狙いを汲んだものか、市場の多数派と一致しているかを検証した。提出された前課題はいずれも興味深く、受講生と一緒にあれこれ考えて議論することは、私自身にとっても日本語強化の好機になっていた。
「無限列車」に似たケースでよく挙がったのは「ジェイソン・ボーン・シリーズ」だ。『ボーン・アイデンティティー』はまだしも、『ボーン・スプレマシー』や『ボーン・アルティメイタム』って何?日本人のほとんどはスプレマシーやアルティメイタムの意味はわからない。けど、なぜかいい感じだ。また、『プライベート・ライアン』や『ロード・オブ・ザ・リング』のケースでは、売り手は意味不明の邦題での勝負を飛び越えて、市場の「誤解・勘違い」をあえて狙ったふしがある。いずれも原題をほぼそのままカタカナにしただけですよと嘯(うそぶ)いているかのようで、実はそうではない。原題の‘Private’は単なる「二等兵」を意味するが、カタカナで「プライベート」と表記すると、一人の兵士の孤独や失意といった内面を想起させる。二等兵なんて本当の意味を知らず頭の中で誤訳されても全然OK、むしろそれが狙いなのだ。『ロード・オブ・ザ・リング』の「ロード」も同じ。原題は‘The Lord of the Rings’、つまり神や支配者のことだが、カタカナになると多くの人は「道」だと直感してしまう。しかしその誤解は「ホビットたちの長く険しい旅路」を想起させ、エモさや心地よさを醸成する。
四半世紀にわたり蓄積した提出課題には「日本語に関する膨大な調査データ」という側面もある。その結果、とても興味深い発見があった。その一つが「すべての提出課題で最も多く挙がった邦題は?」。
結論から言おう。キャメロン・ディアス主演のコメディで1999年に日本で公開された『メリーに首ったけ (原題:There’s Something About Mary)』だ。公開直後から数年間は、どのクラスでも必ずと言っていいほど複数の受講生がこれを選んでいた。その後もひたすら選ばれ続けた邦題である。
なぜ選ばれ続けたのか?「首ったけ」という言葉が原因であることは明らかだ。今でも気になる邦題を尋ねられたら「メリーに首ったけ」と答える人はいるだろう。でも、数が多いというだけでは大きな発見にはならない。問題は、それが「いい感じ」として挙げられたのか「ダメだな」と思われたのかである。
今、(えっ? いい感じのタイトルに決まってるよね?)と思った人は、きっと驚くだろう。実は、1999年から8年ほどの期間は、すべての人が「ダメな邦題」として選んでいたのだ。一人の例外もなく「首ったけ」は古い、ダサい、口にするのも恥ずかしい、と。つまりそれが日本社会全体の暗黙知だったのである。
ところが2007年のある学期のこと。いつもの如く課題に目を通していた私は衝撃を受けた。一人の受講生が「メリーに首ったけ」をいい感じの邦題として挙げていたのだ。「首ったけ」という言葉の語感の心地よさを、そう感じるのが当たり前であるかのように解説している。その後、少しずつ「首ったけはいい感じ」と書く人が増え始め、2015年くらいにかけてはクラスの中に「好き派」と「嫌い派」が同居することも珍しくなかった。そして、2017年になると提出課題から「嫌い派」が完全に姿を消す。
つまり、「首ったけ」という言葉に対する多くの人(日本社会、市場)のイメージ(意味といってもよい)が、20年ほどの歳月を経て180度変わったのである。真逆なのだ。そのプロセスを課題のデータは刻々と記録し、証明している。おそらく日本語の学者・研究者にとっては垂涎の資料だろう(絶対に外には出さないが)。言葉の意味の変化を「流行おくれ」「ダサい」、あるいは「一周回って新しい」「レトロでエモイ」などと言って済ませることは簡単だが、それがいかなる歳月を経て、どのように変化していくのかを追ったデータは稀だろう。
今、私たちの目の前にある言葉(単なる流行言葉ではない)、はどうか。世の中でのイメージや捉えられ方、使われ方は、もしかしたら真逆の方向へ変化している最中かもしれない。JVTAの修了生・受講生、つまり言葉のプロや目指す人は、そうした変化に敏感であるのはもちろん、上手く、賢く使いこなして「さすが!」と評価されるようになってほしい。
追記
「首ったけ」についてAI(Gemini)に聞いたところ「とても魅力的、効果的な言葉。日本での『メリーに首ったけ』の成功にもつながった」みたいなことを言ってくるので、「でもね」と私の「20年変遷論」を説きました。すると、「その通りです。ご指摘ありがとうございます」と手のひら返しの回答(笑)。「首ったけという言葉が持つニュアンスや世間の評価は、時代とともに変化しています。特に、『メリーに首ったけ』が公開された1999年前後から2010年代初頭にかけては、<首ったけ=古くてダサい、照れくさい表現>という認識が強く、一部の人々からは敬遠されていた可能性が非常に高いです」だって。Geminiさん、まだ間違ってますよ、一部の人じゃなくてほぼすべての人だったんだよと教えたかったのですが、お説教はここまでにしておきました。
(了)
今回のコラムで思ったことや感想があれば、ぜひ気軽に教えてください。
☞niiraアットマークjvtacademy.com ※アットマークを@に置き換えてください。 ☞JVTAのslackアカウントを持っている方はチャンネルへの書き込みやniira宛てのDMでもOKです。
————————————————– Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表) 学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。 ————————————————–
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第133回 “BOOTS”(『オレたちブーツ』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第133回 “BOOTS”(『オレたちブーツ』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『オレたちブーツ』 本予告
VIDEO
おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディ!
始めに、米国軍隊の同性愛者に関する入隊規定の変遷をおさらいしておく:
1)1993年まで同性愛者の入隊は禁止。
2)1994年2月に施行されたいわゆるDADT政策(“Don’t Ask, Don’t Tell Policy”)により、性的指向を公言しないことを条件に入隊が認められた。ただし同性愛者であることが発覚したら即時除隊。
3)2011年9月20日から正式に同性愛者の受け入れ開始。
“Boots”はNetflixの隠し玉で今年の大穴。’90年代にゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!
“WHERE IT ALL BEGINS”
—1990年、ルイジアナ州ニューオーリンズ
キャメロン・コープ(マイルズ・ハイザー)は18歳、高校を卒業したばかりだ。彼は家庭ではシングルマザーのバーバラ(ヴェラ・ファーミガ)に軽んじられ、怠け者の兄に無視され、学校では陰湿ないじめにあってきた。自分がゲイであることは、親友のレイ(リアム・オー)にしか話していない。(レイはストレートだ。)
レイの父親はベトナム戦争の英雄だ。彼は厳格な父親に認めてもらいたい一心から、この夏を海兵隊のブートキャンプで過ごすと決めていた。キャメロンはゲイの入隊は違法と知りつつ、「サマー」「キャンプ」という単語に騙されてレイと共に参加する。どうせ大学へ行く経済的余裕はない。軍隊で「自分を変えて自分らしく生きたい」という気持ちも多少はあった。
「レイと海兵隊のブートキャンプへ行ってくる」
「帰りにミルクをお願い」
それが母親と交わした最後の会話だった。
—海兵隊訓練場、サウスキャロライナ州パリスアイランド
配属先の兵舎では個性的な新兵たちが右往左往していて、さながら動物園のようだ。キャメロンとレイは思わず顔を見合わせた。
さっそく上級教官のマッキノンと2名の教官補佐による、鬼のシゴキが始まった。
あまりの厳しさに早くも音を上げたキャメロンは、初日の体力テストで故意に失格しようと試みる。だが、隣で懸垂に苦しむデブのジョンを助けた結果、2人とも合格してしまう。
アジア系のレイに暴力をふるった差別主義者の教官補佐がクビになり、代わってサリバン軍曹(マックス・パーカー)が赴任してきた。サリバンはグアムに駐屯していた若きエリートで、なぜパリスアイランドへ異動してきたのかは謎だった。
これからの13週間、キャメロンは精神的・肉体的に極限まで鍛えられる。何が起こり、どれだけ自分が変わっていくのか、彼には知る由もない…。
“Once a Marine! Always a Marine!”
18歳のキャメロンを演じたマイルズ・ハイザーは実は31歳。Netflixのミステリードラマ“13 Reasons Why”が代表作で、準主役のアレックスを全4シーズン演じた。ヴィヴィッドな演技力は数ある新兵役アクターの中でも群を抜く。ハイザーは19歳の時にゲイであることをカミングアウトしている。
サリバンを演じたマックス・パーカーは英国出身。周囲からは理想の海兵隊員に映る、悩める軍曹を颯爽と演じて魅了する。
レイ役のリアム・オーは初めての準主役。キャメロンとの友情を育みながら自身の弱点を克服していくレイを熱演している。
キャメロンの母親バーバラ役のヴェラ・ファーミガは、サイコホラー“Bates Motel”で主役のノーマ・ベイツを演じてエミー賞候補となった。最近では、ハリケーン’カタリナ’に襲われたニューオーリンズの病院を描いた佳作“Five Days at Memorial”で主演していた。
異彩を放つのがサイコパスの新兵ヒックスを演じたアンガス・オブライエンで、こいつやたら面白い。
“What you just earned will never fade!”
原作はグレッグ・コープ・ホワイトによる回想録“The Pink Marine”。ショーランナー(兼共同脚本)のアンディー・パーカーは、’80年代のミュージック、絶妙のユーモア、さらに青春学園ドラマ的な魅力を巧みに融合させ、見事に映像化してみせた。最近では、AIの進化をテーマにした壮大なSci-Fiアニメ“Pantheon”を手掛けている。
本作は反戦ドラマでも好戦ドラマでもない。銃撃戦もなければ、『トップガン』のように勇敢な主人公が戦場で活躍する場面もない。
これは、青年の葛藤と成長の記録なのだ。
キャメロンは、『フルメタル・ジャケット』より“The Golden Girls”が好きな優しい青年。軽い気持ちで入隊したブートキャンプで将来の戦友たちと出会い、レイとの友情を再確認する。そして過酷で屈辱的な訓練を耐え抜き、厳格な教官たちとの交流を通じて、タフで思慮深い自立した大人へと変貌してゆく。
それは、しばしばラブストーリーと誤解される『愛と青春の旅立ち』(原題は“An Officer and a Gentleman”、1982)の真のテーマ「士官である前に紳士であれ」にも通じている。
ゲイの自分を一生閉じ込めて生きるのか、強い自分に変わるのか—キャメロンは苦悩する。芯が強く、異なる価値観を理解し、他人の気持ちを推し量る自分の稀有な資質に気づかない。1990年という厳しい環境下で描かれる、キャメロンの絶望と希望、挫折と成功は観る者の胸を打つ。
物語の大半は訓練場内で展開する。詳細に描かれるエグい海兵隊の訓練は新鮮で、罵声を浴びながら徹底的にシゴかれるおバカで頼りない新兵たちが哀れで笑える。(今では人権的に許されないレベルだろう。)
ゲイは本作の重要なファクターだ。だがそこに多様性を押しつけるような説教臭さはなく、素直に理解できる誠実さがある。
各エピソードはサクサク観られてやめられなくなる。感動が止まらないシーズンフィナーレは、キャメロンたちの将来を暗示する不穏なクリフハンガーでフィニッシュ。いや、お見事でした。
本作は、Netflixの片隅に埋もれた愛すべき小品。口コミで評判が広がり、シーズン2の制作につながって欲しい。
“Boots”は、ゲイの18歳が海兵隊のブートキャンプでのたうち回る、おかしくて悲しくて感動的なミリタリー・ドラメディなのだ!(“Oorah!”)
原題:Boots
配信:Netflix
配信開始日:2025年10月9日
話数:8(1話 40-50分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第132回 “ALIEN:EARTH”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第132回 “ALIEN:EARTH”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『エイリアン:アース』 本予告
VIDEO
“The Alien Has Landed!”
リドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねる本作は、昨年公開された『エイリアン:ロムルス』の22年前、オリジナル『エイリアン』(1979)の2年前を描く前日譚。エイリアンが遂に地球に到達する。
(シガニー・ウィーバーがいないと、こういう悲劇が起こるのよ。)
“Alien: Earth”はDisney傘下のFXが制作、マンネリ気味のエイリアン・フランチャイズに新風を吹き込むスーパーエンタメ・Sci-Fiホラーなのだ!
“They can sense fear!”
—西暦2120年
強欲なメガ企業5社が、地球と植民地化した太陽系惑星を支配する世界。
そこでは「人間」、「サイボーグ」(マシン強化型ヒューマン)、「シンセティック」(AI搭載のヒューマノイド型ロボット)が共存している。
—地球から8億500万マイル離れた宇宙空間
ウェイランド・ユタニ社の深宇宙調査船マジノ号は、65年にわたる探査を終えて地球に帰還するところだった。
クルーは当初の目的通り、5種の捕食性生命体を捕獲していた。だが封じ込めに失敗し、サイボーグの保安責任者モロー(バブー・シーセイ)以外は、全員が虐殺された。航空システムが故障したマジノ号は、凶暴な生命体を乗せたまま地球に向かっている。
—地球
プロディジー社が保有するネバーランド研究島では、史上初めて「ハイブリッド」の誕生を迎えるところだ。被験者は余命わずかな11歳の少女マーシー。彼女は革新的技術によって、意識を取り込んだ強靭なシンセティックとして生まれ変わる。このハイブリッド技術は、近々同社の主力商品になるはずだ。
マーシーは自分の新しい名を‘ウェンディ’に決めた。
数か月後、マジノ号が地球に墜落し、プロディジーシティの高層タワーに突き刺さった。生存者救出のために、同社の軍隊が投入された。
ウェンディ(シドニー・チャンドラー)はニュースを見て愕然とした。兄のジョー(アレックス・ローサー)は軍の衛生兵なのだ。妹が死んだと思っているジョーは、ウェンディの存在を知らない。
ウェンディは救出任務を志願する。プロディジー社の若き天才CEOボーイ・カヴァリエ(サミュエル・ブレンキン)は、ゴーサインを出した。カヴァリエは、船内の生命体を横取りするつもりだった。
隊長を務めるシンセティックの科学者カーシュ(ティモシー・オリファント)、リーダーのウェンディ、「ロストボーイズ」と呼ばれる新米のハイブリッド5名からなる、即席の特殊部隊が組織された。
戦闘経験の乏しい彼らは、これから5種のエイリアンと対峙することになる…。
“Now I’m a forever girl!”
ウェンディを演じるシドニー・チャンドラーはカイル・チャンドラー(“Friday Night Lights”)の娘。ハードボイルド・ドラマ“Sugar”(本ブログ第116回参照 )では、行方不明になるティーンエージャーを印象的に演じた。本役では、エキセントリックな魅力と高い演技力で、エイリアンたちと互角の存在感をアピールする。
ウェンディの兄ジョー役のアレックス・ローサーは英国出身。青春ブラックコメディ“The End of the F***ing World”(『このサイテーな世界の終わり』)では、主役のサイコパス少年を演じた。優しいがヌルいジョーのキャラにぴったりだ。
プロディジー社のCEOカヴァリエ役のサミュエル・ブレンキンも英国出身で、舞台版『ハリー・ポッター』ではスコーピウス・マルフォイを演じた。ピーター・パン症候群の天才サイコパス役に上手くハマった。
サイボーグの保安責任者モローを演じたバブー・シーセイは、怒涛のカンフードラマ“Into the Badlands”のピルグリム役が懐かしい。孤独な復讐者となるモローの重要性は、エピソードを重ねるごとに高まっていく。
シンセティックの科学者カーシュ役のティモシー・オリファントは、主役の連邦保安官ギヴンズを演じた“Justified”が代表作。無表情でクールなカーシュは、『ブレードランナー』でルトガー・ハウアーが演じたレプリカントを髣髴させる。
『エイリアン』のテーマパーク・バージョン!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のノア・ホーリーは、ドラマ版“Fargo”(本ブログ第13回参照 )全5シーズンの製作、監督、脚本でエミー賞に計11回ノミネートされている才人だ(受賞は1回)。
オリジナルシリーズの魅力は、①宇宙船内の閉塞感から生まれる恐怖、②戦うヒロイン、③H・R・ギーガーによるエイリアン(ゼノモーフ)のメタリックな造形美だろう。
この3点は本作でも忠実に踏襲されている。特に第5話で解き明かされるマジノ号の惨劇は圧巻で、『エイリアン』のリブートのような完成度だ。
また、本作には新たな世界観が導入されている。マグセブン(Microsoft、NVIDIA、TeslaなどのメガIT企業7社)を思わせる5大企業が支配し、人間と不老不死のサイボーグ、シンセティック(およびハイブリッド)が共存する世界だ。プロディジーシティに『ブレードランナー』の退廃的な雰囲気が漂うのは、リドリー・スコットへのオマージュか。
ストーリーはウェイランド・ユタニ社とプロディジー社の支配権争いを背景に、エイリアン5種の脅威とウェンディの成長が交錯する。さらに、「ゼノモーフとウェンディとの交流」「人間の兄ジョーとハイブリッドの妹ウェンディとの絆」「ハイブリッドの反乱」など、魅力的なサブストーリーが走る。
終盤はさながら『エイリアン』のテーマパーク・バージョンの様相で、劇的なシーズン・フィナーレへ突入する。
『エイリアン』のドラマ化はハードルが高い。閉塞空間で襲いかかる生命体だけでは間が持たないからだ。ウェンディという魅力的なキャラクターを創造して‘エイリアン5種盛り’との「2本立て」とし、よりエンタメ性の高いエイリアン・ドラマにまとめ上げたホーリーの手腕には唸らされる。
“Alien: Earth”は、マンネリ気味のエイリアン・フランチャイズに新風を吹き込むスーパーエンタメ・Sci-Fiホラーなのだ!
原題:Alien: Earth
配信:Disney+
配信開始日:2025年8月13日~9月24日
話数:8(1話 46-66分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第131回 “MURDERBOT”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第131回 “MURDERBOT”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『マーダーボット』 本予告
VIDEO
『マーダーボット・ダイアリー』がドラマになった!
本作の原作は、筆者も愛読するマーサ・ウェルズの『マーダーボット・ダイアリー・シリーズ』。3大SF文学賞(ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞)に輝く人気シリーズだ。
“Murderbot”はApple TV+オリジナル、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”
—近未来の宇宙航行社会
警備ユニット(“SecUnit”)#238776431(アレクサンダー・スカルスガルド)は、有機組成と機械構造から成る、高い知能と戦闘能力を備えた再生品サイボーグだ。
強欲な企業リムに保有されている同機は、密かに自分の統制モジュールのハッキングに成功していた。行動制限を無効化したので、もう人間の命令に従う必要はない。
ふざけ半分に、同機は自分を「マーダーボット」(以下ボット)と名付けた。
だがこのことを企業リムに知られたら、スクラップにされてしまう。ボットは当面の間、人間に服従するふりをすることにした。
ボットの唯一の楽しみは、エンタメチャンネルでドラマを観ること。一番のお気に入りは、壮大なスペース・ソープオペラ『サンクチュアリームーンの盛衰』(“The Rise and Fall of Sanctuary Moon”)だ。
ボットの新たな任務は、ある惑星における調査隊の警備だった。彼らはヒッピー風の科学者グループで、ボットのような格安の再生品ユニットしか雇う余裕がなかったのだ。
人格者のリーダー、メンサー博士(ノーマ・ドゥメズウェニ)はテラフォーミング(地球惑星化)の専門家。グラシン博士(デヴィッド・ダストマルチャン)は、インターフェースを体内に埋め込んだ強化人間。他に4人の専門家を加えた計6人が調査隊のメンバーだ。
調査の初日、フィールドの地底から突如巨大生物が現れ、メンバー2人に襲いかかった。ボットは果敢に戦い、重傷を負いながらも何とか彼らを守り抜いた。
この事件のおかげで、ボットはメンバーからの信頼を得た。だが、カムコーダーを分析したグラシン博士は疑問を持つ。
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”—ショック状態に陥ったメンバーに、ボットはこう語りかけていた。警備ユニットにこのようなプログラミングは存在しない。
ボットはこのセリフを『サンクチュアリームーンの盛衰』から引用していた。
さらにボットには悩みがあった。再生前の断片的な記憶から判断するに、どうやら自分は以前大量殺人を犯したらしい。
チャーミングなボット役にハマったスカルスガルド!
ボット役のアレクサンダー・スカルスガルドは、スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドの息子。メガヒットしたヴァンパイアドラマ“True Blood”でブレークし、準主役のエリックを全7シーズン演じた。“Big Little Lies”(本ブログ第45回参照 )では、キモ怖いDV夫を怪演してエミー賞&ゴールデングローブ賞を受賞。最近では、強烈な風刺コメディ“Succession”でIT企業のカルト的CEOを演じた。
スカルスガルドは、無機的だがチャーミングなボット役にみごとにハマった。
英国&南ア国籍のノーマ・ドゥメズウェニは舞台出身で、ローレンス・オリヴィエ賞を2度受賞している。アメリカン・ドラマでは、“Presumed Innocent”の判事役が記憶に残る。今回はボットの良き理解者となるメンサー博士を貫禄で演じた。
意地の悪いグラシン博士役のデヴィッド・ダストマルチャンは、リブート版“MacGyver”で宿敵マードックを演じた。来年配信予定の“One Piece”(本ブログ第107回参照 )のシーズン2では、海賊の1人Mr.3に扮する。
劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』で、ホセイン船長をシリアスに演じて笑いをさらうジョン・チョーは韓国出身。大ヒットおバカ映画“Harold & Kumar”3部作(2004~、なぜか日本で未公開)のハロルド役で人気者となった。
センスが光る劇中劇のヴィジュアル化!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)はポール&クリスのワイツ兄弟。2人はスーパーヒットコメディ『アメリカン・パイ』(1999)、『アバウト・ア・ボーイ』(2002)を手掛け、後者ではアカデミー脚色賞にノミネートされた。兄のポールは高評価を得たミュージックドラマ“Mozart in the Jungle”を手掛け、クリスは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の共同脚本を担当している。
本作はシリーズ第1作『システムの危殆』(“All Systems Red”、2017/創元SF文庫『マーダーボット・ダイアリー上巻』に収録)がベース。全編がほぼ忠実に映像化されている。
最大の魅力はボットの愛すべきキャラに尽きる。タフで強面のシニカルなサイボーグは、ヘルメットを取ると気まずくて人間とアイコンタクトすらできない。
秀逸なのは劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』の大真面目なヴィジュアル化だ。ドラマならではのアイディアで、タイトルロゴやテーマソングまで揃えてある。このドラマはボットにとって人生ガイドと同時に、敵と戦う際の戦略書となっている。
中でも、パニック障害の発作を起こしたメンサー博士を落ち着かせるために、ボットがエピソードのひとつを再生して見せるシーンは爆笑ものだ。
通俗的でチープなドラマと、それを愛する冷笑的なボットとのギャップを狙った、ワイツ兄弟の鋭いセンスが光る。
ストーリーは、ボットと調査隊メンバーとのぎこちない交流、メンバーの抹殺を図る未知の敵との攻防、ボットの過去を巡る謎が絡みあって目が離せない。
フィギュアを使ったお茶目なオープニングクレジットは何回観ても楽しく、30分前後のエピソードはアッという間に終わってしまう。エンディングは予想外にハートウォーミングで切なくなる。
シーズン2の制作も決まった。“Murderbot”は、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
次回は話題の”Alien: Earth”を紹介する。同じSci-Fiドラマでも“Murderbot”とは対極にあり、見比べると面白いぞ!
原題:Murderbot
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年5月16日~7月11日
話数:10(1話 22-34分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(7月~9月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
●“Chief of War”(『チーフ・オブ・ウォー』、Apple TV+)
『アクアマン』のジェイソン・モモア主演、ハワイの統治を巡って主要4王国が凄絶な戦いを繰り広げる実話ベースの活劇ドラマ!
●“The Girlfriend””(『ザ・ガールフレンド ~あなたが嫌い~』、Amazon Prime)
ロビン・ライト主演、息子を溺愛する常軌を逸した母親と、息子が恋に落ちたサイコパスのガールフレンドとの卑劣な騙し合いを描くセクシー・サイコスリラー!
●“Lioness”(『特殊作戦部隊:ライオネス』、U-NEXT)
ゾーイ・サルダナ主演、N・キッドマン&M・フリーマン共演、売れっ子クリエーターのテイラー・シェリダンが仕掛ける渾身のポリティカル軍事アクションのシーズン2!
●“Untamed”(『大地の傷跡』、Netflix)
ヨセミテ国立公園の雄大な大自然を背景に、公園局の特別捜査官(エリック・バナ)が女性の転落死の真相に迫っていく斬新なクライムドラマ!
●“Duster”(『DUSTER/ダスター』、U-NEXT)
‘70年代のアリゾナ州フェニックスを舞台に、犯罪組織の運び屋とFBI初の黒人女性捜査官が繰り広げる、カーアクション満載のレトロなクライムドラマ!
●“Pantheon”(『パンテオン:デジタルの神々』、Netflix)
SF短編の名手ケン・リュウ原作、シンギュラリティ(AIが人類を超える時点)が迫る近未来を舞台に、UI(“Uploaded Intelligence”)の台頭とそれに翻弄される人々を描く壮大なSci-Fiアニメ!
●“Ballard”(『バラード 未解決事件捜査班』、Amazon Prime)
マイクル・コナリー原作、マギー・Q主演、“Bosch”(本ブログ第20回参照 )からのスピンオフで、シリアルキラーと腐敗警官グループを追うLAの刑事レネイ・バラードの活躍を描くクライムドラマ!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第130回 “DOPE THIEF”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第130回 “DOPE THIEF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
―鈴木純一さんのコラム『戦え!シネマッハ!!!!』 連載終了に寄せて―
鈴木さんのコラムが6月で終了してしまいました。映画の「予告編」と「悪役」をテーマにした切り口は斬新で、毎回楽しみにしていたのでとても残念です。映画愛あふれる自筆のイラストも素敵でした。
また、最終回では私の米国駐在時代のコラム『テキサス映画通信:Houston, We have a problem!』にも触れていただき、ありがとうございます。熱量の高かった昔を思い出しました。
これからも、ともに映画ファンとしてあり続けましょう。
長い間の連載、お疲れさまでした!
では、今月のドラマなのだ。
予告編:『ドープ・シーフ』 本予告
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不運な小悪党2人のバディ・クライムコメディ!
本作の原作はデニス・タフォヤの同名小説(未訳、2009)。“dope”には‛麻薬’と‛間抜け’の意味があるので、このイケてるタイトルは「麻薬強盗」と「間抜けな強盗」のダブルミーニングになっている。
“Dope Thief”はApple TV+オリジナルのリミテッド・シリーズ。不運な小悪党2人が、麻薬カルテルとDEA(麻薬取締局)に追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
“See, the key is preparation, right?”
―ペンシルベニア州フィラデルフィア
レイ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)とマニー(ワグネル・モウラ)は決して悪い人間ではない。だが若いころから悪事に染まっていて、強盗くらいしか稼ぐ手段を知らない。
2人のターゲットは、自宅でドラッグを精製しているティーンエイジャーだ。十分にリサーチをしてからDEAの捜査官になりすまし、キャッシュとブツを奪う。儲けは少ないが反撃されることも通報されることもない、安全で堅実なビジネスだ。蔓延するドラッグをコミュニティから取り除くという、彼らなりの言い訳も立つ。
レイの父親バート(ヴィング・レイムス)は、長い間ムショ暮らしをしている。レイを養子にして育ててくれたのは、バートの愛人テレサ(ケイト・マルグルー)だった。レイ自身にも前科があり、現在はアルコールとドラッグ依存症のリハビリ中だ。
レイは、テレサが医療費の請求書を山ほど抱えていることに気づく。問い詰めると、1万ドル必要だという。
マニーはブラジルからの移民で、レイとは幼なじみだ。信心深く、早く足を洗って恋人のシェリーと結婚したいが、先立つものがない。
2人はリスクを取って一獲千金を目指すことにした。レイの囚人仲間だったリックを誘い、郊外にあるメス(メタンフェタミン)の精製工場を襲撃する。だがハイになっていたリックが突然発砲して、銃撃戦になった。
レイは負傷し、リックと相手3人が死亡した。
パニくったレイとマニーは工場に火をつけて、大金の詰まった鞄とドラッグを奪って逃走する。
2人が襲ったのは、麻薬カルテルの工場だった。カルテルは直ぐにレイの正体を突き止め、手先のバイカーギャングを差し向けた。
追手はレイとマニーのみならず、彼らの家族、友人にも迫る。
一方、死んだと思われていたメスの製造者の一人、ミーナ(マリン・アイルランド)は命を取り留めていた。実は、彼女はDEAのおとり捜査官だった!
鉄板キャストの6人!
レイ役のブライアン・タイリー・ヘンリーは、大ヒットコメディ“Atlanta”で演じたラッパーの‛ペーパー・ボーイ’でブレークした(エミー賞助演男優賞にノミネート)。コメディアン顔だが芸幅は広く、高い演技力で演劇・ミュージカルもこなす才人だ。ジェニファー・ローレンスと共演した小品『その道の向こうに』(2022)では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
マニー役のブラジル人俳優ワグネル・モウラは、Netflixの“Narcos”で実在したコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを演じて、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。“Shining Girls” (本ブログ第95回参照 )では、イメチェンして準主演の新聞記者役を好演。滋味のあるいいアクターだ。
主演2人の相性の良さは抜群で、喧嘩しながらも一層強まっていくレイとマニーの友情には胸を打たれる。
テレサ役のケイト・マルグルーの代表作はもちろん“Star Trek: Voyager”で、艦長キャスリン・ジェインウェイを全7シーズン演じた。刑務所ドラメディ“Orange Is the New Black”(本ブログ第4回参照 )では巨漢のロシア人レッドを怪演、トレッキー(熱狂的Star Trekファン)たちの度肝を抜いた。
レイの父親バートを演じたヴィング・レイムスは、『ミッション:インポッシブル』シリーズのルーサー役で日本でも顔なじみだ。
ミーナ役のマリン・アイルランドは、“Sneaky Pete”(本ブログ第31回参照 )でタフな保釈金立替業者ジュリア・ボウマンを演じて強烈な印象を残した。この人、‛凛とした姉御’を演らせたら天下一品だ。
渋い存在感を見せたのが、レイの信頼する麻薬バイヤーのサン・ファムを演じたダスティン・グエンだ。ベトナム出身のグエンはジョニー・デップと共演した“21 Jump Street”(1987年のドラマ版)がメジャーデビュー。武術家でもあり、怒涛のカンフードラマ“Warrior”でもいい味を出していた。
この6人はまさに適材適所、互いに強いケミストリーが働き鉄板のアンサンブルキャストとなった。
三つ巴の“cat-and-mouse”ゲーム!!!
ショーランナーのピーター・クレイグは、珍しく作家から脚本家への転身組だ(逆のコースはよく聞くが)。『ザ・タウン』『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション/レジスタンス』『バッドボーイズ フォー・ライフ』『THE BATMAN -ザ・バットマン-』『トップガン マーヴェリック』『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』など、共同脚本家としてそうそうたる娯楽大作を手掛けてきた。
本作はクレイグにとって初のTVドラマ制作で、最終話の監督と全エピソードの脚本も担当した。また、製作総指揮に名を連ねるリドリー・スコットが、パイロット(第1話)の監督を務めている。
特に印象的なのは、クレイグのバランス感覚の良さだ。コメディ、ヒューマンドラマ、クライムドラマを絶妙なさじ加減でブレンドしているのだ。また、バディドラマでありながら、あえてレイに重きを置いたことでキャラに厚みが生まれ、ストーリーに深みが加わった。
前半はコメディタッチのシーンが多く、手に負えなくなる状況に右往左往するレイとマニーが笑わせる。中盤ではコメディとクライムドラマのオン/オフが見事に決まる。後半になると笑いは影を潜め、ピュアなクライムドラマへとシフトしていく。ラスト3話の緊迫感は圧巻で、レイとマニー、麻薬カルテル、DEAによる息をのむ三つ巴の“cat-and-mouse”ゲームが活写される。そして、ツイストの利いたエンディングが鮮やかに決まる。
“Dope Thief”はApple TV+の隠し玉。不運な小悪党2人が追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
原題:Dope Thief
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年3月14日~4月25日
話数:8(1話 43-53分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。