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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の一本 『あらしのよるに』

今週の一本  『あらしのよるに』
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9月のテーマ:嵐
 

小学校の国語の教科書にも採用された絵本を映画化した話題作『あらしのよるに』は、 “オオカミ”のガブと“ヤギ”のメイの友情を描いたアニメーション作品だ。この物語のポイントは、捕食する側の“オオカミ”と捕食される側の“ヤギ”の間で、本来ならば考えられない友情が芽生えるといったところにある。奇妙な友情関係の中に、笑いや切なさが絶妙なバランスで盛り込まれている。
 

しかし、この物語を単なる友情物語として捉えるのは少々もったいない。というのも、この映画には“同性愛”という隠れたテーマがあると思われるからだ。これは、あくまでも私の個人的な見解であり、人によっては不快に思うかもしれないが、事実ネットのレビューなどでそのような感想を述べている人も少なからず存在する。中には茶化したようなものもあるが、私はそれを肯定的に捉えていきたい。
 

まず、主人公であるガブとメイが両方ともオスの設定になっていることが挙げられる。これだけで同性愛的と言うにはあさはかだが、物語を見ていくと明らかにガブが男性、メイが女性のような扱いにされていることが分かる(原作では特に性別は語られていないが、他の作品ではメイがメスの設定となっているものもある)。また、女性的要素を付与された、いわゆる中世的な存在であるメイの声優に映画版では男性が起用されていることも一つの要因だ。
 

もっとも象徴的なのはなんと言っても“二人”の出会いのシーンだろう。嵐の夜に偶然同じ山小屋に居合わせた二人。暗闇の中、相手の姿も見えず、分かるのは互いの声だけ。そんな状況下で彼らは出会い、それをきっかけに「秘密の友達」となる。つまり、クローゼットな状態から互いにカミングアウトし、周りに隠れて密会しているといった流れを表現しているのだ。
 

次に、「秘密の友達」が仲間にバレてしまい、問い詰められるシーンだ。これは同性愛者だけでなく、あらゆるマイノリティーに属する人なら分かると思うが、非常に辛いシーンといえる。自分だったら絶対にこんな状況には陥りたくない。耐えられない。そう思ったのは私だけではないはずだ。そして、追い詰められた二人は逃避行へ。この逃避行にこれまで“同性愛”が辿ってきた迫害の歴史そのものを重ねてみると物語はより深みを増すだろう。
 

まだ、他にも同性愛を彷彿とさせるシーンは多くあるが、残りは実際に作品を見て感じていただければと思う。
 

私は今年レインボー・リール東京~第25回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のディレクターを担当し、数多くのLGBT作品に携わったが、LGBT当事者として私が思うことは、やはり作品を通じて同性愛について「知って欲しい」ということ。『あらしのよるに』はLGBT作品とは少し違うかもしれないが、同性愛について知る良いきっかけになると思う。是非、学校の先生など教育の場で働く人にも観てもらいたい。
 

マイノリティーに寛容になりつつある現代ではあるが、子供向け映画で同性愛を語ることは、この映画に対して否定的な意見に感じる人も少なくないだろう。だが、このようなテーマだからこそ、子供向け映画でやることに大きな意義があるのではないかと私は思う。人気作品を通して、子供たちが多様性を考えるきっかけになってくれることを願っている。
 

映画『あらしのよるに』
監督:杉井ギサブロー
アニメーション監督:前田庸生
原作:きむらゆういち
声の出演:中村獅童、成宮寛貴、竹内力ほか
製作年:2005年
製作国:日本
 

Written by 秋山 剛史
 

[JVTA発] 今週の1本☆ 9月のテーマ:嵐
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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