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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『ザ・サークル』 ソーシャルメディアによるイリュージョン

今週の1本 『ザ・サークル』 ソーシャルメディアによるイリュージョン
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11月のテーマ:遠い

 
指一本で他者にアクセスできる時代です。

 
便利ですが、その分余計な情報も入ってきやすいのではないでしょうか? 「同じ中学だったあの子に先日2人目の子供が生まれたみたいね」「会社の後輩、夜ごはんはあそこのレストランだ!」「大学で同じ学部だったあいつ、今はタイに住んでいるのか」など、ソーシャルネットワークサイトを通して、画面の向こう側にいる人の近況をリアルタイムで知ることは日常茶飯事です。

 
ソーシャルメディアは“人間関係”や“友達の定義”、“個人のアイデンティティ”を変えたとも言われています。例えば、Twitterのフォロワー数に自分の価値を見出し、Facebookの「いいね!」の数が自分のステータスだと思い込んでいる人がいますよね? 他人の評価に気を取られてばかりで、なんだか奇妙です。

 
ソーシャルメディアの問題は若者の話だと思っている大人が多いようですが、実際は若い世代の方がSNSでの自分自身の見せ方、見られ方、他者との接し方を深く理解しています。実は大人の方が、急に現れたクールなツールのことをよくわからないまま利用している傾向にあります。SNSは早くて便利で希望に満ちています。しかし、後から修正や削除が可能なコトバでの他者とのやり取りは、本当につながっていると言えるのでしょうか? 画面の向こう側のあの人は近い関係と言えるのか、本当の友達の定義とは何か、単なる知り合いレベルとはもはや何なのかなど疑問だらけです。

 
今週の一本は、超情報化社会で問題視される現代人の道徳観や他者との距離感について描いた映画『ザ・サークル』です。同作は、ソーシャルネットワークサービスを提供する世界最大のIT企業「サークル」を舞台に、SNS社会の表裏を描くスリラー作品です。トム・ハンクス演じるサークルのCEOベイリーが掲げるミッションは、全てを透明化させた完璧な社会をつくりあげること。情報のシェアによって、事故や犯罪から人々を守る社会を目指します。エマ・ワトソン演じる新入社員のメイは、夢の大企業に採用され、斬新な企業方針やオープンで快適な社内環境の中で刺激的な毎日を送ります。やがてメイは、ある出来事がきっかけでサークルが打ち出す「シーチェンジ」と呼ばれる新サービスのモデルに抜擢されます。シーチェンジは、世界中に設置された小型カメラでメイの生活を24時間公開するというサービス。最先端のコンセプトに人々は夢中になり、田舎の地味な若者だったメイが一気にSNSアイドルになります。しかし、シーチェンジがアクティブになるにつれ、誰もが自分の取る行動を知っているというプライバシーのない世界に、違和感を抱き始めるメイ。まるで知らぬ間に毒を盛られてしまったかのように、メイはゆっくりと壊れ始めるのです。全てが透明化された社会は、どこかエキセントリックで、人々の倫理観や道徳観も捻じ曲げてしまう…。本当に大切な人は誰なのか、個人を可視化できる社会はユートピアと言えるのかなど考えさせられる作品です。エマ・ワトソンとトム・ハンクスの共演も見どころですよ!

 
臨床心理学者でマサチューセッツ工科大学(MIT)科学技術社会論の教授を務めるシェリー・タークルはTED Talk『つながっていても、孤独?』(原題:Connected, but alone?)で、「本来コミュニケーションは、豊かで複雑で骨の折れるものだが、デバイスを利用することで全てをクリーンにしてしまう」と述べています。さらにソーシャルメディアは、“つながり”だけを求めることができる都合のよいツールだと主張。人間関係やコミュニケーションのコントロールを可能にし、常に他者とつながっていたい、孤立したくないという欲求を満たしてくれるが、それは単なるイリュージョンであると。シェリーは、デバイスを利用してのコミュニケーションに潜む3つの幻想をあげています。

 
1. 自分の好きなところに意識を向けられる。
2. 常に話を聞いてもらえる。
3. 一人ぼっちになることがない。

 
3つの幻想でピックアップされているように、メイは、アイデンティティが拡散しすぎて自己を喪失してしまったのだと思います。映画『ザ・サークル』のキャッチコピーは、「『いいね!』のために、生きている。」。私は、自己顕示欲の満たし方がエキセントリックな現代人にこのメッセージを問題提起として拡散希望します(笑)。他者と簡単につながれる時代だからこそ、“人とのつながり”の定義を再確認し、“常に一人ぼっちにはならない”という習慣を断ち切って欲しいと思います。ネット上の関係だけでなく、シンプルに目の前の大切な人をぎゅっと近くに寄せてください。本当に大切な人がいる人には無理につながりを求める必要もないので、余裕があります。遠くにいるけどあなたのことを気にかけている人もいますよね? その人が遠くにいても心でつながっているから安心して距離を楽しむことができるのだと思います。私も、本当の意味で私の味方をしてくれる人を大切にしていきたいです。今夜は遠くにいる母に電話をしてみます。

 
『ザ・サークル』
監督:ジェームズ・ポンソルト
原作:デイヴ・エガーズ
製作年:2017年
出演:エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガほか
製作国:アメリカ

 
Written by ゲイラー世羅

 
〔JVTA発] 今週の1本☆ 11月のテーマ:遠い
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

 
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