News
NEWS
JUICEinBLG

【コラム】JUICE #45「妄想力で楽しむ」●斉藤良太

【コラム】JUICE #45「妄想力で楽しむ」●斉藤良太
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

もし、30年前の埼玉の片田舎の中学生が「憧れのミュージシャンがどのように楽器を弾いているのか」を確かめるには――?
 

1.専門誌を買って譜面を見る(難易度・中)
2.そのミュージシャンが演奏する姿を映したビデオを見る。再生と巻き戻しを繰り返して、手元の動きを研究する。(難易度・高)
3.曲を聴いて、聞こえたフレーズをなんとか再現する。(難易度・極)
 

気軽にライブに行くことなんてできないし、上級者が身近にいることなんてあり得なかった。自分が楽器を弾き始めた頃は、BOØWYのフレーズをやっと弾けただけで、音楽好きの仲間同士で盛り上がったものだ。
 

動画を介したコミュニケーションが、アナログな「楽器の練習」を変えた
その昔、なけなしの小遣いで買った教本やビデオは何だったんだろうかと思う。コンピューターの進化とインターネットの普及は「楽器の腕前を磨く」というアナログな取り組みを劇的に変えた。例えば、好きな曲のフレーズをどう弾くか知りたければ、YouTubeを検索すればご丁寧に譜面付きで解説をしてくれる動画が見つかる。
 

お金を払わなければ得られなかった知識や練習方法のノウハウがネット上には無限に転がっていて、世界中の人が自分の技術を惜しげもなく披露している。他の楽器とセッションがしたければ、そのためのカラオケもある。憧れのミュージシャンの音の秘密が知りたければ、本人による驚くほど詳細な機材紹介まである。
 

技術の上達に必要なのはインプットだけでなくアウトプット、そして他人からの評価だと思う。YouTubeがすごいのは、自分の演奏動画をアップロードすることで世界中の目の肥えた仲間達が評価をしてくれるところだ。ネット上での評価は忖度(そんたく)の無い意見が多いから、自分のレベルを客観的に見ることができる。「100回の練習より1回の本番」なんて言葉もあるが、“世界中に配信”という事は、冷静に考えると小さな会場で数十人の客の前で演奏するよりも、比較にならないほどプレッシャーではないか。
 

もしかしたら、その演奏動画がきっかけで国境の向こうからバンドメンバーに誘われるかもしれない。フィリピン出身のアーネル・ピネダ(Arnel Pineda)は、世界的ロックバンド・ジャーニー(Journey)のヒット曲「Faithfully」を歌い、動画が友人によってYouTubeにアップされた。一方、ボーカリスト不在の苦境にあったJourneyの中心人物、ニール・ショーンはそのパフォーマンスを偶然視聴。声質と高い歌唱力に衝撃を受け、アーネルをオーディションに誘い、正式にメンバーとして迎えたという。
 


 


 

次世代通信「5G」は私たちの生活を劇的に変えるといわれている。では、音楽の世界では何が起こるのか? 妄想してみる。
 

バーチャルスタジオでセッションを行い、自宅にいながら国内外の音楽仲間と演奏を行うことが普通になる。費用がかさむアンプや、ビンテージギターなどの機材は、現在でもバーチャル機材で本物と違わないリアルな音で再現できるが、5Gの特徴である「超高速」「低遅延」「多接続」を利用したバーチャルスタジオでは、各地でそれぞれ別々に演奏する音をリアルタイムでミックスし、それぞれのプレーヤーに、まるで同じ部屋で同時に演奏しているかのような体験を提供する。さらにVR技術を組み合わせることで、音だけでなく、各プレーヤーが同じスタジオ内で一緒にいるような体験も再現する。
 

一歩進めて、それぞれのプレーヤーを実物と見分けのつかないCGで有名ミュージシャンの見かけにすることもできるかもしれない。現在の翻訳アプリがさらに進化すれば、バーチャルスタジオ、VRと組み合わせることにより他国のプレイヤーとの交流が加速して進み、現在では想像のつかないような活動をするバンドやグループが生まれるかもしれない。
 

こんな妄想を、音楽だけでなく映画や舞台の演者に当てはめてみたらどうだろう? 今まで憧れていた物語の主人公に自分がなることができたらどうだろう? その未来に、映像翻訳がどう貢献できるか? 翻訳者が培ってきた知識や技術が映像の世界から飛び出し、人々の体験に、脳内に、より直接的に訴えることになる時代が来るかもしれない。「AIに取って代わられる職業はこれだ」とまるで恐怖の大王が降ってくるかのようにまくし立てる風潮もあるが、「新しいものを想像すること」を楽しむことで、近づいてくる未来はいかようにでも迎えられる。恐怖の大王を恐れる前に考えてみるのも良いと思う。
 

—————————————————————————————–
Written by 斉藤良太
 

さいとう・りょうた●日本映像翻訳アカデミー・管理部門スタッフ。日英映像翻訳科修了生。

—————————————————————————————–
 

「JUICE」は日々、世界中のコンテンツと対面する日本映像翻訳アカデミーの講師・スタッフがとっておきのトピックをお届けするフリースタイル・コラム。映画・音楽・本・ビデオゲーム・旬の人、etc…。JVTAならではのフレーバーをお楽しみください!
 

バックナンバーはこちら

 
資料請求ボタン

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page