News
NEWS
JUICEinBLG

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #12
“FF7”で考える日英翻訳●タイラー・ジェイムズ(クリエイター/プランナー)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #12<br>“FF7”で考える日英翻訳●タイラー・ジェイムズ(クリエイター/プランナー)
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

※本コラムはRPG『ファイナルファンタジーⅦ』のネタバレを含みます。
昨年4月に発売された『ファイナルファンタジーⅦ リメイク』。シリーズの中で一番人気ではないかと思うこのタイトルの日英翻訳について、この機に振り返りたいと思います。
 

日本のコンテンツで言葉の力を磨いた私が、生まれて初めて、100%日本語で体験したゲームが1997年に発売・リメイク前の同作品『ファイナルファンタジーⅦ』(通称:FF7)です。日本語版の方が英語版よりもキャラクターのセリフやナレーションが素晴らしいのに加えて、非常にいい日本語の勉強にもなりました。文法、漢字、決まり文句、女言葉と男言葉など、12年前にFF7で覚えた言葉を今でもよく使っています。
しかし、「英語版と日本語版の雰囲気やキャラクターの性格などが結構違うな」と気になることも。2つのシーンをピックアップします。
 

シーン①
物語の終盤、宿敵・セフィロスに操られて、世界を滅ぼす力を秘める“黒マテリア”を渡してしまった主人公・クラウド。そんな彼に対して仲間のバレットが言い放つセリフ:
英語版:
“Yeah, godamit! It’s ‘cuz of you that Sephiroth got the Black Materia in the first place. It’s your damn fault!”
日本語版:
「ああ、そうだよ。お前のせいでセフィロスは黒マテリアを手に入れたんだ。責任を取れ!」
英語のつづりのミスの他に、英訳は本当のバレットとは違い、「荒い」気がしました。実際に丁寧にゲームをやった人なら、バレットはどのような人なのか、どのような性格や気質があるのか、彼の信じていることや目標などを把握しているはずだと、私は思っています。この英訳だと、バレットは意地悪で言葉遣いの荒い男で、クラウドに「全部お前のせいだ!お前のせいだ!!」と罪悪感を覚えさせようとしている印象がとても強いなぁと思いました。少し乱暴な素振りを見せても、本当のバレットは人を手助けしたい気持ちがあふれ出ている、とても優しい男ですよ。
日本語版でもバレットは少し荒い口調で話すことが多いと感じますが、英語よりもずっと感嘆符が少なくて、「罪悪感」よりも、「責任感」をクラウドと自分の仲間に持たせようと話したり、励ましたりする印象を受けました。
 

シーン②
セフィロスがクラウドの前で、ヒロインのひとり、エアリスを殺してしまった後に語るセリフ:
英語版:
“All that is left is to go north. The ‘Promised Land’ waits for me over the snowy fields.”
日本語版:
「私の寄り道はもう終わった。あとは北を目指すのみ。雪原の向こうに待っている『約束の地』」
英訳には特に文法やつづりの誤りがないのですが、「私の寄り道はもう終わった」というセリフが全く翻訳されていません…。「どうしてーー!?」と正直、とても残念だなぁと思いました。
セフィロスにとって、「エアリスを殺すこと」=「寄り道」、ですね。つまり、EXPASA海老名サービスエリアに寄って、コーヒーもお土産も手早く買っていこう、と同じ感覚でヒロインを殺したんですよ! 残酷です。魂のない、感情もないキャラクターだということが、日本語版でやればよく分かりますね。
英語版は「あとは北を目指すのみ。雪原の向こうに待っている『約束の地』」の部分しか翻訳されていないので、セフィロスの気質を英語で表す好機を逃してしまったと強く思います。
 

些細なことでしょう?!と思っている人もいるでしょうし、そのような誤りや誤訳があっても十分に1997年に発売されたFF7を楽しむことが、もちろんできると思います! また、当時のゲーム業界の翻訳力と翻訳に対しての意識と、今のゲーム業界におけるそれとはぜんっぜん違うし、翻訳や通訳においても気をつけないといけない、グローバリズムによる「差別」や「ポリティカル・コレクトネス」に対しての意識も激的に変わってきているというのもよく分かっています!
どちらかといえば、私は少し細かいです(いや、細かすぎるかも)。が、もともと本シリーズは日本人である坂口博信氏らが生み出したゲームですね。という論理で考えると、できる限り日本語版のセリフ、キャラクター、ナレーションなどに沿って、意識した上で英語に直したら総合的な印象や雰囲気がもともとのストーリーに近づくのではないかと、日本語版をやっている間にずっと考えていました!
 

これは、ゲームだけではなく、アニメも、テレビ番組も、小説も、雑誌も、映画も、エンタメはどのような分野でもそうだと思います! とても長い間、日本のメディア・コンテンツを英語と日本語両方で楽しんだり、両者を分析したり比較したりしてきた私は、字幕や他国の文化、言語などを勉強している皆さんに「翻訳がどのようにトリッキーなのか、どのように人の心に印象が残せるのか」について話してみようと思いました。
 

—————————————————————————————–
Written by タイラー・ジェイムズ

アメリカ出身。Willamette University(言語学)、University of Puget Sound(音楽)を卒業後、2010年に来日しゲーム開発会社などに勤務する。日本語の他に、中国語、スペイン語も堪能。ワークショップ講師のほか、講座プランニング、デジタルコンテンツ制作に従事している。
—————————————————————————————–

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page