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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第130回 “DOPE THIEF”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第130回 “DOPE THIEF”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第130回“DOPE THIEF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
―鈴木純一さんのコラム『戦え!シネマッハ!!!!』連載終了に寄せて―
鈴木さんのコラムが6月で終了してしまいました。映画の「予告編」と「悪役」をテーマにした切り口は斬新で、毎回楽しみにしていたのでとても残念です。映画愛あふれる自筆のイラストも素敵でした。
また、最終回では私の米国駐在時代のコラム『テキサス映画通信:Houston, We have a problem!』にも触れていただき、ありがとうございます。熱量の高かった昔を思い出しました。
 
これからも、ともに映画ファンとしてあり続けましょう。
長い間の連載、お疲れさまでした!
 
では、今月のドラマなのだ。
 
予告編:『ドープ・シーフ』 本予告

 
不運な小悪党2人のバディ・クライムコメディ!
本作の原作はデニス・タフォヤの同名小説(未訳、2009)。“dope”には‛麻薬’と‛間抜け’の意味があるので、このイケてるタイトルは「麻薬強盗」と「間抜けな強盗」のダブルミーニングになっている。
 
“Dope Thief”はApple TV+オリジナルのリミテッド・シリーズ。不運な小悪党2人が、麻薬カルテルとDEA(麻薬取締局)に追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
 
“See, the key is preparation, right?”
―ペンシルベニア州フィラデルフィア
レイ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)とマニー(ワグネル・モウラ)は決して悪い人間ではない。だが若いころから悪事に染まっていて、強盗くらいしか稼ぐ手段を知らない。
 
2人のターゲットは、自宅でドラッグを精製しているティーンエイジャーだ。十分にリサーチをしてからDEAの捜査官になりすまし、キャッシュとブツを奪う。儲けは少ないが反撃されることも通報されることもない、安全で堅実なビジネスだ。蔓延するドラッグをコミュニティから取り除くという、彼らなりの言い訳も立つ。
 
レイの父親バート(ヴィング・レイムス)は、長い間ムショ暮らしをしている。レイを養子にして育ててくれたのは、バートの愛人テレサ(ケイト・マルグルー)だった。レイ自身にも前科があり、現在はアルコールとドラッグ依存症のリハビリ中だ。
レイは、テレサが医療費の請求書を山ほど抱えていることに気づく。問い詰めると、1万ドル必要だという。
 
マニーはブラジルからの移民で、レイとは幼なじみだ。信心深く、早く足を洗って恋人のシェリーと結婚したいが、先立つものがない。
 
2人はリスクを取って一獲千金を目指すことにした。レイの囚人仲間だったリックを誘い、郊外にあるメス(メタンフェタミン)の精製工場を襲撃する。だがハイになっていたリックが突然発砲して、銃撃戦になった。
レイは負傷し、リックと相手3人が死亡した。
 
パニくったレイとマニーは工場に火をつけて、大金の詰まった鞄とドラッグを奪って逃走する。
 
2人が襲ったのは、麻薬カルテルの工場だった。カルテルは直ぐにレイの正体を突き止め、手先のバイカーギャングを差し向けた。
 
追手はレイとマニーのみならず、彼らの家族、友人にも迫る。
一方、死んだと思われていたメスの製造者の一人、ミーナ(マリン・アイルランド)は命を取り留めていた。実は、彼女はDEAのおとり捜査官だった!
 
鉄板キャストの6人!
レイ役のブライアン・タイリー・ヘンリーは、大ヒットコメディ“Atlanta”で演じたラッパーの‛ペーパー・ボーイ’でブレークした(エミー賞助演男優賞にノミネート)。コメディアン顔だが芸幅は広く、高い演技力で演劇・ミュージカルもこなす才人だ。ジェニファー・ローレンスと共演した小品『その道の向こうに』(2022)では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
 
マニー役のブラジル人俳優ワグネル・モウラは、Netflixの“Narcos”で実在したコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを演じて、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。“Shining Girls” (本ブログ第95回参照)では、イメチェンして準主演の新聞記者役を好演。滋味のあるいいアクターだ。
 
主演2人の相性の良さは抜群で、喧嘩しながらも一層強まっていくレイとマニーの友情には胸を打たれる。
 
テレサ役のケイト・マルグルーの代表作はもちろん“Star Trek: Voyager”で、艦長キャスリン・ジェインウェイを全7シーズン演じた。刑務所ドラメディ“Orange Is the New Black”(本ブログ第4回参照)では巨漢のロシア人レッドを怪演、トレッキー(熱狂的Star Trekファン)たちの度肝を抜いた。
 
レイの父親バートを演じたヴィング・レイムスは、『ミッション:インポッシブル』シリーズのルーサー役で日本でも顔なじみだ。
 
ミーナ役のマリン・アイルランドは、“Sneaky Pete”(本ブログ第31回参照)でタフな保釈金立替業者ジュリア・ボウマンを演じて強烈な印象を残した。この人、‛凛とした姉御’を演らせたら天下一品だ。
 
渋い存在感を見せたのが、レイの信頼する麻薬バイヤーのサン・ファムを演じたダスティン・グエンだ。ベトナム出身のグエンはジョニー・デップと共演した“21 Jump Street”(1987年のドラマ版)がメジャーデビュー。武術家でもあり、怒涛のカンフードラマ“Warrior”でもいい味を出していた。
 
この6人はまさに適材適所、互いに強いケミストリーが働き鉄板のアンサンブルキャストとなった。
 
三つ巴の“cat-and-mouse”ゲーム!!!
ショーランナーのピーター・クレイグは、珍しく作家から脚本家への転身組だ(逆のコースはよく聞くが)。『ザ・タウン』『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション/レジスタンス』『バッドボーイズ フォー・ライフ』『THE BATMAN -ザ・バットマン-』『トップガン マーヴェリック』『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』など、共同脚本家としてそうそうたる娯楽大作を手掛けてきた。
 
本作はクレイグにとって初のTVドラマ制作で、最終話の監督と全エピソードの脚本も担当した。また、製作総指揮に名を連ねるリドリー・スコットが、パイロット(第1話)の監督を務めている。
 
特に印象的なのは、クレイグのバランス感覚の良さだ。コメディ、ヒューマンドラマ、クライムドラマを絶妙なさじ加減でブレンドしているのだ。また、バディドラマでありながら、あえてレイに重きを置いたことでキャラに厚みが生まれ、ストーリーに深みが加わった。
 
前半はコメディタッチのシーンが多く、手に負えなくなる状況に右往左往するレイとマニーが笑わせる。中盤ではコメディとクライムドラマのオン/オフが見事に決まる。後半になると笑いは影を潜め、ピュアなクライムドラマへとシフトしていく。ラスト3話の緊迫感は圧巻で、レイとマニー、麻薬カルテル、DEAによる息をのむ三つ巴の“cat-and-mouse”ゲームが活写される。そして、ツイストの利いたエンディングが鮮やかに決まる。
 
“Dope Thief”はApple TV+の隠し玉。不運な小悪党2人が追われ、いたぶられ、のたうち回る、極上のバディ・クライムコメディなのだ!
 
原題:Dope Thief
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年3月14日~4月25日
話数:8(1話 43-53分)
 
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。