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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第136回“IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『IT / イット ウェルカム・トゥ・デリー“それ”が見えたら、終わり。』 本予告

 
“Pennywise, the Dancing Clown returns!”
本作はスティーヴン・キング原作の『IT/イット』シリーズ(2017&2019)の前日譚で、‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズの誕生秘話が描かれる。
“IT: Welcome to Derry”は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによるオリジナル(配信はU-NEXT)。完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
“This is not America, this is Derry”
—メイン州デリー、1962年
雪の降る夜。なぜかおしゃぶりを咥えている男の子が、町の映画館に忍び込んだ。上映されているのは『ザ・ミュージックマン』。彼はほどなくマネージャーに追い出され、仕方なく国道でヒッチハイクを始めた。
 
その子の名前はマティ、デリー学園の生徒だ。彼を拾ってくれたのは、子連れの優しそうな中年夫婦だった。暖かい車内では、ラジオがソ連の核実験を伝えている。夫婦が卑猥なジョークを飛ばし始めた。弟はひたすら単語のスペルを唱え、姉はタッパーウェアに入った生レバーの臭いをかいでいる。何かがおかしい。
その夜、マティは行方不明になった。
 
—4か月後
デリー空軍基地に、リロイ・ハンロン少佐(ジョヴァン・アデポ)が赴任してきた。国防総省の極秘プロジェクト「プリセプト作戦」に参加するためだ。妻のシャーロット(テイラー・ペイジ)と12歳の息子ウィルもほどなく合流する。
黒人のハンロン少佐は、初日から基地内で差別を受けた。
 
リリーは1年前に父親を事故で失った。ピクルスの瓶詰工場で機械に挟まれたのだ。彼女はデリー学園のクラスメートにいじめられ、‘変人リリー’と呼ばれている。
実は、マティはリリーの秘密の友人だった。
 
デリーでは、マティだけでなく子供たちが次々と行方不明になっていた。
ある日、リリーは自宅の排水口からマティの声を聞いた。『ザ・ミュージックマン』の劇中歌だ。彼女はマティの友人2人を誘って捜索を始める。マティが最後に目撃された映画館に行く。そこで働くロニーも協力してくれた。
 
無人の館内で、ロニーは『ザ・ミュージックマン』を上映し始めた。すると、スクリーンにマティが映っているではないか。だがマティの顔はピエロに変わり、そいつは布でくるんでいた小さな怪物を解き放った。
怪物はスクリーンを突き破り、リリーたちを襲い始めた!
 
‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズが27年ぶりに覚醒したことを、デリーの人々は知る由もない…。
 
“We’re losers and always will be”
本作の主役は、いじめられっ子5人組。
精神を病みながらも友人の救出を諦めないリリー(クララ・スタック)、軍人の父親からのプレッシャーに悩む理系の秀才ウィル(ブレイク・キャメロン・ジェームス)、父親の冤罪を晴らそうと奮闘するロニー(アマンダ・クリスティーン)、ちょっとズレてるリリーの親友マージ(マチルダ・ローラー)がドラマをけん引する。
そして、マージへの愛を貫き通す粋な気取り屋リッチ(アリアン・S・カルタヤ)には、不覚にも泣かされる。
彼らの合言葉は「勇気」だ。
 
映画版に続いてペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドはスウェーデン出身。やはりS・キング原作の“Castle Rock”にも主演している。父親は“Star Wars: Andor”のステラン・スカルスガルド、兄は“Murderbot”(本ブログ第131回参照)で主演したアレクサンダー・スカルスガルドだ。
 
リロイ・ハンロン少佐役のジョヴァン・アデポは、“Jack Ryan”(本ブログ第55回参照)、“When They See Us”(本ブログ第57回参照)で準主役を演じた。
 
“Thank you for visiting Derry”
立案および製作総指揮は、アンディ&バーバラ・ムスキエティの弟姉コンビ。映画版2作ではバーバラが製作、アンディが監督を務め、ドラマ版ではアンディは共同監督に名を連ねる。
 
エンタメ作家を「質x量」で評価すると、スティーヴン・キングは文句なしに史上最強だ。原作小説『IT』(1986)は、膨大なキング作品の中でもトップ3に入る屈指の名作。この一作がなければ、超人気の“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)も生まれなかった。
 
ムスキエティ弟姉は、その唸りを上げる‘キング節’を原作の雰囲気そのままに見事に映像化した。
 
本作は、『スタンド・バイ・ミー』(1986、これもキング原作)の美しいホラーバージョン。軍事スリラーの要素がスパイスとして効いている。
ストーリーは原作と映画版からインスピレーションを得たオリジナル。ジョン・F・ケネディが大統領で、ソ連との冷戦下にある時代。舞台は、警察の腐敗と黒人差別が未だ色濃く残る、メイン州の廃れた町。
 
レトロ調のオープニング・クレジットが秀逸。パイロット(第1話)の冒頭約10分間の‘キモ怖さ’は別格で、観る者を一気にこの数奇な物語に引きずり込む。現前の超常現象と登場人物の空想が混然一体となり、キングの世界観が広がってゆく。
 
エピソードが進むにつれ、リリーを中心とした5人の仲間は絆を深めていく。警察に助けを求めても、信じるはずがない。一方でハンロン少佐は、「プリセプト作戦」に深く係わっていく。彼らの運命が交錯するとき、ペニーワイズ誕生の謎が明らかになり、デリーの町は恐怖に支配される。
戦慄と感動の最終話は文句なしの出来栄えで、68分間がアッという間だ。
 
“IT”ユニバースは映画、ドラマ、小説、どれから入っても楽しめるが、できればセットですべて堪能して欲しい。
“IT: Welcome to Derry”は完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
ペニーワイズのあの高笑いはシーズン2で戻ってくるはずだ。(本稿執筆時点では、HBOによるシーズン2の制作発表はない。)
 
原題:IT Welcome to Derry
配信:U-NEXT
配信開始日:2025年10月27日~12月15日
話数:8(1話 53-68分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、S・キング原作の非ホラー系ドラマ!」
S・キング原作のドラマは「非ホラー系」も傑作ぞろいなので、この機会に押さえておこう。
 
●“The Dead Zone”(2002-2007):A
●“Under the Dome”(2013-2015):B+
●“11.22.63”(リミテッド・シリーズ、2016、本ブログ第25回参照):A+
●“Mr. Mercedes”(2017-2019、本ブログ第50回参照):A
●“The Outsider”(リミテッド・シリーズ、2020):B+
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。