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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第88回 “SWAGGER”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第88回 “SWAGGER”
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    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第88回“SWAGGER”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    中学生バスケの世界を描く、渾身のヒューマンドラマ!
    Apple TV+オリジナルの“Swagger”は、スポ根モノでもなければ、負け犬のサクセスストーリーでもない。
    ハートウォーミングでハートブレイキング、NBAを目指す多感な少年が、過酷な現実の中でもがき苦しむ、渾身のヒューマンドラマなのだ!

     
    “You walk on that court with swagger, you walk off with swagger”
    ―アメリカ東部メリーランド州
    ジェイス・カーソン(アイザイア・ヒル)は、190センチの身長に恵まれた才能ある14歳の中学生だ。ジェイスの夢は、NBA(“National Basketball Association”)のスーパースターになること。10年前に失踪した父親を見返してやるつもりだ。
     
    ジェイスの母親ジェナ(シャイネル・アゾロー)は、2つの仕事を掛け持ちしてジェイスと娘のジャッキーを育ててきた。息子の夢を実現するためには、手段を選ばない覚悟だ。
     

    アイク・エドワーズ(オシェア・ジャクソン・Jr)は、高校時代にバスケットボール州大会のMVPだった。現在はホームセンターで働きながら、14歳以下のバスケチーム「SPグラインド」のオーナー兼コーチをしている。妻は妊娠中で生活は苦しく、チームの資金繰りも火の車だ。
    アイクは、子供たちがバスケットボールを心から楽しめるように指導する。14歳児に、自分が経験した汚い大人の世界を見せたくないのだ。
     

    ジェイスのスーパープレーはSNSでも評判を呼ぶ。ジェナはアイクの経歴を買って、息子をSPグラインドに転入させた。
     

    DMV地区リーグ(ワシントンDC、メリーランド州、バージニア州)の開幕戦。ジェイスは序盤から快調に得点を重ね、SPグラインドは大量リードした。だが後半戦に入ると、敵方コーチがジェイスに向けて悪質なヤジを浴びせ始める。動揺したジェイスはミスを連発し、チームは大逆転負け。ジェイスはメンタルの弱さをさらけ出してしまった。
     

    さらに、ジェイスのライバルとなるプエルトリコ出身の天才プレーヤー、ニック・メンデスが華麗にデビューした。
     

    まだSPグラインドには全米ユース選手権に出場できるチャンスがある。だが、アイクはジェイスを立ち直らせ、チームを再建しなければならない。
    今のジェイスに必要なのは、“swagger”(真の自信)だった!
     

    『SLAM DUNK』との比較も楽しい!
    アイク役のオシェア・ジャクソン・Jrは、ラッパー&アクターのアイス・キューブの長男だ。自身もOMGの名でラッパーとして活躍する一方、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』などの映画にも出演している。若いころの苦い失敗を乗り越え、人生をやり直そうとするアイクを、ジャクソン・Jrは自然体で好演した。
     

    ジェイスを演じたアイザイア・ヒルは、アクター経験ほとんどゼロの19歳。自信過剰と自信喪失を繰り返す怒れる若者を、屈託なく演じた。ヒルはNBAではないがプロのバスケットボール・プレーヤーで、劇中ジェイスが初めて見せるダンクシュートには鳥肌が立つ。
     

    ジェナは本作のワイルドカードだ。シャイネル・アゾローは、優しくて愉快なシングルマザーと、息子最優先のモンスターマザーとの間を揺れ動くジェナを熱演する。
     

    ジェイスのチームメイトは、いずれもキャラが際立っている。
    幼なじみのクリスタルは、ジェイスにバスケの基礎を叩き込んだ男勝りのプレーヤーだ。小柄なムーサは、底抜けに楽天家のムードメイカー。フィルは母親が服役中で、その上父親からDVを受けている。フィルに救いの手を差し伸べるのが、唯一の白人プレーヤーのドリュー。ロイヤルは失読症だが、敵味方のプレーをすべて覚えていて、パターン分析をして仲間を驚かせる。
     

    『SLAM DUNK』との比較も楽しい。ジェイスとライバルのニック・メンデスのプレースタイルは、流川楓と仙道彰を彷彿させる(実力も互角か!)。一方アイクは安西監督に比べると、体型は似ているが格段に若くて未熟だ。(『SLAM DUNK』を未読の人は、この史上最強のスポーツ漫画を読んでおこう!)
     

    “Friday Night Lights”に匹敵するスポーツドラマの傑作!
    本作はNBAのレジェンド、ケビン・デュラントの経験をベースにしていて、自身も製作総指揮に名を連ねる。ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のレジー・ロック・バイスウッドは、デュラントのストーリーもNBAも美化しない。時代設定を新型コロナとBLM運動(“Black Lives Matter”)に揺れる現在に置き換えて、エンターテインメントの中に、アメリカの抱える問題を巧みに見え隠れさせる。
     

    ストーリーは、ナイキ、アディダス、アンダーアーマーなどのメガスポーツ企業による選手の囲い込みを暴露する。最新の用具、最先端のトレーニング施設、優秀なコーチ、遠征試合、メンタルセラピー(!)と、有望選手の育成にはお金がかかる。だからチームオーナーはスポンサー探しに奔走し、親たちはより強いチームを求め、金はあるが道徳観のないスポンサー企業が跋扈する。「勝利第一主義」に陥る構造的欠陥があるのだ。
     

    ジェイスのような中学生のエリート・アスリートは、アメリカ全土に数多くいる。彼らは各地区で発表される個人ランキングに一喜一憂しながら、トップに上り詰めるために日夜過酷な競争を繰り広げている。
     

    アイクはコーチとしての腕を磨きながら、よりタフで寛容な人間に成長する。ジェイスは人種差別とBLM運動を体験して、子供から少年へと変貌していく。強欲、利権、政治的駆け引きにまみれたスポーツ業界の中で、アイクの善良さとジェイスの純粋さが際立ち、観る者の胸を打つ。
     

    迫真のゲームシーンは、ハードコアなバスケファンもうならせるだろう。スポーツへの情熱と深い社会性を兼ね揃えた内容の濃さは、高校アメフトの世界を活写したスポーツドラマの金字塔“Friday Night Lights”に匹敵する。
     

    貧困、差別、敗北、重圧、挫折、負傷など、人生は逆境のフルコートプレスでジェイスを攻めてくる。だが、家族、コーチ、チームメイトなど、彼を守る者たちがいる。
    “Swagger”は、NBAを目指す多感な少年が、過酷な現実の中で怒り、喜び、もがき苦しみながら成長する、渾身のヒューマンドラマなのだ!
     

    邦題は『スワッガー』(素直に『スワガー』でいいのでは?)。Apple TV+でシーズン1(各話45-59分 × 全10話)を配信中だ。
     

    もし安西監督がジェイスに出会ったら、やはりあの言葉を優しくかけるのではないか。
    「あきらめたらそこで試合終了だよ」
     

    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #63
    Title: “Don’t Let Me Be Misunderstood”
    Artist: Nina Simone
    Movie: “Nobody” (2021)

    この曲は、’77年のサンタ・エスメラルダによるカバーバージョンを、日本では尾藤イサオが『悲しき願い』のタイトルで大ヒットさせた。映画はB級アクションの傑作!
     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

    ◆バックナンバーはこちら
    https://www.jvta.net/blog/5724/


     

    ※※特報
    同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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