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【JVTAが字幕を制作】気候変動に植林で立ち向かう『グレート・グリーン・ウォール』が劇場公開 

アフリカのサヘル地域では、気温が世界平均の1.5倍の速さで上昇している。気候変動により、干ばつや砂漠化だけでなく、食料不足が引き起こす紛争が深刻化し、故郷を追われる人たちが増えていく。「グレート・グリーン・ウォール」(緑の長城)とは、荒廃したアフリカの土地に植林し8000キロに及ぶ“グリーンウォール”を作るという壮大な緑化プロジェクトだ。2007年にアフリカの国々の主導により開始され、ブルキナファソ、チャド、ジブチ、エリトリア、エチオピア、マリ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、スーダンの11 カ国で植林計画が進⾏している。

©GREAT GREEN WALL, LTD

現在劇場公開中の映画『グレート・グリーン・ウォール』は、マリ出身のミュージシャンのインナ・モジャが、この活動を追ってアフリカ大陸を横断する様子を追ったドキュメンタリー。インナは、緑化に挑む人々や紛争に巻き込まれた難民と出会い、各地域のミュージシャンと交流しながら音楽の力でこの問題を多くの人に知らしめる活動を続けている。この作品の字幕をJVTAの修了生7名が手がけた。

 

◆字幕翻訳チーム
石川 萌さん
我満 綾乃さん
川又 康平さん
原田 絵里さん
星加 菜保子さん
茂貫 牧子さん

※希望者のみ掲載 

©GREAT GREEN WALL, LTD

同作は、2022年開催の難民映画祭で『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城~』のタイトルでオンライン先行上映され、注目を集めた。7人の翻訳チームはパートを分けて翻訳、相互チェックを繰り返し、約1カ月かけて字幕を仕上げた。その翻訳チームにこの作品の魅力と字幕づくりについて聞いた。JVTAは2008年の第3回から難民映画祭に字幕制作で協力し、多くの修了生が翻訳者ならではの支援を続けている。

※2022年難民映画祭の特別先行上映会には翻訳者も参加

 

◆作品を通してキーワードとなる言葉を大切に訳す
冒頭のパートの翻訳を担当したのは、我満綾乃さん。最初の字幕の訳出は印象に残るよう意識したという。

「作品が始まり最初に映し出されるのは、インナが影響を受けたブルキナファソの元大統領トーマス・サンカラの言葉です。これは作品を通して何度も出てくる大切なキーワードとなっています。冒頭ではサンカラの言葉が文字としてゆっくりと映されるので文字数に余裕がありましたが、作中そして後半で再度この言葉が出てくる時は冒頭のような尺の余裕がありませんでした。‟勇気を持って”という言葉を入れることで文字数を削っても冒頭部分のサンカラの言葉として印象が残り、作中と後半部分での字幕のすり合わせもうまくできたのではないかと思っています」(翻訳者 我満綾乃さん)

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◆歌詞の訳が字幕翻訳のキーポイント
インナはこの旅の中で多くのミュージシャンとセッションを重ねており、全編にわたって歌詞の訳が重要となる。文字数が限られた字幕作りの中で歌詞は難しい要素の一つだ。翻訳チーム内でも試行錯誤しながら翻訳作業に取り組んだ。

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「本作は気候変動によってもたらされる様々な問題を追っていくドキュメンタリー作品であると同時に、ミュージシャンであるインナ・モジャのミュージカル・ジャーニーでもあり、音楽が大切な要素となっています。作中で歌われる曲には強いメッセージが込められており、歌詞に関してはチーム内で特に多くの意見を出し合って翻訳しました。チーム翻訳も初めての経験で、相互チェックで自分の翻訳への指摘で気づくことが多く、チームの方の翻訳をチェックすることで、『なるほど、こういう視点から訳しているのだな』『この視点での訳し方も良さそう』と言葉を多角的にとらえる視点をより具体的に理解できたと感じています。」(翻訳者 我満綾乃さん)。

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「この作品においては、やはり、劇中歌の歌詞の内容を詩的に訳すことが難しかったと思います。担当のパートにも、歌詞について語るシーンがあったので、単純ながらも、矛盾しないようにどのように表現すればいいのか悩みました。また、UNHCRの用語リストをもとに翻訳を進めるなかで、専門的な言葉を使うべきか、字幕として瞬時に理解できる平易で自然な日本語を使うべきなのかを考えすぎてしまうこともあり、皆さんから助言をいただきました。」(翻訳者 茂貫牧子さん)

 

「この映画は、環境破壊がもたらす影響について警鐘を鳴らすだけではなく、未来への希望も同時に描き出しています。アフリカ各地でインナが紡ぐ音楽もまた、観る人に強い印象を残すのではないでしょうか。今回のチーム翻訳では、歌詞にもこだわりぬきました。メッセージ性の強い曲が多いので、言葉の一つひとつに対して、納得がいくまでアイデアを出し合いました。メンバー全員のこだわりが凝縮された、インナのミュージカル・ジャーニーを、ぜひ多くの方に見届けていただきたいです。」(翻訳者 星加菜保子さん) 

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「最後のパートを担当したので、他のパートにも何度か出てくる重要な言葉や、歌詞が多くありました。特にエンディングで流れる『インシャ・アッラー』という曲は最後の4ハコを除いた大部分が星加さんのパートでも歌われており、まずは被る部分のベース訳を作っていただきました。お互いのパートで尺が異なっており、それぞれの使える文字数の中で、伝えるべきメッセージは統一できるよう相談して訳を詰めていきました。他に『ライズ』の歌詞を訳したのですが、音楽が大切な要素の作品なので、“このシーンでこの曲が流れるのはなぜか”ということをまず考えました。音楽を聴きながら歌詞の意味にも集中してもらいたいと思ったので、曲のリズムを感じながら読みやすい字幕になるよう心がけました。」(翻訳者 石川 萌さん)

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「この作品はインナ・モジャさんと仲間の歌唱シーンが多く、私の担当箇所にも歌詞がいくつもありました。字幕を考える際、一般的にはハコに収めるために字数を気にしながら単語を取捨選択する機会が多いと思います。しかし、私が担当した歌詞は言葉数に比べて歌の尺が長かったせいか、字数に多少余裕があるように感じました。ですから歌詞によく登場するような詩的な言い回しや日常会話では使わないような単語を入れた訳作りに挑戦しました。正解がはっきりしない分、難しかったですが、考える時間は楽しかったです。クリエイティブな翻訳が好きな私にとって、貴重な体験となりました。」(翻訳者 川又康平さん)

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◆この作品に向き合い、翻訳者自身も難民問題に対する意識が変わった
インナは旅の途中で出会う人々の壮絶な体験を聞き、絶句し涙を流す。気候変動による貧しさから国外に逃れるものの、難民としてさらに過酷な生活を強いられる人々…。しかし、同時に長きにわたって植樹を続けてきた成果も目にするなど、この作品には私たちがまだ知らない現状がリアルに映し出されている。翻訳者はまず自らが作品を理解するために多くのリサーチを重ねる。そして、正しい情報をより分かりやすく伝えるために、慎重に言葉を選んでいく。こうした作業の中で翻訳者自身も難民問題に対する意識が変わったという。

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「気候変動によってもたらされるアフリカの干ばつや資源不足、難民や紛争などの問題を取り上げるドキュメンタリー作品と聞くと重たい印象を持たれるかもしれません。実際、作中で言及される問題は深刻なものではあるのですが、決して重々しい作品ではなくより良い未来、社会をつくっていくための力強さにあふれた作品です。作中の曲はどれも印象に残るものばかりで、翻訳をしながらつい口ずさんでしまいたくなるようなリズミカルな曲もあり音楽を楽しむことができる作品でもあると感じています。

 

作中に‟音楽はあらゆるメッセージを伝えることができる”という言葉があるのですが『グレート・グリーン・ウォール』はまさにそれを体現した作品だと思います。私自身、本作を通して知らなかった多くの問題を知るきっかけとなりました。ぜひ皆さんも本作を見て、音楽を通してグレート・グリーン・ウォールの活動を知っていただけたらなと思います。」(翻訳者 我満綾乃さん)

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「テレビのCMなどで流れる寄付を募る映像を見ていると、どうしても『かわいそうな子供たち』という印象がぬぐえず、困難を前に途方に暮れるしかない(のようにしか見えてなかった)人々に対して、同情や憐憫の感情からしか寄付をできていませんでした。しかし、過去の難民映画祭のシリアのサッカー選手を題材にした作品からは『欲しいのは同情ではなく機会だ』、今回の作品からは『私たちは状況を変えるために、活動していることを知ってもらいたい』というメッセージに接する機会をいただき、困難に負けずに進もうとしている人々の存在を改めて知り、そのための支援と応援が必要だということを実感しました。字幕翻訳者としての経験のみならず、一個人としても知らなかったことを深く知る機会を与えていただき、感謝しています。」(翻訳者 茂貫牧子さん)

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「昨年行われた難民映画祭の先行上映会交流会では、上映会の司会進行をされた国連難民サポーターの武村貴世子さんとお話しすることができました。『映画を通して、気候変動や紛争、難民、すべて繋がっている問題だということが分かった』と仰っていたのですが、私も今回の作品を訳しながら同じことを感じていました。作品のメッセージが見る人にも伝わったのだなと実感できたのと同時に、この作品を通じて、より多くの人に『気候変動は自分たちにも繋がっている問題だ』と気づいてもらいたいと思いました。」(翻訳者 石川 萌さん)

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「昨年の先行上映会では、UNHCRの関係者の方から『素敵な字幕をつけてくださって、本当にありがとうございます。』というお言葉をいただき、胸がいっぱいになりました。作品の持つエネルギーやパワーを伝えることに少しでも貢献できたのなら、映像翻訳者としてこんなにも幸せなことはありません。」(翻訳者 星加菜保子さん)

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「難民問題もグレート・グリーン・ウォールの活動も、広く知ってもらうことに意味があるということで、この映画を日本でも大勢の人に見てもらうための手伝いが少しでもできたことを光栄に思います。」(翻訳者 原田絵里さん)

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製作総指揮は、アカデミー賞ノミネート『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督。サンパウロ国際映画祭やレインダンス映画祭で高い評価を受けたほか、2023年3月には文部科学省特別選定作品となっている。この作品を通して、まずはこの壮大な緑化計画への理解を深めてほしい。

 

『グレート・グリーン・ウォール』
2023年4月22日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

監督・脚本:ジャレッド・P・スコット
製作総指揮:フェルナンド・メイレレス、サラ・マクドナルド、アレクサンダー・アセン、セア・ゲスト、シアン・ケヴィル、ファブリツィオ・ザーゴ、カミラ・ノルトハイム・ラーセン、クロード・グルニツキー
共同製作総指揮:インナ・モジャ、マルコ・コンティ・シキッツ、ジュリア・ブラガ
出演:インナ・モジャ、ディディエ・アワディ、ソンゴイ・ブルース、ワジェ、ベティ・G 他
提供:セビルインターナショナル 制作:メイクウェーブス
協力:砂漠化対処条約(UNCCD)
配給:ユナイテッドピープル
原題:The Great Green Wall
2019年/イギリス/92分/ドキュメンタリー ©GREAT GREEN WALL, LTD 

 

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ロジカルリーディング力 強化コース 受講生の生の声を紹介

English Clockは“プロの映像翻訳者が持つ思考プロセス”を伝授し、
映像翻訳に必須の「英文解釈力」を着実にレベルアップさせることを目的としています。
 

English Clockの「ロジカルリーディング力 強化コース」では、英文読解を高度な知的活動と捉え、英文を「何となく読める」レベルから脱却し、確実な根拠に基づいて理解した内容を自分の言葉で説明できるようになるまで考え抜くトレーニングを行います。英字紙の社説やドキュメンタリー番組のスクリプトなど、深い内容の素材を訳しながら、英文を貫く論理の見出し方、筋の通った訳文の作り方を学びます。
 

このコースで学んだ修了生の皆さんにコースの内容や受講後に意識するようになった点などを聞いてみました。
 

◆教材(課題)の選び方は適切だったと思いますか? 特に気に入った教材はありますか? 

・スポーツ、旅、歴史、政治など、毎回異なるジャンルに取り組むことができ、とても充実した8回でした。普段なら積極的に触れようとしなかった分野や難しいテーマも、課題で取り組むことによって興味が湧き、論理的思考を鍛えるとともに自分自身の視野もさらに広がったと思います。(Aさん)
 

◆毎回の講義の主題(対の概念、引き継ぎと展開、段落のテーマなど)は自分なりに咀嚼(そしゃく)できましたか?学びをその後に生かせていると思いますか?生かせていることがあれば、具体的に書いてください。 

・理解できたと思います。受講前は「どこまで原文から離れてよいのか」という疑問が常につきまとっていたのですが、各回のテーマを学ぶことで、原文に忠実であるというのは全ての単語を訳すという意味ではなく、原文のエッセンスに忠実であることという意味であることが理解できましたし、課題でも実践できるようになったと思います。(Bさん)
 

本科の課題に取り組む際、字幕でも小説でも、この講義(ロジカルリーディング)で取り上げられた内容を意識しないと話の筋のポイントが把握できず、適切な訳語が選べないことがよく分かりました。また、他の講師の方々の解説もより深く理解できるようになりました。(Cさん)
 

◆受講前と比べて、自分の中に変化があったと思いますか? それはどんな点ですか? 

・自分が訳した言葉について、「それはどういうことか」とさらに突き詰めて、もっと良い言葉を探すようになりました。また、その際に分かりやすい平易な言葉を選ぶよう意識するようにもなったと思います。(Dさん)
 

・表面的に訳さず、作者の意図と文、段落の流れを考えるようになったこと、そして論理展開や訳文に少しでも違和感があれば、きちんと解消しようと意識するようになったことです。(Eさん)
 

◆講師の説明は分かりやすかったですか?今後の学習のヒントになったと思われることがあれば具体的に挙げてください。 

・山根先生の説明は、いつも分かりやすく丁寧でした。毎回毎回、私のしつこいほどの質問にも一つひとつ真剣に考えて答えていただき、とても感謝しています。授業で解説していただいたこと、添削でアドバイスしていただいたことは全て大切なヒントとなっています。そのうちのひとつ、“キラーインスティンクトを働かせる(全体の中で絶対に押さえておかなければならないポイントを見抜く)”という言葉は特に印象的で、常に意識して取り組むよう心掛けています。(Aさん)
 

◆講義全体の感想を自由に書いてください。 

・山根先生の講義は本当に分かりやすく、課題を訳していて意味が取れなかった箇所も説明いただいたことで納得できました。また、わかりにくいことを説明する際に毎回分かりやすい例え話をしてくださったので、すんなり理解できました。幅広い人がわかる説明をしてくださいました。毎回の添削も丁寧にしていただきました。自分が意味を取れていない難しい構文等は添削原稿にも解説を書いてくださり、講義ではなるべく聞くことに注力できるよう配慮してくださり、集中できました。また、受講生の訳を取り上げる際にも、単に名前順に進めるのではなく、良い訳をしている方や考えないといけないポイントがある方の訳を取り上げてくださり丁寧に見てくださっているのだと感じました。(Fさん)
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
English Clockの修了生の多くが、「なんとなく分かったつもりでいたが、受講後ははっきりと理解した上で訳せるようになった」と話します。同じように悩んでいる方はまず、無料体験レッスンにご参加ください。

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◆主任講師 山根克之講師のコラムをチェック!
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【ロジカルリーディング力 強化コース修了生インタビュー】「訳文の根拠を言葉にして説明することで自信を持てるようになりました」

英日の映像翻訳とバリアフリー字幕講座の修了生、小井戸亜由美さんは、2022年にトライアルに合格、OJTを終えて映像翻訳者としてプロデビュー。小井戸さんは、実践コース修了後になかなかトライアルに合格できずに悩んでいた時に受講したロジカルリーディング強化コースで、翻訳力のレベルアップを実感できたという。小井戸さんがこのコースで何を学び、何が変わったのか。お話を聞いた。
 

◆ロジカルリーディングを受講しようと思った理由、きっかけを教えてください。
受講のきっかけはJVTA のYouTube 番組「JVTA+」のアーカイブ動画「1人でもできる翻訳の勉強法を考えてみる」です。実践コース終了後、なかなかトライアルに合格できずに悩んでいた時期にこの動画を見て、プレゼンターの先生方がおすすめするロジカルリーディング講座に興味を持ちました。調べてみるとちょうど開講の時期が近かったので、すぐに受講を決めました。思い切って決断してよかったです。
 
※JVTA のYouTube 番組「JVTA+」(2020年7月30日配信)
「1人でもできる翻訳の勉強法を考えてみる」

 
◆受講していた当時を振り返って特に印象に残っていることはありますか?
特に印象に残っているのは「話者の思考の流れ」についての講義です。講義の課題は政治家のインタビューの翻訳でした。その人の発言に2通りの解釈ができるものがあり、どちらで訳出すべきか悩んだのを覚えています。その時に山根講師に頂いたアドバイスが「基本的に『話者の意見は揺るがない』という意識を持つこと」でした。インタビューなどでは、話者がその場で考えながら話すため、内容に意図しない矛盾が生じてしまうこともあります。しかし思考の流れを意識すれば、表面的な言葉に振り回されず、話者のメッセージを的確に捉えることができるというお話でした。このアドバイスを心に刻み、解釈に迷ったときには「この人が伝えたいことは何だろう?」と考えるようにしています。
 

◆クラスの雰囲気はいかがでしたか?
全員が学ぶ意欲にあふれていて、とてもいい雰囲気でした。どんな些細な質問にも真摯に答えてくださる山根講師のおかげで、クラス全員が積極的に意見や疑問を口にすることができていたと感じます。受講生同士でも、講義の後に課題について話し合ったり、勉強についての情報交換をしたりなど、映像翻訳者を目指す仲間としていい関係を築くことができました。当時のクラスメートたちとは今でも連絡を取り合っています。
 

◆受講前と比べて何が変わりましたか?
根拠を持って訳す習慣がついたおかげで、自分の訳文に自信を持てるようになりました。山根講師のフィードバックは必ずと言ってもいいほど「どうしてこう訳したのですか?」という質問から始まります。初めのうちはどうしていいか分からず、訳文を先に考え、後付けの理由を述べていました。しかし何度も繰り返すうちに、理由を持って翻訳することができるようになり、それまでの「なんとなく」や「原文にこう書いてあるから」という状態から抜け出すことができました。すると自分の訳文に自信を持てることも増えていき、翻訳がますます楽しく感じるようになりました。
 
◆映像翻訳の仕事を始めてから、ロジカルリーディングの講座の内容が生かされていることがあれば、教えてください。
特に役立っているのは、段落のテーマや思考の流れを捉える術を学んだことです。原文や辞書、調べた情報だけを見るのではなく「今は何の話をしているのだろう?」「この人が伝えたいことは何だろう?」と俯瞰して考えることで、思いがけない訳文が浮かんでくることもあります。また言語化して説明するトレーニングを積んだことが、自分の訳文を客観的に判断する手助けになっています。例えば、解釈や翻訳に悩んだ時は、山根講師に「どうしてこう訳したのですか?」と尋ねられたつもりになって自分自身に説明します。言葉にして説明することで訳文に自信を持つことができて、どこをどのように直すべきなのかが見えてくることもあります。
 

◆「English Clock ロジカルリーディング力 強化コース」(全8回)
次期は2023年5月に開講です。(全面リモート受講)
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詳細・お申込みはこちら
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【ロジカルリーディング力 強化コース修了生インタビュー】
実践コース進級前に翻訳の悩みを克服できました

「映像翻訳の学習を続けてきたが、このまま実践コースに進み、プロデビューできる自信がない…」。そんな人にぜひおすすめしたいのが、ロジカルリーディング力 強化コースだ。映像翻訳者の川村久美さんは、総合コース・Ⅱを修了後、実践コースに進級する前に同コースを受講。実践コース修了後、トライアルに合格し、現在は映画やドラマの字幕を手がけている。実践コースへの進級前に英語の文法と読解力に不安を感じていたという川村さんがこのコースで何を学び、何が変わったのか。お話を聞いた。

 
◆ロジカルリーディングを受講しようと思った理由、きっかけを教えてください。
総合コース・Ⅱの受講中、情報の取捨選択がズレたり、英文の解釈を誤ったりして、うまく訳せずに悩んでいました。英語の文法と読解力に不安もあったので、「まずは半年自分で勉強をしてから実践に進もう」と考えていた時に、ロジカルリーディングのコースがあることを知りました。そして体験レッスンを受けた際に、「自分に足りていないものが学べるコースだ」「翻訳の悩みの突破口になるかも知れない」と感じ、受講を決めました。

 
◆受講していた当時を振り返って特に印象に残っていることはありますか?
山根先生が丁寧にご指導下さったことです!
講義内容はもちろんのこと、受講生からの様々な質問に対しても、いつも丁寧に教えて下さいました。そして私が毎回楽しみにしていたものが、提出した原稿へのフィードバックです。山根先生が一人ひとりの原稿をじっくりと見て、毎回たくさんのコメントを下さるので、自分の足りていないところや、注意すべき点など、たくさんの気付きを頂きました。

 
◆クラスの雰囲気はいかがでしたか?
先生が和やかに授業を進めて下さることもあり、和気あいあいとした雰囲気で、質問もしやすい環境でした。またいろいろなバックグラウンドを持った方ばかりだったので、授業前後の会話もかなり盛り上がりました。修了して1年が経ちますが、今でも当時のクラスのみんなと連絡を取り合っています。

 
◆受講前と比べて何が変わりましたか?
授業で教えていただいたことを意識して、実践コースの課題に取り組めるようになったことです。特に「段落のテーマ」を明確にして考えることを毎回の課題で繰り返していたことで、少しずつ「作品の構成」「制作者の意図」に気付けるようになり、「段落同士のつながり」や「文と文のつながり」をどう訳すべきか、わかる所が増えたように思いました。

 
◆映像翻訳の仕事を始めてから、ロジカルリーディングの講座の内容が生かされていることがあれば、教えてください。
現在は映画やドラマのお仕事を頂いているのですが、今も「段落のテーマ」を明確にすることを心掛けています。ロジカルリーディング受講前は「木を見て森を見ず」で、全体像を見ているつもりでも、結果的には目の前の原文の形ばかりを見てしまい「段落同士のつながり」や「文と文のつながり」を理解出来ていなかったように思います。ロジカルリーディングで教えて頂いたことは、どのジャンルにも通用する内容ばかりでしたので、今も時々ロジカルリーディングの講義資料を見返しています。

 
◆「English Clock ロジカルリーディング力 強化コース」(全8回)
次期は2023年5月に開講です。(全面リモート受講)
まずは無料体験レッスン(リモート開催)にご参加ください!
詳細・お申込みはこちら
https://www.jvta.net/tyo/english-clock-orientation/

修了生の滝本安里さんが女性や子供に人気の科学絵本を翻訳

映像翻訳者というと、一般的に多くが文系出身で“理系は苦手”という人も多いのではないだろうか。だからこそ、理系の知識や経験のある人は大きな強みとなる。
 
英日映像翻訳科の修了生、滝本安里さんもその一人。大学で生物学を専攻後、企業で研究開発に従事していたという。その知識と経験を活かして、出版社、化学同人から発売された「バクテリアブック 細菌、ウイルスと、ふしぎな仲間たち」と「おなかの花園 きみのおなかにひそむ不思議な世界 マイクロバイオームをめぐる冒険」の翻訳を手がけた。コロナ禍になった2020年に発売されたこの2冊は、大人からも関心を集めているという。この絵本の翻訳秘話と映像翻訳との共通点や違いについて伺った。
 
この2冊のテーマはバクテリアや腸内フローラなどで、専門用語が頻出する内容となっている。化学同人の加藤貴広氏は、「絵本とはいえ、バイオサイエンスの知識のある人に翻訳を任せたい内容であり、大学で生物学を学んでいた滝本さんなら、専門的にも適任ではないかと依頼しました。」と話す。まずはこの絵本がどんな内容なのか、滝本さんに分かりやすく解説していただいた。
 
◆『バクテリアブック 細菌、ウイルスと、ふしぎな仲間たち』

「楽しいイラストや写真から微生物について、やさしく学べる本です。ゆかいなサイエンスショーや本を通じて科学のふしぎを解説する作者のスティーブ・モールド氏は、オックスフォード大学で物理学を学んだ専門家です。なので、この絵本も、実は、理系学部の教養課程で学ぶほどの専門性を備えています。でも、周囲に反応をうかがうと、小学生にウケているそう。アリがゾンビになったり、生き物が闇に光ったりする写真が楽しいみたいですね」(滝本さん)
 
◆『おなかの花園 きみのおなかにひそむ不思議な世界 マイクロバイオームをめぐる冒険』


「こちらは微生物のなかでも、腸内細菌に着目しています。絵本作家のケイティ・ブロスナン氏がちみつな取材を経て描いた作品なので、どんな人にも『どうして腸内細菌が大切なのか?』がわかる工夫がたくさんあります。菌類のキャラクターが、口からおしりまでの体内の旅を案内してるんですよ。デザイン会社さんの計らいでステキな装丁に仕上がり、インテリアにもなると女性から好評です。余談ですが、校正作業中にスタッフの間で乳酸菌飲料が流行りました」(滝本さん)
 
滝本さんの解説を聞くと難しい専門分野でありながら、旬のテーマを子どもにも分かりやすく解説した内容が人気の秘密なのだと分かる。ちなみに滝本さんは、絵本の内容が彼女の専門分野に近かったので、まず自分の常識を疑うことに心を砕いたという。知識があるだけに知らず知らず、専門的な言い回しを使ってしまうことがあるからだ。そこで裏取りをして作者がどういうスタンスでその事柄を語っているのかを調べたうえで2段階にわけて調査した。
 
「ひとつ目は、絵本の内容が日本では一般的にどう扱われているのかに焦点をあてました。該当する分野のやさしめの新書や一般書、乳酸菌飲料のメーカーのホームページなどを読んで、世間が一般的に何を知っていて、どんなイメージを抱いているのかをつかもうとしました。
 
ふたつ目は、子どもが楽しく読めることを目標にしました。司書さんから『子どもは読んだときのリズムで内容をとらえる』というアドバイスをいただいたので、翻訳した文を実際に声に出して読みながら整えていきました。その前に、下調べとしてジャンルを問わずにいろいろな絵本を音読しました。」(滝本さん)
 

※『バクテリアブック 細菌、ウイルスと、ふしぎな仲間たち』より
 
滝本さんによると、スペースの限られる絵本では、長い説明は入らない。しかし、内容を咀嚼しすぎると、“バカにされた”と子どもの心が離れてしまうのだという。そこで最初にひっかかりそうな部分を数ページ訳して、編集担当の加藤氏と言葉づかいや文字の分量、認識のズレなどを調整しながら読者の気持ちに寄り添う翻訳を意識したという。
 
こうした翻訳作業が功を奏し、『おなかの花園』が『小学図書館ニュース』(少年写真新聞社)の付録で「これこれ、これは役に立つ!」というコーナーに掲載されたほか、『バクテリアブック』が雑誌『プレジデントファミリー』(プレジデント社)で、「新型コロナについて詳しくなれる4冊」として紹介されるなど教育関係からも注目を集めている。子どもが楽しく科学を学べるよう、小学校の図書室や図書館の児童室などにぜひ置いてほしい1冊だ。
 
「『バクテリアブック』に登場するキャラクターは、家の子どもたちも気に入っています。総ルビなので、幼稚園児の下の子も理解できるようです。」(加藤氏)
 

※『おなかの花園 きみのおなかにひそむ不思議な世界 マイクロバイオームをめぐる冒険』より
 
滝本さんは、映像翻訳者として中国ドラマや映画祭上映の子ども向け作品の吹き替えのほか、自動車をカスタムしたり、アンティーク家具などを修理したりする過程を描いたドキュメンタリー番組のボイスオーバーなどを担当してきた。メカニックにアレルギーがなく、エンジンの仕組み(構造やはたらきの原理)が分かっているのがメリットと言えるだろう。映像の翻訳と書籍や絵本の翻訳の共通点や違いを聞いてみた。
 
「ドキュメンタリー番組もノンフィクションの書籍・絵本も、視聴者や読者にすんなり入る説明が求められるように思います。それから、映像と絵本には尺・字数・スペースという制限があるので、簡潔な表現を目指すところも共通しているのではないでしょうか。
 
違いは…。映像では吹き替え翻訳が多いのですが、そのときには声優さんなどが読みやすいよう台本の使い勝手に配慮します。出版では、すばらしい声優さんの演技がないので、文字を目で追ったときに退屈しないように心がけています。」(滝本さん)
 
滝本さんは昨今、読んでリズムのある文章を目指したいと思い、JVTAのバリアフリー講座で音声ガイドの制作を学んだ。音声ガイドとは見えない、見えづらい人が映像を楽しめるよう、映像の時と場所、人物の動きや表情などを言葉で解説するツール。耳だけで聞いて映像を理解できる言葉作りは吹き替え翻訳や絵本の翻訳にも親和性が高く、新たなスキルの習得となった。これからは、サイエンスものはもちろん、ヤングアダルルトやミステリーなど幅広い分野を手がけてみたいという滝本さん。今後のさらなる活躍に期待したい。
 
◆バクテリアブック
細菌、ウイルスと、ふしぎな仲間たち
https://www.kagakudojin.co.jp/book/b531848.html
 
◆おなかの花園
きみのおなかにひそむ不思議な世界 マイクロバイオームをめぐる冒険
https://www.kagakudojin.co.jp/book/b548028.html

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※詳細・お申し込みはこちら

【修了生の細谷由依子さんが英語字幕】『うつろいの時をまとう』が第41回モントリオール国際芸術映画祭に出品!

JVTA修了生の細谷由依子さんは、英日と日英の映像翻訳コースを修了後、バリアフリー字幕の講座も受講。現在は、映画の字幕や書籍の翻訳など幅広く活躍している。2023年3月、細谷さんが英語字幕を手がけたドキュメンタリー映画『うつろいの時をまとう』(英題 Mantles of Transience 三宅流監督)が第41回モントリオール国際芸術映画祭でワールドプレミア上映、その後日本で劇場公開される。劇場公開時に視聴できるバリアフリー字幕も細谷さんが手がけた。細谷さんが翻訳者としてキャリアの幅を広げてきた経緯やバリアフリー字幕を学んだきっかけ、『うつろいの時をまとう』の字幕制作秘話などを伺った。
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

細谷さんは、美術を学んでいた大学生の頃のアルバイトがきっかけで、映画や音楽関連のインタビュー記事の通訳や翻訳をするようになった。その後、雑誌編集部で3年間勤務後に独立し、書籍翻訳(英日)に携わる。字幕翻訳を学び始めたきっかけは東日本大震災だったという。
 

細谷由依子さん「書籍翻訳に携わって10年余りのころ、東日本大震災があり、人はいつ死んでもおかしくないのだということを強く意識しました。そして、今まで時間がないからと諦めていたことをやろうと決心し、JVTAの英日映像翻訳のコースに通い始めました。元々日本の独立系ドキュメンタリー映画が好きで、世界中の人々に観てもらいたいと思っていたのですが、独立系の映画は予算が少ないことが多く、制作段階で英語字幕をつける余裕がないこともしばしばです。しかし英語の字幕がなければ、映画祭への応募もできません。そのジレンマを解消するお手伝いができるようになればと思い、英日コースを終えてすぐに、日英コースも受講しました。」
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

JVTAで英日・日英の映像翻訳のコースを修了した細谷さんはその後、ドイツの日本映画の祭典、ニッポン・コネクションなどの上映作品『売買ボーイズ』(板子監督、イアン・トーマス・アッシュ製作総指揮)や、2015年の劇場公開作品『躍る旅人―能楽師・津村禮次郎の肖像』(三宅流監督)など多くの英語字幕制作に携わってきた。また、「本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間」(著・ピーター・メンデルサンド)や「イラストでわかる映画の歴史 いちばんやさしい映画教室」(著・アダム・オールサッチ・ボードマン)など書籍の翻訳でもさらにキャリアを重ねていく。そんな時、三宅流監督の『がんになる前に知っておくこと』の制作に関わる。この作品は、若手俳優、鳴神綾香さんががん治療を専門としている腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医をはじめとした医療従事者や、がんサバイバーなど15人の方々と対話する様子を捉えたドキュメンタリーだ。
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

細谷さん「『がんになる前に知っておくこと』は医療系のドキュメンタリーで、日本のがん医療を、日本人に分かりやすく伝える目的で作られました。つまり、この映画には英語字幕よりもバリアフリー字幕が必要だと思い、プロデューサーと監督に提案をしました。当初はバリアフリー字幕の予算が確保されておらず、JVTAのバリアフリー字幕の講座を受講し自ら字幕を作りました(JVTAが監修でサポート)。」
 

※『がんになる前に知っておくこと』より (c)2018 uehara-shouten

細谷さんによると、『がんになる前に知っておくこと』は2018年に制作されたが、現在も自主上映の要望が多い作品で、聴覚障害者を対象にした上映会ではなくても、バリアフリー字幕付きを選ぶ主催者が多いという。
 

細谷さん「医学用語が多く出てくるので、字幕がついていることで、聴者もより理解が深まるというご感想を頂きます。バリアフリー字幕や音声ガイドは、障害の有無を問わず、より広範囲に映像作品をお楽しみいただくための可能性を広げてくれるツールだと改めて実感しています。バリアフリー字幕の制作には、とてもやりがいを感じていますが、バリアフリー版を作っても、劇場で公開されないこともあるので、字幕付きの回が当たり前に設けられるようになることを願っています。」
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

そして満を持して、三宅流監督の最新作『うつろいの時をまとう』では、英語字幕とバリアフリー字幕の両方を細谷さんが手がけた。この作品は伝統の美が最新モードになる、アート感覚のファッションドキュメンタリー。日本の美意識をコンセプトに、「かさね」「ふきよせ」「なごり」など日本古来の洗練された美意識を表す言葉をテーマにしたコレクションを発表し、独自のスタイルを発信し続けている服飾ブランドmatohu(まとふ)の創造活動を追っている。伝統の技や色、文様など日本ならではの表現が多いセリフを英語字幕にする難しさはどんな点だったのだろうか?
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

 細谷さん「matohuのデザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんが、コレクションのテーマにされていた日本の美意識について、映画の中で丁寧に説明してくださっていますので、お二人の言葉の意味やニュアンスをくみ取って、分かりやすく翻訳することに注力しました。その国の情緒に根差した言葉は、どの言語でも翻訳しづらいものですが、日本語のニュアンスを訳すことに固執してしまうと、英語で考える人たちにとって却って分かりづらくなることがあると思います。日本語が第一言語である私も、徹底した客観性をもって日本語を捉えられているかというと、そうではありませんので、毎回、英語が第一言語の翻訳パートナーと話し合いを重ねながら作業をしています。」
 

翻訳字幕には字数制限があり、一定の時間で読み切れるように、情報を取捨選択しなくてはならない。一方、バリアフリー字幕は、聴者もろう者も、同じタイミングで同じ情報を得ることができるよう、基本すべての発話を文字にする必要があり、制作には、翻訳字幕とはまた違う工夫が求められる。
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

細谷さん「バリアフリー字幕は、セリフやナレーションに加えて、話者名や音情報(“鳥のさえずり”、“拍手”、“車の走行音”など)の表示をするといった必要性もあり、必然的に文字数が多くなります。翻訳字幕のように情報の取捨選択ができない分、映像もしっかり見ながら読み切れる字幕にするということが特に難しいと感じます。
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

ドキュメンタリー映画は往々にして劇映画よりも会話が忙しく、文字量が多いなかで、matohuのお二人は比較的ゆっくりお話しになります。ただ、本作ではファッション用語や日本の美意識といった、耳慣れない言葉も多く出てきますので、話者名の表示が多くならないようにハコ切りを工夫したりすることで、できる限り、発話(セリフやナレーション)以外の文字量を抑える工夫をしました。」
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

最後に、三宅流監督からJVTAの受講生・修了生の皆さんにメッセージを頂いた。
 
三宅流監督「『日本の美意識』と聞くと何か難しそうな印象をもたれるかもしれませんが、普段何気なく見ているものの中にも美しさや豊かさを発見していくような作品です。この映画を観終わった後、劇場を出た帰りに道に見る風景が、いつもと違って見えるかもしれません。
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

せっかく苦労して作り上げた作品なので日本だけではなく、海外にも届けたいといつも思っています。日本語の持つニュアンスや空間性を翻訳するのはとても大変な作業で、意義深く重要なお仕事だと思います。皆さんがいなければ海外に作品を発信することが出来ません。今後とも日本の作品を海外にも届けるために、是非お力をお貸し頂ければと思います。」
 

※『うつろいの時をまとう』より ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

『うつろいの時をまとう』は2023年3月14日よりカナダで開催される第41回モントリオール国際芸術映画祭のオフィシャルセレクションに出品され、細谷さんの英語字幕付きでワールドプレミア上映となる。その後、3月25日からイメージフォーラムで劇場公開が決定。今後、世界の反響に期待が高まる。
 

 
『うつろいの時をまとう』
3月25日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
製作・配給:グループ現代
コピーライト表記:©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD
https://tokiwomatohu.com/
 

※第41回モントリオール国際芸術映画祭の公式サイトで英語字幕付きの予告編が観られます。
https://lefifa.com/en/catalog/mantles-of-transience
 

※クラウドファンディングを実施中
伝統の美が、最新モードになる。
アート感覚のファッションドキュメンタリー『うつろいの時をまとう』を全国の映画館に届けたい!
https://motion-gallery.net/projects/utsuroinotokiomatou
 

【関連記事】
◆『躍る旅人―能楽師・津村禮次郎の肖像』の英語字幕を修了生が担当
https://www.jvta.net/?p=7776

 
◆『売買ボーイズ』が北米プレミア上映! 製作総指揮のイアン・トーマス・アッシュさんと英語字幕チェッカー、細谷由依子さんにインタビュー!
https://www.jvta.net/tyo/boys-for-sale/


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恵比寿映像祭2023 中国語のアート作品の字幕をJVTAが担当

恵比寿映像祭は、展示、上映、ライヴ・パフォーマンス、トーク・セッションなどを複合的に行なってきた映像とアートの国際フェスティバルだ。2009年のスタートから、恵比寿の地で、年に1度行われており、JVTAも毎年、展示される映像作品の字幕をいくつか手がけてきた。今年も上海出身のアーティスト、ルー・ヤン氏の映像作品『DOKU the self』の字幕を担当している。ヤン氏は、宗教や死生観、脳科学、神経科学などの問題が絡み合う世界を、強烈なヴィジュアルを通して表現している注目の若手アーティストだ。2018年には東京のスパイラルガーデンで個展を開いたほか、2022年にイタリアのヴェネチア・ビエンナーレに出展するなど、世界的に注目されている。今回は、作品の背景にある思想・宗教のニュアンスを的確に出せるよう中国語から直接日本語に翻訳という作家の意向により、英日と中日の翻訳で活躍する翻訳者が作家と内容を確認しながら、字幕を作り上げた。
 

ルー・ヤン〈DOKU(ルー・ヤンのデジタル転生)〉2020年~[参考図版] 出品協力:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター   

恵比寿映像祭2023 ルー・ヤン氏の展示の詳細はこちら ◆https://www.yebizo.com/jp/program/636   

映像翻訳を必要とする作品は、英語だけではない。世界中のアーティストの作品が集まるこうした映像祭や映画祭ではさまざまな言語で作られた作品が日本に紹介される。JVTAでは、多言語の翻訳を手がけるグローバル・コミュニケーション・サポート(GCS)を設け、数多くの言語に対応している。多言語の作品も国際的なイベントの場合、一般的には英語字幕がついていることが多いが、英語に加え、オリジナルの言語を理解できる翻訳者による字幕は、より微妙なニュアンスが網羅されていると好評を得ている。   恵比寿映像祭2023では、「テクノロジー?」というテーマを通して、多種多様な映像表現の実践を検証し、アートと技術との対話の可能性を考察している。JVTAでは今後も多言語を駆使し、アーティストの意図や想いをストレートに伝える翻訳を目指していきたい。  

◆恵比寿映像祭2023「テクノロジー?」
  2023年2月3日(金)~2月19日(日)《15日間》月曜休館
  ※コミッション・プロジェクト展示(3F展示室)のみ3月26日(日)まで
  東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
  公式サイト:https://www.yebizo.com/jp/
 

【関連記事】
  ・【第14回恵比寿映像祭が開幕】アート作品に字幕をつけるということ https://www.jvta.net/tyo/2022ebisueizosai/
  ・【JVTAが字幕】イタリア映画の翻訳秘話 「短編映画6選~一年で昼が一番短い日に~」
  https://www.jvta.net/tyo/2022italy-short-film/
 

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UNHCR親善大使 MIYAVIさんのモルドバ訪問動画を字幕でサポート

UNHCR JapanのYouTubeチャンネルで、UNHCR親善大使 MIYAVIさんのモルドバ訪問の様子が公開されている。JVTAはこの動画の日本語字幕を担当、修了生の星加菜保子さんが手がけた。JVTAはこれまでもUNHCRの活動に翻訳で協力し、難民映画祭の上映作品や、UNHCRの活動や難民について学ぶ動画の字幕や吹き替えを担当してきた。星加さんも2022年の難民映画祭で特別上映された長編ドキュメンタリー『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』の字幕を手がけ、難民支援に関する知識を深めた。 

 

MIYAVIさんは、“サムライギタリスト”として世界から高い評価を受けているアーティスト。2022年のNHK紅白歌合戦に「THE LAST ROCKSTARS」のメンバーとして出場したほか、現在公開中の映画『ファミリア』に出演するなど多彩に活躍している。今回公開された動画では、2022年6月、「世界難民の日」の直前に、モルドバを訪れ、ウクライナから避難してきた人たちと交流する姿を追っている。 

◆翻訳前にMIYAVIさんの活動をリサーチ
オリジナルの音声は、すべてMIYAVIさんが自身の言葉として英語で話しているもの。日本語の字幕をつけるにあたっては、ファンの人が見てもMIYAVIさんの言葉として違和感のないトーンにすることが必須となる。字幕を手がけた星加さんは、翻訳の前にUNHCRが公開している動画を含め、MIYAVIさんが出演しているものを一通り調べ、字幕のトーンや口調を確認したという。 

「すでに報じられているニュースやインタビュー記事にも目を通しました。UNHCR親善大使としての活動や、これまでに語られた内容、ミュージシャンとして難民支援にかける思いなどを、映像や記事からくみとり、情報を蓄積していく感覚でした。ラジオなどでも、この訪問のことをお話されていて、『あのシーンはそういう場面の切り取りだったか!』と気づかされることもありました。」(星加さん) 

※MIYAVIさんのUNHCR親善大使の活動はこちら 

◆“It’s really painful to see.”の真意は?
今回の動画の字幕では、MIYAVIさんが日本語で実際に話しているような表現を心がけたと星加さんは話す。これまで公開されている映像から話し方などを把握し、MIYAVIさんだったらどう表現するだろうかと考えながら、自然な日本語になるよう意識したという。 

「実際にお話しされている場面では、難しい単語はあまり使わず、多くの方にとって理解しやすい英語で話されていますが、シンプルであるがゆえに訳出が難しい部分もありました。例えば冒頭のセリフで、ウクライナの状況を“It’s really painful to see.”と表現されていますが、当初は“see”という言葉にひきずられ、『見るのがつらい』『見るに堪えない』といった表現が思い浮かびました。ですが、今もつらく苦しい思いをしている人たちがいる状況で、MIYAVIさんが、このような表現をするだろうかと考えた時に、おのずと答えが出た気がします。最終的には、『明らかに不条理で心が痛みます』という字幕になりました」。(星加さん) 

◆短いシーンの連続を訳すうえで意識したポイントは…
約3分の動画には予告編のように、さまざまなシーンが断片的に収められている。それぞれの詳細が描かれているわけではないので、発言の意味を推し量るのが難しい場面もあったという。また、シーンの切り替えが多い場合、カット変わりに合わせてスポッティング(ハコぎり)をするため、使用できる文字数が、実際よりも少なくなるという難しさもある。 

「短いシーンの連続で構成されている映像は、ともすれば、まとまりのない印象を与えかねないので、いくつか意識したことがあります。まずは、映像と字幕がリンクするよう心がけ、流れとつながりを作るということ。次に、映像に込められたメッセージを、的確に伝えるための言葉選びをすること。最後に、それぞれの場面の背景を可能な限り調べ、また想像を巡らせることで、MIYAVIさんの思いに寄り添うことを大切にしました。」(星加さん) 

◆支援の第一歩は現実を知ること
2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、約1年。世界の難民の数は増え続け、紛争や迫害で故郷を追われた人たちは、日本の人口にほぼ近い、1億人を超えている。先行きの見えない今も、現地では冬の厳しい寒さの中で電力を絶たれるなど厳しい状況に置かれている。 

「ウクライナから避難を強いられた人たちが、隣国モルドバにある難民キャンプで生活する姿、とりわけ子どもたちの笑顔に胸を打たれる方も多いと思います。不当な戦争によって多くの難民が生まれ、苦しい現実はなかなか変わらない。それでも、子どもたちがボールを追いかけ、はしゃぎ、歌う様子に、少しだけ救われ希望を感じるのは、私だけではないと思います。子どもの笑顔や音楽の力は偉大だと、強く感じます。難民支援の形はそれぞれですが、まずは世界で起きている現実を知ること、そこから始まるのではないでしょうか。今もつらい思いをしている人たちを直接抱きしめ、言葉をかけることはできなくても、映像を通して支援の輪が広がり、それがいつか彼らの元に届くことを願っています。」(星加さん) 

JVTAは2022年に、ウクライナ語字幕をつけた日本アニメを世界に向けて上映する「J-Anime Stream for Ukraine」を開催。ウクライナ人学生と日本人学生計23名が字幕制作やイベントの運営に参加した。この動画で現状を知り、それぞれができる形で支援を考えていきたい。 

【関連記事】
・故郷を追われた人を守り続けて70年 UNHCRの活動をJVTAはサポートしています
https://www.jvta.net/mtc/who-we-are-unhcr70/

・【字幕・吹き替えでサポート】UNHCRのアニメーション動画で難民問題を学ぶ
https://www.jvta.net/tyo/unhcr-animation-movie/

・【第17回難民映画祭 特別先行上映会に参加】 気候変動で荒廃した土地にグレート・グリーン・ウォールを!
https://www.jvta.net/tyo/2022unhcr-will2live-ggw/

・【第17回難民映画祭】今年はオンライン配信とリアルイベントのハイブリッドで開催
https://www.jvta.net/tyo/2022unhcr-will2live-2/

・【国連UNHCR協会 中村恵さんに聞く】 緒方貞子さんのバトンを引き継ぐ 今私たちにできる難民支援とは?
https://www.jvta.net/tyo/summer2022-unhcr-r/

・「J-Anime Stream for Ukraine」 公式サイト
http://stream.jvtacademy.com/ 

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【2022】JVTAの修了生が幅広い分野で活躍

2023年がスタート。今年こそ、新たなスキルを身につけてキャリアアップを目指したいという方も多いだろう。JVTAは職業訓練校として映像翻訳に関するスキルを多角的に学べる授業を提供し、多くの修了生がさまざまな分野で活躍している。2022年に英日翻訳、日英翻訳、バリアフリーなど多岐にわたるジャンルで関係者や翻訳者に取材した記事を一挙紹介。卯年の今年はさらなる飛躍の年を目指したい。

※掲載内容は昨年の掲載時のものです。タイトルをクリックで各記事をご覧ください。
 

★英日翻訳
海外の作品を日本に紹介するには、日本語の字幕や吹き替えが必須だ。劇場公開やテレビ放送以外にも動画配信サービスであらゆるコンテンツを楽しめる今、映像翻訳者の活躍の場は無限に拡がっている。JVTAで学んだスキルを活かして劇場公開映画の字幕、UNHCR のアニメーション動画の字幕や吹き替え、U-NEXTの人気番組、書籍の翻訳・執筆などを手がけた修了生たちの声を紹介する。
 

※英日映像翻訳科の詳細はこちら
 

HP_youjifujita
◆『ハリー・ポッター20 周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』 待望の話題作を手がけた「選ばれし者」たち
 

UNHCR-anime
◆【字幕・吹き替えでサポート】UNHCRのアニメーション動画で難民問題を学ぶ
 

net_komatsubara_20220408A.jpg
◆【修了生・小松原宏子さんインタビュー】「児童書の創作にも映像翻訳の学びが役立っています」
 

net_GF20220527
◆【JVTAが字幕を手がけた衝撃作が劇場公開】あなたの買った魚は奴隷が獲ったものかもしれない。

984_katagiri02
【JVTAが字幕】片桐裕司監督作品第2弾『END OF LOYALTY(原題)』がコミコンでワールドプレミア
 

kobayashim220513A
◆修了生の小林美麗さんが企画、翻訳した洋書の日本語版が発売!
 

LosBando/
◆【修了生が配給と字幕】青春音楽映画『ロスバンド』が2月11日劇場公開!
 

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◆2022年映画祭サポート関連の記事はこちら
 

★日英翻訳
2022年は濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が世界で注目を集め、米アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞という快挙となった。日本の映画が世界で上映されるときに必須なのが、英語字幕。JVTAは本編の英語字幕制作に加え、映画祭出品に関するサポートも行っている。2022年は佐々木友輔監督の『映画愛の現在』がリスボン国際ドキュメンタリー映画祭で上映、コービーシマダ(島田公一)監督の『Dr.Bala』がロサンゼルスインディペンデント映画祭ほか多くの国際映画祭で上映された。
 

※日英映像翻訳科の詳細はこちら
 

979_eigaai
◆『映画愛の現在』佐々木友輔監督インタビュー リスボンでも共感を得た映画への想い
 

971_katsuyaku
◆JVTA講師がホラー映画の英語字幕を制作! 「コックリさん」の英訳はどこから生まれたか?
 

970_katsuyaku
◆JVTA修了生の河野知美さんが主演&プロデュース! Jホラーブームの立役者、高橋洋監督の『ザ・ミソジニー』が公開!
 

964_bokuichi
◆【監督×俳優×映像翻訳者】『僕の一番好きだった人』の英語字幕はこうして生まれた
 

960_K-Shimada2
◆【監督インタビュー】ドキュメンタリー映画『Dr.Bala』が国際映画祭で注目を集めるまで 「『作品を理解して訳をつけることの重要性』を感じた」
 

net_dr.bala220624
◆【JVTA講師が字幕を担当!】多数の国際映画祭でノミネート!ドキュメンタリー映画『Dr.Bala』英語字幕制作の裏側
 

NC2022JVTA0527
◆【JVTA修了生が英語字幕を担当!】濱口竜介監督の『偶然と想像』と工藤梨穂監督の『裸足で鳴らしてみせろ』が、第22回ニッポン・コネクションで上映!
 

SI-DMC_namajima
◆『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)が海外で愛される理由 ロサンゼルス在住映画ジャーナリスト中島由紀子さんが解説
 

★バリアフリー
JVTAは、2011年からNPO メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)と共同で、“聞こえない、聞こえにくい”人のためのバリアフリー字幕、“見えない、見えにくい”人のためのバリアフリー音声ガイドを学ぶための講座を開講。修了生がさまざまな現場で活躍している。2022年は、修了生が「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」のバリアフリー企画やサンドウィッチマンライブツアーのDVDのバリアフリー字幕、舞台と手話と音声ガイドの融合などを手がけるなど、新たな可能性が見えた年となった。
 

※MASC×JVTA バリアフリー講座の詳細はこちら
 

sandwichman20220603
◆【JVTAがバリアフリー字幕を制作】『サンドウィッチマンライブツアー2020-21DVD』が発売!
 

SSFF2022_SS0603
◆【SSFF&ASIA2022の新たな試み】『サムライソードフィッシュ』の多言語字幕とバリアフリー字幕、音声ガイドをJVTAが制作
 

976_www
◆『こころの通訳者たち What a Wonderful World』が劇場公開 3人の舞台手話通訳者たちの動きを音声ガイドで伝える挑戦とは?
 

963_BF
◆【宮沢賢治×語り×手話×音声ガイド】修了生・彩木香里さんの挑戦がアーカイブで配信
 

【関連記事】
【2022】多種多様なJVTAの取り組みはこちら
 

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【JVTAが字幕】イタリア映画の翻訳秘話 「短編映画6選~一年で昼が一番短い日に~」

12月23日(金)、イタリア文化会館ホールで上映会「短編映画6選~一年で昼が一番短い日に~」が開催される。全6作品のうち、『ミストラル』(Maestrale)はイタリア映画の最高の名誉とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞短編映画賞受賞作品。その他の日本初公開となる5作品の字幕をJVTAの修了生、平岡洋子さん、小倉麻里矢さん、御囲ちあきさんが手がけた。担当の先崎進ディレクターによるとイタリア語を専門的に勉強してきた3名に依頼したという。『村一番の未亡人』『ナイト・ドロップス』『ガスマンになりたかった男』の3作品の字幕を担当したのは、イタリアのフィレンツェ在住の平岡洋子さん。通常は英語字幕からの翻訳がメインだが、今回はイタリア語から直で字幕を作成した。平岡さんにイタリアの作品の翻訳へのこだわりを聞いた。
 

ミストラル
※『ミストラル』
 

平岡さんが今回苦労したのは、同じイタリア語でも地域によって違う、“なまり”の解釈だったという。日本語で標準語や大阪弁、青森弁や沖縄方言など地域によって言い回しや使う単語が違うように、イタリア語も地域によって違いがあると話す。
 

「イタリアがほぼ今のような状態に統一されたのは1861年で、それまではあらゆる国や文化の影響を受けてきた長い長い歴史が地域ごとにあり、各地に方言が存在します。例えばナポリが舞台となっている映画『ゴモラ』では、リアルなナポリ弁(ナポリ語?)が台詞に使われているため、イタリアのテレビで放送される際はイタリア語(標準語)の字幕がつくほどです。今回担当した『村一番の未亡人』はナポリなまり、『ガスマンになりたかった男』はローマなまりの台詞だったため、スクリプトにない台詞や一部アドリブが入っている台詞などは特に、聞き取るのも内容を理解するのも苦労しました。」(平岡さん)
 

村一番の未亡人
※『村一番の未亡人』(字幕・平岡洋子さん)
 

また、一般的なイタリア人の特徴として、誰かが話している最中でも話したいことがあれば遠慮せずにかぶせて話し始めることが多いそう。これも字数制限のある字幕翻訳には難しいポイントとなる。
 

「2人どころかその場にいる全員が一斉に話しているというシーンは、日常生活でも映像作品でも珍しくありません。どの台詞を優先して訳出するかを決めなければならないというシーンが英語の作品よりも多いように思います」(平岡さん)
 

ガスマンになりたかった男
※『ガスマンになりたかった男』(字幕・平岡洋子さん)
 

イタリア人の食に関するこだわりや地元愛も意識して言葉を選んだと平岡さん。具体的なポイントを聞いてみた。
 

「『ガスマンになりたかった男』では原語で「bistecca」(ビステッカ)と出てくるのですが、映像を確認すると「ビステッカ」と訳出するには薄すぎる肉なので、「ステーキ」と訳出しました。日本語で「ビステッカ」と検索すると、フィレンツェ発祥のビーフステーキ、と紹介しているサイトもあるのですが、その正式名称は「bistecca alla fiorentina」(フィレンツェ風ビーフステーキ)です。日本ではビステッカと聞くとあの分厚くて、骨付きで外側はこんがり、中はレアだけど冷たくない、というフィレンツェ風ビステッカを思い浮かべてしまう人もいると思い、混乱を避けるために「ステーキ」と訳しました。フィレンツェ以外の地域の人が薄いステーキを「bistecca」とテレビなどで話していると、「あれはbistecchina(小さなステーキ)だ!」とフィレンツェの人は茶化します。もしも「ビステッカ」と訳出していたら、フィレンツェの方々に激怒されていたでしょう。こうしたイタリア人の食へのこだわりの強さ、地元愛の強さなどを理解した上で、訳出することが大切だと思います。」(平岡さん)
 

マミ・ワタ
※『マミ・ワタ』(字幕・小倉麻里矢さん)
 

字幕には現地で暮らす平岡さんならではのさまざまな視点も活かされている。平岡さんが今回手がけた3作品はそれぞれ違うテイストだが、翻訳時に意識したことは何だったのだろうか? さらに見どころを聞いた。
 

「『村一番の未亡人』は、微妙な人間関係や心の変化が視聴者にも伝わるよう、呼び方や口調に工夫を凝らしました。また、「肉団子」に「ポルペッテ」とルビを振ったり、「洗濯とアイロン済みの服」という台詞をきちんと訳したりすることで、イタリアらしさが出るように意識しました。
 

Night Drops Locandina
※『ナイト・ドロップス』(字幕・平岡洋子さん)
 

『ナイト・ドロップス』はモノローグのみという珍しい作品でした。作品全体に漂う静けさや、暗くて重い雰囲気に対して、プールがいかに癒しの場になっているかを表現することを心がけました。
 

『ガスマンになりたかった男』は、全体的にコミカルで軽快な雰囲気の作品でした。テンポのよさと、間を入れてもったいぶる場面とのコントラストを大事にしつつ、垣間見える主人公の俳優業への熱意や苦悩が伝わるよう、意識して字幕を作りました。イタリア人が見た時に笑えるシーンで、日本人もクスッと笑えるよう工夫を凝らしたので、お楽しみいただけると嬉しいです!」(平岡さん)
 

かよわきもの
※『かよわきもの』(字幕・御囲ちあきさん)
 

イタリア映画の魅力をいくつも堪能できる珠玉の短編映画に出会える機会、ぜひ会場に足を運んでほしい。
 

「短編映画6選~一年で昼が一番短い日に~」
12月23日(金)18:30
イタリア文化会館ホール
入場無料(要事前申し込み)
詳細・事前申し込みはこちら
 

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