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明けの明星が輝く空に 第111回:特撮俳優列伝18 ザ・ピーナッツ

明けの明星が輝く空に 第111回:特撮俳優列伝18 ザ・ピーナッツ
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【最近の私】JVTA主催の「スポオタの生き方、徹底検証!」では、”ブログ仲間”の土橋さんや扇原さんも駆けつけてくれた中、”特撮オタ”以外の一面を披露させていただきました。3月に島根を旅した際も、ロードバイクを借りて松江から出雲大社まで移動。強い向かい風も「”地脚”作りになる」と歓迎しながら、往復90km。翌日は雨に降られつつ、美保関往復70km・・・。我ながら、よくやりますねぇ。

 
作詞家のなかにし礼氏をして、「これ以上の完成品はない」と言わしめた、双子のデュエット、ザ・ピーナッツ(伊藤エミ・伊藤ユミ)。彼女たちの代表曲と言えば、『恋のバカンス』(1963年)や『恋のフーガ』(1967年)が挙げられるが、『モスラの歌』も忘れてはならない。映画『モスラ』(1961年)を観たことがなくても、その歌を聴いたことがあるという人は多いだろう。「モスラーヤ、モスラー」で始まる、あの歌だ。

 
『モスラ』でザ・ピーナッツが演じたのは、南海の孤島に住む、身長30cmほどの“小美人”。テレパシーを使い、島の守り神=モスラと交信できる妖精のような存在だ。彼女たちは、ネルソンという悪徳興行師のような男に捕まり、東京で見世物にされてしまう。モンスター映画の古典『キング・コング』(1933年)では、やはり南海の孤島から連れてこられたコングが、縛り付けられた姿でステージに登場したが、小美人にはなぜか歌謡ショーが用意されていた。この流れには、かなり無理がある。なぜなら、ネルソンが島で彼女たちの歌を聞いていたという前フリが、全くないからだ。JVTAの新楽直樹代表が、『映画よ、唄え♪こんなシーンでいきなり熱唱』(https://www.jvta.net/tyo/jvta-new-year-party-2019/)のランキング1位に選んだのも、まったくもってうなずける話なのである。

 
ただし『モスラ』のすごい点は、映画を観ている者に違和感を抱かせないことだ。そこには、演出の巧みさが隠れている。ステージに立ったネルソンが指し示す先を観客たちが見上げると、スポットライトの中に、金色の小さなゴンドラが浮かび上がる。それが空中を滑るように降りてくると、中からきらびやかな衣装に身を包んだ小美人が現れた。そして、打楽器が律動を刻むエキゾチックなメロディーが流れ出す。まるでミュージカル映画の一場面のようで、小美人が唄い出すのも自然と受け入れられてしまうのだ。

 
しかし、なんと言ってもこのシーンの白眉は、ザ・ピーナッツの歌唱力だろう。まず印象的なのが、その個性的な歌声。いわゆるソフトボイスとは対照的で、輪郭のくっきりした力強い声が、ストレートに胸に響く。さらに、二人の美しいハーモニーが聴く者を魅了し、その心を捕らえて放さない。

 
ザ・ピーナッツのハーモニーについては、専門家たちもこぞって絶賛している。音楽家・宮川彬良氏は「いまの言い方を借りれば“神デュエット”」と評し、『日本レコード大賞』を手がけた演出家・砂田実氏も「楽譜にないハーモニー」と、独特な表現で称える。砂田氏の言葉は、「常識では考えられないような共鳴のしかた」とでも解釈すれば良いのだろうか。作曲家・すぎやまこういち氏によれば、「(双子の二人は)声質が似ており、ハモりすぎて音がひずむこともあった」そうだ。とにかく、二人のハーモニーは実にパワフル。歌謡ショーのあと、籠の中に閉じ込められた二人が、メロディーに乗せてモスラの名を呼ぶ場面など、鼓膜をビビビと揺らすような感覚を覚える。

 
頭の中で共鳴する小美人のハーモニーは、まるで催眠効果でもあるかのようだ。その力強さに圧倒された脳が、一瞬思考を停止してしまう。さらに、声質の似た双子だけに、声をそろえて台詞をしゃべると、エコーがかかって聞こえるし、変化に乏しく、どこか人形のような印象の表情からは、二人の内面が窺い知れない。もともと双子には、不思議な力を持っているというイメージがある。彼女たちはこの世ならざる者の空気をまとい、そこに“神秘性”が生まれている。

 
この神秘性は、ザ・ピーナッツが演じる小美人の大きな魅力の一つだ。実は、モスラが登場する映画は10タイトルを超えるのだが、そのうち彼女たちの出演作は最初の3本。つまり、ザ・ピーナッツ以外の小美人も数組いるのだが、存在感には大きな差がある。歌唱力はもちろん、神秘性という要素も無視できないだろう。ちなみに、二代目の小美人は、ペア・バンビという双子の歌手が演じたが、神秘性には乏しかった。そして、三代目以降のペアはすべて双子ではなく、歌手は一人のみ。雰囲気もまったく普通の女の子といった印象で、“この世の者”だった。

 
ことしの5月に公開される、レジェンダリー・ピクチャーズの新作『Godzilla: King of the Monsters』には、モスラも登場するようである。オフィシャル・トレイラーを見る限り、小美人が登場する雰囲気はまったくない。仮に出てきたとしても、オリジナルの魅力に匹敵する小美人にはならないに違いない。モスラと言えば小美人、小美人と言えばザ・ピーナッツ。それは、今後も変わらないだろう。

 
★冒頭で記述の田近さんの登壇イベントのレポートはこちら。
特撮だけでなく、実はスポーツ愛にも溢れる田近さんのトークは必見です!
https://www.jvta.net/tyo/lab2019-sports_0405/


 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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