News
NEWS
明けの明星が輝く空にinCO

明けの明星が輝く空に 第128回:特撮俳優列伝25 石坂浩二

明けの明星が輝く空に 第128回:特撮俳優列伝25 石坂浩二
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

名優と呼ばれる石坂浩二さんも、ウルトラシリーズのレギュラー出演者だった。もっとも映像の中に姿を見せることはなく、出演は声だけ。『ウルトラQ』でほぼ全話にわたって、ナレーションを担当していたのである。

 
石坂さんの語りは、いわゆる「声を張る」のではなく、穏やかで淡々としている。「陽」と「陰」で言えば後者ではあるが、決して陰鬱ということもなく、どこか知性を感じさせる。驚くのは、石坂さんが当時まだ大学生だったこと。20代前半とは思えない、非常に落ち着きのある語り口だ。

 
そんな石坂さんのナレーションは、どちらかと言えばダークな作風の『ウルトラQ』に、見事はまった。前回の記事(https://www.jvta.net/co/akenomyojo127/)で紹介した第11話「バルンガ」のエンディングナレーションが、「バルンガが太陽になる」といった、ともすれば荒唐無稽と取られかねない内容でありながら、奇妙なほどの説得力を持ち、不安がじわじわと広がるような効果を発揮したのも、石坂さんの語りだったからに違いない。また、感情を抑えた口調がかえって緊張感を生み、それと同時にショッキングな内容を際立たせることにもなった。

 
第27話「206便消滅す」のエンディングナレーションも、また印象的だ。「みなさん、超音速ジェット旅客機で東京の上空を通過するときは、この不思議な空間にぶつからないとも限らないのです。そのときは、くれぐれも座席のベルトをお忘れなく」という言葉に、観ている方は突き放されたような印象を受ける。というのも、飛行機ごと異次元空間へ迷い込んでしまうという事件なので、座席のベルト云々というレベルの話ではないからだ。「くれぐれも~」という言い方は他人事のようであり、言ってみれば視聴者に寄り添うふりでしかない。これがまた石坂さんの優しいトーンの声で語られるので、逆説的に辛辣な響きを持って胸に突き刺ささってくるのである。(似たような例は、第28話「あけてくれ!」にもある。)

 
これらとは逆に、石坂さんの穏やか口調がストレートに生きた例も紹介しておこう。それは第1話「ゴメスを倒せ!」のエンディングナレーションで、「東海弾丸道路の北山トンネルを抜けると、小さな墓標が建っています。それはジロー君が建てた、勇敢なリトラの墓なのです」と物語を締めくくる。リトラとは、トンネル工事現場に現れた巨大怪獣ゴメスから人々を救ってくれた鳥型の怪獣で、自分より大きな敵に立ち向かい、刺し違える形で力尽きてしまう。このとき流れるナレーションを聞きながら僕の目に浮かぶのは、事件から数十年後の光景だ。辺りはすっかり整備され、事件を思い出させるものは残っていない。わずかにリトラの墓標だけが、その記憶をとどめている。その前に立ち、風に吹かれていると、リトラの鳴き声が聞こえたような気がした・・・。石坂さんの語りは、そんな想像をも誘っている。

 
石坂さんは、『ウルトラQ』のオープニングナレーションも担当したが、番組冒頭の“つかみ”として秀逸だった。「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」という、多くのエピソードで使われた定番の一節があるのだが、それが石坂さんによってソフトに語られると、暗示にかけられたように無理なく物語の世界に入っていける。僕らに現実を忘れるよう促す「あなたの目はあなたの体を離れ」という言葉は非現実的だが、不思議と違和感はない。石坂さんの口調が説得力を与えている。

 
当時、すでにドラマの出演経験があった石坂さんに『ウルトラQ』の話を持ちかけたのは、番組のヒロイン、江戸川由利子を演じた桜井浩子さんだ。もっとも、抜擢しようと考えたのは円谷一(はじめ)監督で、桜井さんは石坂さんと親交があったため、橋渡し役を頼まれただけだった。TBSのドラマで共演したあと、石坂さんが主催する学生劇団の稽古に参加したりしたそうで、演出と脚本を担当していた石坂さんは「目の澄んだ、いかにも演劇青年」風だったという。

 
桜井さんが橋渡し役を頼まれた理由は、実はもう一つある。それは、正規にマネージャーを通して仕事をオファーすると、ギャラが高くなってしまうためだ。普通の1時間ドラマの制作費が500万円ほどだった時代に、ウルトラシリーズは30分ながら1000万円近くかかっていたという。ナレーションには、あまり予算がかけられなかった。石坂さんはもともと特撮映画が好きだったそうなので、お金のことは二の次だったのだろうか。そのあたりは定かではないが、ファンとしては幸運なことだった。おかげで、数々の名ナレーションを堪能することができるのだから。

 
ちなみに石坂さんは、『ウルトラQ』に続いて『ウルトラマン』でもナレーションを担当している(第1~19話)。ただ、それは主に場面転換の際の状況説明で、『ウルトラQ』でのような深みや重みのある内容ではなかった。石坂さんのしなやかな語りの味わいを楽しむなら、やはり『ウルトラQ』だ。それだけは間違いない。

 
—————————————————————————————–
Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】自転車に乗っていて蜂に刺された。駆け込んだドラッグストアの店員さんが親切で、アナフィラキシーショックのこともあるから、様子を見るためしばらく休ませてくれた。さらに冷たいスポーツドリンクやお茶まで!感謝してもしきれない。
—————————————————————————————–

 
明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
バックナンバーはこちら

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page