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明けの明星が輝く空に 第144回:干支と特撮:トラ

明けの明星が輝く空に  第144回:干支と特撮:トラ
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トラとライオンはどちらが強いのか。よくある問いだが、それをそのまま作品世界に持ち込んだのが、特撮時代劇『快傑ライオン丸』(1972~73年)だ。主人公、獅子丸(ライオン丸)の好敵手として、虎錠之介(タイガージョー)が登場。ある意味、獅子丸以上の存在感を見せつけた。
 

錠之介の劇中での立ち位置は悪役だが、彼は悪事を働くタイプではない。その行動原理にあったのは、日本一の剣士になりたいという切実な思い。そのため暗黒大魔王ゴースンと手を結んだものの、卑怯な手を使うことは嫌った。
 

そういった点では、やはり『快傑ライオン丸』に登場したネズガンダ(https://www.jvta.net/co/akenomyojo120/)と共通するものがある。ただ、ネズガンダが1話のみの登場だったのに対し、錠之助は第27話から最終回の直前である第53話まで、番組後半のレギュラーとして活躍した。
 

錠之介にしても、当初は第30話までの登場予定だったらしい。ところがタイガージョーの人気が出たため、制作サイドが方針を転換させたという。その第30話「怪人マツバラバ 一本松の謎」は、タイガージョー続投の決定を受け、内容が修正されたと思われるのだが、時期から見て大きな変更はなかったと推察される。どちらにせよ、錠之助という登場人物を語る上で欠かせない1本だ。
 

ある老人が旅の道中、マツバラバに殺された。連れの孫娘、於葉(およう)は現場にいなかったため難を逃れたが、たまたま出会った錠之介を祖父の仇と思い込む。そして獅子丸と対峙していた錠之介を見つけ、矢を放つ。難なくそれをかわした錠之介は、「俺に手向かった女はお前が初めてだ。気に入った」と高笑いし、祖父の仇を取らせてやると告げる。彼には、犯人がゴースンの手下、つまり仲間であるマツバラバだと察しがついていた。そしてマツバラバの元へ行くと、「明日の朝一本松に来るか。獅子丸は必ず来る」と嘘をつくのだ。
 

翌日、錠之介と於葉の待つ一本松に現れたマツバラバは、錠之助の裏切りに怒り、配下の者たちに2人を襲わせる。錠之介が於葉をかばいながら応戦していると、於葉の身を案じた獅子丸も駆けつけた。それを見た錠之介は、於葉に「俺の助太刀は無用だろう」と言って去っていく。
 

実は錠之介には、自分の父親を殺めるという血塗られた過去があった。お前の剣は優しさと情けを知らない邪険だと言われ、憤慨して立ち会いを申し込み斬り殺してしまったのだ。しかし於葉に対しての言動からは、そんな一面があったようには到底見えない。どこか突き放したような態度を取りつつも、心の奥底には人間らしい情け深さがあることを示すエピソードだ。
 

まるで、昭和のマンガに出てくる硬派な登場人物、といったキャラクターの錠之介だが、彼を魅力的に見せていたのは、そういった内面的造形だけではない。まずは、登場時に流れる錠之介オリジナルのBGM。ギターを伴奏に口笛が奏でるメロディーは、一匹狼的な弧愁を感じさせ、情感に溢れている。そして、タイガージョーに変身した際のポーズと口上。右足を前に出して腰を落とし、左手で刀の柄を突き出すように構え、「タイガージョー、推参」と名乗る。これは獅子丸の「ライオン丸、見参」と対をなすもので、そこには2人のライバル関係が象徴的に示されていた。
 

もうひとつ忘れてはいけないのが、刀の鍔を眼帯として右目に装着していることだ。時代劇に登場する柳生十兵衛の影響か、そういった風貌の侍はいかにも強そうに見える。さらにタイガージョーに変身すると、それは頭部の右半分を覆う、革製とおぼしきヘッドギアに変わる。いくつもの鋲が打たれ、『マッドマックス』や『北斗の拳』に出てきても違和感がなさそうなデザインだ。タイガージョーは哺乳動物をモチーフとしているだけに、モコモコしたマスクはともすればかわいらしく見えてしまうが、このヘッドギアによってハードなテイストが加わった。
 

そもそも錠之介は初登場の際、眼帯などしていなかった。ライオン丸と初めて剣を交えた際に、右目を負傷し、それ以降装着するようになったのだ。ただし、隻眼となっても剣の腕は衰えず、一度はライオン丸に雪辱を果たしている。
 

そんな彼も、いつしか大魔王ゴースンと敵対するようになるのだが、最後は単身戦いを挑み、ゴースンの放った雷で左目を焼かれてしまう。さしものタイガージョーも両目が見えなければ為す術もない。最後はゴースン配下の怪人に銃で手足を狙い撃ちされ、ついに非業の死を遂げることになる。
 

実は、錠之介を演じた俳優、戸野広浩司さんも、番組撮影期間中に亡くなられている。ロケ先の宿所で、泥酔状態のまま風呂に入ろうとした際の事故だった。タイガージョーの人気が高まり、錠之介を主人公にした後継番組の話も出ていたというだけに、なんとも悲しい人生の幕引きだ。事故がなければ、おそらく錠之介の物語も変わっていただろう。しかし力及ばず散ったからこそ、より忘れ得ぬ存在になったことも否定できない。錠之介/タイガージョーを忘れないこと、それが戸野広さんに対して僕らができる、精一杯の手向けにもなるのではないかと思う。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】最近、作品分析の参考になればと、脚本やカメラワークについての入門書を読んでいます。これが、なかなか面白い。記事には生かせなかったとしても、映画鑑賞の幅が広がりそうです。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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