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明けの明星が輝く空に 第145回:ウルトラ名作探訪12「遊星から来た兄弟」

明けの明星が輝く空に  第145回:ウルトラ名作探訪12「遊星から来た兄弟」
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「遊星から来た兄弟」は、まずその謎めいていて思わせぶりなタイトルがいい。「遊星」とは単に「惑星」という意味にすぎないのだが、何かもっとミステリアスな雰囲気が漂う。本来の軌道から外れた星が広大な宇宙を彷徨う…、そんなイメージだ。
 

タイトルにある「兄弟」とは、地球人の兄弟を標榜しながら、実は侵略を企む異星人のこと。今回の侵略者は、ザラブ星からやって来た。嘘か誠か、「ザラブ」とは彼らの星の言葉で「兄弟」を意味するという。そうやって安心させておいて、巧妙な手口で地球人同士の信頼を失わせ、破滅へと追い込もうという狡猾な宇宙人だ。ただ、このザラブ星人、その立ち居振る舞いからはずる賢いという印象を受けない。これは、彼が知性的で下卑たところがなく、紳士的な態度だったからだろう。その一方、ある種の尊大さも持ち合わせており、それが人物(宇宙人?)像に深みを与えていた。
 

このキャラクターの醸成に大きく貢献したのが、『宇宙戦艦ヤマト』で真田志郎工作班長、『ドラゴンボール』でピッコロ大魔王の声を演じた声優の青野武氏だ。ザラブ星人はたいした戦闘力もなく、そういった意味では魅力に乏しいが、青野氏による台詞回しに注目して聞いていると、これがなかなか味わい深くて楽しめる。
 

例えば、最初に人類とコンタクトを取る場面で、自分は友好的な存在だと告げた際の口調。果たして信用していいのかどうか、どちらとも判断できない絶妙なトーンだ。また、地球人より優れているのかと聞かれ、落ち着いて「その通りだ」とだけ答える際の、不穏なものを感じさせる口ぶり。さらに、ウルトラマンの人間体であるハヤタを拘束するときの、「君は私のものだ、ウルトラマン!」と告げる台詞のキレの良さ。さすが、としか言いようがない。ちなみに青野氏は、自分で演じないと役がつかめないという理由で、ザラブ星人のスーツアクターも務めたそうだ。まさにプロフェッショナルである。
 

ザラブ星人が油断ならないのは、何度も予期せぬ現れ方をするという行動からもわかるが、これがスリリングな緊張感を生むと同時に、物語を展開させる原動力にもなっている。たとえば物語冒頭、夜の東京が有毒な霧に包まれたシーン。黒マントの怪人を科学特捜隊(科特隊)の隊員が取り押さえると、服の下はもぬけの殻。気がつくと、ザラブ星人が近くのビルの壁に張り付くようにして、こちらを見下ろしていた。攻撃をすると姿を消すが、隊員たちが科特隊本部に報告している最中、その通信に割り込んでくる。そして本部のモニター上に姿を現し、自分は友好的な宇宙人であると告げ、また姿を消してしまう。その直後、東京上空のパトロールに出ていたハヤタが、そこにあるはずのない土星探検ロケットが漂っているのを発見。応答がないとの報告を受けた本部内がざわついていると、突如スピーカーから「私が地球の近くまで誘導してきたのだ」と声が聞こえてくる。そして背後のドアが開き、ザラブ星人が悠然と入ってきた。
 

もっともドキッとさせられたのは、ハヤタが捕らえられてしまうシーンだ。ザラブ星人を追ってジェットビートル(科特隊専用機)を操縦していくと、いったん姿を消していた土星探査ロケットが見えてくる。ハヤタは宇宙遊泳で近づき、気づかれないよう窓からロケット内の様子をうかがう。中では、ザラブ星人が搭乗員たちを操っていた。ジェットビートルに戻り、それを発進させたハヤタだったが、すぐにエンジンが停止。不審に思った彼が操縦席横のレバーを操作しようと手を置いた瞬間、紫色をした奇怪な手がその上に被さってきた。ザラブ星人が、いつの間にか後ろに立っていた…。
 

最後にもうひとつ、「遊星から来た兄弟」について特筆すべき点を挙げておこう。それは、“にせウルトラマン”が登場したことだ。ウルトラマンを悪者に仕立てるため、ザラブ星人が変装した姿だったのだが、その外見はなかなかスタイリッシュ。目尻がつり上がって尖り、体表の赤い模様が黒い線で縁取られている。いかにも悪役仕様だが、全体的に細身なため中性的な雰囲気も漂い、どこかしら妖しげな魅力があった。
 

“にせウルトラマン”のアイデアを出したのは、映画界出身の野長瀬三摩地(のながせさまじ)監督だ。この作品では、南川竜名義で金城哲夫氏と共同脚本を執筆している。ヒーローそっくりの偽物はこれ以降、『仮面ライダー』などウルトラシリーズ以外の特撮作品でも登場することとなるが、「遊星から来た兄弟」が元祖である。
 

ただし残念なことに、この“にせウルトラマン”は見かけ倒しだった。もしも本物と特撮史に残るような名勝負を演じていたら、「遊星から来た兄弟」はシリーズでも一、二を争う人気エピソードになっていたんじゃないだろうか。なんとも残念なことだが、一番悔しがっているのはザラブ星人本人かもしれない。きっと「狡猾」などというレッテルを貼られずに済んでいただろうから。
 

「遊星から来た兄弟」(『ウルトラマン』第18話)
監督:野長瀬三摩地、脚本:南川竜/金城哲夫、特殊技術:高野宏一
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】スピードスケートの団体パシュートは、日本女子が金メダルに輝いた4年前と違い、「先頭交代」という戦術が姿を消しつつあるらしい。海外勢の生み出した新しい戦術に、日本がどう適応するか。興味は尽きない。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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