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明けの明星が輝く空に 第146回:ウルトラ名作探訪13「人間標本5・6」

明けの明星が輝く空に  第146回:ウルトラ名作探訪13「人間標本5・6」
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2016年5月19日、東京、スイス大使公邸。『ダダイズム100周年 都内開催フェスティバル』の記者会見が開かれ、『ウルトラマン』第28話「人間標本5・6」に登場した“三面怪人 ダダ”が招かれた。ダダイズムとは、既成の秩序などの否定や破壊を指向する芸術運動・思想であるが、ダダにも「既成概念では理解できない宇宙生物」という意味が込められていたという。
 

もっとも「人間標本5・6」の脚本を書いた山田正弘氏本人の弁によれば、『ただ破壊することに美と歓喜を見いだすおかしなやつで、「ダダ」と名付けた』(傍点筆者)ということだが、名前の由来に関する事実関係はさほど重要ではない。大事なのは、ダダがその芸術的要素を論じるに値するキャラクターだったということだ。
 

まず“三面怪人”と称されるように顔が3つあることについて、デザインを担当した成田亨氏は阿修羅から着想を得たとしている。最終的に映像に登場するダダは阿修羅像のように3つの顔がついているのではなく、顔が3形態に変化するものとなった。それらはどれも奇怪だが、グロテスクではない。そしてどことなく、アフリカの仮面のようなプリミティブ・アートを彷彿とさせる。また全身を覆う縞模様は、錯視の原理を利用したオプ・アートのようだと言われ、体の線に合わせて流れる幾筋もの線は、胸や膝、臀部といった数カ所で四角形などの図形を構成。目の錯覚で盛り上がっているように見える効果を狙ったものだろう。
 

ただし、その芸術性を感じさせるデザインと、「人間標本5・6」のストーリーは無関係だ。ダダが地球に来た目的は人間の標本を収集することで、タイトルは標本の5、6体目を意味している。舞台は奥多摩の山中にある宇宙線研究所。近くの峠道で頻発するバス転落事故を調査しに来た科学特捜隊のムラマツキャップが、この怪異な事件に巻き込まれる。5体目の標本として狙われた女性技官を救い、迫り来るダダから逃がれ、研究所内をさまよう。ダダは壁を通り抜けたり、姿を消してほかの場所に現れたりして、どこに逃げても気が抜けない。くぐもったうなり声も不気味で、ゾンビのようにゆっくりと迫って来る姿は、小さい子供なら震え上がるだろう。このホラー調サスペンス劇といった雰囲気の展開が、「人間標本5・6」の見どころのひとつだ。
 

ここで注目したいのは、ダダが素手のムラマツ相手に手こずることだ。体当たりで倒されたり蹴り倒されたりして、なんとも弱い。漫画家のやくみつる氏は、ウルトラマンのスーツアクターだった古谷敏さんとの対談において、ダダを「最弱」と評している。ただ、この弱さには演出上意味がありそうだ。もしダダが強ければ、ムラマツたちはあっさり捕まっただろう。しかし、そうすると研究所内で逃げ回るスリルは描けない。逆説的に、ダダは弱いからこそ怖かったのだ。
 

ダダの弱さは、ウルトラマンの強さを際立たせる上でも重要だ。ウルトラマンはダダとの格闘において、一方的に多様な技を披露している。いきなり突進し、スライディングしながらの足払い。一度組み合ってから離れると、すぐさま頭突き。そして間髪入れずに左右のボディブロー。背後から組み付かれれば、一本背負いで叩きつける。さらに、ジャンプしてのヘッドシザース(足で相手の首を挟み倒す技)まで繰り出した。
 

再びやく氏の言葉を借りれば、このときのウルトラマンは「超キレッキレ」で、古谷さん自身「体調がよかったんでしょうね」と語っているほど体が動いたようだ。驚いたのは、振り向きざまに背後に立つダダに横蹴りを食らわす場面。右足を軸に時計回りに回るのだが、よく見ると一連の動きの中で左足は一度も地面に着けず、そのまま振り上げている。ただでさえバランスを崩しやすい動きなのに、古谷さんは視界が限られたマスクをかぶり、動きやすいとは言えないウェットスーツを着ていた。空手の経験はあったとはいうものの、簡単にできることではないだろう。
 

「超キレッキレ」な印象は、編集によるところも大きい。ダダへの連続攻撃は短いカットをつなぎ合わせ、軽快なテンポを生んでいる。また、建物の屋上から落ちるムラマツらを間一髪で受け止める場面では、ジャンプカットという手法で、ウルトラマンの動きを一部飛ばして次のカットにつなげ、よりスピーディーなアクションに仕上げている。
 

最後に残念な点についても触れておこう。不気味な声を発するダダも、仲間である上司との会話では普通の声で、話し方もいたって普通だったことだ。なんとも興ざめだが、あるうがった見方もできる。負傷したダダが「ウルトラマンは強すぎる」と上司に訴えたとき、その上司は無情にも任務の遂行を命ずるばかり。この構図はまるで、パワハラ上司と部下ではないか。昔から理不尽な要求をされる平社員は、日本中どこにでもいただろう。ダダは当時のサラリーマンの風刺かもしれない。そんなふうに考えると、なんだかダダを応援したくなってしまうのである。
 

「人間標本5・6」(『ウルトラマン』第28話)
監督:野長瀬三摩地、脚本:山田正弘、特殊技術:高野宏一
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】スピードスケートの解説で、トランポリンのように反動を感じる瞬間があるという話を聞いた。そのあと偶然、人体分析の番組で、足の土踏まずがバネの役割をするという話を聞き、これか!と納得がいった。土踏まずが生む力はわずかだろうが、アスリートは微細な違いを感じる鋭敏さを持っているに違いない。改めて感服した。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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