News
NEWS
明けの明星が輝く空にinCO

明けの明星が輝く空に 第166回:ウルトラ名作探訪17 「無限へのパスポート」

明けの明星が輝く空に 第166回:ウルトラ名作探訪17 「無限へのパスポート」
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

遊び心に満ちた『ウルトラマン』の第17話「無限へのパスポート」。この作品に登場する四次元怪獣ブルトンは、シュルレアリスムの詩人、アンドレ・ブルトンにちなんで命名されたとされる。日本語の「シュール」は、本来シュルレアリスムが目指していたものとは別個の概念というが、それはともかくとして、この怪獣は名前の由来を裏付けるかのようにシュールだ。
 
青と赤、2つの小さな隕石が合体して怪獣化したブルトンには、目も口も手足もなく、上下の区別があるのかさえ不明だ。その形状は、例えて言うならテトラポッドか心臓。そんなふうに思っていたら、実際脚本を書いた藤川桂介氏はテトラポッドを見て着想したというし、デザインを担当した成田亨氏も、心臓をイメージして赤と青で着色したらしい。
 
ブルトンの体はゴムのように柔らかく、振動でブルンブルンと揺れるところはまるで軟体動物だが、人工物のようにシャープな輪郭線を持ち、幾何学的な模様も入っている。また、テトラポッドでいうところの“脚”にあたる煙突状の突起からは、金属製にしか見えないアンテナが伸びてきたりもする。こうなるともう、一種の前衛芸術といった印象だ。
 
ブルトンはまた、シュールな状況を引き起こす能力がある。アンテナから発する怪光線で空間を歪めたり、あらゆるものを異空間へ送ったりするのだ。印象的だったのは、攻撃に向かった戦車部隊と戦闘機部隊が入れ替わってしまった場面だ。突然地面が陥没してできた穴に落ちた戦車が、いつの間にかジェットエンジン音を響かせ空を飛ぶ。逆に空中で消滅した戦闘機が、戦車のようなキャタピラ音を立てて地上をのろのろと進む。
 
ブルトンが出現した場所は科学特捜隊の基地のすぐ近くだったから、そこにいた隊員たちも翻弄された。番組のコメディリリーフであるイデ隊員が、事件に巻き込まれた男女2人を連れてある部屋に入ると、天井と床がひっくり返っている。実は、それは画面上の見た目だけで、実際は彼らが天井に足をつけて逆さまになっていた。このシークエンスのカット割りや演出に着目すると、自らを娯楽作家と位置づける飯島敏宏監督の、視聴者を驚かせようという意図がよくわかる。まず、部屋に入ってきた3人をカメラが映し出すと、ヘルメットをかぶっているイデを除き、2人の髪が乱れている。特に女性の髪は真上に向けて逆立ち、着ているブラウスのリボンも立っている。イデがのんきに、「どうしました?」と言った後、状況に気づいた2人が悲鳴を上げる。ここまでカメラは3人をバストアップで捉え、部屋の様子はあまり見せていない。つまり、まだ視聴者に“タネ明かし”はされていないのだが、悲鳴の直後からカメラがズームアウト。部屋全体を映し出すと同時に、画角が180度回転して画面の上下が逆さまになる。すると、3人が天井からぶら下がりながら立っていることが明らかになるのだ。
 
このあと、イデの本作におけるコメディリリーフとしての見せ場がやってくる。どうにか部屋から出た3人が階段を上っていくと、周囲がいつの間にか屋外に変わり、階段の先は空へ空へと続いている。そうとは気づかず、一心不乱に駆け上がっていくイデ。楽しげなBGMとともに、早回しの映像でコミカルな雰囲気が演出される。後ろの2人に呼び止められて、イデは初めて異様な状況に気づき、オタオタしながら「ひゃー!」と叫ぶ。さらにその後、異空間から脱出しようと言って崖から飛び降りると、着地したのは基地の作戦司令室。しかもゴミ箱に頭から突っ込んでしまった。そしてゴミ箱をかぶったまま立ち上がると、「今度は暗闇の世界か!」と言いながらウロウロ。その様子をムラマツ隊長以下数人に冷めた目で見られており、ゴミ箱を取ってもらったイデはバツが悪そうに指をくわえる。非常にテンポが良く、楽しめるシークエンスだ。
 
こんな能力を持つブルトンが相手だと、ウルトラマンも戦いづらそうだった。跳び蹴りにいったところストップモーションのように動きを止められ、さらにそのまま空中でグルグルと回転させられたりして、いつもと勝手が違っていた。しかし、もちろん最後は“伝家の宝刀”スペシウム光線で決着。あとには隕石だけが残った。ウルトラマンはそれを拾い上げると、片手でグシャリと握りつぶす。BGMがフェードアウトした中、まるでスナック菓子が潰れるような乾いた音が響く。どことなく“虚しさ”のようなものすら感じさせる瞬間だ。いったい、どんな演出意図があってこのシーンが撮られたのか。ついつい深読みしたくなってしまう。
 
少々無理があるかもしれないが、解釈してみよう。非現実的な状況を生み出すブルトンを人に例えれば、社会の常識に囚われない変わり者といったところだろうか。そんな人間からは革新的なアイディアが生まれたりするが、この国には枠をはみ出した者やそのアイディアは握りつぶされる傾向がある。そういった社会に対する皮肉が、「無限へのパスポート」には込められている…。9月の記事(https://www.jvta.net/co/akenomyojo164/)で触れた実相寺昭雄監督であれば、そういったことは十分考えられる。ただし、飯島監督の場合はどうだろうか。さすがに深読みし過ぎかもしれない。とはいえ、こうやって自由に解釈して、自分なりの答を見つけ出す作業は楽しいものだ。そしてそれは、ファンに許された楽しみ方の1つではないだろうか。
 
「無限へのパスポート」(『ウルトラマン』第17話)
監督:飯島敏宏、脚本:藤川桂介、特殊技術:高野宏一
 

—————————————————————————————–
Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】さっそく『ゴジラ-1.0』を観てきました。次回の記事でいろいろ語りたいと思いますので、ここでは一言。主演の神木くん、良かったー。

—————————————————————————————– 

明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

バックナンバーはこちら 

 

◆【映像翻訳にご興味をお持ちの方は今すぐ「リモート個別相談」へ!】
入学をご検討中の方を対象に、リモート個別相談でカリキュラムや入学手続きをご説明します。
※詳細・お申し込みはこちら

◆【映像翻訳をエンタメのロサンゼルスで学びたい方】
ロサンゼルス校のマネージャーによる「リモート留学相談会」


※詳細・お申し込みはこちら

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page